聖なる惑星「マザー・プラネット」が悪の組織により破壊され、混沌を極める宇宙のなかで、マザーの意志を受け継ぐ思念体――ギャルバースが再度集結し、争いを終わらせようとする……。そんな壮大な物語を描くオリジナルアニメ『新星ギャルバース』が、6月25日、YouTubeにてプレミア公開され、7月15日にはAmazon Primeで配信がスタートした。
総監督を務めたのは、フリーのアニメーション作家である大平彩華。2022年にNFTを活用したクラウドファンディングを皮切りに、支援者参加型の新しいアニメプロジェクトを立ち上げた大平は、アニメ制作の難しさを痛感しながらも、公開まで走り続けてきたという。
1990年代アニメを彷彿とさせるどこか懐かしい作画、豪華声優陣、そして、ギャルマインド。大平が『新星ギャルバース』に詰め込んだこだわりと想い、これまでの道のりを聞いた。
あらすじ:記憶を失った謎の少女ゼロは、戦火に包まれた惑星「アマテラ」に舞い降りた。現地のレジスタンス勢力と帝国軍「ゲヴラー」との激しい戦いのなか、ゼロは世界を救うために戦う若きリーダー・リングと出会う。やがてゼロの記憶が目覚めていくにつれ、彼女がただの少女ではなく、「ギャルバース」という存在であり、真の自分に直面することに……!
即完したデジタルアートをもとに、念願のアニメ制作へ
―『新星ギャルバース』を制作しようと思ったきっかけを教えてください。
大平:昔から大規模なテレビアニメシリーズをつくることが夢だったんです。私は独学でアニメーションを学び、アーティストのMV制作を中心にフリーのアニメーション作家として活動してきました。でも、テレビアニメシリーズの監督は大手制作会社に所属していたり、有名なスタジオでキャリアを積んできたりした人がほとんど。だから、私みたいなインディペンデントな作家だと難しいだろうと感じていました。
そんなとき、ちょうど世間でNFTが流行り始めて。クラウドファンディングのようにNFTを活用できたら面白いと思って、ギャルを主人公としたアニメプロジェクト『新星ギャルバース』を立ち上げました。

大平彩華(おおひら・あやか)。福岡県出身。フリーランスのアニメーション作家。m-flo、YOASOBI、初音ミク、Tove Loなど、国内外のアーティストのミュージックビデオやアートワークを手がける。従来のスタジオシステムとは異なるかたちで独学でアニメーションを学び、ノスタルジックなスタイルにストリートカルチャーやギャルカルチャーを融合させた独自のスタイルで次世代のクリエイターとして注目される。『新星ギャルバース』では、ゼロからオリジナルアニメを立ち上げるという長年の夢を実現。ストーリーとビジュアルの両面を牽引する中心人物として、制作チームやファンを惹きつける原動力となっている。その作品はファッションブランドや音楽業界からも高い評価を受けている。
―2022年に発売したデジタルアートは即完売したそうですね。購入者からはどんな反応がありましたか?
大平:私がつくる作品は、1990年代から2000年代の懐かしい雰囲気を纏っています。子どもの頃に観ていたアニメや漫画を思い出すときのワクワク感、小さな喜びが大好きで、今でもノスタルジックに恋しているんです。
そういったテーマで『新星ギャルバース』を制作したいと発信したら、日本だけでなく世界中の人たちから「懐かしい」「幼少期に戻ったみたい」と反応があって。日本のアニメを見て育った海外の方も多いみたいで、テーマがギャルだったこともあり、日本の文化が詰まった作品に見えたのかもしれません。

当時販売したデジタルアートの一部
―そうして始まったプロジェクトですが、実制作はどのように進めていきましたか?
大平:オーストラリア出身のジャックとデビン、コミュニティ運営やテック系に長けた2人のパートナーにサポートしてもらうかたちで進行しました。ただ、アニメ業界とは縁遠い私たちが1からアニメをつくるのは本当に難しくて……。制作会社に話を持ちかけてもほとんど相手にされず、興味を持ってくれた数社からも「絵柄的に難しい」と断られ、なかなか前に進めませんでした。
そんな中、「一緒にチャレンジしたい」と言ってくださったのが、プロデュース会社ARCH株式会社さんとアニメ制作会社のS.o.Kさんです。『新星ギャルバース』はデジタルアート購入者に対して制作過程を公開し、彼らと一緒にアニメを制作する参加型のプロジェクトです。これはアニメ業界では異例のことで、アニメーターからしたら、修正がかかるかもしれない絵を制作過程で公開される可能性がありましたが、S.o.Kさんはそういった新しい手法も面白がってくれました。結局3年かかったけど、ようやく公開までこぎ着けられました。
―デジタルアートの購入者は、どのようなかたちで制作に参加されたのでしょう?
大平:販売したデジタルアートの数は8,888体ですが、オーナーは4,000人程度です。平均して1人2〜3体買ってくれて、なかには30体ものギャルを持つコレクターもいました。実際にプロジェクトに深く関わってくれた人たちはもっと限られていて、アニメが好きな人たちがぎゅっと集まっています。
私がキャラの顔と等身イラスト、性格などの設定をDiscordのコミュニティに投稿したら、AIや手書き、3Dを駆使して衣装デザインを提案してくれました。自分ひとりだと好きなデザインに偏っちゃうから、「こういうのもアリなんだ」って新鮮でした。
ギャルマインドとは「自分軸」
―そもそも、なぜギャルを題材にしたんですか?
大平:私自身10代の頃はめちゃくちゃ黒ギャルだったんですよ。当たり前にギャルとして過ごしていたから、自分のアイデンティティの一部になっていたのが理由のひとつです。それに加えて、最近のY2Kや平成ブームと自分の作品スタイルがうまくハマったというのもあります。

