アイドルにとって、ライブでパフォーマンスすることと、舞台で演技をすることにはどんな違いがあるのだろうか?
9月5日から公演がスタートする舞台『賭ケグルイ』では、指原莉乃プロデュースのアイドルグループ≠MEの蟹沢萌子が、蛇喰夢子役として舞台単独初主演に挑む。
同作はギャンブルの強さがすべてを決める私立百花王学園を舞台に、ギャンブルを狂気的に愛する少女・蛇喰夢子が個性豊かな生徒たちと繰り広げる物語。原作漫画はシリーズ累計発行部数700万部を超え、テレビアニメや浜辺美波主演の実写ドラマ・劇場版など、メディアミックスもさかんに展開されてきた人気作だ。
アイドルとしてライブでもステージに立つ蟹沢だが、舞台で演じることにはどのような難しさや面白さがあるのか? 舞台での表現へのこだわりから、「自分自身にもずっと魔法をかけ続けているような感覚」だというアイドルでいることへの思いまで、話を聞いた。
「今回の舞台の曲は、歌詞を言葉として読み上げたときのアクセントと近い音程になるように作られているんです」
─今作が舞台単独初主演ですが、最初に役が決まったときの気持ちはいかがでしたか?
蟹沢:『賭ケグルイ』はたくさんの方に愛されている作品で私自身も大好きだったので、嬉しい気持ちと主演を務めさせていただく重みを同時に感じて「この作品に私自身も賭ける気持ちで頑張るぞ」と気合いが入りました。

蟹沢萌子
1999年生まれ。神奈川県出身。指原莉乃プロデュースの女性アイドルグループ≠MEのリーダー。テレビアニメ『シャインポスト』で玉城杏夏役の声優を務めたほか、舞台『≠ME ACT LIVE「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」』では、春風どれみ役を演じた。
─蟹沢さんが感じている『賭ケグルイ』の魅力はどんな部分でしょうか?
蟹沢:先の展開が読めないギャンブルが、臨場感あふれる絵柄やセリフで進んでいくのでドキドキします。自分は作品の読者でありながら、同じ学園の中で一緒にギャンブルを見守っているような気持ちになれるところが大好きです。
また、読み進めていくほどに登場人物の過去が明かされ、キャラクター同士の絆や関係性が深くなっていくので、全部のキャラクターをどんどん好きになり、次の話が待ち遠しい気持ちでした。
─舞台では、歌やダンスで『賭ケグルイ』の世界観が表現されています。蟹沢さんはアイドルとしても歌やダンスに取り組んでいますが、普段の表現と比べてどのような違いがあるのでしょうか?
蟹沢:舞台で役を演じながら、セリフとして歌って踊ることは初めてでした。物語のなかで「ここぞ」という印象的な部分や見せ場となるシーンに歌のパートがあるのですが、セリフから歌への移り変わりを違和感なく受け入れていただけるよう、感情の流れもスムーズにつながないといけないんです。
アイドルとしてステージに立つときは、MCはMC、曲は曲と分かれているので、そこが違う部分だと思います。
声の出し方も普段とは違っています。今回の舞台の楽曲は、歌詞を普通に言葉として読み上げたときのアクセントと近い音程になるように作られているんです。自分自身もその音程が持つ意味を理解して、劇場全体に届ける気持ちで表現したいと思います。

─ご自身が演じる蛇喰夢子には、どんな印象をお持ちですか?
蟹沢:蛇喰夢子は、とてつもないギャンブルへの情熱を持つ一方で、おちゃめな部分、おしとやかな部分など、いろいろな表情のあるとてもチャーミングなキャラクターでもあるんです。「蛇喰夢子は蛇喰夢子」としか言えないくらい、ほかにない個性的なキャラクターだと思います。
また、夢子は人を見る目があり、人間の「奥底」を見てギャンブルをしているように感じます。表面上の賭けではなく、深い読み合いをするからこそ、夢子はギャンブルに心から惹かれるんだと思います。
「賭けぐるい」としての表情を見せる迫力あるシーンはもちろん、ほかのシーンも含めて全部が素敵なキャラクターなので、それを舞台上で表現できるよう、稽古期間を通して見せ方を深めていきたいです。

