面白い映画と出会ったり、日常に笑いを与えてくれるショートドラマを楽しんだり――TikTokは多くの人にとって、新しいエンターテインメントを発見する入口にもなっている。
「エンタメ系コンテンツ」の最前線を走るのが、映画の魅力をわかりやすく言語化するしんのすけと、若年層をはじめ、幅広い層から人気のショートドラマを届けるコンビ、ネクストサウナの二人だ。
成功事例が存在しない黎明期からTikTokをスタートし、動画がまったく伸びない焦燥感や生活費すら事欠くほどのどん底の時期を経験しながら、執念と純粋な情熱をもって独自の道を切り開いてきた。
TikTokは彼らの人生をどう変えたのか? クリエイターとしての矜持や表現へのこだわり、そして「もっと多くのクリエイターに参画してほしい」という思いに込められた未来の可能性について、話を聞いた。
やってみないと正解がわからない。その手探り感が魅力的だった
映画『ブゴニア』の陰謀論を探る! / しんのすけが投稿する映画感想の動画─しんのすけさんは、もともと映画やドラマの現場で助監督をされていたそうですね。作り手から紹介する立場へと変わったきっかけは何だったのでしょうか?
しんのすけ:あるとき交通事故をきっかけにうつ病を患い、1年ほど働けない時期があったんです。その後、社会復帰していく過程で専門学校の講師を務めたことが大きな転機になりました。
夏休み前、学生に「目標を立てて動画を発信しよう」という課題を出したんですが、ふと思ったんです。学生だけに挑戦させて自分は「高みの見物」でいるのはフェアじゃないな、と。そこで自分にも「30日以内にTikTokで動画をバズらせる」という目標を課しました。
しんのすけ:TikTokを選んだのは、当時(2019年頃)他のプラットフォームのような成功事例がまだなかったからですね。攻略法を探そうと思ってネットで検索しても何も出てこない。逆に言えば、やってみないと正解がわからないわけで、その手探り感が僕には魅力的でした。もし答えがすぐに出てくるようだったら、そもそも挑戦していなかったと思います。
─ネクストサウナのお二人は、勤めていた会社を辞めていまの活動を始めたそうですね。なぜTikTokクリエイターになろうと考えたのでしょうか。
アッキー:僕とセイヤは小学校からの同級生で、当時から「大人になったら一緒に働こう」と話していました。大学卒業後は別々の道に進みましたが、それでも毎日のように顔を合わせていて、雑談をするなかで、大好きなことを仕事にできないかという話になったんです。
セイヤ:ただ、当時の僕たちは気持ちだけが先走っていて、スキルが追いついていませんでした。お金があるわけでも、特技があるわけでもない。そこで、コストをかけずにできることを考えた結果、選んだのがTikTokでした。何者でもない僕たちにもチャンスがあるんじゃないかと思ったんです。
(写真左から)ネクストサウナ / @nextsauna.officialのアッキー、セイヤ
2年間ヒットせず、貯金が尽きたことも
─しんのすけさんもネクストサウナのお二人も、現在では多くの視聴者を得ていますが、活動初期から手応えはあったのでしょうか。
しんのすけ:それがまったくなくて。最初は海や打ち上げ花火のような風景映像を投稿してみたんですが、自分でも引くほど伸びませんでした(笑)。
しんのすけ:正直、映像のプロとしてTikTokを甘く見ていた部分があったんです。でも、その自信は完全に間違いで。いま振り返れば、当時の僕は「TikTokのユーザーが何を求めているか」をまったく理解できていませんでした。
そのまま大した反応も得られず、2週間ほどで自分一人で思い浮かぶようなアイデアは出し尽くしてしまったんです。そこからようやく、本当の意味での試行錯誤が始まりました。
セイヤ:僕たちも、最初はまったくダメでしたね。そもそも動画を作ったことすらない状態で、とりあえずサウナハットの紹介動画を上げてみたんです。でも、再生数はたったの20回くらい(笑)。
アッキー:慣れないなりにトレンドの曲でダンスを踊ってみたこともありましたが、本当に誰の目にも届かなくて。「いったい、何なら見てもらえるんだろう」と手探りし続ける毎日でした。でも、結果として2年ほど無風の状態が続きました。
─2年間も成果が出ないのは、相当しんどかったのでは?
