ミドリ インタビュー

扇情的なパフォーマンス、極度に躁鬱の激しい世界観、ジャズや祭り囃子の要素を融合させた独自のグルーヴなど、様々な点で注目を集めてきたロックバンド、ミドリ。2年ぶりにリリースされるアルバム『shinsekai』は、より奔放で斬新な音楽的アプローチを試みつつも、どこか殻を突き破ったポップネスを併せ持った、まさに新世界への扉を開いた傑作だ。これまで、「世間が言うミドリ観を出そうと無理してた」(後藤まりこ)という彼らはいま、どこを目指して、何のために音を鳴らしているのか。はっきり言って愚問だったかもしれない。でも、ミドリは真摯に答えてくれた。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ)

別にミドリがしたいんやなくて、音楽がしたいんやしなぁって。

―オリジナル・アルバムとしては、前作の『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』(以下『あらためまして』)以来2年ぶりですよね。この2年間はどんな活動を?

ハジメ:『あらためまして』が出た後に、初めてワンマンライブをしたんですよね。それで、ツアーをして、ライブ盤が出て、2008年の終わり頃に事務所から離れまして。

後藤:ライブ盤は僕らの意図してない部分で出たから。ソニーやなくて、事務所が行け行けどんどん、出せ出せどんどんやったから、嫌やった。

―それもあって辞めた?

後藤:嫌やから辞めた。

ハジメ: それで、まわりの人たちに助けられつつ、去年の3月にシングル『swing』を出して。それからトリビュート盤に参加したり、メロン記念日に曲を提供したりしつつ、去年の秋にライブDVDが出て。秋には2マンツアーをやって、そのあと曲作りをして、今年の頭に今回のアルバムのレコーディングをしました。

ミドリ インタビュー

―アルバムのリリースはなかったけど、あっと言う間に2年経っちゃった感じだったんですね。

ハジメ:そうですね。長いと言えば長かったですけど、短いと言えば短い(笑)。

―アルバムを作るにあたって、テーマを設けたりは?

後藤:青写真は描きません、このバンドは。

―今回のアルバムって、個人的にはどこか殻を突き破った感じがあると思うんです。そういう感覚は作ってる側としてありました?

後藤:うーん。なんやろ。具体的な実感はないです。そやけど、以前の作品よりかは、ちゃんとしよう思ったから、ちゃんとできたと思う。

―ちゃんとしよう、っていうのは?

後藤:えっと、『あらためまして』くらいまでは、不純な動機もありつつというか、売れたかったんですよ。『swing』は、売れたいけど、まぁ無理やろと思ってました。ちゃんとできてなかったんは、世間が言うミドリ観っていうのを出そうと無理してたんとか、世間の言うミドリ観っていうのを自分のなかで変に解釈してしまっとって。けど、もう、アカンなぁと思って。別にミドリがしたいんやなくて、音楽がしたいんやしなぁとか、いろいろ考えて、こうなりました。

―今作って、すごい開けた感じがしたというか、ポップに聴こえたというか。その辺は意識されました?

後藤:ポップっていうものは意識してないです。耳にやさしい音になりました?

―音とか、そういう部分とは違うところで聴きやすくなってると思うんです。

後藤:それは、耳から抜けやすいとか、BGM的っていうことやなく?

―そうですそうです。全然BGM的じゃなくて。

後藤:それやったらよかったです。前までのCDで僕が思っとったんが、なんせBGM的にならんことが一番やったんですよ。それが、ちょっと考えすぎとったなぁと思って。

―なんかしら心に引っかかるものを作らなきゃ、みたいな気持ちがあった?

後藤:そうそう。ちょっと考えすぎた。

―それを無理して考えないでやった結果、逆に人の心に残るようになったというか。

後藤:うん。わからんけど、やっぱ消費されたくないんですよ。ずっとCDの棚にあってほしいし。ブックオフに行きたくない。

うん? ……その質問はおかしい。だって、音楽をやる目的じゃなくて、音楽が目的やもん。

―今回のアルバムの曲のなかで、僕は“リズム”が特に印象的だったんです。「存在しないからね」っていう言葉がすごい頭に残ってて。どういうシチュエーションを歌ったものなんですか?

後藤:どういうシチュエーション……、たぶん、すべてを否定したかったんかなと思う。最初、もうちょっと柔らかい歌詞やったんやけど、ライブで何回かやってったら、なんか、いや、アカンなと思って。否定したくなった。他人も、自分も。

―曲はもともとあって、歌っているうちに、すべてを否定したくなってきた?

後藤:うん。否定したい。

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後藤まりこ

―なんで否定したくなったんですか?

