三浦直之×佐久間宣行 高校時代の東京への憧れが、今につながってる

ともにカルチャー全般に深い愛情を注ぎ、ともに作品に「青春」の匂いを色濃く漂わせ、ともに東北の男子校出身……と共通点の多い、ロロの劇作家・三浦直之とテレビプロデューサー・佐久間宣行。長年、お互いの作品のファンでありながら、意外にもふたりは一緒に仕事をしたことはないという。2015年から始まったロロの舞台『いつ高』(『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校』)シリーズが、このたびファイナルを迎えることを機に、そんなふたりが初対談を行った。

三浦直之
佐久間宣行

佐久間がロロに共鳴し、ほぼすべての作品を観てきたわけ

―おふたりの関係は、いつごろから始まったのですか?

三浦:佐久間さんがロロの『LOVE02』(2012年、こまばアゴラ劇場)の感想をTwitterでつぶやいてくれたので「あ、佐久間さんが観に来てくれたんだ!」って思ったのをすごく覚えてます。

2012年2月14日の佐久間のツイート

佐久間:いや、でも最初に観たのは『グレート、ワンダフル、ファンタスティック』(2011年、こまばアゴラ劇場)だったんですよ。

三浦:え!? そんな前だったんですか! すごいな!

佐久間:それと新宿眼科画廊でやった『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』(2010年)の初演も観てる。でも『グレート~』は、すげえいい部分と本当にわけがわからない部分があって。それで感想をつぶやけなかったの(笑)。

三浦:大混乱したやつだからなあ。

佐久間:まだ自分の理解が及ばないんじゃないかと思ってつぶやけなかったんだけど、『LOVE02』は本当に掛け値なしにすばらしいと思って。

三浦:嬉しいなあ。まだロロの動員が5~600人とか、そんくらいのときじゃないかなあ。

佐久間:ロロって、一生覚えているんじゃないかって思うような名シーンが、急にバツーンとあらわれたりするんですよね。

あと、これはロロだけじゃなく、坂元裕二さんの脚本とか、僕の好きなものに通底するものだけど、すごく楽しいことをやっているし描いてるんだけど喪失感があるとか、もうすでに失われてるものでも失われてないって描くとか、全体的にすごく共鳴できるテーマを扱ってるんです。だから、ロロはほぼ全部、観てるんじゃないかな。

佐久間宣行(さくま のぶゆき)
1975年生まれ。テレビ東京のプロデューサーとして、『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ウレロ☆シリーズ』『ピラメキーノ』など多数の番組を手掛け、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』では監督も務めた。2021年3月末にテレビ東京を退社。現在は、フリーのテレビプロデューサーとして活動。『オールナイトニッポン0』水曜日のパーソナリティーも担当している。

『ゴッドタン』や「キス我慢選手権」など、佐久間の手がける番組から三浦が受けた影響

―ロロのことはどこで知ったんですか?

佐久間:もともとはインターネットの噂からですね。とりあえず面白そうな劇団は一度観に行くことにしてて。あとロロは、役者が面白いって噂を聞いたんだ。

三浦:そうだったんですね。ロロのメンバーを、『ゴッドタン』(テレビ東京)に呼んでくれてますもんね。

佐久間:そうそう。最近「smash.」ってアプリで公開した『ハライチのYAMi』という番組があるんですけど、1話は「なんだこれ?」みたいなのをつくろうと思って、ハライチがオープニングトークしてるんだけど、途中からコントになってアニメになってドラマになって終わるっていう(笑)。

三浦:えー、なにそれ!

