コラム

ビヨンセとJAY-Zによるルーヴル美術館ジャックと「黒人の身体」への眼差し

ビヨンセとJAY-Zによるルーヴル美術館ジャックと「黒人の身体」への眼差し

Frieze編集部
翻訳:新井小百合

美術史上の名作をなぞるだけでない、有色人種の身体についての鋭い眼差し

またひとつポップカルチャーに息を呑むような瞬間が訪れた――ポップミュージック界のパワーカップル、BeyonceとJAY-ZによるThe Cartersがパリのルーヴル美術館で極秘に撮影された、最新アルバムのリードシングル“Apeshit”のMVを公開したのだ。

2人はロンドン公演でワールドツアーの幕を開けたと同時に、その週末にアルバム『Everything Is Love』をリリースし、ファンに衝撃を与えた。しかしあわせて公開されたMVはさらなる波紋を呼んだ。シンクロしたダンスのシーケンスや、長いパンショットを通して、6分間の映像全編でルーヴル美術館の名作を映し出す本作は、単に美術史上のグレイテストヒッツをなぞるだけでなく、西欧の文化的規範において有色人種の身体が隅に追いやられてきたことについての深い政治的な視点が込められている。

BeyonceとJAY-ZがThe Cartersとして発表した“Apeshit”のMV。全編にわたってルーヴル美術館で撮影

『モナ・リザ』や『サモトラケのニケ』『ミロのヴィーナス』など、美術史上のマスターピースが次々登場

監督はSupremeの共同デザイナーでもあるリッキー・サイズ。映像はルーヴル美術館の館内と広場を映し出し、しきりに展示作品(さらにはルーヴルというエリート機関)が白人の、主に男性の才能のみを賞賛していること――そして作品の下で展開される有色人種のダンサーによる振付に注意を引きつける。『Apeshit』の映像は、シルク調のパステルグリーンとピンクのスーツを着たJAY-ZとBeyonceがレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』(1503–06年)の前でポーズをとっている場面から始まる―『モナ・リザ』は、アフロコームで男性の髪を梳かす女性の背後など、ビデオの中に繰り返し登場する。またジャック=ルイ・ダヴィッドの『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』(1805–07年)の前でダンサーたちがラインを成すシーンでは、絵の中の皇后の王冠がちょうどBeyonceの頭上にある。

“Apeshit”を収録したアルバム『Everything Is Love』ジャケット。男性の髪をとかす女性の背後に『モナ・リザ』が見える
“Apeshit”を収録したアルバム『Everything Is Love』ジャケット。男性の髪をとかす女性の背後に『モナ・リザ』が見える

ナポレオンの宮廷画家であったダヴィッドの作品は映像の至る所で引用されている。『ホラティウス兄弟の誓い』(1784年)や『サビニの女たち』(1799年)といった作品もそうだ。パリ社交界の著名人を描いた絵画『レカミエ夫人』(1800年)を映したショットでは頭に布を巻いた2人の黒人女性が作品の下に座っている。

『レカミエ夫人』の前に座る、頭に白い布を巻いたダンサー

映像は、たびたび登場するギリシャの大理石像『サモトラケのニケ』(紀元前190年)や古代エジプトのスフィンクス(紀元前2600年)、作品の前でヌードカラーのボディスーツに身を包んだBeyonceが体を揺らす『ミロのヴィーナス』(紀元前100年)など数千年前のマスターピースを映し出す。また、荘厳なアポロンのギャラリーの天井から、1989年に完成したイオ・ミン・ペイのデザインによる、しばしば議論を呼ぶピラミッドの広場まで、美術館の建築の細部までもじっくりと見せている。

印象的に挿入される女性画家によって描かれた黒人女性の肖像画

Beyonceが <I can’t believe we made it(訳:私たちが成し得たなんて信じられない)>と歌うところでカメラはその他の名作の数々を眺める。セネガルの沖合で船が難破し、もがき苦しむフランス兵の姿を描いたテオドール・ジェリコーによる『メデューズ号の筏』(1819年)や、最も興味深いものではマリー・ギエルミーヌ・ブノワの『黒人女性の肖像』(1800年)が含まれる。

輪っかのイヤリングをつけて頭には白いスカーフを巻いた名もなき黒人女性の意味深なこの肖像画(映像では女性の裸の胸が露わになっている)は、 ルーヴル美術館のコレクションの中でも珍しいもので、フランスの最初の奴隷制度廃止後に女性によって描かれた作品であり、画面には有色人種の人物ただ1人が描かれている。映像は最後に再び『モナ・リザ』に戻り、BeyonceとJAY-Zはカメラに背を向けて作品と向かい合う。

美術史的な規範と、有色人種の位置づけを考察する力強い声明

2人がルーヴル美術館の絵画の前でポーズをとるのはこれが初めてのことではない。過去には2014年10月にアーティストのエイウォル・エリックによって美術館のコレクションと共に撮影された2人と娘のブルー・アイビーの写真が公開されている(その作品の多くがMVにも再び登場している)。そして2人がギャラリーを撮影場所に選んだのも初めてではない。2013年に発表されたJAY-Zの “Picasso Baby”のビデオは、ニューヨークのペース・ギャラリーで撮影され、アート界の著名人と共にマリーナ・アブラモヴィッチが出演している。

BeyonceのInstagramより2014年の投稿。上は『モナ・リザ』の前でポーズをとるBeyonceとJAY-Z

しかし、美術史的な規範と、その中における有色人種の位置づけを考察する今回の映像は、カーター夫妻による最も力強い声明である。Beyonceは2017年のニューヨーク・タイムズのインタビューでこう述べている。「私の母にとって、私たちをアフリカやアフリカン・アメリカンのアートのポジティブで力強いイメージに触れさせ、私たちが自分たちをその中に見出せるようにすることは重要だったのだと思います」

ルーヴル美術館は世界で最も来館者数の多い美術機関のひとつだ(昨年だけで810万人が来館した)。BeyonceとJAY-Zの2人は5月になって初めて映像のアイデアを提案してきたそうだが、美術館側は作品には満足しているという。「スケジュールはタイトでしたが、プロジェクトの概要からは美術館と作品への深い敬意が感じられ、とても印象深かったので、私たちもすぐに賛同しました」と話す。なお美術館は今回2人にいくらで美術館を貸したか明らかにしていないが、同館では年間500件ほどの映像制作が行なわれており、1件につき約17,500ドルの費用がかかっている(『ワンダーウーマン』『スマーフ2 アイドル救出大作戦!』などの映画が以前に明かしている)。

ルーヴル美術館のInstagramより。「素晴らしいコラボレーションであり、美術館にとっても素敵な記念だ」と綴られている。

※この記事はFrieze.comからの翻訳記事です。オリジナル記事はこちら。(This article originally appeared in Frieze.com. Translated with permission from the original site of publication. You can access to the original article here.)

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