ホテルの地下に「見せる収蔵庫」が?未知の才能と出会うKAIKA 東京のアワードレポ

ホテルで作家の作品が眠る収蔵庫を覗く——そんな体験ができる場所が、東京にある。

アートストレージとホテルが一体となった「KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS」(以下、KAIKA 東京)は、ゲストがアートの保管庫を巡れる国内でも珍しいホテルだ。

KAIKA 東京の「KAIKA」には3つの意味が込められているという。見せる収蔵庫を意味する「開架」、日本のアート文化を広め「開化」させたいとの思い、そしてアーティストの才能を「開花」させるという意味である。

ホテルの建物は1966年に建てられた倉庫ビルを生まれ変わらせたもの。もともと駐車場だった地下のスペースなどを活かして、アートギャラリーやコレクターに作品の収蔵場所として貸し出しているという。そして、その収蔵スペースは「見せる収蔵庫」として宿泊客にも開かれ、アート作品を間近で見ることができる。

本記事では、そんなホテルとアートストレージが融合したKAIKA 東京と、2年に1度開かれている公募型アートアワード『KAIKA TOKYO AWARD』の受賞作品をレポートする。

駐車場だった地下スペースを「見せる収蔵庫」に

KAIKA 東京は、株式会社リビタが全国の遊休不動産(※)等を再生して手がけるライフスタイルホテルブランド「THE SHARE HOTELS」のひとつとして、2020年にオープンした。

もともとは倉庫ビルだったというKAIKA 東京の建物。現在はホテルの客室だけではなく、地下と1階に計9区画のアートストレージを設け、アートギャラリーやコレクターに作品の収蔵場所として貸し出している。担当者によると「主に東京のギャラリー、また個人で作品の収蔵や保管場所に困っている人が多い」とのこと。そんな課題を知ったKAIKA 東京は、もともと駐車場として使われていたスペースをアートストレージとして活用することにしたという。

※企業や個人が所有しているが、事業や居住目的で使用せずに放置されている土地や建物

KAIKA 東京の収蔵方法で目を惹くのは、ストレージの周囲が金網で覆われた「見せる収蔵庫」として、来館者も収蔵品を見られる点だ。

収蔵庫を見せるという手法は「ヴィジブル・ストレージ」や「オープン・ストレージ」と呼ばれ、欧米を中心にいくつかの試みが行われている(※)。しかし、こうした試みはおもに美術館での取り組み。KAIKA 東京担当者は、ホテルとアートストレージが一体となったものは「世界的にもほとんど類をみない」と話していた。

※例えば2021年には、オランダのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館が、収蔵庫を一般公開する「デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン」をオープンした。日本では、今夏リニューアルオープンする宮城県美術館で「見える収蔵庫」の新設が予定されている。

入選作がホテルに展示される『KAIKA TOKYO AWARD』

KAIKA 東京で2年に1度開かれているのが、才能あるアーティストの発掘を目的とした『KAIKA TOKYO AWARD』だ。4回目の開催となった『KAIKA TOKYO AWARD 2026』には、国内外から353作品の応募があり、そこから3作品の受賞作と12作品の入選作が選ばれた。

今回のアワード審査員は、金沢21世紀美術館の館長などを歴任した東京藝術大学名誉教授の秋元雄史氏と、東京藝術大学特任准教授の黒澤浩美氏。大賞と秋元雄史賞、黒澤浩美賞が選出された。

病気の経験を作品へと昇華した大賞作品

『KAIKA TOKYO AWARD 2026』の大賞は、長友由紀の『生々流転』。本作は初期の乳がん治療を経験した作者が、生と死の観念を友禅染の技法で表現した作品だ。

長友由紀は、伝統的な染め工芸の技法である友禅染めによって作品を制作している。本作では、仏教絵画を想起させるような図像で自身の経験を表現。作品は現在、ホテルのフロントに展示され、堂々とした佇まいでゲストを迎えている。『生々流転』がチェックイン時に自然と視界に入り込み、ホテル空間に独特の緊張感を生み出している。

審査員の秋元は、乳がんの治療という作者の個人的経験を「普遍的な生と死の問いへ昇華している」と評した。黒澤は「本作の構想力と表現の強度」を評価した。

絵画の表現方法を模索した審査員賞2作品

秋元雄史賞を受賞したのは、吉行鮎子の『HOPE』。「空を見て気持ちが晴れるような、前向きな気持ちを表現したいと思った」という絵画作品だ。

見慣れた風景のなかにあるちょっとした違和感が感情を呼び起こし、思わず目を奪われてしまうような作品だ。こちらは1階のエレベーターホールに展示されている。

黒澤浩美賞は正木美穂の『キルティングのコンポジション』という作品。彩色したキャンバス生地の下に接着芯や布を積層し、キルティング状に縫合した本作は、正木がこれまでの作品制作で培った「絵画とは布であり皮膚のような表層である」という認識が反映されている。

本作はエレベーター内に展示され、突然作品と出会ってしまうような鑑賞体験が作品をより引き立たせている。

審査員の黒澤は、本作を「見る行為を触れる感覚へと静かに転移させる点を、絵画の新たな知覚として考察している」と評した。

美術館だけじゃない、アートと出会う新たな場

『KAIKA TOKYO AWARD 2026』の受賞作は、2028年3月ごろまで展示予定。また、受賞作だけではなく、入選作品や過去の受賞作がいたるところに展示され、来館者を楽しませている。

KAIKA 東京では、アート作品がホテルのゲストに開かれ、人々と接続するのが日常だ。さらに、アワードによって作家同士の交流が生まれたり、外部での展示につながったりする事例も生まれているという。

美術館ともギャラリーとも異なるかたちで作品に触れることができるKAIKA 東京。現代アートを特別なものから、日常へと少しずつ開いている。

サービス情報
Photo:Takumi Ota

KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS
東京都墨田区本所2-16-5


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