ライトノベル発、シリーズ累計650万部発行の大人気作品『鬼の花嫁』が映画化された。
『鬼の花嫁』は、虐げられてきたヒロインが溺愛される流れや、虐げてきた人々が報いを受ける結末など、女性向けのライトノベルにみられる定番型に、「あやかし」やファンタジーなどの要素を掛け合わせた「和風恋愛ファンタジー」だ。
映画版の柚子は、原作より一層、悩みながらも自分の運命を選びとる女性としての印象が強調されていたように思う。そのヒロイン像の変化がなぜ起こったのかを知るべく、池田千尋監督にインタビューを実施した。
「選ばれたお姫様」としてヒロインを描かなかった理由、恋愛を描く際に大切にしていること、W主演の永瀬廉と吉川愛の協業についてまで、じっくり話を聞いた。
<あらすじ>あやかしと人間が共存する世界。あやかしは時に人間の中から本能的に「花嫁」を選び、生涯その相手だけを愛する。なかでも最強のあやかしである「鬼」の花嫁に選ばれることは、最高の名誉とされていた。あることがきっかけで、家族から虐げられて育った柚子(吉川愛)は、ある日あやかしの頂点に立つ鬼の次期当主・玲夜(永瀬廉)に花嫁として見初められる。戸惑いながらも2人は少しずつ距離を縮め、互いに居場所を見つけていく。
「シンデレラ」ではなく、悩み考える「等身大の女性」として描いた理由
ー池田監督はこれまで『君は放課後インソムニア』『九龍ジェネリックロマンス』とマンガ原作の実写化を重ねてこられましたが、今回の『鬼の花嫁』を引き受けた理由と、最初に「映画にできる」と確信したポイントを教えてください。
池田千尋(以下、池田):あやかしと人間が共存する世界を描くという点で、かなり映像化のハードルが高いと感じました。でも同時に、そこがこの企画の面白さだとも思えたんです。
そのうえで決め手になったのは、この物語がただのラブストーリーではなく、文化の違い、自分と他者の間にある圧倒的な壁に人がどう向き合い生きていくかを描いた物語なんだ、と感じたことです。そこから、これは映画にできると確信したんです。
―「あやかしとの共存」というテーマが、逆に現実とも接続できるポイントだと考えたんですね。
池田:そうですね。私のなかに「人と人はどう共存できるか」という問いがずっとあります。性別や文化だけでなく、人は確実にみんな違う。だからこそ相手を理解しようとしなければならない、相手に理解してもらえるよう心がけることが大切であるという思いがあって。
あやかしと人間というまったく違う種の2人が出会って、お互いに惹かれるからこそわかり合おうとしなければならない、知らなかったことに飛び込まなければいけない——この映画のテーマが私が普段から考えていることと重なっていたんです。
それに柚子がまったく違う世界に飛び込んでいく姿は、分断が叫ばれる現代においては希望のようなものとして映るとも思いました。
―そういった意味で柚子の描き方は重要だったと思います。原作では「完璧なあやかし(=鬼)に選ばれる女性」という側面が強いように思うのですが、映画ではもう少し「等身大の現代の女の子」として描いていましたよね。柚子を描く際に原作・コミックとは変えたところや、大切にしたことはありますか?
池田:原作には、「王子様が運命的に助けにきてくれる」というシンデレラ的な物語構造がたしかにあるんですね。でも映像としてリアルに表現したときに、普通に生きていた女性のもとにある日突然王子様的な存在が現れて、「あなたはお姫様です、一緒に来てください」と言われたとして、現代の若い女性がそれを素直に嬉しいと受け取れるだろうかということについて考えたんです。
現代の女性たちは何が好きで、何を目指しているか、自分の生き方や意志をそれぞれに持っているから、それを捨てろと言われて、簡単に手放せる人は少ないと思うんです。それにすごいプレッシャーですよね。種族や国のトップとして自分が役目を遂行できるのかとか、そこにある責任とかを想像する人が多いんじゃないかと思っていて。そういった現代的な感触をちゃんと柚子に乗せたかったんです。だからただ単に「選ばれて嬉しい」という描き方はしませんでした。
それと、シンデレラ的な物語には、女性は守られるものだという固定概念があったと思うんです。それをいまの時代に問い直さなければいけない、という感覚もありました。
だから柚子を描く際に、「最後の選択は自分でする」ということを大切にしました。誰かが差し伸べてくれた救いの手をとるかとらないか、自問自答を繰り返しながらも自分で考えて決める。そういう、いまを生きぬくひとりの女性として描きたかったんです。
そういった要素は原作でも描かれていたので、映像化にあたって大きく変えたというより、原作にあったエッセンスをより強調した感じですね。
―柚子役の吉川愛さんの役の解釈が、キャラクターを描くうえでの基盤になったともお話しされていましたよね。どういった解釈だったのでしょうか?
