コラム

『私たちの青春、台湾』が映すもの 理想を人に押しつける我々の姿

『私たちの青春、台湾』が映すもの 理想を人に押しつける我々の姿

テキスト
中山治美
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

※本記事は作品のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。

決定的瞬間を撮り逃がす。「失敗」したドキュメンタリー

「ひまわり運動」は中国語で「太陽花學運」と表記される。名称は、立法院議事堂を占拠している学生たちに支持者からひまわりの花が届けられたことに由来するという。本来、中国語表記は日本と同じ「向日葵」。そこをあえて「太陽花」と使っているのは、騒動の発端となった立法院で強行採決された台中間の「サービス貿易協定」に異議を唱え、「ブラックボックスに光を差し込む」という意味が込められている。さらにもう1つの意味があったように思う。彼らは院内の様子を随時メディアや動画配信サイトを通して生中継し、自分たちの言動をもカメラの前で詳らかにした。主たる目的は自分たちの主張を広める広報手段だったと思われる。だが結果的に中国共産党の影響を色濃く受けた政界の古狸との差別化、自分たちの覚悟と決意の表明、さらには院外にいる人たちとの連携を強めた。IT時代の、メディアの効力を生かした市民運動の到来を実感したものだ。

『私たちの青春、台湾』 ©7th Day Film All rights reserved 2017
『私たちの青春、台湾』 ©7th Day Film All rights reserved 2017

彼らの行動は、多くのドキュメンタリストたちの心も動かした。その代表が独立系映像制作者の労働組合である「台北ドキュメンタリー・フィルムメーカーズ・ユニオン」のメンバーで、立法院占拠からの24日間を9人の監督たちが様々な角度から現場を見つめて1本の作品『太陽花占拠』(2014年)を発表した。歴史的な事実を記録し、検証する材料とすることがドキュメンタリーの使命であるとするならば正攻法の作品だ。だとするならば、傅楡(フー・ユー)監督『私たちの青春、台湾』は、「失敗作」と言えるかもしれない。学生運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)と、天安門事件に影響を受けて台湾の社会運動に参加する、人気ブロガーの中国人留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)を通して、社会が変わるかもしれない瞬間を自分のカメラで全て収めたいという思いから撮影を始めた。にもかかわらず、致命的なミスを犯す。立法院占拠をそれまでにも何度か試みていた陳の手法に疑問を抱いたことから、多忙を理由に距離を置き始め、あろうことか2014年3月18日の立法院突入成功の瞬間、その場にいなかったのだ。だから本作では、他者の映像を借りて使用している。劇中で監督自身も後悔の念を口にしているが、ドキュメンタリストとして「撮り逃した」という事実は屈辱以外の何物でもないだろう。

左から、中国人留学生の蔡博芸(ツァイ・ボーイー)と、ひまわり運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)/ 『私たちの青春、台湾』 ©7th Day Film All rights reserved 2017
左から、中国人留学生の蔡博芸(ツァイ・ボーイー)と、ひまわり運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)/ 『私たちの青春、台湾』 ©7th Day Film All rights reserved 2017
映画『私たちの青春、台湾』予告編

英雄たちを作り上げようとした、ドキュメンタリストのエゴ

だが変わって本作は、「罪」とか「罠」のほうを浮き上がらせた極めて興味深い作品となった。本作は傅監督の「ひまわり運動」を回想するモノローグから始まる。そう、本作は「ひまわり運動」を通して味わったドキュメンタリストの葛藤を描いた作品であり、傅監督のセルフドキュメンタリーと言っても過言ではない。

ドキュメンタリーの概念については、『A』(1997年)や『i ー新聞記者ドキュメントー』(2019年)で知られる森達也監督が、著書『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)で次のように鋭く指摘して、大いに話題になった。ドキュメンタリーは事実の客観的な記録だと認識されているが、全ての映像は撮り手、あるいは制作者の主観や作為から逃れることはできないのだと。ドキュメンタリーと言えども、製作者はある程度のシナリオを思い描き、編集で作為的に自分の主張を込めることも可能だ。

本作の傅監督も、陳たちが起こした学生運動に自分の夢を載せ、ヒーロー、ヒロインの誕生を魅せる英雄伝を想定していたのだろう。しかしそれは陳との活動理念の相違、さらには陳のスキャンダルの発覚、中国出身の蔡を通して知った思った以上に根深い台中問題という現実に阻まれ、どんどんシナリオは脱線していく。予期せぬ事態はドキュメンタリーにとっては「おいしい」エピソードのはずだが、被写体との距離と思い入れが近すぎてしまって対応できなくなってしまったのだろう。それがラストに監督が行った、陳と蔡を前にしての告白へと繋がる。

傅楡(フー・ユー)監督
傅楡(フー・ユー)監督

その詳細は映画を見てのお楽しみではあるのだが、要は2人に期待していたものの、なにも変革を起こせなかったじゃないかというあまりにも正直な、ドキュメンタリストのエゴ丸出しの内容である。そんな監督を前にして、時代の寵児となった陳と蔡の苦悩も露わになる。陳は、学生運動の神として祭り上げられる状況に恐怖すら覚えて、自ら過去の過ちを告白して傅監督を含めてメディアが作り上げたサクセスストーリーを打ち壊す。蔡に至っては傅監督にキッパリと「監督の期待を個人に背負わされても困る」と告げる。

『私たちの青春、台湾』ポスター / ©7th Day Film All rights reserved 2017
『私たちの青春、台湾』ポスター / ©7th Day Film All rights reserved 2017(公式サイトを見る
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作品情報

『私たちの青春、台湾』
『私たちの青春、台湾』

2020年10月31日(土)からポレポレ東中野ほか全国で順次公開

監督:フー・ユー
主題歌:ヤン・イーアン“我們深愛的青春 Our Beloved Youth”
出演:
チェン・ウェイティン
ツァイ・ボーイー
上映時間:116分
配給:太秦

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