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Fanfare Ciocarlia来日。世界最速ジプシーブラスから歴史を学ぶ

Fanfare Ciocarlia来日。世界最速ジプシーブラスから歴史を学ぶ

『ジャズ・ワールドビート2019』
テキスト
柳樂光隆
編集・リードテキスト:矢島大地(CINRA.NET編集部)

ロマ音楽をベースに、世界中の土着的な文化を吸収してきたFanfare Ciocarlia

ここからはFanfare Ciocarliaの音楽について解説していこう。彼らはチョチョクと呼ばれるロマの音楽をベースにした音楽を演奏している。ロマはアジアから中東、ヨーロッパへと大陸を跨いで移動しながら、その土地の文化を吸収し、また別の土地へと移動してはこれまでに赴いてきた土地の文化を届けていて、文化の媒介者的な存在にもなっていた人達で、ヨーロッパの音楽の豊かさに大きく貢献している。

2014年の来日公演
2014年の来日公演
Fanfare Ciocarlia『Gili Garabdi』を聴く(Apple Musicはこちら

つまりロマが運んできたインドからトルコ、東欧から、バルカン半島までの様々な要素が入り混じっているFanfare Ciocarliaの音楽はルーマニアの音楽でも、東欧の音楽でも、ヨーロッパだけの音楽でもなく、ユーラシア大陸の音楽と呼んでもいいようなスケールのものと言っていい。これまでに取材してきたヨーロッパのジャズミュージシャン達が幾度となく僕にロマの話をしてくれた。「ここにこういう音楽があるのはロマが運んできたからだ」と。

例えば、Fanfare Ciocarliaの音楽を聴いていると、そもそもトルコ由来のブラスバンド形態であるわけでどこか中東やアジアのような旋律を感じたりもする。その中にはインドやパキスタンの音楽のような雰囲気があったりもするのだが、その影響も認められていて、それも大陸を通じてロマが運んできたものなのだろう。

Fanfare Ciocarliaを追った2002年製作のドキュメンタリー映画『炎のジプシーブラス 地図にない村から』で使用されたビジュアル。こうして旅をしながら音楽を鳴らし続けている
Fanfare Ciocarliaを追った2002年製作のドキュメンタリー映画『炎のジプシーブラス 地図にない村から』で使用されたビジュアル。こうして旅をしながら音楽を鳴らし続けている

実はFanfare Ciocarliaが出てきた1990年代はロマの音楽が注目された時期でもあった。1989年に東西の冷戦が終わったのがきっかけで東西の交流が再開され、西側のプロデューサーが東側に立ち入れるようになったことや、東側のジプシー音楽家が西側に出て演奏できるようになったことで、西側のロマの存在が知られるようになったというのがこの時期にロマが注目されるようになった理由のひとつだ。

例えば、ルーマニアのクレジャニ村のロマによるバンドのTaraf de Haidouks(タラフ・ドゥ・ハイドゥークス)もそのひとつ。デビュー作は1991年にベルギーのクラムドディスクからリリースされていて、1993年のジプシー音楽の映画『ラッチョドローム』によりヨーロッパで広く知られるようになった。ただアメリカのノンサッチからリリースするようになった1999年の『Taraf de Haidouks』や2001年の『Band of Gypsies』で広く知られるようになったという意味では、Fanfare Ciocarliaやクストリッツァと同時代に世界的な成功を収めている。こちらはブラスバンドではなく、それぞれ複数のバイオリンとアコーディオンによる編成だが、その音楽を聴けばFanfare Ciocarliaと通じるようなヨーロッパ大陸を移動してきた末に東欧に辿り着いたのがわかる旋律が聴こえる。

また1999年にはジャズに精通していることでも知られる名監督ウディ・アレンによる映画『ギター弾きの恋』が公開された。

ギタリストのジャンゴ・ラインハルトで知られるロマによるジャズと言ってもいいジャンルのマヌーシュ・ジャズ(ジプシージャズ)のギタリストを主人公にしたこの映画がきっかけで、マヌーシュ・ジャズやジャンゴ・ラインハルトが注目を集め、過去の作品がCD化されたりもしていた。EGO-WRAPPIN'の2000年のヒット作『色彩のブルース』には歌詞にジャンゴ・ラインハルトが登場する“GIGOLO”という曲があったりもした。2003年にはジャンゴ・ラインハルトとマヌーシュ・スウィングをテーマにしたフランス映画『僕のスウィング』が公開。90年代後半から2000年代前半はマヌーシュ・スウィング再評価の時期でもあったのだ。