後藤:最初は、「存在しないからね」じゃなくて、「心配ないからね」っていう歌詞やったんですよ。“心配ないからね、もう大丈夫ですよ”って。そやけど、何が大丈夫やと。心配ばかりやし、大丈夫でもなんでもない。大丈夫のダも言ったらアカンなと思って。なんか嫌やなって。

―「大丈夫だよ」っていう曲が、正反対の内容になった?

後藤:うん。ダメ。ちゃうかった。

―この曲を歌うことによって、否定したい気持ちがやわらいできたりするんですか?

後藤:否定したい気持ちは、やわらがない。だって否定したいもん。

―それって、歌うごとにどんどん否定的な気持ちになっていくわけじゃないですか。極端な話ですけど、それだったら歌わないほうが幸せじゃんっていう考え方もできると思うんです。そういう意味で考えると、みなさんが音楽をやる目的って、どんなものだと考えてます?

後藤:うん? ……その質問はおかしい。だって、音楽をやる目的じゃなくて、音楽が目的やもん。

音楽が手段になりかけたときはあったけど、そういうときは、嫌で嫌でしょうがなかった。

―音楽が目的? 楽しいから音楽をやるってこと?

後藤:音楽をやりたいから音楽をやる。音楽が楽しいだけじゃないっていうのは、やっててわかってるから。音楽が目的ではなくなったら、やめる。何かの手段とか、方法だったら、それは別のもので代用できるから、そちらをする。

ハジメ:確かにそうかもしれない。例えば、環境活動のために音楽をするとか。

後藤:うん。それは気色が悪いな。

―まぁ、例えばの話ですよね(笑)。でも、何か理由があって音楽をやるんじゃなくて、自然の成り行きが音楽をやることに向かわせるというか。

ミドリ インタビュー

後藤:やりたいからやる。そこに理由があったら気持ちが悪い。やりたいからやるっていうのは何でも一緒やし。それが手段になりかけたときはあったけど、そういうときは、嫌で嫌でしょうがなかった。

―手段になりかけたときっていうのは、デビューした後の話?

後藤:うん。売れたかったから。売れたいがために音楽をするのが嫌やった。でも、それっておかしいやん、やっぱり。

―でも、音楽をやっていくうえで、嫌なこともいっぱいあるんですよね? 嫌なことがあっても音楽をやりたい理由っていうのは、なんだと思います?

後藤:うーん、わからん。わかったらおもしろいかなぁ。あんま、考えないようにしてる。

―ハジメさんはいかがですか?

ハジメ:わりかし僕は昔からピアノとか触ってて、ポンポンと音を鳴らすのが好きなんですね。聴くのも好きだし、やるのも好き。それに尽きるんじゃないですかね。

―多少嫌なことがあっても、余りあるくらいの魅力がある?

ハジメ:そうですね。音楽をやりたいっていうことが一番ですけど、それだけじゃないこともいっぱいあるし。いろんな人と会ったりとか、楽しいとかも含めて。それはもはや音楽じゃないですけど。でも、音を出すのが楽しいとか、そういうことは忘れないようにしたいなと思ってますね。

岩見:僕もただ楽しいからやってるだけで。絵を描く人とかも、絵を描くのが好きだから描いてるんだと思うし。音を出すのが好きだからやってるということだと思います。

小銭:私もたぶんそう。和太鼓から音楽に入って、ドラムを好きになって。たぶんドラムがめちゃくちゃ好きやってんね。叩いたら音が出るじゃないですか。すごい単純ですけど。それが楽しいなと思って、ずっとやってる感じですね。

「がんばってください」とか、「好きです」とか言われたら、素直にうれしい。

―さっき売れたかったという話もありましたけど、音楽をやりつつ、なおかつ売れたらいいなっていうのはあるわけですよね?

後藤:売れたいってこと? ……売れたいはないよ。いまはもうない。どっちでもいい。

―売れることより、続けること?

後藤:うん。だって、売れたら絶対制約出てくるやろ。あれしたらアカン、これしたらアカンって。制約が出るくらいだったら売れんほうがいい。

―いまは音楽を続けることが一番の目的みたいになってるんですか?

後藤:するのが目的。別に続かんくなっても、それはそれでしょうがない。うん。

―音楽をやってて、よかったなと感じる瞬間はどんなときですか?

後藤:それはねぇ、いっぱいある。どんなんがいいですか?