アッキー:本当につらい時期でした。1年は生活できるだけの貯金をして会社を辞めたのですが、すぐにお金が底をつき、アルバイトで食いつなぐ日々になってしまって。収入は会社員時代の半分になり、「わざわざ苦しい道を選んでしまった」という虚しさを抱えていました。
セイヤ:いつ心が折れてもおかしくない、必死な状態でしたね。ただ、弱音を吐いたら終わりだと思っていたので、お互いに「本当に全力でやってるのか?」と冗談混じりに煽り合ったりしていました。小学校からの腐れ縁だからこそ、その最悪な状況すらどこか面白がることができたんだと思います。
習慣を動画化すること、退路を断つこと。それぞれの決断
─お三方ともに苦境の時期があったわけですが、そこからしんのすけさんは「映画紹介」、ネクストサウナさんは「ショートドラマ×コント」というジャンルで突破口を見出しました。そのきっかけは何だったのでしょうか?
しんのすけ:もともと日常的に映画の感想をSNSに投稿していたので、「言葉にする」という習慣をそのまま動画にしてみようと思いついたんです。
実際に、作品に関する感想を正直に話す動画を投稿してみると、映画好きが普段交わしている「ここが良くて、ここが惜しい」という分析が、一般の方には新鮮に映ったようで、想像以上の反響がありました。
しんのすけ:料理動画でも「なぜこの塩を使うのか」みたいな、細かなこだわりを聞くと興味がそそられますよね。映画も同じで、独自の視点で言語化することが一つの価値になるんだという気づきがありました。最初の1本がバズったときに感じたたしかな手応えがあるから、いまもこうして活動を続けられているんだと思います。
─アイデアが枯れたからこそ、原点に立ち返ることができたのかもしれないですね。ネクストサウナさんの転機は何だったのでしょうか?
アッキー:お世話になっている方から「その努力の方向は正しいのか」「10年後に後悔しないか」という愛のある叱咤をいただいて。それを機に二人で話し合い、年末までに目標のフォロワー数に届かなければ辞める、その代わり最後まで本気でやり抜こうと、退路を断つことにしたんです。
セイヤ:そこからは、伸びている動画を徹底的に分析しました。伸びる要素の共通点は何か、自分たちならどう応用し、オリジナリティを加えられるか。議論と仮説を重ねて制作したコント仕立てのショートドラマで、初めて1万回再生を突破しました。同じ型の動画を10本続けて投稿したところ、すべてが1万回再生を超え、ようやく「これはイケる」という光明が見えてきました。
─お二人は演技経験があったわけではないにもかかわらず、ショートドラマ×コントというかたちに辿り着き、それを演じきれているのがすごいですよね。
アッキー:じつは僕たち、小学校の頃からドラマやCMの真似をして、それを動画に撮って遊んでいたんですね。だから、ショートドラマやコントもまったくゼロからというよりは、その遊びの延長線上にある感覚でした。
セイヤ:演技の良し悪しはさておき、自分たちの「らしさ」みたいなものを表現することならできるじゃないですか。それに僕たちは、何としても動画をヒットさせてフォロワーを獲得したかったので、考え込むよりもまずはやってみる。もしダメだったら何が原因かを分析して、すぐに次の方法を試す。それくらいの切実な感覚で取り組んでいました。
悲願だった『TikTok Awards Japan』の受賞
─そうした努力が実を結び、2024年には『「TikTok Awards Japan」 2024』の「Short Drama Creator of the Year」、翌年には『「TikTok Awards Japan」 2025』にて「Short Drama of the Year」を受賞されました。感慨もひとしおだったのではないでしょうか。
アッキー:ノミネートすら遠かった頃から「いつかあの舞台に立ちたい」と二人で話していたので、受賞したときは泣きました。振り返れば、短尺ではなく1分以上の動画をTikTokが評価し始めた時期と、僕らが理想とする表現を実現するために尺を伸ばし始めたタイミングが重なったことも、幸運だったと感じています。
セイヤ:タイミングと言えば、2024年の上半期に初めて『TikTok上半期トレンド大賞2024』にノミネートされたのですが、じつはそのわずか半年前まで「来月のスマホ代すら払えない」というところまで追い込まれていたんです。二人で夜勤のバイトを増やすしかないかと話し合っていたほどでした。
アッキー:そんな絶望的なタイミングで収益化プログラム(Creator Rewards Program)が始まり、まさに命をつないでもらいました。残念ながら『TikTok上半期トレンド大賞2024』の受賞は逃してしまいましたが、そこですごく悔しい思いをしたからこそ、「見えた光を絶対に無駄にしない」とさらに本気になることができたんだと思います。
若い世代も楽しめるコントを。研究を重ねるネクストサウナのこだわり
─TikTokでのショートドラマやコントというジャンルの広がりについては、どのように感じていますか。
アッキー:たとえば背景にイラストやフリー素材を使わず、すべて実写のコントなどもあって、表現の幅はかなり広がってきていると感じています。ただ、僕たちは他のクリエイターの方々のように本格的なドラマ撮影の方向へ寄せていくことは、いまはあまり考えていません。というのも、ネクストサウナは幅広い層のなかでも、特に若年層の視聴者が多いので、作り込まれた実写的な映像よりも、アニメに近い世界観のほうが親和性が高くて。
セイヤ:スタイルの変更については二人でつねに話し合っていますが、大きく変えるのではなく、「現状のまま、いかにわかりやすくできるか」を突き詰めたいんです。音と映像だけで状況をイメージできるか? さまざまな年代の人が直感的に楽しめるか? そうした視点での研究は、いまも毎日のように続けています。
映画を「内輪ネタ」にしない。「観客の代表」になる、しんのすけの矜持
─しんのすけさんも、紹介した映画がのちにヒットするケースも多いですよね。「映画館に行きたい」と思わせるコンテンツを作るうえで、心がけていることはありますか?
