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世界を熱狂させるドラマ作品とは、どのように生まれるのか。
2024年、米『ニューヨーク・タイムズ』の「ベスト・インターナショナル・ショー」にアジア作品として唯一選ばれたディズニープラスのオリジナル韓国ドラマシリーズ『殺し屋たちの店』。しかし、イ・グォン監督自身は「世界的な成功の秘訣は、自分にも分からない」と語る。
「海外でヒットする作品をつくろう」と考えて制作したわけではない。監督が追求したのは、チョン・ジアンという少女の成長物語と、時系列を行き来する挑戦的な構成だった。監督は、映画『ドアロック』(2018)などで知られる韓国の監督・脚本家、イ・グォン。
国や文化の壁を越えて届く作品は、どのようにして生まれるのだろうか?
7月22日からディズニープラス「スター」で独占配信がスタートした『殺し屋たちの店2』には、韓国ドラマ初出演となる岡田将生も参加し、作品世界に日本という新たな広がりが加わった。世界同時規模で作品を届けるディズニープラスというプラットフォームは、本作の国境を越えた挑戦をどのように後押ししたのか。配信時代の制作環境、異なる文化圏の俳優との協働、そして自由なクリエイティブ環境の重要性について、イ・グォン監督に聞いた。
『殺し屋たちの店』あらすじ:唯一の保護者だった亡き叔父ジンマンが残した「危険な遺産」である、殺し屋たち御用達の武器販売店を譲り受けた大学生の主人公チョン・ジアンが、謎の殺し屋たちから自らの命と店を守るためにバトルを繰り広げるサバイバル・サスペンス。『殺し屋たちの店2』では日本から岡田将生と玄理が出演。新たな敵の出現によって脅威はかつてないほど増し、ジアンは過酷な戦いの中で自らの運命と向き合っていく。
世界的ヒットの秘訣とは? 挑戦的な構成と、普遍的な成長物語を織り交ぜて
―『殺し屋たちの店』は、世界で高い評価を受けました。成功の秘訣が気になります。
イ・グォン(以下、イ):難しい質問ですね。実は個人的には、海外での成功をあまり実感することがありません。私はただ、自分が語りたい物語をつくっただけで、それが何かしら世界の視聴者の共感を得たのではないでしょうか。正直に申し上げると、その秘訣は私にもよくわかりません。
ただ、もしかすると、世界の視聴者のみなさんには、新鮮なドラマとして受け止められたのかもしれません。物語の構成が一般的ではなかったからです。
また私は、基本的にこの物語を、チョン・ジアンという少女の成長物語だと考えています。誰もが子ども時代や青年期を経験するので、そうした部分が共感を得たのではないでしょうか。
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―どのようなところが、新鮮に受け止められたと思いますか。
イ:この作品の新しい点として、物語が中心人物であるチョン・ジンマンの死から始まることが挙げられます。
韓国で非常によく知られた俳優のイ・ドンウクさんが演じるチョン・ジンマンの死から、物語が動き出します。視聴者はそこで、「いったい何が起きているのだろう」と好奇心を抱きます。
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イ:ところが、冒頭のシークエンスを見ても、本当は何が起きているのかわかりません。「何が起きているのか」という疑問から始まり、その答えを一度にすべて明かすのではなく、現在と過去を行き来しながら、少しずつパズルを組み立てていく。そうした構成に挑戦しました。その部分が、グローバルな視聴者のみなさんに新鮮に感じられたのかもしれません。
―成長物語として、軸に置いた点は?
イ:誰もが経験する成長の物語を、ドラマチックに極大化して表現しました。「自分にこのようなことが起きたら、どうするか」と見る人が考えられる物語です。
面白い物語をつくるためには、チョン・ジアンに興味深い選択肢を与える必要があると考えました。「こちらを選んだら、どうなるのか」「あちらを選んだら、どうなるのか」。視聴者にも問いかける構成になっています。
『殺し屋たちの店』では「生存」——「生き残らなければならない」ということをキーワードにしています。チョン・ジアンはどうやって生き残るのか。そのことを考える一つひとつの瞬間に、叔父から教わったことが生きてくるんです。これは、家族の物語でもあります。実際の家族ではありませんが、さまざまな助っ人が現れ、疑似家族のようなキャラクターも多く登場します。そうした構成が、見る人の心に訴えかけたのではないかと考えています。
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―世界でヒットしているものや、流行しているコンテンツについて研究することはありますか?
