Boseが芸人を羨む、『ドキュメンタル』という最高の遊び場の存在

大きな反響を巻き起こしているPrime Original作品『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』。「芸人が芸人を笑わせる」というストレートなテーマで展開する番組はこれまで数々の名場面を生んできた。

ルールは、参加する10人の芸人がそれぞれ参加費100万円を用意し、密室に集った6時間で参加者同士が笑わせ合い、最後まで残った者が優勝賞金1000万円を獲得するというシンプルなもの。しかしそこで繰り広げられる芸人同士の仕掛けや思惑、過激で予測不能の展開は、従来のお笑いやバラエティとは一線を画するものだ。

お笑い好きだけでなく、ミュージシャンやクリエイターにもファンの多いこの番組。今回の記事では、自身も『ドキュメンタル』のファンだというスチャダラパーのBoseに作品の魅力を聞いた。話は「面白さとは何か」という大きな問い、そしてそこから浮かび上がる狂気性へと広がっていった。

ルールを全部取っ払って、グーで殴り合おう、なんなら目潰しもあり、みたいな話だから。

—『ドキュメンタル』はシーズン1からご覧になっていたんですよね。

Bose:作品の発表があったときから周りでも話題になってたし、僕らも気になってたんですよ。始まる前からワクワクしてました。Amazonでこういう番組を作るんだ、って。

Bose
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—番組を見ての最初の印象はいかがでした?

Bose:やっぱり、地上波のテレビではできない、いろんな意味で新しいことをやっている感じでしたね。今、面白いと思うことが詰まっている。

—どのへんが面白かったですか?

Bose:僕は、自分の好きな芸人さんが笑いを堪えてる顔に笑っちゃうんですよ。まず『ドキュメンタル』が単純に面白いのはそこだと思うんだよね。絶対に笑わないようにしてるんだけど、誰かが噛んだり、予想外のことが起こったときに、やっぱり笑っちゃう。実際、宮川くんが笑いを堪えてる顔って、なんでこんなに面白いんだろうって。

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン1より ©2016 YD Creation
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン1より ©2016 YD Creation

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン3より ©2017 YD Creation
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン3より ©2017 YD Creation

—お笑いって、コントにしても漫才にしても、基本的にはきっちりと構成されたネタありきで展開するものですよね。でも『ドキュメンタル』では、もっと生々しくて不可解なものが多くなる。

Bose:そうだよね。どう転ぶかわからないというのは、今まで見てきたお笑いとは違う。だから、格闘技を見るような感じで見ちゃうんだよね。次は誰が出るんだろう? 誰が強いんだろう? って。そういう想像をしちゃう。新しいルールのお笑いという感じがしますね。

—芸人にとっては大変な番組ですよね。

Bose:そうそう。呼ばれる可能性のある芸人からしたら、『ドキュメンタル』って「すごいの始まっちゃったな」って感じだと思うんですよ。もし声がかかったら、ちょっと普通じゃいられない。ああいう土俵がある以上、芸人としては出ないという選択肢はないだろうし。かといって、リスクしかないもんね。

だから「あれ、得してるのかな?」って思うんですよ。お笑いがすごく好きな自分たちからしたら、出てる人にはリスペクトしかないです。あのオファーを真っ向から受けて、ちゃんと闘ったという。

Bose

—リスクとメリットで考えたら、リスクのほうが大きいですよね。

Bose:もちろん、わかりやすい話として100万円を持ち寄るというのもリスクだけど、出てる人は、もはやそのレベルの人たちじゃないと思うんですよ。だって、お金なんて持ってるわけじゃないですか。お笑い芸人としての地位だって名声だって、全て持っている。特に宮迫博之さんなんて出なくていいわけだから。そこがまず、すごいなって思う。

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン4より ©2017 YD Creation
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン4より ©2017 YD Creation

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン4より ©2017 YD Creation
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン4より ©2017 YD Creation

—1000万円という実利を求める人たちではない?