しんのすけ:僕自身、長く映画業界に携わってきたからこそ感じるのですが、映画好きはどうしても専門的な言葉で語り合ってしまいがちです。でも、それでは内輪の盛り上がりで終わってしまうんですよね。
僕が発信する最大の意義は、普段あまり映画を観ない人の背中を押し、映画館へ足を運ぶためのきっかけを作ることだと考えています。そのためには、難しい言葉を極力使わず、いかに「自分ごと」として届けるかが重要で。
たとえば、2025年の大きな話題作となった『国宝』を紹介した際も、「歌舞伎」というテーマをあえて前面に出さず、「芸に生きる男の人生」という普遍的な物語としてなるべく多くの人に届くように工夫しました。
─TikTokの投稿を始めてから、より多くの視聴者に届けるために変えたこと、逆に変えていないことはありますか?
しんのすけ:変えずに取り組んでいるのは、とにかく「新作」を紹介し続けることです。新作を観るという体験は、いまを生きている人にしかできない特権なわけですよね。そのリアルタイムの興奮を、視聴者の皆さんにも共有したいという思いは活動当初から一貫しています。
逆に変わったのは、喋るスピードですね。いまはかなり速くなりました(笑)。それによって詰め込める情報量は格段に増えましたが、どれほど勢いよく話しても1分弱に収められるので、ちょっとした特殊技能になってきたなと思っています。
ただ、根底にある考え方は変わりません。僕の立ち位置は、あくまで「観客の代表」であること。そして、良い作品をしっかりとヒットさせ、現場で心血を注いでいる方々に還元していくこと。その想いが、いまも僕の原動力になっています。
TikTokクリエイターの可能性を広げて、もっと多様な人が集まる場所に
─最近は映画紹介にとどまらず、トム・クルーズやブラッド・ピットといった世界的な俳優にインタビューするなど活動の幅が大きく広がっていますよね。
しんのすけ:そうですね。TikTokをきっかけに憧れの人にインタビューできるのは、僕個人としても非常に嬉しいことです。でも、それ以上に大切だと思うのは、さまざまな場所で活躍している姿を見せることだと思っていて。
しんのすけ:「自分もあんなふうに活躍したい」と思えるロールモデルを提示することが、結果としてTikTokクリエイターという存在の可能性を広げることにもつながると考えています。そうやって業界全体が活気づくきっかけになればいいな、と。
─しんのすけさんは2023年にTikTokクリエイターが所属する会社を設立し、「紹介系」というジャンルを広げる活動もされています。どのような思いから、そうした取り組みを始められたのでしょうか。
しんのすけ:可能性に満ちたクリエイターの人たちと一緒に活動したいと思ったからです。もっと多くの人が、それぞれの視点やスタイルで情報を発信していくべきだと思っていて。
たとえば、一本の映画に対して「面白い」という意見もあれば「つまらない」という意見もある。そうした多様な声が横並びで存在しているのが、本来あるべき姿なんじゃないかなって。
少しずつTikTokの認知は広がっていますが、いまは表現を深掘りする以前に、多様な意見が共存する「横の広がり」が圧倒的に不足しています。だからこそ、もっと多様な声が並ぶ環境を広げたいと思って、会社を設立しました。
TikTokの顔はまだ定まっていない。だからこそチャンスがある
─お三方ともに活躍の場をどんどん広げているわけですが、今後はどのようなことに取り組みたいと考えていますか?