イ:はい、そうした研究はよくしているほうだと思います。最初に『殺し屋たちの店』を企画したときから、ディズニープラスで配信されれば世界中に届けられるので、意識していました。
『殺し屋たちの店』では、アジア圏に関する物語を取り入れ、韓国だけにとどまらない物語にしたいという思いがありました。そこで、タイの格闘技であるムエタイを取り入れました。タイ人の俳優もキャスティングしたいと考えていたのですが、なかなか難しく、実現しませんでした。
私は幼い頃、海外で暮らした経験があります。また個人的に、東南アジアをはじめとするアジア圏の文化に関心があり、好きでもあります。そうしたものが、作品に反映されているのだと思います。『殺し屋たちの店2』には特に、私が日本に対して以前から抱いていた関心が映し出されています。
アジアの文化を取り入れ、広がる物語へ。岡田将生起用に込めた意図
―『殺し屋たちの店2』では、チョン・ジアンと死闘を繰り広げる傭兵集団のメンバー役で、日本から岡田将生さんと玄理さんが参加しています。特に岡田さんは、韓国作品への出演は初めてです。日本には多くの俳優がいるなかで、岡田さんに白羽の矢を立てた理由を教えてください。
イ:岡田将生さんが演じる役のキャスティング自体は、実は簡単ではありませんでした。日本の事務所や韓国のエージェントなど、いくつもの段階を経なければならなかったためです。
以前観た『ドライブ・マイ・カー』での岡田将生さんの演技がとても繊細で、印象に残っていたんです。そんななか、今回のキャスティング候補のなかに岡田将生さんの名前があって、岡田さん側からもとても前向きな反応をいただき、うれしくなりました。
岡田将生さんは『殺し屋たちの店』を見ていて、とても興味を持ってくださっていたそうです。私としては、とてもありがたい限りです。
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イ・グォン(李權)
映画『ドアロック』(2018)などで知られる韓国の監督・脚本家。『殺し屋たちの店』は全話の監督及び企画・共同脚本を務めた。
―今回の作品のなかで、岡田さんが加わったことで成立した場面や感情表現はありますか。岡田さんの演技は、『殺し屋たちの店2』の広がりにどのような影響を与えたのでしょうか。
イ:詳しいことをここでお話しすると……ネタバレになるので、控えておきます(笑)。個人的には、岡田さんとの仕事を含め、すべての経験がとても興味深いものでした。とても多忙ななかで、韓国に来て演技をする岡田さんを見て、本当に大きな決断をした人なのだと感じました。
言葉がまったく通じない韓国の現場に来て、努力を続ける……本当に勇気のある人だな、と思いました。スタッフはほぼ全員韓国人です。そのため、「うまく適応できているだろうか」と心配する部分もありました。私は監督であって、岡田さんのマネージャーではないので、一つひとつ細かくケアすることはできません。それでも、彼が現場でうまくやっていく姿を見ていました。
岡田さんは、特にアクションチームと多くの時間を過ごしました。言葉は通じなくても、一緒に体を動かしていると、すぐに言葉の壁を越えられるんです。最初はお互いに少しぎこちなかったものの、撮影の中盤以降はとても親しくなりました。その姿を見ていて、とてもうれしかったです。そうした時間の積み重ねが、とてもよい作用をもたらしたと思います。
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「先の台本がないまま撮る」現場もあった。配信が変えた韓国ドラマの制作環境
―監督は映画からキャリアをスタートし、『殺し屋たちの店』からディズニープラスと組んでいます。ディズニープラスだからこそ、新しく試みることができた部分はありますか。予算面や撮影システムで違いを感じた点があれば教えてください。
イ:これは、システム上の違いとも言えるかもしれません。
従来の韓国ドラマの制作システムでは、ポストプロダクション(撮影後の編集や仕上げ作業)に十分な時間をかけることが難しい環境でした。ところが、特にスケジュールの面でOTT(動画配信サービス)作品の制作環境が整ったことで、ポストプロダクションにも時間を使えるようになり、撮影の準備やディテールにもより力を注げるようになりました。映画を撮るときのような環境がある程度整ったことで、作品のクオリティーをさらに追求できるようになり、ドラマの制作環境が映画にかなり近づいたと感じています。
個人的には、とてもよい環境です。もちろん現在でも、テレビ局のドラマや地上波ドラマのなかには、従来の方法で制作されている作品もあります。ただ、制作の方法は以前より多様になりました。こうした環境が整ったからこそ、『殺し屋たちの店』のような作品も制作できたのだと思います。