Bose:うん。もう賞金ですらない気がするんですよ。あそこで勝ってチャンピオンベルトを巻きたいという、そういう類のものだと思うんですよね。それに、格闘技に喩えるならば、本当にガチのやつをやろうぜって集まっている感じがする。地位も名声も全部捨てて、文字通り裸で戦うという。

—実際、出演したお笑い芸人の多くが裸になってますしね。

Bose:テレビにはテレビのルールがあるんですよ。それはテレビだけじゃなくて、ウェブメディアもSNSもそう。『ドキュメンタル』に出ているのはそこで戦って結果を出してる人なんです。でも、あそこでやってるのは、そのルールを全部取っ払って、グーで殴り合おう、なんなら目潰しもあり、みたいな話だから。それは、自分たちに置き換えて考えちゃえますね。

「土俵を作ったから、今からフリースタイルで若いやつとバトルしろ」って言われても、やらないもん! 絶対に。

—自分たちに置き換える、というと?

Bose:自分たちだって同じような状況はあり得るわけだからね。たとえば、みんなで集まって「土俵を作ったから、今からフリースタイルで若いやつとバトルしろ」って言われても、やらないもん! 絶対に。

—やらないですか。

Bose:もう、無理。絶対にやらない。裸になる度胸もないですから。

Bose

—それこそ、いとうせいこうさんから招待状が来て……とか。

Bose:まあ、なくもないんだけど!(笑) そこは実際はベテランなりに「まあ、まあ」っていなして、寝技に持ち込んで逃げるみたいな感じだと思う。

あとは、たとえば年齡もキャリアも問わずにミュージシャンを集めて、その場で曲を作って「泣かせたら勝ち」みたいなものとかもあり得るよね。誰がいいかな……斉藤和義くんとか星野源ちゃんでしょ、あとはオザケンにも出てもらったりしてね(笑)。だけど、そういうのがあったとしても自分は出ないだろうなあ。

そういう意味では、『ドキュメンタル』に出ているのはキャリアのある、僕と同世代くらいの芸人ばかりだし、あんなことする必要もないレベルの人たちも多いでしょ? だから最初は「それ、やる必要ある?」とも感じたんだけど、それでも、見ているとだんだん羨ましさに変わっていくところがあって。

—羨ましさですか?

Bose:だって、みんな楽しそうなんですよ。きっと気持ちいいんだろうなって。芸人の純粋な部分だけで戦っていて、殴り合って血が出てるのに笑ってるみたいな感じに見えるというか。しかも、極まっちゃってるんですよ。シーズン4なんて、もう、すごいところまでいくじゃないですか。「これ以上ある?」ってところまでやっちゃってる。その場でオシッコしちゃったりするんですよ? 『ドキュメンタル』という場がなかったら、キャリアのある芸人はこういう遊びなんてできなかっただろうね。

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン4より ©2017 YD Creation
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン4より ©2017 YD Creation

—特に後半は毎回かなりカオスというか、すごい状況になりますよね。

Bose:だから、不思議な感じになるんですよね。あんなに極まった状況で、なんとかみんなが新しいことを見つけようとするわけじゃないですか。あれだけの手練の人たちが集まって、さらにもう一個先があるんじゃないかと探ってる。それを見ていると、なんだか身につまされるところがあるんですよ。果たして自分たちもここまで自分を追い込んで新しいことができてるだろうか? って。つい手癖で何かをやってないかとか。

—たしかに、お笑いの世界は、いい意味でのマンネリや手癖で成り立っているところはありますよね。

Bose:みんなが慣れたルールに則って、そこから少し外れるというね。そういうのを楽しんでいるからこそテレビは安心して見られるわけで。でも「まだあるんじゃないか」って、松本さんを筆頭に参加してるみんなで考えてやろうとしている。そういうところには、いろんな意味で感動します。

—地上波だったら確実に放送できないシーンも多いですよね。

Bose:これ、R指定、いくつなんだろうって思うよね。ウチには子供がいるんだけど、少なくとも一緒には見られない(笑)。10代でもダメなんじゃない? 思春期に見たら狂っちゃいそうだし。価値観が壊れちゃうというか。あれを余裕を持って見られるのって、30歳くらいなんじゃないかって思うんですよね。R-30だと思うね(笑)。