佐久間:それで岩井や澤部と対立するパワハラディレクター役を全部、板橋駿谷くん(ロロ)がやってる。ノリノリで(笑)。

『ハライチのYAMi』ティザー予告編

三浦:似合いそうだなあ。

佐久間:ロロの役者さんってみんなポップカルチャーが好きだから、バラエティでも「こういう意図で」っていうとすぐに伝わるから話が早いんだよね。

三浦:メンバーはテレビ好きも多くて、メンバー同士でもしますからね。僕もバラエティがすごく好きで。『LOVE02』では、『¥マネーの虎』(2001年~2004年 / 日本テレビ系列)を引用したりしましたし、そういうことはたくさんやってて。

『めちゃイケ』(1996年~2018年 / フジテレビ系列)とかも小さいころからずーっと観てたんですけど、バラエティ番組の虚実の間を行き来する感じがすごく好きなんですよ。『ゴッドタン』にもそういう魅力をずっと感じてました。「キス我慢選手権」とか(笑)。

三浦直之(みうら なおゆき)
1987年、宮城県出身。ロロ主宰 / 劇作家 / 演出家。2009年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回『コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞』を受賞。

三浦:いま佐久間さんとドラマ(『生きるとか死ぬとか父親とか』 / テレビ東京)をつくってる山戸(結希)監督が撮ったRADWIMPSのミュージックビデオがあるんです。ずーっと女性2人が見つめ合って「いつキスすんだろう?」みたいな感じで、その緊迫感がずーっと進んでく。「これ、キス我慢選手権だ!」って思って(笑)。あれを「こんなにロマンチックにできるんだ!」みたいな感動がすごいあったんですよ。

三浦:自分もそういうふうに、バラエティを引用して、そのイメージを塗り替えるような作品を描きたいなとずっと思ってるんです。

2015年からはじまった『いつ高』シリーズがついに完結。作品のこれまでをふたりの視点から振り返る

―『いつ高』シリーズは高校演劇のルールに従ってつくられています。そのフォーマットにした意図は?

三浦:『いつ高』をやるまで、高校演劇は全然観たことがなかったんですけど、以前、高校演劇の審査員をやらせてもらって、思った以上にバラエティ豊かな作品があって面白かったんです。で、舞台の仕込みを10分でやらなくちゃいけないとか、上演時間は60分とかの制約があって、そのフォーマットのなかで、自分はどれくらい面白いものがつくれるかな? と思ったんです。

ロロ『いつ高』シリーズvol.1『いつだって窓際であたしたち』を見る

佐久間:僕、高校のとき、演劇部の幽霊部員だったので高校演劇は観てたんです。だから、「高校演劇のフォーマットでプロがつくったらどうなるんだろうなぁ」と思って『いつ高』を楽しみに観に行ったら、等身大の10代のセリフでポップカルチャーがガンガン引用されてて「めちゃくちゃ観やすいフォーマットだなぁ」ってすごい感動しました。特に2作目『校舎、ナイトクルージング』(2016年、横浜STスポット)は、ホント素晴らしくて! その年に観たなかで一番好きかも。

三浦:わー、嬉しい! 自分にはこういう会話劇は書けないんじゃないかと思ってたけど、『校舎、ナイトクルージング』で書けるかもと思えたし、vol.1とvol.2で話がちょっと繋がって、vol.1の景色もそこに乗っかっていくみたいな構成もすごい気に入ってます。『ナイトクルージング』でなんかひとつ、『いつ高』の方向性が決まった感じはありますね。

ロロ『いつ高』シリーズvol.2『校舎、ナイトクルージング』を見る

―そもそも、『いつ高』を連作にしたのはなぜなんですか?

三浦:連作短編の形式の小説や漫画にある、巻によって視点や人物が変わっていくパターンがすごい好きで。それと演劇って相性いいんじゃないかなと思ったんですよね。あるところでこういうことが起きてて、その外側が描かれないっていうのと、演劇で舞台上以外は想像するしかないっていうのは、似ているなと。あとテレビドラマが好きだから、そういうふうに定期的に続いていく演劇をつくりたいとも思っていました。

佐久間:これはホント、素敵だなと思いました。あらかじめ「高校生の話」とか登場人物の関係性とか、設定を観客がある程度理解してるから、何の話か理解するまでに時間がいらない。だから作品を探る時間が少ない60分でもすぐに状況が理解できる。

―テレビ番組でも「パッケージ化」はすごく大事だと思いますが。

佐久間:テレビも、何かのパッケージとか制約があったほうがいい企画ができたりするんです。この人が出られない、これはできない、みたいなときのほうが、面白くなったりするんですよね。

