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世界最高レベルの身体表現。勅使川原三郎が伝説的作品を再演

世界最高レベルの身体表現。勅使川原三郎が伝説的作品を再演

勅使川原三郎『ABSOLUTE ZERO 絶対零度 2017』
テキスト
石井達朗
編集:宮原朋之

世界ダンス界のトップランナー、勅使川原三郎

勅使川原三郎は世界のダンス界で、新作が期待されているトップランナーと言っていいだろう。1985年、勅使川原がダンスカンパニーKARASを結成してからの活動は、その無二の先鋭性において、日本はもとより海外のダンスシーンにそのくらい大きな衝撃を与えてきた。

勅使川原の特色は振付・演出することはもちろん、ほとんどの作品の美術、音楽、照明まで手がけ、加えて自身も踊る。つまり作品のすべての要素に全面的にコミットすることだ。98年に初演された『ABSOLUTE ZERO 絶対零度』は、そんな勅使川原の創造性が余すことなく発揮された、この時代の代表作であり、初演から実に19年ぶりに再演されることが決定した。いや「再演」というより、勅使川原が手塩にかけた新作を見るような期待を覚える。

『ABSOLUTE ZERO』初演時のチラシ(1998年)
『ABSOLUTE ZERO』初演時のチラシ(1998年)

この19年のあいだ彼がやってきた仕事の豊穣さ。作品の数はいわずもがな、質においても群を抜いている。例えば、バレエダンサーにとって夢のまた夢である最高峰のパリ・オペラ座バレエ団に2度の振付け。3作目を今年の秋に創作・初演し、最近では内外のオペラ2作品の演出・振付を行っている。

1つは気鋭の現代音楽の作曲家・藤倉大のオペラ『ソラリス』の台本・舞台美術・照明・衣装・振付・演出のすべてを手がけ自らも出演、パリのシャンゼリゼ劇場で初演した。もう1つは名古屋と横浜、大分で、モーツァルトのオペラ『魔笛』の演出・振付・美術を担当して、新境地を見せた。

加えて2013年には東京・荻窪に新たな実験の場として劇場アパラタスを創設し、矢継ぎ早に小作品を発表。その他、東京や横浜で、より大きな規模の新作を作る。とくに両国のシアターX(カイ)での異色の小説家ブルーノ・シュルツ(ポーランドのユダヤ系小説家)の複雑に屈折したイメージをダンスにした一連の舞台には目を見張った。

再演という名を借りて、新しい挑戦に挑む

これだけの創造力を発揮してきた勅使川原である。『ABSOLUTE ZERO』がいくら傑作であっても、骨董品を慈しむように19年前のものをそのままなぞって公演することなどあり得ない。新設アパラタスでの小公演を「日々アップデイトするダンス」と宣言したように、彼にとってダンスとは日々生まれかわるものである。

『ABSOLUTE ZERO』初演時場面写真 Photo:Ravi Deepres
『ABSOLUTE ZERO』初演時場面写真 Photo:Ravi Deepres

勅使川原自身、今回の『ABSOLUTE ZERO』の再演に関しては、「新たに難しいことに挑戦し、新作にするつもりでやる」と明言している。「作品のコンセプトは以前と変わらないが、これだけの年月の経過があり、ダンスの在り方は変わってゆくだろうと思う。純粋にダンス本来の力、身体そのものの力に集中したい」と語っている。

勅使川原三郎 Photo:稲垣徳文
勅使川原三郎 Photo:稲垣徳文

「身体そのものの力」。ダンスの世界ではよく出てくる言葉である。しかし言うは易し行うは難しである。ふだんから他の舞踊家たちとは違った次元でこれを実現している勅使川原が敢えてこの言葉を発すると、底知れぬ意思を感じる。

今回も初演時の三部構成はそのまま引き継がれる。初演の時には、大きく映し出される個性的な映像に、現代美術家といってもいいビジュアルなセンスが溢れていた。また映像以上に、舞踊家の繰り出す動きのスピードが空間に切り込む鋭さは、尋常なものではなかった。その彼が19年経過した今、さらに身体に集中するというのである。その身体からはいったい何が生まれてくるのだろう。

新たに加わる、佐東利穂子という稀有な才能

「身体」といえば、再演へのもうひとつの大きな期待がある。佐東利穂子という新しい才能が加わることだ。彼女が舞台にいることで、初演時とは異なる様相を帯びてくることは確実だ。勅使川原の方法論のもっとも忠実な体現者であるというだけではなく、ここ数年の彼女を見ているとダンサーとして独自の領域に入りつつある。

