クラシック音楽、どんな曲から聞けばいい?新しくなった『都民音楽フェスティバル』も解説

クラシック音楽を聴きに行ってみたいけど、豊富な知識が必要そうだし、どのコンサートに行けばいいかわからない……。そんなふうにハードルの高さを感じる人もいるのではないだろうか?

そんなクラシック初心者でも楽しめる『都民音楽フェスティバル』が、3月まで東京芸術劇場などで開催されている。

都民が音楽・舞台芸術を身近に感じられるように開催されている同イベントは、オーケストラ、室内楽、歌曲、オペラ、バレエ公演、子供向け事業など、幅広いラインナップが特徴だ。

今回の記事では、東京音楽大学で作曲を学び、同大学院で音楽学を専攻、現在は音楽ライターとして活動する小室敬幸が、初心者にもおすすめのクラシックの楽しみかたを解説。

自分の好みに合うクラシック音楽との出会いかたに加えて、初めてクラシックに触れる機会にもぴったりな『都民音楽フェスティバル』の魅力について綴ってもらった。

良い演奏に出会えば、知識なしでもクラシック音楽は楽しめる

クラシック音楽をわかりやすく解説をする仕事をしている手前、「クラシック音楽に知識は必要?」と問われれば、普段は基本的に「あったほうがより楽しめる」と答えている。だが、今回は建前なしの本音で答えよう。

良い演奏にさえ出会えば、クラシック音楽は知識なしでも楽しめる、と。

クラシック音楽は原則として楽譜通りに演奏されるので、普段このジャンルを聴いていない方からすると、何をもって良し悪しを判断すればいいの? と、たびたび不安の声を耳にする。

だが不思議なもので、コンサートに足繁く通っていると、ときおり自然と「嗚呼、そういうことか!」と腑に落ちる演奏に出会う。そして、良い演奏というのはおしなべてわかりやすい。それは何故か?

クラシック音楽の演奏というのは、実のところ「朗読」に近い。どれほどの名文であろうと棒読みでは頭に入ってこないし、情景や感情が想像しづらいように、たとえバッハやベートーヴェンが作曲した偉大な傑作であろうと、ただ楽譜通りに音を並べただけだと良さは伝わりようがないのである。

あるいは、老齢で滑舌が悪くなってしまった偉大な俳優が語りだすと、言葉がはっきりと聴き取れなくても何を言わんとしているのか自然と伝わってくることがないだろうか。クラシック音楽でも同じで、技術的に衰えてしまって楽譜通りに演奏できなかったとしても、いたく感動させられる演奏もあるのだ。

知るとよりクラシックが楽しくなる「作品」と「演奏家」の関係性

もうひとつ知っておくと良い視点をご紹介しておこう。それは「作品(および、その作者)」と「演奏家」、どちらがより輝くべきか? という問題だ。

例えば19世紀前半に活躍したパガニーニというイタリアの作曲家・ヴァイオリン奏者は、楽譜に書かれた通りに演奏するだけでも非常に難しい作品を遺した。それほど難しいのになぜいまも演奏されているのかといえば、クラシック音楽に詳しくない聴衆にも難しいことをしていることが伝わるほど派手で聴き映えがする音楽だからだ。

つまり、演奏するヴァイオリン奏者の実力を誇示できるのである。言語に喩えるとすれば、聴き取りやすい綺麗なイントネーションで早口言葉を完璧にそらんじるような感覚に近い。これが「演奏家」が輝く音楽である。

しかし、どんな作曲家にもそのアプローチが有効なわけではない。例えばモーツァルト! 楽譜通りに音を並べるだけなら子供でも可能な作品も多いが、それでは全く魅力が伝わらない。

シンプルで無駄ひとつない音楽に、絶妙な加減のニュアンスを与えなければならないのだ。それを実現するためには演奏家は作曲家の遺した楽譜に奉仕して、作品の素晴らしさを伝える伝道師のような存在でいなければならない。こちらが「作品」を輝かせるべき音楽である。

クラシック音楽の世界では長らく、「演奏家」が輝く音楽よりも「作品」を輝かせるべき音楽の方が高尚だという位置付けがなされてきた。超絶技巧(ヴィルトゥオーゾ)はいつの時代も人気だが、技巧だけでは品がなく低俗だと評価されてしまいがちなのだ。

とはいえ、あくまで伝統的にそういう価値観が強いというだけであって、一個人としてクラシック音楽を楽しむだけならそんな考え方に縛られる必要はない。自分の心に響く音楽と演奏家を追い求めればいいだけだ。

初心者が自分の好きな楽曲を見つけるには? 好きなジャンルを辿ってみよう

では実際、何から聴けばいいのだろうか? かつて初心者向けの楽曲といえば、ベートーヴェンの“運命”やシューベルトの“未完成”のような定番の演目が挙げられてきた。けれども、そうした古典作品を必ず通る必要もないと、ここで断言しておきたい。