取材当日、『新星ギャルバース』をイメージしたネイルで登場いただいた
―平成初期と現代を比べると、ギャルの姿が変わりつつあると感じています。大平さんが考えるギャルとは?
大平:1990年代のギャルは派手なメイクに派手な髪型、他人の目線なんか気にせず「自分受け」で武装するファッションを指していたと思います。わかりやすく言えば「渋谷のセンター街ギャル」的な。そうしたファッションとしてのギャルが、時代を経て徐々にマインドにシフトしたのが現代だと考えています。
じゃあ、ギャルマインドが何かというと、やっぱり他人軸ではなく自分軸であること、そして「うちらが最強!」といった前向きな気持ちのことだと考えています。現代のギャルは年齢も性別も関係ないし、見た目もギャルファッションじゃなくていい。そこに「ギャルマインド」があるかどうかなんですよね。
―『新星ギャルバース』のなかで、ギャルマインドを表現したシーンを教えてください。
大平:主人公のゼロは自分軸がしっかりしていて、ブレない強さを持っています。シーンで言うと、最初はゼロと対立するD.D.が自分の弱さを認めるところですね。

主人公のゼロ(CV. 堀江由衣)
1990年代のアニメを意識。「謎の玉」のあしらいも
―「私はあなたのすべてを受け入れる。だから、あなたも自分の弱さを許してあげて」というセリフがとても印象的でした。こうした思いは、大平さん自身の経験から生まれたものなのでしょうか?
大平:私自身、これまで落ち込むことがたくさんあって、何度も自分と向き合ってきました。結局、他人を変えることはできないんですよね。誰かのせいにしていたらそれだけで人生が終わっちゃうから、自分のマインドを変えていくしかない。
ぱっと見で「ギャル=明るくてポジティブ」って思われがちだけど、私はいろんな人に寄り添える強さを描きたくて。つねに前向きで元気でいることだけが強さじゃない、自分を許してあげることも強さだというギャルマインドを込めました。

―『新星ギャルバース』のどこか懐かしい作画について、こだわった点を教えていただけますか?
大平:輪郭の線は太めに、影とハイライトのコントラストも強くしました。あとは頬に線を描いてみたり、触覚のような毛をピョンって出してみたり。顔の造形にもかなりこだわっていて、まつ毛もとにかくバサバサです!
当時の作品を観ていた人ならわかると思うんですけど、1990年代アニメって、キャラが身につけるアクセサリーや剣、衣装に「謎の玉」があしらわれがちじゃないですか(笑)。そういう特徴的な「あるある」を全部詰め込みました。
―そういえば、ゼロの髪の毛にも「謎の玉」がついていますね。キャラをお披露目したとき、ファンのみなさんの反響はいかがでしたか?
大平:Xでキービジュアルを発表したときは「このでっかい目でアニメ化?」「今って令和だよね……?」みたいな反応が多くて、みなさん1990年代にトリップしていました。『新星ギャルバース』を知らなかった人からもたくさんコメントをもらえて、みんなこれを求めていたんだと思いましたね。

ゼロとその仲間たち
現代のジェンダー観で描く「ギャル」
―1990年代のアニメ作品は女性キャラの胸が大きく描かれていたり、「パンチラ」「ラッキースケベ(作品内で偶然女性の素肌に触れてしまったり、見てはいけない箇所が見えてしまったりすること)」的な演出も多かったりと、現代とはジェンダー観が異なるように感じます。女性が主人公である『新星ギャルバース』で工夫された点はありますか?
大平:私も昔のアニメや漫画、ゲームを観たり遊んだりしましたが、カルチャーとしてはリスペクトしつつも、女性の表現にはどこか違和感がありました。『新星ギャルバース』では現代の価値観を意識していて、衣装の露出度は高くても媚びたエロさは出さず、あくまでスタイリッシュなギャルを描いています。
『新星ギャルバース』にエロさを感じないのは、彼女たちが異性の目を意識しているわけじゃなく、自分が着たいから着るスタンスだからだと思います。自信満々の表情で「私はハイレグ着たいから着てんの」みたいな。私も実際に言われたことがありますが、露出度の高い服を着ると「性的な目で見られたいの?」という見方をされることもあって。そうじゃないと伝えたかったんです。