勅使川原とは別の種類のアウラを放っている彼女は、今やなくてはならぬ貴重な存在である。油の乗り切っている佐東の身体に、勅使川原はいつも創造性を喚起されているはずだ。

Photo:Akihito Abe
Photo:Akihito Abe

とくに、ソナタ形式の緩徐楽章を思わせる第二部。神秘思想家として名高いゲオルギイ・グルジエフと音楽家のトーマス・ド・ハートマンが作ったピアノ曲が静謐に流れるなか、佐東と勅使川原はどんな佇まいを見せるのか。勅使川原は、この再演は「佐東のための作品になるかもしれない」とまで言い切った。こちらも静かな興奮を覚えずにはいられない。

20年の時を経て、到達不可能といわれる「絶対零度」への挑戦、再び

第三部の終わり、作品全体のエンディング。それまでの雰囲気が一変する。モーツァルトの慰撫するような響きにいざなわれ、勅使川原が大きく虚空を抱きかかえながら動き始める。緩やかに和むように……。漂う清澄さ。屹立する身体。第二部の静けさにも通底するが、感覚的にはかなり違う。

「ABSOLUTE ZERO」、つまり到達不可能と言われるエネルギーゼロの静止状態、「絶対零度」に向かいつつあるのだろうか。そのパッセージのことを勅使川原は「第二部と同じように開かれてくるのだけれど、最後は開かれ方が違う」と表現し「ダンスが化学変化を起こすようなものが欲しい」と語る。

勅使川原三郎と佐東利穂子
勅使川原三郎と佐東利穂子

勅使川原の『Noiject』は90年代前半の代表作である。硬質で無機質な終末論的な舞台は世界中で高い評価を得た。『ABSOLUTE ZERO』は、それに対して90年後半を代表する作品である。これもまたヨーロッパ各地で絶賛された。

『Noiject』Photo:Dominik Mentzos
『Noiject』Photo:Dominik Mentzos

パリ・オペラ座バレエ団に彼が振付を依頼されたのも、当時の芸術監督ブリジット・ルフェーブルがこの作品を見たのがきっかけだと聞いた。それほどの優れた舞台が世田谷パブリックシアターで99年に再演されて以来、アパラタスでの抜粋公演があったにしろ、再演されたことがないとは、日本のダンス界はなんともお寒い環境である。

先が見えない世紀末に作られた本作が、ますます先が見えずに混迷の度を深める今、再演される。しかも世田谷パブリックシアター開場20周年記念として。ほとんど「新作」のような本作をとおして、勅使川原とこの劇場の20年の歩みを見つめ、世界とわれわれ自身の20年の来し方を反芻し、新たな歩みを進めるための地平に立つことになるだろう。

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イベント情報

世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演
勅使川原三郎『ABSOLUTE ZERO 絶対零度 2017』

2017年6月1日(木)~6月4日(日)全4公演
会場:東京都 三軒茶屋 世田谷パブリックシアター 構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎
出演:
勅使川原三郎
佐東利穂子
料金:一般5,000円 高校生以下・U24(18~24歳)2,500円 ペア9,000円
※U24券、ペア券は前売のみ

プロフィール

勅使川原三郎(てしがわら さぶろう)

バレエを学んだ後、1981年より独自の創作を開始。1985年、KARASを結成。既存のダンスの枠組みではとらえられない新しい表現を追及。舞台作品では振付・演出のみならず美術、照明デザイン、衣装、音楽構成も自ら手掛け、独創的な作品を創造。国内外で数多くの公演を行う傍ら、パリ・オペラ座バレエ団など世界の一流のカンパニーに作品を多数提供。近年はオペラの演出、インスタレーションや映像作品などにも創作の世界を広げ、また若手の育成にも精力的に取り組んでいる。ニムラ舞踊賞(2001年)、朝日舞台芸術賞(01年、03年)、日本舞踊批評家協会賞(01年、08年、14年)ダンツァ&ダンツァ・アワード年間最優秀賞(01年 / イタリア)、芸術選奨文部科学大臣賞(07年)、ベッシー賞(07年 / アメリカ)、紫綬褒章(09年)、ダンスフォーラム賞 大賞(10年、15年、17年)、江口隆哉賞(15年)など、国内外で多くの賞を受賞。

関連チケット情報

2017年6月1日(木)〜6月4日(日)
「ABSOLUTE ZERO(アブソルート・ゼロ) 絶対零度 2017」
会場:世田谷パブリックシアター(東京都)

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