池田:正直、脚本を作っている段階では、私はまだ柚子をつかみきれていなかったんです。柚子は受け身すぎる女の子だなと感じていたので、「この子、ちゃんと生きていけるのかしら……」って思っていて。
そんなときに、吉川さんといろいろと話すなかで「柚子は家族のことをどう思っていると思う?」と聞いたら、「家族のことは好きなんです」と言ったんですね。「(自分を虐げてきた)妹のことも大事に思ってる。家族からどんなひどい仕打ちを受けても、簡単には諦められない」と。
それがすごく私のなかに刺さって。そうか、ひどい目に遭っているのに逃げないのは意思がないからじゃなくて、ちゃんと意思があるからこそ、もがいているんだ——と気づいたんです。それからは吉川さんにもらったヒントをどんどん脚本に盛り込んでいきました。吉川愛という俳優の持つ芯の強さに、柚子をどんどん寄せていった感じです。
2人で話し合いながら、「柚子はこんなふうに言わない気がする」とセリフ一つひとつ、取捨選択や調整を何度も重ねてつくっていきました。
ラブストーリーでは、「恋をしている人の目を撮りたい」
―女性向けの原作ということで、ロマンスの描き方も重要だったかと思います。本能的・運命的に惹かれるという設定ですが、映画としては観客を物語に引き込むためにも2人の関係性の変化を見せることも大切ですよね。どのように描かれたのでしょう?
池田:そうですね、難しかったのは玲夜側でした。柚子は玲夜と出会ってから時間をかけて感情を積み上げていきましたが、玲夜は「出会った瞬間、本能で柚子が運命の人だとわかる」というキャラクターなので、そのままでは彼にドラマが起きない。主人公にドラマが起こらないと映画として成り立たないし観客を置き去りにしてしまうので、脚本には原作にはないドラマラインをつくりました。
ーなるほど。どういった内容なのでしょうか?
池田:まず、玲夜は孤独な人間で誰も信じておらず「花嫁」などどうせ現れないと思っていた。それにもかかわらず出会ってしまった。惹かれるけど、自分自身でそれを素直に肯定できない。さらには鬼龍院家という重みとしきたりも背負っている。それでも心がどんどん動いてしまって、「好きだ、守りたい」という感情に至り、柚子を愛する覚悟を持つ——というふうに、柚子を本能的に好きになるけれども、その過程でも人間的な葛藤を乗り越えていく心の微細な動きを段階的にたどるように意識しました。
―玲夜を完全無欠の存在ではなく、葛藤を抱えたキャラクターとして描いたのですね。永瀬さんとはどのように役をつくり上げていきましたか?
池田:永瀬くんって、簡単に人に自分の本当の部分を見せない方だと感じたんですね。軽口をたたくこともあるんだけど、基本的にはすごく繊細な方だと感じて。監督としては、彼が持っている唯一無二とも言える独特な魅力や、永瀬くんが提案してくれるものを取り落さないよう慎重にキャッチしながら、私の考える玲夜像や心の変化を伝えていきました。そして、それを永瀬くんが具現化してくれる——そういったやり取りを細やかに続けながら役をつくっていきました。
そのなかで、永瀬くんが私のやりたいことをつかんでいってくれたんですよね。繊細な感情表現も、一瞬で理解してちゃんと役として立ち上げてくれる。対話や撮影を重ねるごとに、私の言葉や感覚がどんどん伝わるようになっていって、さらにその先で想像していた以上のものを見せてくれたことに感動しました。ご一緒できてすごく面白かったです。
―柚子と玲夜の関係性を表すためにどんなディレクションをされたのかもお聞きしたいです。
池田:ラブストーリーを撮るときに私がいつも大事にしていることなんですが、恋をしている人の目を撮りたいという欲求があるんです。恋をしている人の目って、見るとわかるんですよ(笑)。
たとえば、舞踏会の会場に柚子がやって来て久しぶりに玲夜と再会するシーンがあります。永瀬くんには「柚子の着物姿にハッと目を奪われてから、徐々に愛おしさを感じていって『やっぱり好きだ』と改めて思うまでの感情の流れを、柚子に歩み寄る時間のなかで表現してほしい」と伝えました。そのオーダーに対して永瀬くんが、見事に演じるんですよ。このシーンを撮った直後、モニターチェックをみんなでしながら「ほらこの顔、ここで好きだなって思った」って本人の解説付きで盛り上がりました(笑)。
永瀬くんは、繊細な感情をぱっと具現化できる方で、しかも自分がどう演じたか自身でもしっかりわかっている。俯瞰的な視点を持っていてコントロールがとても上手なので大変心強かったです。
女性監督がもっと大きなバジェットの作品を手がけるために、実績を積む
―本作を拝見して、あえてターゲットを絞るなら女性に向けている作品だと思いました。監督とプロデューサーを女性が務めているのも特徴かと思いますが、スタッフアサインの際、何か意識されましたか?
