世界の珍奇な建築物や場所を撮影した代表作『奇界遺産』で知られる写真家・佐藤健寿。その独自の着眼点と抜きん出た探究心から発表される作品の数々に、今多くの人が注目するフォトグラファーの1人です。前編に引き続き、佐藤健寿さんと共に、高雄の奇界スポットを巡り。後半には、高雄を旅した中で佐藤さんが気になった、台湾人の日常風景についても紹介します。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
4.高雄の王道にして奇界な風景区『蓮池潭』
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「ここは、昔から一度は見てみたいと思っていた場所なんです」
そんな佐藤さんの一言からスタートした後半の高雄巡り。街中からもタクシーで15分、台北からの新幹線の停車駅である左営駅の近くに『蓮池潭(れんちたん)』があります。『蓮池潭』とは、広さ約42ヘクタール(東京ドーム約9個分)に及ぶ池であり、この池を中心とする風景区をのことを表します。
周囲1.4キロの湖畔には、高雄のランドマークとも言われる龍と虎の「龍虎塔」や、湖の上にある中国式の建築様式が残る塔「春秋閣」、そして高さ22メートルにもなる巨大像「北極玄天上帝像」や、キラキラと輝くように色鮮やかな廟(寺)である「慈済宮」などがあります。このエリアは、海外からの観光客だけではなく、台湾国内からも多くの人が高雄に来た際には必ず訪れる定番スポットとして知られています。
高雄のシンボルでありパワースポット「龍虎塔」
『蓮池潭』に到着するとまず目に入ってくるのが、1976年に建設された大きな口を空けた龍と虎、そしてその背後にそびえ立つ2つの塔「龍虎塔」。一見するとテーマパークのアトラクションのように感じるかもしれませんが、高雄では風水のパワースポットとしてよく知られ、高雄のシンボルの1つとして知られます。
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この「龍虎塔」でご利益を得るために気をつけたいことは、必ず龍の口から入り虎の口から出ること。台湾では十二支の中で龍がもっとも善良な生き物で、虎が一番凶暴だと考えられていて、そうすることで自分のこれまでの悪行が清められ、さらには災いも消えて無くなり幸運を手にすることができると言い伝えられています。
龍の口から塔の内部に入ると、陶器でできた色鮮やかな壁画が目の前に広がります。これは台湾や中国に伝わる寓話や故事をもとにして作られているそう。所狭しと埋め尽くされた壁面は一見の価値ありです。
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「龍虎塔」の龍の口の中。
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塔の内部に入り、虎と龍の背後に行くと、ちょうど間に「慈済宮」が見えます。塔は6階建てとなっており、現在、観光客は5階まで上がることが可能となっています。
上空から俯瞰すると、本当に龍と虎が湖上で伏せているよう。塔まで続くジグザグに曲がっている橋は中国庭園によくみられる「九曲橋」と言われ、歩く時に四方がよく見えるような構造になっています。
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「慈済宮」
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高さ22メートルの圧倒的な神像「北極玄天上帝像」
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「龍虎塔」から少し歩くと、今度は極彩色の巨大な像が見えて来ます。通り過ごすことのできない、「龍虎塔」以上の存在感です。この像は、道教という台湾で広く信仰されている宗教の神像「北極玄天上帝像」で、高さは22メートル、湖上に鎮座する神像としては台湾最大級と言われています。右手に七星宝剣を持ち、足元にはヘビと亀を踏みつけた姿で鎮座し、背景にある高雄市内のビル街も合間って、なんとも言えない独特な存在感を醸し出しています。
ちなみに「北極玄天上帝像」が、ヘビと亀を踏みつけているのには、深い意味が。元々、屠畜を生業としていた玄天上帝は、生き物を殺して生きてきたという自らのその生業に後悔をし、晩年は山にこもっていたそう。そして、生き物への懺悔の表明として自ら腹を切り、胃と腸を取り出し、川に洗い流した結果、その胃が亀の怪物、腸が蛇の怪物となり悪さをしたそう。そんな悪さをする亀と蛇を自ら成敗したのが玄天上帝であり、結果、玄天上帝像の足は亀と蛇を踏みつけているのだそうです。
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「北極玄天上帝像」の足元からは、壁一面から天井まで、目にも鮮やかな絵や故事が描かれている内部に入ることができます。中央に赤い柱があり、その柱の一面には、所狭しとお寺に寄付をした人の名前が並んでいて、こちらは300台湾ドルを支払えば、信者でなくとも一年間名前を記してもらえるとのこと。その他、木彫りの蛇が祀られていたり、怪しげなおみくじ機があったり、お守り、御札などが販売されています。
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その他にも『蓮池潭』内には、白い孔子の神像付きの龍の入り口の入った先にある三層式の塔「春秋閣」や、関羽を聖人とし、儒教・道教・佛教の3教を祀るゴージャスな宮殿様式の建築が見所の「啓明堂」など、数々のスポットが点在。夜になるとライトアップもされるので、昼と夜で違った楽しみ方ができます。
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佐藤健寿が感じた『蓮池潭』
ここは昔から一度見てみたいと思っていた場所。『蓮池潭』の風景区は高雄のシンボリックな場所だと思うんですけど、実際訪れてみて、建築物をはじめその派手さは想像を軽く超えてました。今年は中国で撮影することが多いんですけど、台湾は道教の影響が強いので、中国にもない派手な色使いがありますね。そして高雄は日本からたった3時間ほどで行ける近い場所ですが、ここまで日本と文化的なギャップがあることに、改めて気づかされました。建築物以外にも、寺の境内で昼間からカラオケをやってるおじさんがいたり、(日本の)昔のデパートの屋上にあったような遊具があったり、いい意味で雑多。ここでは寺社仏閣が日本とは違って、格式張らずに「人の暮らし」にすごく溶け込んでいると感じるし、その宗教と人との近さが台湾の魅力の一つかもしれません。
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©Chiu ChengHan
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蓮池潭
住所:高雄市左營区蓮潭路
アクセス:タクシー or 左営駅かMRT生態園區駅からバス紅35で蓮池潭で下車すぐ。
時間:塔内参観8:00~17:00、公園内は24時間開放
5.無機質だけど機能的。70年代の軍人団地『果貿社區』
