「共感できない=つまらない」ではない——又吉直樹が語る、人と文化を面白がる方法
東京オペラシティのエントランスを歩きながら、又吉直樹さんは足を止めた。
「新国立劇場へ向かう途中に水辺があるじゃないですか。普通の街並みを歩いて劇場に入るのもいいですけど、水があることで徐々に気持ちが整っていくんです」
                             又吉直樹
1980年大阪府寝屋川市生まれ。芸人。1999年に上京し吉本興業の養成所に入り、2000年デビュー。2003年に綾部祐二と「ピース」を結成。小説『火花』『劇場』『人間』などを執筆。
新国立劇場をはじめ、コンサートホールやアートギャラリー、オフィスが集まる複合施設・東京オペラシティは、芸術を楽しむ人からオフィスワーカーまで、多様な人々が行き交う場だ。
そんな東京オペラシティに今年、加熱式たばこ専用エリアが設置された。
このエリアを東京オペラシティと協力して整備したのは、「煙のない社会」 の実現を目指すフィリップ モリス ジャパンだ。同社は「禁煙が最善」という立場をとりつつ、自らの意思で喫煙を続ける人にはリスク低減につながる可能性のある選択肢として、紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えを促進している。また、近年は加熱式たばこのユーザーや喫煙者と非喫煙者が快適に共存できる環境づくりにも力を入れている。
表現者、観客、そして作家。多様な顔を持つ又吉さんと東京オペラシティを歩き、他者との「共存」について考えるとともに、喫煙者と非喫煙者双方が安心して過ごせる空間づくりの重要性を紐解く。
「都心の雑踏」から「表現の世界」へ。オペラシティの空間づくり
普段から大小問わずさまざまな劇場に足を運ぶ又吉さんは、東京オペラシティ街区も幾度となく訪れてきた。「観劇をするのはなんだかんだ言って非日常」。都心の雑踏から表現の世界への接続を感じさせるオペラシティの設計が気に入っているという。
「劇場に集まるお客さんって最初はみんなバラバラなんですよね。各々が、日常のいろんな問題とかリズムとかを抱えてそこに座っているから。でも芝居が進むにつれて、気持ちが一つになっていく。その過程は舞台に立つ側から感じてます」
                             「お笑いでも『お客さんが温まっていないから1組目はウケにくい』という通説がありますよね。『温まってない』のではなくて、お客さんがそれぞれ持ってる『ざわめき』が散らかってる状態なんだと思います。それがだんだんひとつになっていくことを『温まった』と言っているような気がしますね」
「トイレでもたばこでも、何かを我慢していると作品鑑賞の集中力が続かない。お客さんが何かストレスを感じてそうなことは、演者としても気になります」
文化施設の空間づくりには、作品に集中できる時間を生み出すための工夫が求められる。ほかのさまざまな工夫と並び、加熱式たばこ専用エリアも、それぞれが落ち着いて過ごせる環境を整えることに一役買っている。
                             又吉の後ろに位置するのは、今年オペラシティに設置された、加熱式たばこ専用エリア
『火花』『劇場』『人間』……又吉作品における「たばこ」の意味
又吉さん自身は「自分でたばこを買って吸ったことは1、2回しかない」。「27、8歳の時に吸い始めようと思って買いに行ったんですけど、デビューが遅すぎて無理でした」と苦笑する。
それでも父親がたばこをくゆらせていたこともあり、又吉さんの作品でもたばこが度々描かれる。
「そのときさ、おまえ結局なんにも書けなかったんだろ?」- 『人間』又吉直樹
仲野は煙草に火をつけて、ゆっくりと話した。最も相手が痛がる角度を探しているかのように。
「それで酒飲んで、逃げて、諦めたんだろ? めぐみに甘えて迷惑ばっかり掛けてさ。だせぇよ、おまえ」
どういった意味合いがあるのだろうか?
「相手が何を考えているのかを、主人公が気にしているときにいれている気がします。『待つ時間』を表現しているのかも。実体験でいうと、先輩とか大人がたばこを吸っているのを見ては機嫌の良し悪しを察したり、どんな言葉が返ってくるのかを考えたり。そういう時間が僕は好きですね。好きな先輩と一緒にいるときとかは、自分が吸わんくても喫煙所についていくこともあります」
                             太宰治、芥川龍之介……近代の文豪にとっては「パンクス」などとも結びついた一方で、現代の視点ではより日常的な風景として受け止められると又吉さんは語る。そうした背景を踏まえ、たばこは「作家にとって格好のアイテム」だと感じるという。
「たばこを吸ってると口を隠せるじゃないですか。『いまここで何か言わなあかん』ってときに一服すれば、その間に頭を整理できる。答えを保留する時間をつくってくれるんですよね」
「共感できない=つまらない」ではない。共感至上主義に対する危機感