三浦:普段のロロ作品は、よりファンタジー要素があるから、まず世界観を提示するまででもう30分くらい使っちゃうみたいなことが結構あって。ただやっぱり「学校生活」を描くとなると、ある程度お客さんとも記憶が共有されているから、そのセットアップがギュッとできるのは、いいなと思いました。

佐久間:そのぶん、裏切ったときは効きますよね。普通の学生ものだと思って観てたら、ちゃんとジャンプしてる瞬間もあるし。「あ、なるほど」と思いました。完全にリアルな「高校生日記」じゃない。

三浦:毎回そういうジャンプするような、グルって転換するポイントをどうやって入れてくかってことは、すごく考えますね。

青春を描き続ける三浦、青春をそばで見続ける佐久間。それぞれの高校2年の思い出

―無料公開している戯曲の冒頭には、毎回「ファンタジーでなければならない」と書かれてますね。

三浦:僕は男子校だし、『いつ高』で描いているような青春はまったく過ごしたことがないんです。でも、中高生のころから、青春小説とか青春映画とか「青春」とつくものがあったら絶対手にとっていて、自分にはこんなキラキラした青春はないけど、「こんな人もいるのかもしれない」って思うとちょっと元気が出たんです。だからリアルな青春を描きたいわけじゃなくて、「青春っていうもの自体フィクションだ」っていうつもりで描いているんです。

―佐久間さんがプロデュースする『青春高校3年C組』(2018年~2021年4月)や、『ウレロ☆未確認少女』(2011年~)シリーズでは「青春バカ」というセリフがあるように、おふたりの作品には「青春」が共通すると思うのですが。

佐久間:そうですね。僕も男子校出身なんですけど、深夜ラジオとか趣味の合う友達が周りにいなかったんですよ。なぜか「市内の不味いものを探す」っていうバカなことをやり続けるような仲のいい友達はいたけど(笑)、カルチャーとかそういう話はできなくて。だから、青春=ファンタジーみたいな気持ちは僕もちょっとあって。あと、お笑い芸人ってやっぱみんな青春だから。

三浦:あー!

佐久間:奇跡的な出会いをしたコンビが、冠番組を持ったり自分たちが面白いと思う番組をつくっていくのを、僕は後押しをしたり叶えたりするような仕事。僕が青春っていうよりは、青春をそばで見てる感じがしますね。

三浦:僕は高1のころ、クラスに友達がひとりもいなくてずっと本を読んで過ごしてたんです。それで高2のときに前の席に座ってたクラスメイトが「何読んでんの?」って話しかけてくれた。そこから僕が好きな小説家の舞城王太郎さんや古川日出男さんとかの本を貸すようになって。相手は音楽が好きだったから、曽我部恵一さんとか教えてもらって。それで、何人かそういう話ができる友達が増えていきました。

―まさに『いつ高』の主要登場人物と同じ、高2のころの出来事ですね。

三浦:たしかにそうですね。あんま考えたことなかったけど、高2ですね。

佐久間:高2が一番くだらないからなー(笑)。1年で高校の空気にも慣れるし、まだ受験のことも考えなくてもいい。僕が不味いものを探してたのも高2です。

一同:(笑)

―佐久間さんは『いつ高』のなかで、共感するような登場人物はいますか?

佐久間:性格が似ているわけではないですけど『ナイトクルージング』に出てた「(逆)おとめ」。ラジオが好きで教室内の音を盗聴してる。その「個の気持ち」みたいなものに興味があるところはシンクロしました。

(逆)乙女。2年8組、絶賛引きこもり中。夜に学校に忍び込むのが趣味。変態でありたいと願っている。(vol,2『校舎、ナイトクルージング』vol.6『グッド・モーニング』に登場 / 撮影:三上ナツコ)

佐久間:あとね、『いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した』(vol.4 / 2017年、こまばアゴラ劇場)の3人組(海荷、茉莉、瑠璃色)はすごい好き。この3人組が出てくるとすごいワクワクするんだよね。五七五でどんどん畳み掛けていくところは、ヒップホップのライブのクライマックスみたいな高揚を感じました。

vol.4『いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した』場面写真(撮影:三上ナツコ)

