「恋愛がすべて」ではない時代、恋リアはどうあるべき? Netflix『ラヴ上等』MEGUMI×太田大プロデューサー

男性が恋愛対象のボーイズが共同生活を送る『ボーイフレンド』、スマホなどのデジタルデバイスなしに男女が旅をする『オフライン ラブ』、そしてヤンキーたちが集う『ラヴ上等』など、Netflixの恋愛リアリティショー(通称「恋リア」)が話題だ。

前例のない設定や世界観の完成度に加え、どの番組にも共通するのが、「恋愛以外」の場面が視聴者の心を掴んでいることだ。参加者同士の友情や支え合い、すれ違いと仲直り、ちょっとした楽しい会話、そして参加者一人ひとりの個性と成長。そういった要素は現代の恋リアに欠かせないが、数多くの番組が乱立するなか、Netflixの企画はどのように生まれ、どう実現しているのか?

今回は、『ラヴ上等』発案者であり本作のプロデューサー・MCを務めたMEGUMIと、Netflixでリアリティショーを手がけるエグゼクティブ・プロデューサーの太田大への取材を敢行。

MEGUMIと同社は2月16日、独占契約を締結し、今後複数年にわたってともにアンスクリプテッド(「筋書きのない物語」)を制作していくことを発表している。「MEGUMIのアイデンティティが爆発している」という理由で企画が通った話など、『ラヴ上等』の制作背景をはじめ、今後のタッグへの期待が膨らむであろう、作品にかけるそれぞれの情熱をたっぷり聞いた。

国内外で反響、『ラヴ上等』と『ボーイフレンド』

—『ラヴ上等』『ボーイフレンド』シーズン2ともに配信開始されましたが、共通するのは海外で熱狂的に支持されているという点ですよね。それは製作するうえで想定していたのでしょうか?

太田大(以下、太田):「そうなるといいな」という思いはありましたが、まずは日本の視聴者にしっかり届けることを第一に考えていました。なので、海外で受けるかどうかを強く意識していたわけではありません。ただMEGUMIさんは海外に届けることも想定していましたよね。

MEGUMI:まだ世界に知られていない側面が日本にはあるのではないか、という考えは当初からありました。ヤクザや任侠、刺青といったものは映画やドラマでも描かれてきたと思うんですが、「ヤンキー文化」というものは、まだ十分に海外に届いていないと感じていて。だから美術には盆栽や昭和的な看板のようなものをたくさん入れて、「超ジャパン・カオティック」な世界観を意識してつくっていきました。

太田:『ボーイフレンド』に関しては、シーズン1を観た海外の方々から特に反響があったのは、日本特有のコミュニケーションスタイルでした。その視点で考えると、きっとシーズン2も支持してもらえるのでは、という期待はありましたね。

—国内外での反響を受けて、今の率直な気持ちはいかがですか?

MEGUMI:初めてつくる恋リアということもあり、ワクワク以上に不安のほうが大きかったので、きちんと届いたことにまずは安心しました。3年ほどかけて制作していますし、自分が信じているものをつくったつもりですが、それでも滑る可能性は十分にありますから。それが受け入れられたことは、本当に良かったと思っています。

ただ同時に、「もう少しこうしたら良かった」という課題も反応を受けて見えてきたので、それは次につなげていきたい。だから素直に「イェーイ!」という感じではなくて、どこか他人事のような、フワフワした感情で今の状況を受け止めています。

マッチングアプリの時代にクラシックな恋愛を描く意味

—恋愛のかたちは今と昔で大きく変わりましたよね。どちらが良いという話ではありませんが、恋愛を不要と考える人が増え、マッチングアプリの存在で工程が簡素化されました。時代の変化のなかで、「見知らぬ同士が出会い、交流し、複数の中からこの人だと思う人と関係を育んでいく」というクラシックな恋愛を描く意味や魅力についてどのように考えているのでしょうか?

MEGUMI:まず、私のアイデンティティのなかには「ヤンキー」があるんですよね。まわりにヤンキーがたくさんいましたし、彼らの性質も多少なりとも理解しているつもりで。それをふまえて『ラヴ上等』のオーディションを重ねていくと、私の思うヤンキーと今のヤンキーで共通している部分がたくさんあって、「時代が変わっても、ここは変わらないんだ」と思ったんです。

スマホでつねに連絡が取れるからこそ、相手の感情を深く考えてから行動しがちな今の時代の生きかたと私の思う「ヤンキー」のまっすぐな生きかたはまったく違う。だから彼らが一つの拠点で共同生活をすると、とんでもないスピードでいろんなことが起こるだろうなとイメージできました。いざ始まってみると思った以上だったので驚きましたが(笑)、でも、それこそが彼らの魅力だということはずっと感じていました。