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『蓮池潭』の最寄り駅でもある左営駅からタクシーで約10分走ると『果貿社區』というマンション群に着きます。ここは元々1970年代に海軍の軍人宿舎として建設された集合住宅地で、1980年代から一般住民にも開放されている場所。近年インスタグラムで話題になった香港の『益昌大厦』を想起させると、地元の写真好きの若者の間で話題になっているスポットです。
『果貿社區』では12階、15階、18階建てのマンションが13棟密集して建ち並び、2,471世帯、8,000人近くの人々が暮らしています。この果貿社區の建築の面白さは、左右のビルが扇のように半円状にカーブしているところ。中心にある公園から上を見上げると、まるで井戸の中にいるような感じさえします。
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この住宅地の設計を担当したのはシンガポールの建築家で、この独特な円形した理由は、大きく2つあるそう。1つは室内の気温上昇を防ぐために、高雄の強い日差しが直接部屋の中に入らないようにするため。もう1つは、ベランダに出た時、隣の世帯の様子が目に入らないようプライバシーが守るためにそうしたそうで、この狭いエリアの中で人々が快適に生活をおくれるようにする工夫が各所に見受けられます。
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中心にそびえる半円のようにカーブしたマンションだけではなく、周囲には見慣れた形の普通のマンションもあり、13棟にも及ぶ一帯には、多くの人たちが暮らします。
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『果貿社區』は、どこを切り取っても幾何学的。「上から撮っても、下から撮っても、絵になる」と、取材期間中で、佐藤さんの撮影が一番止まらないスポットでした。
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そして今回は特別に『果貿社區』で実際に住まれている、呉さんという住人のご自宅にお邪魔することに。半円マンションの中で暮らすのは大変なのではと思い部屋の中に入りましたが、意外に内部は一般的な集合住宅の一室。むしろ適度に日差しが降り注ぎ、とても暮らしやすそうな風で、呉さんによると、一度果貿社區に住んだ人は居心地がいいので、退去する人が少ないそうです。
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『果貿社區』一帯は、簡易的な公園があったり、お店があったりとなんとも生活感が溢れる場所。一般的には、観光スポットというわけではないので、住民に迷惑のかからないように立ち寄ってみてください。
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佐藤健寿が感じた『果貿社區』
今回の高雄滞在の中で、「撮影」に限って言えば一番楽しかった場所。地上、屋上、室内そして上空どの場所から撮っても面白い写真が撮れました。半円の形をしたマンション自体も珍しく、以前中国の福建省でみた客家土楼(中世の円形住居)を思い出しました。でもマンションのデザイン仕様は実はとても合理的。奇抜な形をしていますが、人々が快適に暮らせるよう随所に工夫が凝らされて設計されていて、実際に室内を見せてもらったときも機能的で驚きました。
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©Chiu ChengHan
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果貿社區
住所:高雄市左營区果貿社区果峰街3巷
アクセス:新幹線左營駅からタクシーで約10分
時間:24時間開放その他:一般の住宅地なので、近隣の迷惑にならないように訪問の際は気をつけること
番外編:佐藤健寿が気になった高雄の日常風景
1.インスタカップル
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高雄の「奇界」を求め撮影を進める私たちのそばに、常にいたのが地元台湾のインスタカップル・インスタフレンズたち。写真家の佐藤さんも唸るくらいのハイエンドな撮影機器を駆使し、何度も撮り直しながらインスタグラム用の「最高な一枚」に辿り着くために切磋琢磨。それを周りの目は一切気にせず、決めポーズを作り撮影をする姿が印象的でした。
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2.「檳榔ショップ」のネオンサイン
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夜、高雄の街に繰り出すと写真のような扇形のライトをあちらこちらで目にします。これは「檳榔(ビンロウ)屋」のサイン。檳榔はヤシ科の植物で、台湾ではこの檳榔の種子が噛みタバコのような嗜好品として販売されています。以前は台湾全土で水着や露出度の高い衣服を着た女性が檳榔店の売り子として店頭に立っていましたが、風紀上よくないとして2002年から規制。今ではこの扇形のネオンサインのみが、店の場所を愛好者にアピールしています。
3.UFOキャッチャー
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>ここ数年、台北や高雄などの大都市で急激に増えているのが、「娃娃機(UFOキャッチャー)店。台湾の人気YoutuberがUFOキャッチャーで遊ぶ様子やアイテムの取り方のコツを投稿し、瞬く間にその人気が全土に。多くのUFOキャッチャー機は1台毎にオーナーがいて、高校生はもちろんのこと中学生のオーナーもいるそう。中には1ヶ月の間に40,000台湾ドルを稼ぐオーナーもいるとか(台湾の大卒初任給は約25,000台湾ドル)で、台湾の都市でこの黄色いUFOキャッチャーが溢れかえっています。
写真家・佐藤健寿さんの他に、Yogee New Waves 角舘健悟さん、モデル・武居詩織さんによる、3人独自の高雄旅が垣間見れる、スペシャルコンテンツを公開中!
高雄市観光局の特設サイトはこちらから
- プロフィール
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- 佐藤健寿 (さとう けんじ)
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武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。 世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。 写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。 近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号~美しき世界の不思議~』(講談社)など。 NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。 トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーン監修など幅広く活動。
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