三浦:嬉しいなあ。基本的にパターンとしては誰かと誰かが出会って、違う世界観を持つ奴らが出会って仲良くなっていくっていう、関係性が変わっていく話が多いんですけど、この『いちごオレ』だけは3人ずっと仲良くて、仲良いまま話していって、仲良いまま終わっていくっていう。特に関係性が大きく動くわけじゃないけど、それでも60分をどうやったら豊かにつくれるかなと考えてつくった作品なんです。

固有名詞の使い方から見える、それぞれの作家性。視聴者や観客と温度差を生まないために

佐久間:ロロは既存の曲を使うのが上手いんですけど、1作目で「こんな使い方すんだ!」って驚いたことを覚えています。シューマイが聴いてた、サニーデイ・サービス。

vol.1『いつだって窓際であたしたち』場面写真(撮影:三上ナツコ)
劇中でシューマイが聴いていた、サニーデイ・サービス“真赤な太陽”を聴く(Apple Musicはこちら

三浦:ひとつ、象徴する音楽を毎回使ってこうっていうルールを決めてるんです。自分のなかでの主題歌みたいなのを決めてつくっていく。ただ、新作のvol.9と10は使わないで最後までやってみようと思ってます。

佐久間:あとは、出てくる固有名詞も、僕が好きなものと似ているなあって思います。そういうのが『いつ高』には散りばめられていて楽しい。宮藤官九郎さんも固有名詞を使うけど、使い方に作家性が出て面白いなって。バラエティで固有名詞を使うのってちょっと怖いところがあるんですよね。だから演劇でも、使う人と絶対に使わない人にわかれるじゃないですか。

三浦:わかれますね。その「怖い」っていうのはどういう部分ですか?

佐久間:固有名詞ひとつ出すことによって、情報量が多くなりすぎるのが気になるときがあって。例えば『ゴッドタン』にしても『水曜日のダウンタウン』(TBS系列)にしても、単に「トガッたバラエティ」みたいな受け取り方をしてくれる人もいれば、そうじゃないイメージを持つ人もいる。ひとつの固有名詞に対して持つ情報量が人によって違うから、こちらの意図通りに伝わるかな? って。

三浦:僕もそれにだんだん悩むようになってきました。最初は能天気に好きな固有名詞を使ってきたんですけど、使うたびに客席にいるお客さんとの温度差が生まれるのを感じるようになって。

―『いつ高』の戯曲では、固有名詞の脚注を役者が書いていますね。

三浦:全然知らないカルチャーの名前が出てきて、これってなんだろう? って調べて、そこからまた新しいものに出会う、みたいな体験を僕はしてきたから、高校生が観に来てくれたときにそういう体験をしてほしいなと思ってつくっているんです。あと、僕一人がすべてを発信し続けるっていうのは嫌で。俳優が発信する機会をつくりたいっていうのもあって、この脚注は俳優に書いてもらってます。

佐久間:あれいいですよね。それぞれの俳優のみなさんの思入れみたいなのがわかってくるから。

三浦:うん。僕も読むのがすごい楽しみなんですよね。

佐久間が『いつ高』を観ながら思い出した、高2の思い出

佐久間:あと『いつ高』は学校が舞台っていうのもあってか、観たときの季節をすごい覚えてるんだよなぁ。どの作品をどこの劇場で観たかもよく覚えてます。

三浦:へー!

佐久間:夏に観たなぁとか、冬だなぁとか。

三浦:学校ってロケーションとしてすごくよくて、物語がたくさん埋まってる。例えば屋上だったらこういう物語かな? とかを掘り起こせるのが楽しいです。

佐久間:『心置き無く屋上で』(vol.8 / 2020年、KAAT神奈川芸術劇場)なんか、めちゃくちゃ笑ったんだよな。空飛ぶやつ。

三浦:あれは、いままでよりちょっとファンタジーなことを起こそうと思ったんです。vol.2でも幽霊が出てるから、僕としてはありだと思ってつくったんですけど。

あと、毎回引っ張ってくるモチーフを決めるんですよね。『心置き無く屋上で』は、まずクイズ番組をモチーフにしようと思って。そこから設定を考えていったときに「○×クイズ」を思いついて、この「○」のイメージから魔法陣をつくってる人が出会う、みたいな掛け合わせはどうだろうって。

vol.8『心置き無く屋上で』場面写真掲載場面写真(撮影:三上ナツコ)