むしろすすめたいのは、自分が好きなジャンルに近い作曲家、あるいは自分が好きなアーティストが好む作曲家を検索したり、AIに尋ねてみたりすることだ。クラシック音楽からの影響を公言しているミュージシャンは案外と多い。いくつか例を挙げてみよう。

ジャズやミュージカル、映画音楽好きにおすすめの作曲家

ジャズやミュージカルが好きであれば、レナード・バーンスタインの楽曲が入門にうってつけだろう。

『スター・ウォーズ』シリーズなど、名だたる映画音楽を手がけたジョン・ウィリアムズが好きであれば、彼が若い頃から愛してきたストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチといった20世紀ロシア(ソ連)の音楽を聴くと発見が多いはず。

ミニマルミュージックの創始者のひとり、スティーヴ・ライヒの音楽は、デヴィッド・ボウイ、Bjork、Aphex Twin、Radioheadのジョニー・グリーンウッドなどが影響を受けたと語っている。目新しさはないかもしれない辿り方だが、こういう関連をつなげていくのがやっぱりいい。

そして、前述してきたように演奏次第でまったく別物になってしまうのがクラシック音楽。何かひとつの演奏を聴いてピンとこなくても、別の演奏で感動することなんか日常茶飯事だ。

だからこそ自分のなかの好悪や評価を断定することなく、新しい出会いの機会を作り続ける。それがクラシック音楽を楽しむ最大のポイントかもしれない。

初心者でも手頃な価格で上質なクラシック音楽を楽しめる『都民音楽フェスティバル』の魅力

1968〜2025年にかけて開催されてきた『都民芸術フェスティバル』は、2026年からリニューアルする。

『都民音楽フェスティバル』に名前が変わり、オーケストラ、室内楽、歌曲、オペラ、バレエの本格的な公演に加え、子供連れでも楽しめる公演、参加型ワークショップも開催される。

クラシック音楽の入り口としてこのフェスティバルをおすすめしたい最大の理由は、身も蓋もないがチケットの安さだ。

例えば、8公演が予定されているオーケストラ・シリーズは2,000~5,000円(加えて学生や障害者手帳をお持ちの方向けの割引有)と、各団体が主催する定期公演より手頃だ。

フェスティバル会場のひとつで、オーケストラ・シリーズなどが開催される東京芸術劇場は池袋駅西口から徒歩2分とアクセスもよいし、開場前から座れる場所が施設内には多く設置されているのでシニア層にも有り難い。

指揮者とソリスト(協奏曲を弾く独奏者)は、どちらかがすでに定評のある中堅やベテラン、もう一方はこれからの活躍が期待される注目株というバランスの良いキャスティング。

定評のある人だけを選べばよいと思ってしまう方もいるだろうが、それでは堅実で面白みがない演奏になってしまうことも……。ルーティンを脱する新たな刺激が、百戦錬磨のオーケストラの演奏を触発するのだ。

『都民音楽フェスティバル』公演のおすすめポイントを紹介

そういう観点から、各公演の注目ポイントをおさらいしてみよう。

1月26日(月)東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団には、17歳のヴァイオリニスト中原梨衣紗が登場。年齢から感じるイメージとはギャップのある完璧なテクニックに圧倒されるに違いない。これぞ「演奏家」が輝く音楽だ。

2月2日(月)NHK交響楽団

NHK交響楽団といえばちょっと前までベテラン揃いの楽団だったが、そうした世代が定年になり、近年急速に実力派の若手・中堅が入団してイメージが変わりつつある。指揮するのは40代にさしかかり、若手から中堅へとキャリアが移り変わりつつある横山奏(かなで)だ。

2月6日(金)東京フィルハーモニー交響楽団

東京フィルハーモニー交響楽団と共演するのは、角野未来。いまやジャンルを超えた人気を誇り、世界的に評価されるピアニストとなった角野隼斗の妹だ。

彼ら兄妹の母親は優れたピアノ教師だが、2人とも全く個性の異なるピアニストになったのが面白い。軽やかでブリリアントな音色による上品なモーツァルトが堪能できそうだ。

2月24日(火)日本フィルハーモニー交響楽団

日本フィルハーモニー交響楽団は指揮者・碇山隆一郎が登場。彼は奄美大島から20kmほどのところにある鹿児島県の喜界島出身で、2023年にはオーケストラ・アンサンブル金沢と共にこの島で初となるオーケストラのコンサートを開催して話題を呼んだ。

2月25日(水)東京都交響楽団

東京都交響楽団を指揮する太田弦は、東京国際音楽コンクール〈指揮〉で2位を受賞してからの10年間で躍進が素晴らしく、2024年にわずか30歳で九州交響楽団の首席指揮者となった俊英だ。