―本編に先駆けて公開されたトレーラーでは、具体的な作品名を挙げて「〇〇っぽい!」とコメントする方も多かったですよね。
大平:『魔法騎士レイアース』『セーラームーン』など、それぞれ思い出のアニメを挙げてくれていました。なかでも多かったのが『セイバーマリオネット』。じつは私、この作品について知らなかったんですけど、検索して見てみたら「かわいい! これ絶対観よう!」ってアガりました。一方で「『ドラゴンボール』っぽい」と言う海外ファンもいて、絵は全然違うけど、1990年代アニメらしさを感じてくれたみたいです。
―『新星ギャルバース』は豪華な声優キャストも魅力のひとつです。それこそ、1990年代から活躍されるレジェンド声優さんが多いですが、キャスティングはどのように進めていきましたか?
大平:脚本とキャラデザインができた段階でキャスティングを始め、知名度というよりも絵柄にマッチする声、特に1990年代のアニメっぽい発声を重視してオーディションを進めました。でも、選んでいくうちに夢のラインナップになってしまったから、さすがに難しいかもしれないと思っていたんですけど、ほとんど第一希望が通ってびっくりしました。
日本は声優さんのファンカルチャーが熱いので、キャスト発表のときも反響がすごかったです。「堀江由衣さんが主演なら絶対観る!」という声が上がるなかで、D.D.を演じるファイルーズあいさんに対して「最近の声優さんだよね……? 昔から活動している人だっけ?」と脳がバグっている方もいました(笑)。

『新星ギャルバース』の声優陣
「『スター・ウォーズ』くらい壮大な構想があります」
―今回はOVA的な位置づけの作品ですが、続編は考えていますか?
大平:じつは『スター・ウォーズ』くらい壮大な構想があります。長編アニメやシリーズ版をつくりたい気持ちはありつつも、アニメはめちゃくちゃお金がかかることを実感したので、まずは今回をきっかけに『新星ギャルバース』を世界中の人に知ってもらって、ゆくゆくはオリジナル配信作品としてシリーズ展開できたらいいなと思います。
―『新星ギャルバース』公式HPでは、大平さん描き下ろしの漫画も公開されていますよね。
大平:アニメが始まる前に少しだけ描いていました。でも、制作で忙しくなってしまって第1話で止まったまま、まさかの2年半休載中(笑)。まずは漫画を再開して、自分の中にある世界観を自由に表現したいです。いつかは1冊のコミックスにできたらと考えています。

漫画版『新星ギャルバース』
―ぜひ読んでみたいです。最後に、視聴者に向けてメッセージをお願いします。
大平:とにかく懐かしい気持ちになってもらえたらうれしいです! 1990年代のアニメを楽しんだ人には「戻ってきた!」って思ってほしいし、世代じゃない人にも「こんな日本のアニメがあったんだ」と新鮮に感じてもらえたら。そして、『新星ギャルバース』が長く愛される作品になればいいなと思います。

- 作品情報
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『新星ギャルバース』
記憶を失った謎の少女ゼロは、戦火に包まれた惑星「アマテラ」に舞い降りた。現地のレジスタンス勢力と帝国軍「ゲヴラー」との激しい戦いのなか、ゼロは世界を救うために戦う若きリーダー・リングと出会う。やがてゼロの記憶が目覚めていくにつれ、彼女がただの少女ではなく、「ギャルバース」という存在であり、真の自分に直面することになる。
『新星ギャルバース』は、90年代の少女アニメとSFの魅力と精神にインスパイアされた、エネルギッシュでエモーショナルな近未来SFアニメ。挑戦や痛み、葛藤、そして愛を描きながら、「ギャルマインド」という内なる強さが、不可能をも乗り越える原動力となることを描いた物語。
原作・総監督:大平彩華
共同編集:高村優太
脚本:高橋ナツコ、大久保雅彦
美術:劉洋 - 株式会社 小倉工房)
キャラクターデザイン原案:大平彩華
キャラクターデザイン:石野聡、永山もも
プロデューサー:平澤直、安部幸枝 - ARCH
アニメーションプロデューサー:西澤宏二 - S.o.K
音響制作:マジックカプセル
- プロフィール
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- 大平彩華 (おおひら・あやか)
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福岡県出身。フリーランスのアニメーション作家。m-flo、YOASOBI、初音ミク、Tove Loなど、国内外のアーティストのミュージックビデオやアートワークを手がける。従来のスタジオシステムとは異なるかたちで独学でアニメーションを学び、ノスタルジックなスタイルにストリートカルチャーやギャルカルチャーを融合させた独自のスタイルで次世代のクリエイターとして注目される。『新星ギャルバース』では、ゼロからオリジナルアニメを立ち上げるという長年の夢を実現。ストーリーとビジュアルの両面を牽引する中心人物として、制作チームやファンを惹きつける原動力となっている。その作品はファッションブランドや音楽業界からも高い評価を受けている。
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