予算面でいうと、OTT作品は確かに潤沢ではありますが、撮っているうちにいつも足りなくなりますね(笑)。
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―従来のテレビ局による地上波ドラマとしてこの作品を制作した場合、難しい部分があったでしょうか。暴力的な表現など、視聴者に届けるうえで難しい点があったのでしょうか。
イ:難しい部分はあったと思います。なぜなら、地上波では放送審議の問題があり、配信作品のほうが、より幅広い表現が許されています。
また、韓国の制作システムについて、どこまで説明すればよいのかわからないのですが……。韓国では通常、テレビ局や地上波の長編シリーズの場合、脚本家がすべての脚本を書き終える前に、撮影に入るケースもあります。そうすると監督の立場では、先の台本がないため、そのあとの物語がどう展開するのかを十分に把握できていない状態で制作を進めることになります。その点で配信ドラマは、少なくとも監督にとっては、よりよい環境だと思います。脚本について、より深く考えたうえで撮影に入ることができるからです。
ポストプロダクションに関しても、地上波ドラマでは、撮影に入る時点で後半の脚本がまだない場合には、「これはCGで表現できる」と判断し、準備するための時間的な余裕がありません。配信作品では、そのための時間が確保されます。だからこそ、より多様な表現が可能になるのです。
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―配信作品では、視聴者の年齢や国・地域、どのような場面がよく見られたのかなど、詳しいデータを収集しやすいと思います。そうしたデータを、作品づくりの参考にすることはありますか。
イ:データについては、もちろんある程度は意識しますが、そこまで気にしてはいません。トレンドや再生回数などを確認することはありますが、それだけを意識して作品をつくるわけではありません。自分が何を好きなのか、自分が何を語りたいのかを考え、主人公に感情移入しながら作品をつくっていきます。
もちろん、単に自分が好きだというだけではつくれません。自分が語りたいことに、視聴者が共感してくれるのか? 悩みながら考えます。ただ、データを分析したり、調査したりすることは、私ではなく別のスタッフの領域だと思います。
「クリエイティブが自由な環境があってこそ、良い作品が生まれる」
―日本でも、国内コンテンツの海外進出を目指す動きが強まっています。韓国コンテンツが世界で支持されてきた経験から、日本のクリエイターや制作業界が学べることは何だと思いますか。
イ:私は20代の時期など若い頃に、日本の映画、小説、アニメーション、漫画を非常にたくさん見てきました。私自身がアドバイスをいただきたいくらいなのに、日本のクリエイターにアドバイスするなんて、おこがましい気がします。
ただ、制作や投資をはじめ、さまざまなクリエイティブな作業をする環境が自由であれば、よい作品が生まれるのではないかと思います。もちろん、「よい作品」が生まれることは簡単ではありません。非常に奇妙な作品もあれば、よくない作品が生まれることもある。
重要なのは、さまざまな作品がつくられ続けるなかから、優れた作品が生まれてくるということです。それを可能にするのは、自由な考え方ができるように、社会がどれだけそれを許容できるか、ということだと思います。
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―日韓がコラボレーションしてつくる作品も増えています。共同制作が新しい価値を生むために、大切なことは何だと思いますか。
イ:日韓の交流や、文化的な交流があることは、とてもよいことだと思います。ただ今回、岡田将生さんや玄理さんと仕事をし、タイに撮影も行きました。そのなかで、自分が何かを好きで関心を持っているからといって、安易に扱うことには慎重でなければならないと感じました。その国や文化圏について理解してこそ、よい作品になるのだと思います。そうでなければ、上辺だけをなぞるようなものになってしまう。つまり、言語や文化について理解しながらつくることが大切だと思うのです。
通常は資本の力が強いため、スター俳優を集め、日本人俳優を一人加えれば、よい作品になると考えがちです。しかし、決してそうではありません。互いに理解しようと努力してこそ、よい作品につながるのだと考えています。
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『殺し屋たちの店2』
ディズニープラスで全話独占配信中
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