Bose

—(笑)。『ドキュメンタル』は過激な下ネタも多いですけれど、そういう意味でのR指定ではないですね。

Bose:うん。映画でもR指定はあるけど、あれは残酷な描写だったり、女の人のオッパイが見えたりするだけじゃない? でもこの場合、本当に人間としての一線を踏み越えたものを見せられている気がする。「え? これって本当に人に見せていいやつ?」って思っちゃうんだよね。何あっさりそこを踏み越えちゃってるんだよ、みたいなね。

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン5より ©2018 YD Creation
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン5より ©2018 YD Creation

—狂気性を感じる部分がある。

Bose:いい意味だけど、頭がおかしい人が出てるわけですから。あそこまで笑いを追求してるって、普通の人からしたら頭がおかしいですよ。それは単に常識がないとか、道を踏み外すとか、そういう部分とは違って。人間的にはまともなんだけど、ある一線を超えると狂気性が出てくる。それって、テレビだとフィルターがかかってて出てこないんだよね。でも、『ドキュメンタル』では出てきちゃうんだよね。

—「おもしろさって何だろう?」っていうシンプルな問いを突きつけられてる感じがしますね。

Bose:みんな、お笑いのテクニックは当然持ってるし、そこの努力は当然やっているわけで。だけど、この場所ではその先のことをやってるんだよね。一度全部捨てて、裸の状態で挑んでる。だから「一体、これは何をしてるんだろう?」って瞬間がたくさんある。ホラー映画にも近いですよね。

—狂気に踏み込んでしまう瞬間がある。

Bose:そうそう。みんながそれを持ってるんですよ。全員、狂気をはらんだ人が選ばれている気がするな。底が見えない何かがある。

よく「スチャダラパーはずっと子供みたいで羨ましい、若い頃に遊んでた感じをずっとやってて羨ましい」って言われるんです。

—Boseさんご自身はどうでしょう? そういう狂気性は自分にもあると思いますか?

Bose:種類は違いますよ。でも、あると思う。自分で言うのも何だけれど、僕は完全に気が狂ってるから。この年でこんな感じっていうのは、普通ではないと思います。

—というと?

Bose:よく「スチャダラパーはずっと子供みたいで羨ましい、若い頃に遊んでた感じをずっとやってて羨ましい」って言われるんです。でもそれをやれてるっていうのは、やっぱり気が狂ってるんだよね。だって、もうすぐ50歳なんだから。

ANIとだって、いまだに会ったら「あれ、ヤバくない?」とか「この曲、知ってる?」とか言い合ってるんですよ。でも、そういうことをやってる50歳なんて、普通はいないよ。少なくともウチの親父が50歳の時は、もっと落ち着いてた。だから僕らが立ってるところは、普通の人間とはどこかズレてるんだと思う。

—どこかネジが外れたまま今に至っているという感じなんでしょうか。

Bose:もともとネジが外れた人たちだったと思うんですよね。小学生のときからネジが外れてて、そのまま生きてきたから、自分たちとしては何も変わってないし違和感ないんだけどね。

—そういう狂気は、Boseさんの周りの人にも感じますか?

Bose:僕らの周りにいる人間にも、そういうところはありますよ。方向はいろいろ違えど、狂気をはらんでいる。オリジナル・ラブの田島さんだって、小沢健二くんだって、そうだしね。

—『ドキュメンタル』はお笑い番組ですけれど、見ているうちに、ちょっと哲学的なところまで考えさせられるところがあるかもしれないですね。

Bose:そうそう。お笑いを見ている感覚がだんだんなくなってくるんだよね。積み重ねてきた年輪とか、放っておいても出ちゃう味とか、何かが加わってるからこそ笑えるわけで。芸人さんたちの生き様を見ているようなところがある。そこから生き方を考えちゃう。どういう生き方が面白いんだろう? というか。

Bose

芸人は、Amazonっていう、自分たちが本当に面白いと思うものを出せる場所ができて、羨ましいですよ。

—スチャダラパーは『余談』(スチャダラパーが自身で編集しライブ会場で販売している冊子)も作られていますが、これは本当に手がかかっていますよね。それこそ、Boseさんがさきほど『ドキュメンタル』に出ている芸人に対しておっしゃった「こんなことやらなくてもいいのに」をされているというか。