太田:MEGUMIさんから「ヤンキーは展開が早い」と聞かされてはいたんですが、私自身はヤンキー初心者なので(笑)、「そうなんだ」くらいで、あまり実感できていなかったんです。でも撮影が始まってから毎日起こる報告を聞いていると、他の恋リアと比べて3倍くらい早い。3話の時点でもう最終回のような濃さがありました。

MEGUMI:だって、あれでたった2週間ですから。仲間との別れとか、20年分くらいの厚みがありましたよね。

恋愛がすべてではない。恋リアから見る時代の変化

太田:昔はマスメディアの影響もあって、「恋愛至上主義」が浸透していた印象があります。恋愛ドラマや映画が主流で、「恋をすることこそが正しい」という価値観が強くあったように感じます。

でも実際には、人生において大切なものは恋愛だけじゃないという価値観を持っていた人もたくさんいたはずで、それが可視化されていなかっただけだと思うんです。もちろん、そもそも恋愛も、異性間の恋愛だけじゃないし、いろいろなかたちの愛があります。時代の変化とともに、そうした価値観が社会全体で可視化され、より受容されるようになってきている。

だから「恋愛」リアリティショーと銘打たれていても、視聴者の方は恋愛だけでなく、友情や名前のつかない関係性にも価値を見出して、共感したり感情を寄せたりしてくれているんですよね。同じ空間の中で育んでいくクラシックな恋愛を描くことは、結果的に恋愛以外のいろんな価値観を届けることにもつながるんじゃないかと思っています。

MEGUMI:『ボーイフレンド』シーズン2の序盤で一つ印象的だったシーンがありまして。「みんなで温泉に行こう」という流れになったんですが、行きたくない人がいた。すると、それを察した別の人が「行きたくない? じゃあ僕たちはやめとこう」と提案したんです。

そんなふうに、これまでみんなに流されていたけどじつは嫌だったことって往々にしてありますよね。それに対して「今の時代はそれにNOと言っていいんだよ」と優しく再認識させてくれるようで。恋リアでありながら、そういう素敵な瞬間が『ボーイフレンド』には散りばめられていて、それがすごく心に残っています。

太田:私も序盤だとそのシーンはとても心奪われたところです。本筋ではないので従来の恋リアであれば切られかねないシーンだと思うんですが、むしろそこにアップデートされた価値観が表れていると感じていて。他の人に合わせないことは、昔であれば「ノリが悪い」とかそういう片付けられかたをされていたと思うんですが、それを「間違っていないもの」として描けるようになったんですよね。自分としては、『ボーイフレンド』をきっかけに「日常生活のなかで抱く小さな違和感に正直でいること」を、恋リアの中でも肯定できるようになった、という感覚があります。

「アイデンティティが爆発してる」。『ラヴ上等』の企画が通った理由

—『ラヴ上等』『ボーイフレンド』ともに、「世界観づくり」にかなり重きを置いている印象を受けます。ただメンバーを集めただけでは生まれない「その作品らしさ」が、建物やプロダクトデザイン、音楽、セット、カラーリングなどの枠組み部分で存分に表現されている。そこを徹底することの重要性をどのように考えていますか?

MEGUMI:恋リアをプロデュースするにあたっていくつか企画候補を出していたんですが、唯一、企画書がないにも関わらず採用されたのが『ラヴ上等』でした。Netflixの坂本和隆さん(編集部注:Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデント)は、選んだ理由を「MEGUMIさんのアイデンティティが爆発しているから。これまでの人生の経験や生きかた、触れてきたカルチャーがすべて『MEGUMI印』として出ていて、僕がひっくり返っても思いつかない。だから良いと思いました」と仰ってくれて。その言葉を聞いて、Netflixでは流行り廃りではなく「自分自身が心の底から良いと思える」ことがすごく重要なんだと感じました。

だから製作が決まった段階で、自分の好きなもの——怖いだけじゃないヤンキーのキュートな側面やglobeのような音楽——は臆さず出していこうと思ったんです。

その延長で、美術に関しても「煙たくて汚れているイメージを持たれがちなヤンキーの世界観を、あえてポップで可愛いものとして成立させたい」という考えで挑んでいきました。『ラヴ上等』の製作は、自分のアイデンティティと正面から向き合って、それを皆さんにシェアするような経験でもありましたね。

—『ラヴ上等』は想定外のトラブルなども発生したかと思いますが、制作にあたり、MEGUMIさんと太田さんの間ではどのようなやり取りをされたのでしょうか?