そんな又吉さんは、30代になるまで芸人仲間や仕事関係の人々など、他者との接触を極端に避けていたそうだ。
「人が嫌いというよりは、何をしても『それは違う』って言われることが多かったんです。打ち上げで偉い人にお酒を持って挨拶に行かないといけない空気も苦手でした。お酌しにいったところで『お前、誰やねん』って思われそうだな……とか考えてしまって」
                             喋りの瞬発力がない。逡巡しているうちに、周りの会話は温まっていく。一人、場のリズムから取り残されると「どうしたの? 元気ないね。大丈夫?」と心配された。
「その言葉が黒魔術みたいに効いてきて、本当に体調が悪くなることばかりでした。しんどかったですね」
居心地の悪い日々が続くうちに、少しずつ「又吉はそっとしとこう」という空気が生まれた。「いい意味で放っておかれるようになってから、気が楽になりました。それが30歳ぐらいかなぁ。以降は、外に飲みに行くことが増えましたし、知らない人と積極的に会ったりする機会が増えました。いまでは僕が饒舌だと逆に『どうした?』って聞かれますね」とはにかむ。
大勢と同じ行動を取らなくてもいい。自分が馴染めない部分を認識して、周りに認められることで、「自分と違う考え」を受け入れられるようになっていた。
小説を読むときもこのスタンスを大切にしているという。又吉さんが重視するのは、「共感」と「発見」だ。
「僕は本を読んでいるときに、自分と全然違う考え方を持ってる登場人物に面白みを感じるんですね。『なんだこの考え方は? こんな風にものを見たことがない』と驚きたい」
『劇場』を読んだ読者からは「主人公が苦手」と言われることもある。だが又吉さん自身は「共感しちゃダメな人物をどう面白く描くかに挑戦した」と話す。
『劇場』では、理不尽な激昂や惰眠といった姿にも、主人公なりの理由が描かれる。理解できなかった人間関係の記憶を呼び起こし、理不尽に見えた行動にも別の文脈を想像させる力を持っている。
「共感できることって素晴らしい感覚やと思う一方で、共感至上主義に陥ると危険だなと思っています。僕と考え方が一緒の人ばかりなら、もう自分が考える必要がなくなるじゃないですか」
「共感できない=面白くない」とは考えない。むしろ、自分が腹を立てた理由や、相手がそう考えるに至った背景を知ることで、自分や相手への理解が深まり、世界の見え方が広がっていく。
「共感できない人に『お前は間違ってる』って言うよりも、面白がれたほうが楽しい」
                             54階に位置するスカイロビーからの景色
煙のない社会を目指すために必要なのは「選択肢を広げること」
又吉さんのそんな言葉は、東京オペラシティの空間とも響き合う。ここでは観劇やコンサートに訪れる人も、オフィスで働く人も、そして喫煙者も非喫煙者も、同じ場所で時間を過ごしている。
かつては喫煙所の混雑や煙漏れが課題になることもあった。喫煙者と非喫煙者双方が安心して過ごせる空間づくりを模索した結果、加熱式たばこ専用エリアが整備された。
整備後は紙巻たばこの匂いを苦手に感じる加熱式たばこユーザーが喫煙所に入りやすくなったことや、喫煙所に行った人が拡散する匂いの量が減ったことに加えて、施設側の清掃効率の向上などのメリットがあったという。
より多くの人が観劇の前に余計な匂いに気を取られず、作品に集中できるようになったことは、訪れる人にとって大きな変化だった。
「煙のない社会」 の実現を目指し、一貫して「禁煙こそが最善」との立場をとるフィリップ モリス ジャパン。たばこを吸っていない人にとっては吸い始めないこと、そしていま吸っている人にとっては禁煙こそがベストな選択肢。ただ、自身の意思で喫煙を続ける人にとっては、加熱式たばこはリスク低減につながる可能性のある新たな選択肢となる。
世の中に一つでも多くの選択肢を増やし、他者との違いを受け入れながら、共に過ごす。フィリップ モリス ジャパンが目指す社会のあり方は、又吉さん自身の考え方とも重なっている。
「全部同じじゃなくていい。10個のうち1つ違っていても、残りで一緒にやっていける。それくらいの方が、人と一緒にいるのは面白いと思うんです」
分煙は、その象徴のひとつなのかもしれない。
- プロフィール
 - 
                                                                
- 
                                      
又吉直樹 1980年大阪府寝屋川市生まれ。芸人。1999年に上京し吉本興業の養成所に入り、2000年デビュー。2003年に綾部祐二と「ピース」を結成。小説『火花』『劇場』『人間』などを執筆。
 
 
- フィードバック 2
 - 
      
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
 -