―音楽をやってないと、自分の存在意義が確認できないとか。例えば、自分が音楽をやってることによって、喜んでくれてる人がいるっていうのを目の当たりにするわけじゃないですか。それによって、「自分は生きててよかったんだな」みたいなことを思ったりとか。

後藤:うーん……、聴いてくれたらうれしい。その人がうれしかったら、もっとうれしい。でも、もちろん、逆もあると思うから。

―聴いてもらえなかったとしても、音楽はやる。

後藤:うん。やると思う。いまは。だって、聴くのって、選ぶのは僕らちゃうやろ。選んでくれたらうれしいよ。素直に。聴いてくれてありがとう、もっとがんばります、ってなる。

―例えば、聴いてくれた人から、「ミドリを聴いたおかげで人生が変わりました」と言われたとか、そういう喜びみたいなのってどうですか?

後藤:人生変わってたらちょっとなぁ、責任が(笑)。

岩見:実感が湧かないですね。

後藤:でも、好きですって言われたらうれしいなぁ。

ハジメ:そうですね。

ミドリ インタビュー

―共感してほしいみたいな気持ちはあるんですか?

後藤:共感してほしい?

―例えば、さっきの存在を否定したくなったみたいなことって、すごい孤独な状態なわけじゃないですか。

後藤:うん。うん。孤独。

―それを聴いて、「私もそういう気持ちになるときがある」って救われる人もいるわけじゃないですか。

後藤:へー。

―そういう人も絶対にいると思うんですよ。そういう気持ちを共有できることが、音楽をやる喜びになったりしないですか?

後藤:いや。そういうの言われたら、「あ、そっすか。ありがとうございます」っていうくらい。だって、うん。若干気持ち悪いと思うんですけどね。こんなん言ったらあかんかな、僕。

ハジメ:そういうふうに思ってる人もいるかもしれない。

後藤:そやな。ごめんなさい。でも、僕はね、好きな人とか、尊敬できるような人には、なるべく近づかんようにしてて。そういう人の前だと、やっぱり「好きです」ってめっちゃ言うてまうやないですか。言うてまわんでも、オーラ出してまうとか、誰でもなんかあると思って。そんなんアピールしてる自分が、めっちゃ嫌いなんですよ。いっぺん、気色悪いって言われたこともあるし。そやから、若干トラウマな部分もあって。口に出して直接、「あの歌詞のどこどこが好きです」だけ言われたら、若干引きます。でも、「がんばってください」とか、「好きです」とか言われたら、素直にうれしい。「共感できます」って言われても、なんて言ったらいいのかわからんよ。

―確かに、反応には困るかもしれませんね。

後藤:言いたい気持ちはすごいわかるけど。

ハジメ:たぶん、聴いてる人のほうが、深読みしたりすることもあると思うので、そこから生まれてくる意味っていうのもおもしろいと思うんですけど。

岩見:作った人の手を離れて。

ハジメ:そこはコントロールできないところがあるじゃないですか。特に歌詞はそうなりがちだと思うし。

後藤:僕、CD聴いて、歌詞読んで、ライブで見て思ったこととかって、絶対自分の胸のなかにしまっておいたほうがええと思うんですよね。最近の子、言い過ぎやなぁと思って。なんか、ちょっと。言うのも自己主張なのかもしれんけど、言わんでそれを温めるってことも大事なんよ。

イベント情報
ミドリワンマンツアー2010
『新世界ツアー』

2010年6月11日(金)
会場:札幌cube garden

2010年6月13日(日)
会場:仙台darwin

2010年6月18日(金)
会場:名古屋CLUB QUATTRO

2010年6月19日(土)
会場:大阪BIGCAT

2010年6月23日(水)
会場:福岡DRUM Be-1

2010年6月25日(金)
会場:広島CLUB QUATTRO

2010年7月2日(金)
会場:東京SHIBUYA-AX

料金:3,000円(ドリンク別)
チケットは発売中

リリース情報
ミドリ
『shinsekai』

2010年5月19日発売
価格:2,800円(税込)
AICL-2122

1. 鳩
2. 凡庸VS茫洋
3. さよなら、パーフェクトワールド。
4. メカ
5. スピードビート
6. 春メロ
7. リズム
8. あたし、ギターになっちゃった!!!!!!
9. 鉄塔の上の2人
10. どんぞこ

プロフィール
ミドリ

2003年小銭喜剛(ドラム)と後藤まりこ(ギターと歌)を中心に大阪で結成。ジャズ的要素を盛り込んだサウンドと、後藤まりこの圧倒的なライブパフォーマンスが大きな話題となる。幾度かのメンバーチェンジを経て、2004年にハジメ(鍵盤)が加入、2008年に新ベーシスト岩見のとっつあんが加入し現在の編成となる。ロングヒットとなっているアルバム『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』より2年ぶりとなるフルアルバム『shinsekai』を2010年5月発売。このアルバムを携えて6月11日より全国ワンマンツアー『新世界ツアー』も決定している。



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