池田:数としては女性スタッフが特別に多かったわけではないんです。カメラマン、照明、録音の技師も男性でした。逆に言うと、監督の私とプロデューサーの西(麻美)さん、つまり作品の舵取り役が女性だったからこそ、ほかのスタッフは男女をそんなに意識しなかったのかもしれません。
ただ、昔に比べたら現場に女性が増えたとはいえ、全体ではまだ女性が少ないのも事実ではあるので、もっと女性のスタッフが増えたらいいなとは思います。
―池田監督は約20年にわたり映画業界で活躍されていますが、特に女性の監督が活躍するために、いまの映画業界に必要なことは何だと思いますか?
池田:私が監督としてキャリアをスタートした当時に比べたら女性監督の人数はすごく増えたし、チャンスも増えた。それは、映画をとりまく環境が変わってきたからだと思うのでよかったと思います。ただ、バジェットが大きくなればなるほど、女性監督に任せてもらえる機会が減るというのは、現実としてあると感じていて。
私は30歳くらいのときに、バジェットの大きな作品を撮れる監督になると明確に決めたんです。当時、予算の少ない作品をつくることが多くて、スタッフにちゃんとしたお金を渡せない状況が続いていたんです。これでは自分も仕事として続けていけないし、スタッフを疲弊させてしまうと思ったんですね。だから商業ラインでしっかり作品を発表すること、そしてお金をちゃんと稼いでスタッフたちに行き渡らせることを考えるようになりました。
そのために、テレビドラマでも映画でも、どんな仕事でも真摯に向き合って、きちんと目に見える結果を出すことで、そこからまたご縁をいただいて少しずつ階段を登ってきました。今回の『鬼の花嫁』は、私がこれまで手がけた映画のなかで一番バジェットの大きい作品です。この作品を成功させることで、女性監督がもっと大きなバジェットの作品を手がけられるんだという実績を増やしていけるといいなと思っています。
―ありがとうございます。『鬼の花嫁』の観客やこれから見る方にメッセージをいただけますか?
池田:永瀬廉さん演じる玲夜と吉川愛さん演じる柚子の本当にまっすぐなラブストーリーと、困難を乗り越えていく2人の姿を繊細に描ききった作品だと思っています。だからこそ、「あやかしと人間が共存する」というファンタジー世界をリアルに感じていただけるはずです。若い世代の方はもちろん、大人の方にもご覧いただけると嬉しいです。
- 作品情報
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原作:クレハ『鬼の花嫁』(スターツ出版文庫)
※コミカライズ:作画・富樫じゅん/原作・クレハ(スターツ出版「noicomi」)
出演:永瀬 廉、吉川 愛、伊藤健太郎、片岡 凜、尾野真千子
監督:池田千尋
配給:松竹株式会社
3月27日公開
©2026「鬼の花嫁」製作委員会
- プロフィール
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- 池田千尋 (いけだ・ちひろ)
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映画監督・脚本家。1980年、北海道生まれ、静岡県出身。高校在学時から自主映画制作を始める。早稲田大学卒業。映画美学校修了制作作品『人コロシの穴』が2003年カンヌ国際映画祭・シネフォンダシオン部門に正式出品される。助監督として幾つかの現場を経たあと、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域を2007年修了。主な劇場公開作品に『東南角部屋二階の女』『先輩と彼女』『東京の日』『スタートアップ・ガールズ』『記憶の技法』『君は放課後インソムニア』『九龍ジェネリックロマンス』など。テレビドラマ作品として『プリンセスメゾン』『大豆田とわ子と三人の元夫』『メンタル強め美女白川さん』『パリピ孔明』など。脚本家として、黒沢清監督『クリーピー〜偽りの隣人』、三島有紀子監督『Red』、青山真治監督『空に住む』がある。
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