佐久間:あ、それを観ながら自分の高校時代を思い出したんだよなぁ。『高校生クイズ』(『全国高等学校クイズ選手権』日本テレビ系列)に出たいっていう友達3人の練習台として、僕が早押しの相手をさせられたの(笑)。

三浦:えー!

佐久間:それで、僕が結構答えちゃうもんだから、「メンバーを佐久間と入れ替えるか」ってことになって、すげえ空気が悪くなって(笑)。それも高2だったなあ。

三浦:めちゃくちゃいい話だなあ(笑)。

佐久間:男子校ってそういう感じのところなんだよね。ホントにみんなくだらないことにしか時間を使わないから。

三浦:僕は高校時代、『M-1甲子園』(2003~2008年、よしもと興業主催の「高校生お笑いNo.1」を決めるイベント)に出たんですよ。

佐久間:ええ!?

三浦:そこで初めて台本みたいなものを書きました。

佐久間:じゃあ、最初は漫才なんだね。結果はどうだったの?

三浦:全然ダメでしたけど、弟はすっごい褒めてくれました(笑)。

ふたりのいまにつながっている、地元で感じていた「東京のポップカルチャー」への憧れとコンプレックス

―おふたりとも東北出身ですけど、作風などに影響はあると思いますか?

三浦:僕は宮城出身なんですけど、宮城ってテレビ東京が流れないんですよ。そのコンプレックスはめちゃくちゃ強くて。モーニング娘。が好きだったけど『ASAYAN』(1995~2002年、テレビ東京で放送されていたオーディション番組。モーニング娘。を輩出した)はリアルタイムで見られなかったんです。

佐久間:僕の出身地のいわき市もね、テレ東は海沿いでしか見れなかったんです(※注:いわき市の一部地域は、関東圏の局の電波が届く)。僕はギリギリ見られる地域だったんだけど、高校に行くといろんな地域から来てるから、共通言語がどメジャーなものしかなかった。

僕らの学生時代は、三谷幸喜さんがテレビドラマを書き始めたくらいの時期だったんだけど、そういう話をすると「調子乗ってんじゃねえよ」ってなってた(笑)。ダウンタウンの話はできるけど、電気グルーヴや伊集院(光)さんの話はできない。それが嫌で東京に出てきたところがありますね。

だから自分の作風もそうだと思うけど、東京に長年いても「東京者じゃないな」っていう感覚がずーっとあったから、純粋に都会のポップカルチャーに憧れてる目線はいまだになくならない。だから斜に構えた感じでポップカルチャーを見ることがあんまりないですよね。テレビ業界のど真ん中でテレビに染まってるって思えたことが一度もなくて。それは多分、東京の情報が遮断されていた地域の出身だからなのかなって思います。

三浦:それはめちゃめちゃわかります。東京に来て小劇場とか行くようになって、そこから「こんなに面白いものがあるんだ」って知って。そのときに初めて、高2のときの友達とカルチャーの固有名詞で差が生まれてきたんです。野田秀樹さんとかも、友達は「ん、誰?」っていう感じなんですよね。

映画とか小説なら結構マイナーな話もできるのに、演劇になるとそれくらい齟齬があるのが、ずっと創作の根っこにあって。「これ、地元の友達が見ても面白いって思うかな?」みたいに、自分が最初に想定する観客がその地元の友達なんです。

佐久間:それは僕もあるかもしれない。視聴者を想定したときに、地元の友達が笑ってくれるかなっていうのは、たまに考えますよね。

コロナ禍によって大きな影響を受けた演劇業界。どう盛り上げていけるか

―『いつ高』は今回でファイナルですが、佐久間さんはどのようなファイナルを予想しますか?