余談 スチャダラパー・シングス 今年も『余談』の季節がやってまいりました。会いたい人に会ってしゃべるだけ、ただそれだけだ! な企画をワチャワチャつめこんだあの雑誌。そう、スチャダラパー責任編集のインディーズ雑誌『余談』です。通算9号目の今回は、題して『余談 スチャダラパー・シングス』。Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』インスパイアー系と申しましょうか(『ストレンジャー・シングス』にハマったスチャダラパーが勝手に盛り上がってるだけですが)、サブカル界から相撲界まで、いろんな「ジ・アザー・サイド(あっち側)」を覗いてみました。 ということで、今回のラインナップは以下になります! 今回の登場人物: みうらじゅん 有野晋哉 宮川大輔 浦風親方 つげ忠男 井上三太 岡宗秀吾 KASHIF THE OTOGIBANASHI’S 石井モタコ かせきさいだぁ シャシャミン ローリング内沢 せきしろ 町山広美 ……and more!!!!! 発売:4月8日(土) 「スチャダラパー・シングス」より販売開始 判型:A5判(旧「宝島」サイズ) 値段:1500円 #スチャダラパー #スチャダラパーシングス #余談

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『余談』には、みうらじゅんとスチャダラパーの対談、宮川大輔とスチャダラパーの対談などが掲載されている

Bose:そうですかねぇ? 昔だったら雑誌に「ゆとり部分」っていうか、文化ページみたいなのがあったじゃないですか。

—『宝島』とか『ぴあ』とかに、ありましたね。

Bose:でもそういうページって、どんどんなくなっていった。とにかく、情報がいっぱい載ってなくちゃいけなくなって。それはテレビも一緒で、みんなが分かるもの、みんなが面白いと思うものをやるようになったでしょ? でも、それじゃ自分たちが本当に面白いと思うものは作れないよね。だから『余談』は、他のメディアでやるってことができないから、自分たちで作るしかないんだよね。俺たちが一番見たい面白いと思うものを作ってるんだけどね。

—そういう意味では、本人たちにとってはやるしかないけれど、はたから見たら、やらなくていいんじゃない? って思われることをやっている狂気性はすごくありますよね。

Bose:なるほどねぇ。音楽も無料で聴けるようになって、この先どうなっていくかもわからない。だから僕らもちょっとシフトして、作ったものをこっそり会場だけで売ったりとかしてるんだよね。みんなに受け入れられるものだけじゃ、本当に面白いものってできないんだよね。だから、お笑い芸人は、Amazonっていう、自分たちが本当に面白いと思うものを出せる場所ができたんだなって思って、羨ましいですよ。

Bose

—Boseさんが今後の『ドキュメンタル』に期待することは?

Bose:やっぱり、誰が出たらハマるのか、誰が出たら強いのかって考えちゃいますね。よゐこの濱口くんとか、ほっしゃんとか、たけし軍団の誰かとか、東野幸治さんとか、藤井隆さんとか。やっぱり狂気を持った人が浮かびますね。『ドキュメンタル』という、新しい遊び、新しいルール、新しい競技を見つけてすごいなって思います。

リリース情報
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン5

2018年4月20日(金)から
Amazon Prime Videoにて独占配信中

出演:
松本人志
千原ジュニア(初出演)
陣内智則(初出演)
ケンドーコバヤシ(2度目)
秋山竜次(2度目)
ジミー大西(3度目)
たむらけんじ(初出演)
高橋茂雄(初出演)
山内健司(初出演)
狩野英孝(初出演)
ハリウッドザコシショウ(初出演)

サービス情報

Amazonプライム会員(月間プラン400円/月、年間プラン3,900円/年)向けのサービス。数千本もの人気映画やテレビ番組、またAmazonスタジオ制作によるオリジナル作品をいつでもどこでも、見放題で楽しめる。

プロフィール
Bose (ぼーず)

ラップグループ、スチャダラパーのMC担当。1990年にデビューし、1994年『今夜はブギー・バック』が話題となる。以来ヒップホップ最前線で、フレッシュな名曲を日夜作りつづけている。2017年に『ミクロボーイとマクロガール/スチャダラパーとEGO-WRAPPIN'』、『サマージャム2020』の2曲を発売。2018年4月にライブ会場限定CD『スチャダラパー・シングス』を発売した。



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