MEGUMI:まずはキャスティングに関して、背景やキャラクター、考えかたを含め「こういう人たちに来てほしい」という方針を決めて進めていきました。それでも起きていないことをあらかじめ想定するのは難しいので、その時々で起こったことに対してどう判断し、対処していくかを毎回しっかり話し合いました。

やっぱり実際に撮影に入ると、想定外のことしか起こらないんですよ。これまでのテレビやメディアだったら中止にさえなりそうなことも起きて、「もう終わった……」と思いながら「これはどうしましょう」と相談すると、太田さんとNetflixがドンと構えてGOを出してくれる。実際にトラブルが起きた瞬間は面白いと思う余裕もなかったんですが、それが結果として見たことのないものや、視聴者の琴線に触れる部分になったんだなと感じています。

太田:完成したものを見れば「制作チームも面白いものが撮れたと思っているに違いない」と思われるかもしれないですが、決してそうではないです。想定外のことが起きたときは、皆さん制作中止を覚悟しながら毎回立ち止まって、一緒に議論して、そのうえで制作中止をする理由がないですよねと判断して進めてもらいました。もちろん内容にもよりますが、「このハプニングならこう対処すれば解決できる」という道筋を慎重に検証することを着実に重ねていった感じでしたね。

MEGUMI:チームで手をつないで乗り越えたという感覚があるから、本当に受け入れられて良かったなと安堵しています。

参加者へのケアの問題と、番組と社会のつながり

—リアリティショーなど、Netflixで「アンスクリプテッド」(脚本のない作品)と呼ばれる作品を作る難しさは、番組内外で参加者の行動がコントロールできない部分にあると思います。また役を演じているわけでもないので、視聴者の反応もダイレクトに参加者に向いてしまいます。そのリスク管理とケアの部分をどのようにしているのかを聞かせてください。

太田:Netflixとして撮影前・撮影中・撮影後、そして配信後に至るまで万全なケア体制を敷いていて、何か少しでも不安なことが出てきたらいつでも相談していただけるようにしています。参加者の方々もリスクがあることは認識してはいるものの、実際に配信されるまで具体的にどうなるかわからない部分もあると思うので、そこは制作側として並走していく必要があります。

特に新番組だとその緊張感は強いです。だからこそファーストペンギンとして『ボーイフレンド』や『ラヴ上等』に出演してくださった方々には本当に感謝をしていますし、なおさら彼らを守らないといけないという意識は一同強く持っています。

太田:もちろん番組が始まる前に「人生が変わるほどの反響があるかもしれない」というお話は一人ひとりにしていますが、いざそうなると状況についていけないということもあります。その点はタレントさんとは全然違う要素だと思いますし、しっかりケアしていかないといけないと、作り手として思っています。

MEGUMIさんも『ラヴ上等』の参加者たちのお姉さんのような立場でケアをしていましたよね。

MEGUMI:そうですね。特に「校長先生」と呼ばれていた総合演出の池田(睦也)さんと私が彼らを近い距離で見ていたんですが、良い関係性をつくれたのが本当に大きかったと思います。ハプニングが起きたときに現場に行って事態を収めることが何度もあったので、私自身みんなにすごく感情移入していたし、自然と母性のようなものも芽生えてくるんですよ。それで「揉め事はいいから恋してよ」とか言ったり(笑)。初対面の人たちと2週間暮らすというのはストレスもありますから、思ったことをきちんと言える相手は絶対必要だと思うんです。

—『ラヴ上等』『ボーイフレンド』を観て思ったのが、どちらも建物の中だけで完結しているのではなく、社会的なトピックとも結びついていること。たとえば『ラヴ上等』は幼少期の環境についての問題提起や子ども食堂、『ボーイフレンド』では日本社会におけるカミングアウトや同性婚についてなど。もちろん参加者から出る言葉なのでコントロールできないと思いますが、そこは何か意識されているのでしょうか?

太田:『ラヴ上等』や『ボーイフレンド』、あるいは他のリアリティショーにしても、参加者それぞれのキャラクターを深く掘っていくと、絶対何かしらの社会背景や状況、問題に触れざるを得ないと思うんです。むしろ、それとまったく関係なく生きることって難しいじゃないですか。

『ボーイフレンド』であればカミングアウトや同性婚の話、日本に留まるか結婚が認められている国に行くかという話は自然と出てきますし、それは世の性的マイノリティの人々の抱える悩みや感じていることと密接につながっていると思います。『ラヴ上等』に関しても、それぞれの人生の背景や後悔というものがキャラクターにもつながっているので、そこをしっかり掘ることで、社会との接点を見せることは確実に必要だと考えています。

MEGUMI:私が大事だと感じたのは、観ている方々を置き去りにしないこと。ヤンキーの子については、「迷惑をかけてきた人でしょ?」と考えている人もたくさんいると思う。そこを広く受け入れてもらうには、彼らの傷や痛みをきちんと説明したり、社会とのつながりを見せたりする必要があると今回プロデュースして感じました。

—MEGUMIさんとNetflixの独占契約が発表されましたが、お二人が今後手がけたい新たなリアリティショーのアイデアはあるんですか?

MEGUMI:太田さんと会話レベルでやり取りしていますね。まだコンセプト段階ですが。

太田:具体的には言えませんが、これまでマスメディアではまだ描かれてこなかった人々の物語を伝えたいということは変わらないと思いますね。

『ラヴ上等』
Netflixで配信中。2026年にはシーズン2の配信も予定している。


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