佐久間:タイトルだけ見ると、リアルな気持ちを落とし込んでるものと、ファンタジーにぶっ飛んでるもののふたつがあるのかなと思っています。両方とも楽しみ。あと、亀島(一徳)くんのやる将門がすごい好きなので、それも楽しみですね。

左から:シューマイ、将門、モツ。vol.5『いつだって窓辺で僕たち』場面写真(撮影:三上ナツコ)

三浦:将門、今回もめちゃめちゃいいですよ。これくらい時間かけて何か完結させるって初めてなんで、やっぱりめちゃめちゃ感慨深いっていう気持ちが強いのと、これで終われるっていうのもありますね。メンバーもどんどん歳重ねていくし、「高校生まだやるの?」みたいな空気もちょっとあるから(笑)。

―三浦さんが今後やりたいことは?

三浦:本当にいま、コロナで演劇がヤバいんで。だからまずロロがそもそも持っていたはずの動員に戻すまでに時間がかかりそうだなって思うし、そっからどうやってまた盛り上げていくか、そういうことばかり考えてますね。ほかのお仕事ももちろんやりたいですけど、やっぱりいまは演劇が心配だなって気持ちが強い。

佐久間:たしかにちょっと心配。客層が若返ってないっていうのが、このコロナで構造上噴出した。別に演劇だけじゃないんだけど、演劇はダイレクトに影響を受けていますからね。そこは、俺もちょっと気になってます。

―ロロは昨年、配信上演にも挑戦されていましたよね(2020年6月にYouTube Liveで生配信した『窓辺』シリーズ)。

三浦:配信で演劇をどう盛り上げていけるか、ということは僕くらいの演出家や劇団はみんな考えていると思います。配信をどうすれば広げていけるのかは、まだ難しいところですね。

『いつ高』シリーズも終わるし、何かまた別の新しいことを始めないとなあと思っているなかで、配信や映像で力になってくれる方は周りにいるから、そういうことも始められたらいいなと考えてます。

―今後、おふたりが一緒に仕事されることはありそうですか? 意外にも、これまでは一度もなかったですよね。

佐久間:今まではなかったですね。というか僕、好きな人にあんまり仕事を頼んだことがないんです。伊集院(光)さんにも頼まないし。先輩の五箇(公貴)さんは大根仁さんとか大好きな人にオファーできちゃうんですけど。俺、すげえ酔っ払ったときに、五箇さんに「あんたはデリカシーがないからそういうことができるんだ!」って言っちゃったみたいで(笑)。「俺はリスペクトしてる人とか好きな人には、おいそれと仕事は頼めねぇ」って(笑)。

三浦:やー、いつでもお待ちしてます(笑)。

イベント情報
「いつ高シリーズ」vol.9『ほつれる水面で縫われたぐるみ』

2021年6月26日(⼟)~7月4日(日)全12公演
会場:東京都 吉祥寺シアター

脚本・演出:三浦直之
出演:
板橋駿谷
亀島一徳
森本華
多賀麻美
重岡漠
料金:
前売 一般5,000円 U-25券4,000円
当日 一般5,500円 U-25券4,500円
※高校生以下無料、親子ペア割引1,000円引き

「いつ高シリーズ」vol.10『とぶ』

2021年6月26日(⼟)~7月4日(日)全12公演
会場:東京都 吉祥寺シアター

脚本・演出:三浦直之
出演:
板橋駿谷
亀島一徳
篠崎大悟
料金:
前売 一般5,000円 U-25券4,000円
当日 一般5,500円 U-25券4,500円
※高校生以下無料、親子ペア割引1,000円引き

プロフィール
三浦直之 (みうら なおゆき)

1987年、宮城県出身。ロロ主宰/劇作家/演出家。2009年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。

佐久間宣行 (さくま のぶゆき)

1975年生まれ。テレビ東京のプロデューサーとして、『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ウレロ☆シリーズ』『ピラメキーノ』など多数の番組を手掛け、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』では監督も務めた。2021年3月末にテレビ東京を退社。現在は、フリーのテレビプロデューサーとして活動。オールナイトニッポン0水曜日のパーソナリティーも担当している。



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