EGO-WRAPPIN'『色彩のブルース』を聴く(Apple Musicはこちら

ジプシーブラスに限らず、様々な形でロマの音楽への関心を煽る出来事が同時多発的に起きていたのが1990年代の後半だった。その時期のトピックのひとつとしてFanfare Ciocarliaのブレイクもあったのだ。

映画『炎のジプシーブラス 地図にない村から』の一幕。小さな村の中でそれぞれに楽器を修繕・構築。そこから世界中を渡る音楽の旅が始まっていった
映画『炎のジプシーブラス 地図にない村から』の一幕。小さな村の中でそれぞれに楽器を修繕・構築。そこから世界中を渡る音楽の旅が始まっていった

その機動力の高さと音楽性によって世界史と接続してきたジプシーブラス

再び、ジプシーブラスの音楽性に話を戻そう。ジプシーブラスに関しては、軍楽隊がルーツにあるブラスバンドのフォーマットで、パーカッションや太鼓はあるものの、ドラムセットやベースがいなくて、その代わりに低音部分をバリトンサックスやチューバといった管楽器がベースライン的な役割を果たすという意味では、ルーマニアとは遠く離れているがアメリカ南部のニューオーリンズのブラスバンドとも共通している。

2011年のFanfare Ciocarlia。その編成の特徴がわかりやすく確認できる
2011年のFanfare Ciocarlia。その編成の特徴がわかりやすく確認できる

ジャズを生んだ土地でもあるニューオーリンズのスタイルでもあるブラスバンドは古くはチューバ、その後はチューバを改良したスーザフォンが低音を担当する。そして、Fanfare Ciocarliaのようなジプジーブラスと同じく機動力が高いニューオーリンズのブラスバンドもまたその地域で葬送の音楽を担当していて、「ジャズ・フューネラル」という葬送のパレードの際にブラスバンドが演奏するのはよく知られている。

これを遡るとニューオーリンズが17世紀からフランスの植民地だった時代があることなどがルーツにあり、ニューオーリンズに関してはカリブ海に面していたこともあり、アフリカから連れてこられた黒人奴隷達がカリブ海の島々に連れていかれ、そこで独自の進化を遂げたラテンのリズムの影響が入っていることがルーマニアのブラスバンドとのわかりやすい違いだろうか。そうやって、ブラスバンドという形態をひとつとっても世界史と繋がっていて、様々な地域の様々なジャンルと結びつていていく。つまりブラスバンドという形態そのものがミクスチャーとしての条件を内包しているのだ。

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イベント情報

『ジャズ・ワールドビート2019』

2019年7月6日(土)
会場:東京都 めぐろパーシモンホール
出演:Fanfare Ciocarlia、ジェントル・フォレスト・ジャズバンド、たをやめオルケスタ、他

『大ブラス・フェスティバル!』

2019年6月30日(日)
会場:神奈川県 よこすか芸術劇場
出演:Fanfare Ciocarlia、ジェントル・フォレスト・ジャズバンド、たをやめオルケスタ、他

来日ツアー『Fanfare Ciocarlia』

ゲストダンサー:Nourah(7/8大阪公演を除く)

2019年6月29日(土)
会場:千葉県 船橋市民文化ホール

2019年7月2日(火)
会場:宮城県 えずこホール

2019年7月4日(木)
会場:東京都 武蔵市民文化会館

2019年7月7日(日)
会場:愛知県 穂の国とよはし芸術劇場プラット

2019年7月8日(月)
会場:大阪府 Billboard Live OSAKA

2019年7月9日(火)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
※完売

プロフィール

Fanfare Ciocarlia
Fanfare Ciocarlia(ふぁんふぁーれ ちぉかりーあ)

ルーマニア北東部の寒村ゼチェ・プラジーニ出身。映画『アンダーグラウンド』(1995年カンヌ映画祭パルムドール)や『黒猫・白猫』(1998年ベネチア国際映画祭銀獅子賞)で注目されたジプシー・ブラス・スタイルで、伝統音楽からポピュラー音楽までを、強烈な疾走感・壮快感に満ちた演奏を聴かせる。2000年に初来日を果たし、2014年には『FUJI ROCK FESTIVAL』にも出演した。2019年6月末から6度目となる来日ツアーが予定されており、7月6日には『ジャズ・ワールドビート2019』、6月30日は『大ブラス・フェスティバル!』にも出演する。

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