かせき×山中瑶子が語る渋谷と映画 『電影交差点』初回をレポート

ひとつの映画を思い出す時、脳裏に浮かぶのはどんなことだろう? 登場人物の台詞や衣装、食事や表情のひとつひとつ。劇中で流れた音楽や、映画館へ行くまでの景色や天気なんかが思い出されることもあるだろう。映画をとりまくそんな広大な情報の海から、毎回ひとつのテーマを抽出し、特別ゲストを招いて語りあうトークイベント『電影交差点』が8月にスタートした。

「映像×異文化」のクロスオーバーを目指して行なわれる同企画の最初のテーマは「渋谷と映画と私」。はっぴいえんどや松本隆を引用したラップで一世を風靡し、「渋谷系」のムーブメントにも身を置いてきたミュージシャン・かせきさいだぁと、1997年に生まれ、第一長編『あみこ』が『ベルリン国際映画祭』に史上最年少で正式招待されるなどの快挙を遂げた気鋭の映画監督・山中瑶子が、渋谷のど真ん中にそびえ立つヒカリエの8F・MADOで邂逅。世代も活動ジャンルも異なりながらも、まるで映画館のロビーでおしゃべりするような雰囲気で、奔放に語り合う2人の会話の一部をお届けします。記事の最後には、2人が「渋谷を生きる人」を想像してセレクトした映画タイトルもご紹介。

ー今回のトークは「渋谷と映画と私」がテーマですが、まずお2人から見た渋谷はどんな印象ですか?

山中:渋谷のイメージは……「自主映画でよくででくるな〜」と思います。

かせき:どういうところが多いですか?使われているのは。

山中:スクランブル交差点ですかね。俯瞰で撮るみたいな。

かせき:それはつまらなそうな映画ですねえ。

一同:(笑)。

山中:まぁまぁ(笑)。だから私は自分の映画では池袋を撮りました。

山中が監督、脚本、撮影、編集を務めた『あみこ』。監督はスタッフとキャストをSNSで探し出し、大学をドロップアウトした後の19歳から20歳の間に独学で同作を作り上げた。

ーかせきさんは、渋谷に来て創作意欲が刺激される場所などありますか?

かせき:創作で刺激されるのは……東急ハンズですかね。東急ハンズは「え?!あれに使える!」の宝庫ですから。階段に一段ずつ、何キロカロリー消費したか書いてあって分かりやすいし。

一同:(笑)。

かせき:東急ハンズ大好き。最近は外国の方とかもよく見かけますね。

ー山中さんはどうですか?

山中:わたしは渋谷TSUTAYAに行く時くらいしか渋谷に来ないんですよ。「世の中にはこんなに映画があるんだな、見切れない」って絶望するのが好きです。ユーロスペース(渋谷にあるミニシアター)とかに映画を観に行ったりもしますけど、とりあえずTSUTAYA。VHSも借りられるので。

かせき:VHS、家で見れるんだ。

山中:見られます。ヤフオクでデッキを買って。DVDだと郵送返却が出来るんですけど、VHSは郵送できないので、毎週渋谷に来るしかなくて。

かせき:持ってたVHS、全部DVDに焼いて捨てちゃったな。それに当時は3倍とかで録ってるから、いま見るとめちゃくちゃ画質が悪くて(笑)。

山中:映画とかも全部それで?

かせき:そう。ビリビリの映画(笑)。でも、いまカセットが若い人に流行ってるみたいに、VHSのファンもつくかもしれないですね。waltz(中目黒にあるカセットテープショップ)みたいに専門店が出来るとか。

彼女の手術前、毎日通った『スターシップ・トゥルーパーズ』

ー渋谷にはお話にも出たユーロスペースなど、映画館も沢山あると思います。お2人の「渋谷と映画」の思い出を早速お伺いしても良いですか?

山中:私は映画を見始めたのが高校2年くらいからで「映画を作ってみよう」と思ったきっかけがアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『ホーリー・マウンテン』(1973年)っていう映画だったんですけど。

かせき:全然知らない!

山中:チリの映画監督の、ちょっとキテレツな映画なんですけど。その監督が2013年に『リアリティのダンス』という新作を作っていて。ちょうど私が日本大学の芸術学部の受験の時にアップリンク渋谷で上映していたので、試験を終えて、観に行きました。

かせき:それで「私、映画の道に行くぜ!」ってなったの?