しんのすけ:個人的な感覚として、僕は3年周期で転機が訪れることが多いんです。助監督の仕事も3年で区切りをつけましたし、会社を設立したのもTikTokを始めて3年が経った2023年のタイミングでした。そう考えると、2026年は僕にとって新たな転機の年になると思っています。
特に力を入れたいと考えているのは、これからの映画界を支えるための活動です。単に新作映画を紹介するだけでなくて、若手監督を積極的にピックアップしたり、制作会社と企画段階から深く関わったりしたいな、と。そういうことに、個人としても会社としてもコミットしていきたいですね。
─ネクストサウナのお二人はいかがでしょうか。
アッキー:僕は、TikTokクリエイターという存在をもっと世の中に浸透させたいと思っています。
ありがたいことに、僕たちは『TikTok Awards Japan』を2年連続で受賞することができました。その経験を糧に、「TikTokといえばネクストサウナ」と真っ先に名前が挙がるような存在を目指したいと思います。それがいまの大きな目標ですね。
セイヤ:まずは、いまのポジションをしっかりと確立させたいですね。同じスタイルを続けていれば、いつか必ず飽きられてしまう。その現実から目を逸らさないで、どうすれば鮮度を保ち、見続けてもらえるかをつねに模索し続けたいと思っています。
そのうえで動画だけではなく、イベントやコラボレーションにも積極的に挑戦して、より多くの方に応援していただけるよう活動の幅を広げる年にしたいですね。
─ありがとうございます。最後に、お三方のようにTikTokを足がかりに活動の幅を広げたいと考えているクリエイターは、今後どのような工夫や努力をすればいいと思いますか?
アッキー:僕らもいろんなジャンルに挑戦しては失敗してきましたが……そのなかで気づいたのは、昔から自然に楽しめていることって、おそらく向いていることなんですよね。
先ほどしんのすけさんも「映画の感想をSNSで発信するのが習慣だった」とおっしゃっていましたよね。まさに同じ感覚です。それが僕たちの場合は、即興でコントをしたり、ドラマのワンシーンを真似したりということだった。
自分は何が得意で、何が好きなのか。そのことに気づけたら、可能性は一気に広がると思います。そこに辿り着くまでは諦めずに続けてほしいですね。
─とはいえ、いまはコンテンツが溢れる時代でもあります。自分に合うものを見つけるのは難しそうですが、何かヒントはありますか?
セイヤ:当たり前かもしれませんが、リサーチを徹底することだと思います。難しく考えず、好きなものを深掘りしたり、反対に流行を片っ端から試したりすることから始めてもいいと思います。
あと大切なのは、「観察すること」だと思います。伸びている動画の魅力を分解して、「自分なら何を足せるか?」を考える。その掛け算を繰り返せば、おのずと結果は見えてくるはずです。
しんのすけ:好きな人のフォーマットから学習するのは、僕も大事なことだと思いますね。見よう見まねでトライしてみても、まったく同じにはならないんです。そこにはにじみ出る「自分らしさ」があるから。
また、これから発信を始める人たちに伝えたいのは、何度も言いますが(笑)、クリエイターの可能性は無限で、たくさんの人に活躍できるチャンスがあるということです。映画、漫画、ドラマ、音楽といったカルチャーを紹介し、その魅力を広めるクリエイターの席は、じつはまだまだ空いています。
「いまさら始めても遅いんじゃ……」なんてことは決してない。むしろ、もっと多様な視点が業界全体の熱量を上げるために必要なので、「好き」という気持ちを信じて、ぜひ挑戦してみてほしいです。
- プロフィール
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- しんのすけ🎬映画感想
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映画感想TikTokクリエイター。映像作家。
映画やドラマの助監督、専門学校の講師を経て、2019年からTikTokの発信をはじめる。映画レビュージャンルを開拓し人気を集め、現在は監督業をはじめ、ジョニー・デップらハリウッド俳優へのインタビューもおこなう。
- ネクストサウナ
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アッキーとセイヤからなる、誰かの日常で起こっていそうなシーンを『ドラマ仕立てのコント』で創り上げるショートドラマクリエイター。ジャンルにとらわれない創造力豊かな動画が幅広い層に大人気。登場するキャラクターをすべて二人で演じる演技力と幼馴染ならではの掛け合いも注目されている。
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