舞台『賭ケグルイ』ティザービジュアル
─蛇喰夢子のチャーミングさと、賭け狂っているときの雰囲気には二面性がありますよね。ギャップを演じるうえで意識されている部分はありますか?
蟹沢:私も最初は二面性があると思っていたのですが、稽古を通してとてもまっすぐなキャラクターだと感じるようになりました。
ギャンブルをするときも、普段周囲の人と穏やかに会話するときも、感情や熱量が一定で、自分に対してとても素直な気がしていて。「ギャンブルをするときはかっこよくしよう」「普段はおちゃめでいよう」と意識的に分けているのではないと思うんです。
私自身、演じるなかでそれを感じ始めたので、稽古を通してもっと突き詰めることで、夢子に近づけるんじゃないかと思っています。
「かわいい表現やかっこいい表現は、曲や衣装、髪型のパワーに引っ張られて出てくるんです」
─蟹沢さんご自身も「かわいさ」と「かっこよさ」の使い分けや、リーダーとして≠MEを引っ張る姿と、普段の活動での柔らかい雰囲気のギャップが魅力の一つだと思います。スイッチの切り替えは意識されているのでしょうか?
蟹沢:≠MEのリーダーとしての蟹沢萌子と、アイドル個人としての蟹沢萌子には、自分のなかに明確なスイッチがあると思っています。ですが、かわいさやかっこよさについては、曲や衣装、髪型のパワーに引っ張られていくタイプだと最近気づいたんです。
私は普段のライブではツインテールのようなかわいい系統の髪型にすることが少ないのですが、たまに試してみると同じ曲でも自然とかわいい方向に表情や仕草が引っ張られるんです。逆にかっこいい衣装だと、かわいい曲でもかっこよく見せる動きになっていると感じることがありますね。

蟹沢:また、≠MEは世界観や物語性のある楽曲をいただくことが多いのですが、「この曲だからこう表現しよう」と決めきっているわけではないんです。ステージ上でイントロがかかった瞬間に「この楽曲に登場する人物は、この歌詞は、こんな気持ちを歌っているんだ」と新たな解釈がふと浮かんで、自分でも想像がつかないような表現ができることがあります。
新しい自分に出会える感覚があるのも、楽しいところだと思います。アイドルとしての自分の表現は意外と複雑だと最近は思っているので、自分のことももっと分析したいです。
─アイドルとしての表現が、今回の舞台に生きていると感じる部分はありましたか?
蟹沢:今回は本当に初めてのことの連続で、とにかく共演者の皆さんや舞台を作り上げてくださるカンパニーの皆さんから学ぶことばかりです。稽古を経て表現に磨きをかけるなかで「自分のこういう部分には、もしかしたらアイドルとしての活動が生きているのかも」というような発見があるかもしれないです。
─稽古を進めるなかで感じている変化や、演技との向き合い方について教えてください。
蟹沢:夢子への愛は日々強まっています。今回の舞台では、自分がセリフや動きをしっかり表現しないと観ている方がどのようなシーンなのかわかりづらくなってしまうような部分が多いんです。物語のキーとなる説明やギャンブルの迫力を伝える肝となるシーンがたくさんあるからこそ、夢子から自然に湧いてきた動き、湧いてきたセリフとして、自分の体にもっと染み込ませたいと思っています。
蟹沢:稽古の前後には、漫画、アニメ、実写の同じシーンを何度も見て、一連のシーンのなかでコマが大きくなっていたり、夢子がアップになっていたりするのはどこなのかという部分にも注目しています。
それぞれのメディアでできる表現方法が違うなかで、スタッフの方々は「舞台だからこそ」できる、キャラクターやシーンが引き立つような照明や立ち位置を考えてくださっています。だからこそ、ワンシーンワンシーン大切に夢子と向き合っていこうと強く思っています。
「ライブは一公演ずつ、その場所・そのとき・そこで過ごせる人たちと作るという気持ちです」
─アイドルとしてのライブと舞台での演技、どちらもステージに立つという意味では似ていますが、いま感じている共通点や違いはありますか?
蟹沢:ライブではファンの方の声援を受けて私たちもどんどんギアを上げていくので、人と人でパワーを交換し合いながら一緒にステージを作っている気持ちなんです。そのたびにアイドルとして、ファンの方がいてくださることのありがたみや大切さを感じています。
一方で、舞台の場合、基本的に感情のパワーの化学反応はステージ上にいる出演者とのあいだにだけで起こっているように感じます。ライブと違い、観ている方々が声を出したり動いたりすることがないからですね。そんななかでお客様をいかに巻き込んで、舞台の世界の一員になったかのように感じさせられるのか、という挑戦が、舞台ならではの面白さだと思います。

蟹沢:また、これは約3年前にグループで『≠ME ACT LIVE「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」』に出演したときに感じたことなのですが、「舞台は連続した日程でステージに立つからこそ、感情を育てることができるんだ」と。
ライブはツアーでも日程が空いたり、場所も違ったりして、一公演ずつ「その場所」「そのとき」「そこで過ごせる人たち」と作るという気持ちでステージに立っています。一方で舞台は、同じ場所で、観にきてくださった皆さんを引き込んで、積み重ねながら「膨らんでいく」ような感覚。ライブとはまた違っていて、どちらも素敵だと思っています。
─いまお話しくださった『≠ME ACT LIVE「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」』出演当時との違いや、約3年の活動を経ていま感じている成長があれば教えてください。
蟹沢:当時はいま以上に経験が少なく、舞台も初めてだったので、本当に右も左もわからない状態でした。また、≠MEメンバーが2チームに分かれて、それぞれ同じ台本で公演を行ったので、自分と同じ役を演じるメンバーのお芝居を見させてもらうタイミングも多かったです。表情やセリフの言い方など、それぞれのチームでそれぞれの正解があることがとても勉強になりました。
観に来てくださった方の中には≠MEのファンの方以外にも、舞台を通して≠MEを好きになってくださった原作ファンの方などもいらっしゃいました。その経験があるからこそ、原作の『賭ケグルイ』が好きな方にも舞台も愛していただけるように頑張りたいという気持ちが強くあります。
前回の舞台出演から数年空いているので、前回の舞台を観てくださった方に成長を感じてもらえるような演技ができたら良いなと思っています。あの頃は精一杯でしたが、数年経った、いまの蟹沢萌子にできる200%の頑張りを見ていただきたいと思います。

「ファンの方だけでなく、自分自身にもずっと魔法をかけ続けている」
─アイドルとしてのスイッチの切り替えなどがあれば教えてください。
蟹沢:アイドルはとても不思議な仕事だと自分では思っています。仕事というより、きっとアイドルは「アイドル」という生き物なんだろうなと感じています。いまはアイドルとして生きていることが、私という人間そのものなのかなと思います。
「アイドルはファンに魔法をかける」と言う方もいらっしゃいますが、私としては、自分自身にもずっと魔法をかけ続けているような感覚なんです。ステージセットや、衣装、ヘアメイク、そして支えてくださるファンの皆さんが、私に魔法をかけ続けてくれているんだろうなと思います。
不思議な言い方かもしれませんが、自分も、ファンの方も、携わってくれる方々も「みんなで夢のなかにいようね」と一緒に魔法にかかることが、アイドルでいるということなのかなと思うんです。もし「切り替えるスイッチ」があったら、自分もみんなも夢から覚めてしまうので、いまの私は人生丸ごとアイドルとして生きているんだと思います。

─最後に、アイドルとして活動しながら、声優や舞台にも挑戦されているなかで蟹沢さんが感じている「演技が持つ力」を教えていただきたいです。
蟹沢:アイドルとしてはその楽曲に登場するキャラクターだったり、声優を担当したときは1人の女の子だったり、舞台に立つ今回は夢子だったり……役を演じることは1人の人物、1人の人生の一部を背負うことだと思います。だからこそ、肩肘張って「演じる」というのではなく、最終的には自分自身とその人物が馴染んで、ごく自然なものになっていく。その感覚が面白いなと感じています。
セリフの言い回しや歌の技術、見せ方の技術は、勉強することがたくさんあって奥深いです。ですが、根本を突き詰めると演技で見せるのは誰かの日常であり、誰かの人生なので、自分自身がいかにその人物「そのもの」になれるかが鍵なのだと思います。私はまだ未熟な部分もあると思うので、これからも頑張ります。
- 作品情報
-
舞台『賭ケグルイ』
原作:『賭ケグルイ』河本ほむら・尚村透(『ガンガンJOKER』スクウェア・エニックス刊)
脚本・演出:西田大輔
音楽:和田俊輔 / 振付:YOKO(HIGH-ENERGY)
出演:
蟹沢萌子(≠ME) 永田聖一朗 小泉萌香
音くり寿 河内美里 朝倉ふゆな 村山結香(≒JOY) 佐竹桃華
笹森裕貴
梅田彩佳
ほか
©河本ほむら・尚村透/SQUARE ENIX・舞台「賭ケグルイ」製作委員会
- プロフィール
-
- 蟹沢萌子 (かにさわもえこ)
-
1999年生まれ。神奈川県出身。指原莉乃プロデュースの女性アイドルグループ≠MEのリーダー。テレビアニメ『シャインポスト』シリーズで玉城杏夏役の声優を務めたほか、舞台『≠ME ACT LIVE「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」』では、春風どれみ役を演じた。
・ワンピース ¥25,300(La lune)
・イヤリング ¥2,860(Withy)
その他スタイリスト私物
(お問い合わせ先)
・La lune(info@lalune.tokyo)
・Withy(https://lit.link/withyasami)
- フィードバック 4
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-