山中:その前に、もうなってたんですけど。

かせき:すごいな〜。

ー山中監督は長野県のご出身かと思いますが、渋谷で映画を観るのはアップリンクが初めてだったんですか?

山中:そうだと思いますね。

ーかせきさんは渋谷と映画の思い出は?

かせき:ちょっとだけ重い感じの話になりますけど、23、4の時に付き合ってた彼女が倒れちゃって、病院行って検査したら「癌かもしれない」って言われて。手術があと4日後とかで、それまではどうなるかわからない。その間の時間って、何もできないし、考え事しちゃうでしょ? その時にここは映画だと思って。ちょうどその時やっていた『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年 / ポール・バーホーベン)を毎日見に行ってた。あれはもう絶対忘れられない。ポール・バーホーベンに救われました。そのあとも、全シリーズ見てますからね。

ーそういう状態で観る『スターシップ・トゥルーパーズ』ってどうなんですか?

かせき:あれ最低な映画でしょ?(笑)。最低な映画だけど最高でしたね、最低すぎて。救われました。人がどんどんちぎれていくんですよ。それが1997年ですね。

山中:生まれ年です。

かせき:ほんとですか!生まれ年にこんな最低な映画が(笑)。

デートって大変だったんですね。(山中)

かせき:あとは桑沢デザイン研究所へ行く前に一浪して立川美術学院に通って、毎日絵の勉強をしていたんですね。そしたらある日クラスで一番可愛い子に「サボって渋谷に映画見に行こうよ、明日」って言われて。「デートじゃん!」って。立川からかなり長旅な感じでいざ渋谷についたら「トイレに行きたいんだけど」って言われて。僕ってすっごいお腹壊す人だから、どこにトイレがあるのか大体知っているんですよ。昔はコンビニとかが借りられないから。「ここなら東急が近い」って教えたら行って戻ってきた彼女が「お腹が痛いから、もう帰りたい」って言うんです。それでまたおんなじ距離をすっごい長い時間かけて帰った思い出があります。

山中:映画観てないんですか?

かせき:そう。

山中:デートって大変だったんですね。でも結構聞きます、親世代からデートが大変だったって。

かせき:デートって未だにどうしていいかわかんないもん。

山中:でも映画って便利ですよね! 行って観て帰ればいいだけ。

かせき:それでお互いの感想を言うみたいなね。

山中:でも私は感想言わないです。

かせき:なんで言わないんですか? 悪いところしか見つからないから?

山中:感想を言ったり言われたりして、センス次第で不愉快になるから、デートの時は言わないですね。

ー相手がどう思うかとか、気になったりしないんですか?

山中:気にならないです。

かせき:絶対腹が立つから?

一同:笑

ーそもそも山中さんって普段、デートって言葉使いますか?

山中:使いますよ!「デートしたい」とか言います。

かせき:かっこいい! 女の子に「デートしたい」って言われたい。

「渋谷系」とヌーヴェルヴァーグ

ーかせきさんは「渋谷系」のムーブメントの中にもおられたかと思います。「渋谷系」と聞いてまず思い浮かぶのは音楽ですけど、映画やそれ以外のカルチャーとの関わりはどんなものでしたか?

かせき:「渋谷系」は音楽のジャンルというより、それぞれ基本となる生活や映画などの趣味があって、それをひっくるめた状態で音楽をやるというか、そのままの状態でステージに上がるっていうムーブメントだったと思います。だから映画の話で盛り上がったりもするけど、それぞれに観ている映画は違うというか。僕は『スターシップ・トゥルーパーズ』とか『トータル・リコール』(1990年 / ポール・バーホーベン)のようなSF映画が好きだったので、人と合わないタイプでした(笑)。カジヒデキくんとか、ネオアコをやってた人たちはヌーヴェルヴァーグ(1950年代末に始まったフランスにおける映画運動。意味は「新しい波」)とかが好きだったかも。

ーピチカート・ファイヴの小西康陽さんなども、ヌーヴェルヴァーグに精通しているイメージです。

かせき:そうですね。でも僕はやっぱりバーホーベンの方が好きです。

ー(笑)。山中さんはどうですか?

