「ファスト映画、SNSでは支持する声も」。映画会社の弁護団は何と答えたか?5億円の賠償求めて東宝などが提訴

映画の内容を10分〜15分程度に無断で編集した「ファスト映画」をYouTubeにアップロードし、広告収益を得ていた投稿者の男女3人に対し、東宝や松竹・KADOKAWAなど映画会社13社が5月19日、総額5億円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

投稿者3人は2021年に逮捕・起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けている。

映画会社側の弁護団によると、ファスト映画に関する民事訴訟は全国初といい、同日開いた会見で「民事でも責任を追及することで同様の犯罪抑止につなげたい」と説明した。

ファスト映画の問題をめぐっては、「需要がある」「映画を広める効果がある」などとして、存在を支持するような声もSNSでは一定程度みられる。こうした状況について弁護団は、「映画は多くの人がお金と時間をかけて作る総合芸術。創作の苦労をまったくしていない第三者が映画を切り刻み、台無しにしてお金を儲けている。ファスト映画が映画業界の広告になっているというのは違うのではないか」などと断じた。

何が起きているのか? 2021年にファスト映画で全国初摘発

「ファスト映画」とは、映画の映像や場面写真を無断で使用し、ナレーションや字幕をつけて作品の内容を短くまとめた動画のこと。NHKニュースによると、コロナ禍の2020年春ごろからYouTubeへの投稿が増え、映画会社や著作権団体などで構成する一般社団法人「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」が実態調査を始めた。

2021年6月には、YouTubeにファスト映画を投稿していた男女3人が著作権法違反の疑いで逮捕され、全国初の摘発として大きな話題になった。

公判では3人が金銭目的で組織的にファスト映画を投稿していたことや、過去に著作権侵害申告を行った映画会社を避けて作品を選定していたことも明らかになり、同年11月、宮城県仙台地裁は主犯格の投稿者に懲役2年、執行猶予4年、罰金200万円、ほか2人に懲役1年6か月、執行猶予3年、罰金100万円の有罪判決を言い渡した。

『シン・ゴジラ』『かもめ食堂』など。54作品の「ファスト映画」を投稿

この投稿者3人を相手取り訴訟を起こしたのは、作品の著作権を持つ以下13の映画会社だ。

《アスミック・エース、KADOKAWA、ギャガ、松竹、TBSテレビ、東映、東映ビデオ、東宝、日活、日本テレビ放送網、ハピネットファントム・スタジオ、フジテレビジョン、WOWOW》

訴状によると、3人は2020年初頭から10月下旬ごろまでの間、13社が著作権を持つ複数作品のファスト映画を作成し、YouTubeに公開。再生数は合計で1000万回を超え、少なくとも700万円程度の広告収入を得ていたという。

投稿された作品は『犬神家の一族』(2006年、原告KADOKAWA)や『おくりびと』(2008年、TBSテレビ)、『モテキ』(2011年、東宝)、『シン・ゴジラ』(2016年、東宝)、『かもめ食堂』(2006年、日活)、『桐島、部活やめるってよ』(2012年、日本テレビ放送網)など54作品にも及んだ。

映画会社側は、再生1回あたりの損害額を「200円」と判断し、合計で20億円相当の損害があったと主張。そのうちの一部として、5億円の損害賠償を請求している。

弁護団によると、「200円」という損害額は、1週間のオンラインストリーミングで権利者が受け取る金額をもとに算出したという。YouTubeでは400円前後で映画をレンタル視聴できるが、その金額から30%のプラットフォーム手数料を引き、さらに映画が2時間まるごとアップロードされているわけではない事情を考慮して減額し、「200円」としている。

「ファスト映画には需要がある」。SNSであがる声に何と答えたのか

5月19日には「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」と映画会社の代理人らが会見を開き、訴訟を起こした背景などを説明した。

弁護士の中島博之弁護士は、「罰金刑を差し引いたとしても投稿者の手元には収益が残っている」と指摘。「民事でも責任を問うことによって、同様の犯罪抑止につなげることができるのではないか」と訴えた。

ファスト映画をめぐっては、情報があふれる時代において、時短でコンテンツを消費できるという点で「需要があるのではないか」との見方も出ている。また、SNSなどでは、「作品を広めることにつながっている」などの意見も散見される。

会見では、こうした声への受け止めについても質問があがった。中島弁護士は、「映画は多くの人がお金と時間をかけて作っている約2時間の総合芸術」だと説明。

「監督や出演者がこう観てほしいと意図をもって製作している。そういった創作の苦労をまったくしていない人が映画を切り刻んで台無しにし、それにお金を儲けている。特にコロナ禍で映画業界が苦しい思いをしている時にファスト映画を投稿し、収益をあげていた」と悪質性を強調し、「ファスト映画が映画業界の広告になっているというのは違うのではないか」と疑問を呈した。

また、たとえ需要があろうとも、権利者に無断で作品を編集し、ネットに投稿する行為は著作権を侵害しているとあらためて強調。「公式(製作者側)が続編公開時に『ダイジェスト版』というかたちで前編をまとめた動画を出すこともある。重要なのは、権利者の意思に基づいて著作物が使われること」だと指摘した。

(メイン画像:Shutterstock)



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