3月4日(水)東京交響楽団

東京交響楽団はピアニストとしても第一線で通用する実力をもつ大井駿が指揮。2025年にハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門で2位となったばかりで、今後ますます指揮者としての活躍が期待される。

3月10日(火)新日本フィルハーモニー交響楽団

新日本フィルハーモニー交響楽団とソリストとして共演する浜野与志男は中堅といってもよいキャリアを誇っているが、日本におけるロシア音楽のスペシャリストとしてもっと注目されてほしいピアニストだ。

オーケストラ・シリーズ以外にも魅力的な公演が続く。

1月30日(金)『日本のうた~歌曲集への誘い』

実力者の揃った『日本のうた~歌曲集への誘い』という日本歌曲のコンサートでは、さまざまな世代の日本人作曲家がどのように日本文学を歌へと昇華させたかが聴きどころ。特に推したいのは、高村光太郎の『智恵子抄』にロマンティックな音楽をつけた別宮貞雄の歌曲集である。

2月10日(火)『[伝統と革新]メンデルスゾーン×ピアソラ』、3月9日(月)『ロマンティック チェロ・カルテット』

室内楽では、大御所と若手がぶつかりあってメンデルスゾーンの定番の傑作だけでなく、なんとタンゴの革命児ピアソラも取り上げる『[伝統と革新]メンデルスゾーン×ピアソラ』に注目したい。もちろん、日本が世界に誇れる実力をもった若手チェリスト4人が集まった『ロマンティック チェロ・カルテット』も刺激的な公演になりそうだ。

オペラやバレエといった大規模な舞台作品には、初見でも楽しめる定番の演目が並ぶ。

2月12日(木)〜2月15日(日)『カヴァレリア・ルスティカーナ』『道化師』

イタリアの庶民たちのドロドロした恋愛をドラマティックに描いたオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『道化師』は、オペラ入門にうってつけ。大人気の指揮者バッティストーニがスペクタクルな演奏を聴かせてくれるに違いない。

藤原歌劇団が公演を行う『妖精ヴィッリ』『カヴァレリア・ルスティカーナ』で、『カヴァレリア・ルスティカーナ』を見比べてみるのも絶対に面白い。

また、藤原歌劇団の制作をしている日本オペラ協会は、大河ドラマの音楽などでお馴染みの作曲家 渡辺俊幸と、『ゲゲゲの女房』の脚本家大石みちこがタッグを組んだオペラ『奇跡のプリマ・ドンナ -オペラ歌手・三浦環の「声」を求めて-』も上演する。日本人として世界で初めて認められた実在のオペラ歌手の物語だ。

2月7日(土)、2月8日(日)東京シティ・バレエ団『ジゼル』

また、1,000名程度の中劇場でバレエ『ジゼル』が観られることにも注目したい。バレエは初心者ほど近くで観ると、驚異的な身体性に驚かされるはず。

バレエでは『ジゼル』のほかに、牧阿佐美バレヱ団による『白鳥の湖』も上演。王女オデットを演じる秦悠里愛や上中穂香は今後の躍進が期待される新鋭だ。

さらに、日本バレエ協会による『ラ・エスメラルダ 〜La Esmeralda〜』はヴィクトル・ユーゴーの有名な小説『ノートルダム・ド・パリ』に基づくバレエ。1899年の振付を蘇らせた、2009年の新しいバージョンで上演されるのも見逃せない。

2月28日(土)『第22回子どもたちと芸術家の出あう街』

日本フィルハーモニー交響楽団とスペイン舞踊団がコラボレーションする子供たち向けの公演にも注目だ。

同日には、トランペット作りやパフォーマンスを実体験できる子供向けワークショップ、0歳児も生演奏を楽しめるコンサートなどが開催される。

子供向けのイベントはほかにも『参加・体験・感動!ふれあいこどもまつり』を日野市、狛江市、多摩市、江東区の各会場で開催。

2日間4回のワークショップでミュージカルを作り上げる体験や、生アテレコの体験など、様々な形で文化に触れるプログラムが準備されている。

これだけ文字を費やしても、まだまだ紹介しきれないほどボリュームたっぷりな『都民音楽フェスティバル』。ウェブサイトやチラシをチェックして、クラシック音楽のコンサートにデビュー(もしくは再デビュー)してみてはいかがだろうか。

イベント情報
『2026 都民音楽フェスティバル』

2026年1月9日〜3月21日
会場:東京芸術劇場、東京文化会館、新宿文化センター、新国立劇場、文京シビックホール、ひの煉瓦ホール、狛江エコルマホール、多摩市立関戸公民館、江東区亀戸文化センター


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