山中:ヌーヴェルヴァーグ好きですね。でも『遊星からの物体X』とかも好きです。

かせき:いいですねえ! 僕はヌーヴェルヴァーグならエリック・ロメール(フランスの映画監督)とか好きですね〜。『海辺のポーリーヌ』(1983年)! すごいエモい気持ちになりますよね。

山中:『海辺のポーリーヌ』でずっと愛について喋ってる禿頭の人がいるじゃないですか? 今ならもしかしたらわかるかもしれないですけど、18くらいの時にあれを観て「フランスは面倒くさそうだな〜」って思いました(笑)。

かせき:僕は「ハゲも色男のジャンルに入るんだ!」って思いましたけど! いいなって思いましたよ、いいお国柄だなって。

—かせきさんはこれまでどのように映画に触れてきたんですか?

かせき:僕が20歳くらいの時は深夜にテレビで毎日映画が流れていて、ヌーヴェルヴァーグの作品とかもガンガン放送されていました。学校の宿題をやりながら観たり。いい環境でしたよ! 今、テレビでやる映画は……。

山中:『サマーウォーズ』(細田守監督、2009年)とか。

かせき:『サマーウォーズ』、何回観たか!

心から好きだったのはヴィジュアル系だけだったな(山中)

ー逆に山中さんは音楽にどんな風に触れてきましたか?『あみこ』の中ではRadioheadが流れたり、同作を坂本龍一さんや向井秀徳さんに絶賛されたりしていましたよね。

山中:小学生の時はビジュアル系が大好きで。the GazettEとかPlastic Treeとか。知ってますか? 化粧に寄りすぎないというか、「The Cureが好きでビジュアル系をやっている」みたいな、割と音楽性重視の人たちに系統していて。どこにも言ったことないんですけど。

ーそこから向井秀徳さんを聴くまでに、どんな経緯があったのか気になります。

山中:「友達のいけてるお兄ちゃんが聴いているもの」みたいな入り方で。銀杏BOYZとかも、ビジュアル系から抜けるきっかけみたいな感じでした。YouTubeを見漁ったりとかは、中学生の時夜中にずっとやっていたので、それも大きいかもしれないです。The Velvet UndergroundとかMy Bloody Valentineもそこで好きになって。Radioheadも大好きでしたけど。人からも影響を受けましたね。

かせき:やっぱり兄弟とか知り合いの影響は大きいですよね。

山中:そうですね。でもビジュアル系を抜けてから、音楽を評価する判断基準が「イケてるかイケてないか」になってしまって。そう思うと心から好きだったのはビジュアル系だけだなって(笑)。

かせき:良いね良いね! そういうもんですよ! 『あみこ』にもビジュアル系が影を落としてるかもしれませんね。

山中:無意識に盛り込まれていたらいいんですけどね!

かせき:美学がね。

山中:ヴィジュアル系のPVはずっと撮りたいなって思ってます。映画監督の中では詳しいと思うので!

かせき:話が来ますよ! これで。こういうので来るんですから!

映画の中のあんな街、こんな街。

—「街が印象的な映画」といって、思い浮かぶ作品はありますか?

山中:『脳内ニューヨーク』(2008年 / チャーリー・カウフマン監督)かな。主人公の劇作家が作中、実際のニューヨークの中にもう一つニューヨークの街を作ろうとするんですけど。まずその企画が通って映画になるアメリカって一体どういうことなんだろうって。

かせき:とてもお金を出してくれるとは思えないようなお話なんだ。

山中:そうなんですよ。あとはニューヨークの街の映像から、カメラをターンすると倉庫の天井が映ったりするのも変な感じで。そういうところが印象に残っています。あとこれは死生観についての映画で。ブラックユーモアみたいな感じで全然笑えなくて。

ー結構切実な映画ですよね……。

山中:そうですね。でもビジュアルは日本の良くない……。

かせき:(笑)。日本って絶対さ、ウケがいいように、ちょっと派手めにするところあるけど、あれ良くないよね。でも、人の紹介してくれる映画って超見たくなる。

—かせきさんは何かありますか?

かせき:『居酒屋ゆうれい』ですね。舞台になる居酒屋とか、その周辺の場所がセットで作ってあるんですけど、その雰囲気がすごく「あの世」っぽいんですよ。

山中:知らなかったです。

ー不気味な街って感じなんですか?

かせき:不気味っていうか、なんかふわーっとした良い雰囲気なんですよ。昼間のシーンはカラッとしているんですが、夜になるとあの世に「ちょっとすいません」ってお酒飲みに行く感じで。あの世にこんな居酒屋があるんだったら死んでも良いよなってくらいの良い雰囲気です。

ー映画って現実にある場所を映す場合もあれば、そうでない場所も映しますもんね。山中さんは映画で撮ってみたい街などありますか?

山中:あまり場所で撮りたいって考えたことは無かったです。でも、レオス・カラックス(フランスの映画監督)が『ポンヌフの恋人』(1991年)の橋を莫大なお金をかけてつくった、みたいなエピソードを持ってると強いなと思います。

『ポンヌフの恋人』予告編。撮影延期によって本物のポンヌフ橋での撮影ができなくなり、忠実なセットを建設。事故や撮影中断も重なり、フランス映画史上最大の制作費がかかったとも噂される。

かせき:そういうのいいよね。黒澤明が「影が薄いから」って家の壁を黒いペンキで塗らせたとか。「あの家邪魔だろ、どけさせろ」って、家ぶっ壊したとかね。

山中:いいですね。でも今やったら本当に怒られちゃいそう。あとは、砂漠で撮りたいって思いました。音楽を坂本龍一さんがやってる、ベルナルド・ベルトルッチの『シェルタリング・スカイ』(1990年)って映画があるんですけど、それに出てくる砂漠が本当に暗くて暗くて。やっぱ砂漠のその、どうしようもなさがいいな。

かせき:「もうどうしようも出来ないからここにいたら」っていう。

山中:そうです、それがなんかいいなって思って。まあ、場所は結構どこでもいいかなと思ってますね。新宿でもいいし。渋谷はちょっと嫌ですけど(笑)。

かせき:俯瞰で撮りましょうよ。

山中:(笑)。宇宙でもいいし。

かせき:おー、宇宙。

山中:どこでも楽しいだろうなとは思います。

「渋谷を生きる人」をテーマに2人が映画をセレクト

最後に、2人が「渋谷を生きる人」をテーマにセレクトした映画をご紹介。ぜひ実際に作品を観て、選出理由に想像を膨らませてみてください。

109に務める店員さんにおすすめ

■かせきさいだぁ:『ミスト』(2007年、フランク・ダラボン監督)
■山中瑶子:『トゥルー・ロマンス』(1993年、クエンティン・タランティーノ監督)、『Somewhere』(2010年、ソフィア・コッポラ)

ラブホ街をさまようカップルにおすすめ

■かせきさいだぁ:『怪獣たちのいるところ』(2009年、スパイク・ジョーンズ監督)、『ムーンライズキングダム』(2012年、ウェス・アンダーソン監督)
■山中瑶子:『ベティ・ブルー』(1986年、ジャン=ジャック・ベネックス監督)、『ラブホテル』(1985年、相米慎二監督)

のんべえ横丁の常連さんにおすすめ

■かせきさいだぁ:『新・居酒屋ゆうれい』(1996年、渡邊孝好監督)
■山中瑶子:『リービング・ラスベガス』(1995年、マイク・フィギス監督)、『リトル・ダンサー』(2000年、スティーブン・ダルドリー)
イベント情報
第1回『電影交差点』

2019年8月6日(火)
会場:東京都 渋谷 MADO
出演:
かせきさいだぁ
山中瑶子

第2回『電影交差点』

2019年11月19日(火)
会場:東京都 渋谷 MADO
出演:
井樫彩
大橋裕之
小山健
料金:1,000円

プロフィール
かせきさいだぁ

‘95年にインディーズ盤『かせきさいだぁ』、翌年メジャー盤『かせきさいだぁ』を発表。音楽以外でも4コマ漫画『ハグトン』を’01年から描き続け、今ではハグトンを題材にしたアート活動にまで表現の場を拡げている。 ‘11年、2ndアルバムリリースから13年ぶりとなる待望の3rdアルバム『SOUND BURGER PLANET』、‘12年9月には矢継ぎ早に4thアルバム『ミスターシティポップ』をリリース。‘13年8月には全曲アニソンカバーアルバム『かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!』をリリース。最新作は‘17年8月にリリースした5年振りのオリジナルアルバム「ONIGIRI UNIVERSITY」。昨年10月にはEテレ「シャキーン!」のシャキーンミュージックに新曲「ミスターアクシデント」の書き下ろしと出演で話題に。ソラミミスト安齋肇 さんとのアートユニット「アンザイさいだぁ」でも活躍中。

山中瑶子

1997年、長野県生まれ。19歳のときに初監督した映画『あみこ』が、第68回ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待される。最新作は山戸結希プロデュースのオムニバス映画『21世紀の女の子』にて、『回転てん子とどりーむ母ちゃん』。

フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie/Drama
  • かせき×山中瑶子が語る渋谷と映画 『電影交差点』初回をレポート

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて