クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート

クラヤミ食堂で、こどもごころがよみがえる!?

せわしない毎日を送る中で忘れてしまっているもの・・・そんなベタベタなフレーズをある程度飲み込んで、「今はそれどころじゃないんだ」と言い聞かせて前に向かって走り続けてみる。もしくは、何らかの理由をつけて、忘れてしまったことを正当化してみる。でも、やっぱりモゾモゾと残ってしまう、あの頃のワクワク感やドキドキ感。

そんな「こどもごころ」を大人に提供し、もっと楽しい毎日のきっかけを提供しているのが博報堂「こどもごころ製作所」。様々な活動を行っているこの製作所のイベントのひとつが、年に数回開催している『クラヤミ食堂』である。目隠しをして、真っ暗闇の中で、見知らぬ人とフルコースの食事を共にするという企画だ。この食堂、一回あたり数日しか開店しないのだが、予約を開始するとすぐに満席になるほどの盛況ぶりなのである。今回は、そんなクラヤミ食堂の宇宙の旅を徹底レポート!

こどもごころ製作所 クラヤミ食堂

クラヤミの中へ・・・

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート

7月某日、赤坂の路地を1つ入ると、「クラヤミ食堂」という看板の下に多くの男女が群がっていた。年齢は20代から50代くらいと幅広く、この不思議な食事会に胸を躍らせて、自分が入店する番を待っている。いよいよ自分の名前が呼ばれ、ドキドキしながらも、入り口から1つ入った空間に入ってみる。奥は黒いカーテンで閉ざされており、レストランの様子はわからない。そこで早くも目隠しを装着。ガイドの人が手をとってくれて、奥のレストランに案内してくれる。暗闇の中誘導されるというのはそうそうない経験で、早くもちょっとビビる。「大丈夫ですよ」とオトナを装いつつ、ガイドさんにいらぬ会話をもちかけて、不安を解消してみる・・・。

自分の周りに人がいるのかもわからない!

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート

席に着くと「テーブルの上に紙ナプキンがありますのでつけておいてくださいね」と言われ、「え、どこですか?」と返す前に、ガイドさんは立ち去ってしまった。そうだった、もうクラヤミ食堂ははじまっているんだ・・・。

目の前のテーブルっぽいものに手をのばすと、確かに紙っぽいものが置いてあって、どうやら紙ナプキンっぽい。広げてみると、ヒモっぽいものがあったので、首に回してくくりつける。モノが見えないと、全部「〜〜っぽい」と予想しながら動くしかないから、普段の何気ない行動ですら、全神経を必要としてしまって、かえってそれが新鮮だ。

レストランには、続々と人が入ってきているらしく、イスを床にひきずる音が聞こえる。でも、自分の前に人がいるのか、左にいるのか、右にいるのかさえもわからず、ちょっとおぼつかない……。

するとしばらくして、こういうのは元々の性格が出てくるのか「あのぉ、ワタシの近くに誰かいますか?」と女性が口火を切った。「あ、いますいます、たぶん、あなたの前に座っています」と男性。「あ、ワタシその隣です」と別の女性。そんな具合で、それぞれのテーブルから徐々に会話が生まれてくる。どうやらこのテーブルには8人が座っているようだ。

耳しか頼りにできない分、自分の存在を知らせるために、誰もが口を開く。「なんだか不思議な空間にいますよね」という連帯で、普段ではありえないほど饒舌になり、時にはお互いの手を取り合って、存在を確かめ合ったりする。

宇宙旅行スタート!

テーブルに着いたメンバーが会話をしていると、「ようこそみなさま!」と声がかかった。今回のクラヤミ食堂のテーマは宇宙。みんなで宇宙旅行をしながらフルコースの料理を楽しむというものなのだ。

「間もなくみなさんの乗っている宇宙ロケットが発射しますので、カウントダウンと同時に乾杯をしましょう!」

と隊長(勝手に命名)から呼びかけが。

「スリー、ツー、ワン、ゼロ!」

ゴゴゴーーーーー

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート
撮影:大久保 聡

会場のスピーカーから大きなロケット発射音が響く。そこでみんなで乾杯。それぞれが持ったシャンパングラスを、相手がどこにいるのかを手で確かめ合いながら、おぼつかない手つきでグラスをつき合わせる。真っ暗闇の中で、宇宙飛行士たちが会話している音声を聞いていると、本当にどこかにこれから連れて行ってもらえるような気がしてくる……。そこで、一品目が登場!

気づくと、自分の席にお皿が置かれていた。「あ、お皿が置いてある!」「ほんとだ!」と、ひとまず手探りでこの料理が一体何なのかをみんなで調べ始める。

「なんだこれ?」
「なんか固いね」
「貝じゃない?」
「あ、カキですよ、これ、カキ」
「うわ、すごいおいしい〜」

触覚と聴覚と味覚で、「見えない心地よさ」が少しずつ生まれ始めてくる。

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート
撮影:大久保 聡

隕石と衝突!

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート

次々に料理が運ばれてきて、たいそう豪華で素敵な盛りつけなんだろうけれども、素手で食べる人も多い……。目隠しを外したら「なんと野蛮な」となるのだが、フォークとナイフではラチがあかないから、一つひとつたしかめながら、テーブルのメンバーとワイワイキャピキャピしながら食事を楽しむ。それにしても、目が見えない分味覚が敏感になるのか、一つひとつの料理が本当においしい。そんなこんなで楽しんでいると、突然サイレンが!

「みなさん大変です! 隕石とぶつかってしまいそうです。少し揺れてしまうので、手をイスの後ろ側で組んでください!」と隊長から指令が。「なんだなんだ」とざわつく中、突然テーブルがドンと大きな音をたてて揺れた。

「もう大丈夫です。でも、みなさんのテーブルに隕石が落ちてしまったようなので、さわって確かめてください」

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート
撮影:大久保 聡

手をとり合ってみんなで確かめてみると、たしかに隕石が! ものすごく冷たい石がたくさんテーブルに散らばっているようだ。「あ、なんか丸いカプセルっぽいものがありますよ!」と男性が言うと、たしかに隕石に紛れて、ガチャガチャのようなカプセルがあることを発見。開けてみると、なんとひんやりしたクッキーが。心躍る演出に、「やるじゃーん、隊長〜」などと、口々に好き勝手な発言が飛び出す。

え!? みんなの顔見られないの?

デザートまで食べ終える頃には、お互いがどんな人で、きっとどんな顔をしているんだろうというイメージが勝手につくられていて、文字通り見知らぬ人なのに、昔から友達だったかのような不思議なつながりができあがっている。

「本日はみなさん楽しんでいただけましたでしょうか?」

隊長の問いかけに一同盛大に拍手。

「ありがとうございます。では最後に、みなさんのテーブルに紙とペンを置いたので、今日の感想を書いていただければと思います。もちろん、目隠しはしたままですよ。」

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート

「ありがとうございます。では、これからガイドがみなさんを順番に外へお連れしますのでお待ちください」。

「え!? みんなの顔見られないの? 外に出たらわからなくなっちゃうじゃない」

テーブルからはあたふたした声が。ここまで仲良くなった仲間の顔が見れないまま終わってしまうなんて、ちょっともったいない気もする。でも同時に、騒々しい現実の世界ではもうこんなに仲良しではいられないんじゃないかとも思ってしまう。すると、「じゃあ、みんなにあだ名つけて、外で集合しましょうよ」と女性が提案してくれた。8人のメンバーは、外で会う約束をした。

1人ずつテーブルを後に、レストランを出て行く。よく話しをして、テーブルを盛り上げていた女性がいなくなると、急に周りは静かになって、ちょっと寂しくなってくる。

「なんだかもうお別れになるなんて、信じられないですよね」

こんな言葉は、アツアツの恋人同士だけで、見知らぬ男女や熟れきった夫婦では決して出てこない。目が見えないという状況はそういう意味でもドキドキしっぱなしなのだ……。

外に出ると、光に慣れていないせいか、クラクラする。久しぶりの視界で、体もびっくりしているみたいだ。そんな中、テーブルのメンバーたちと集まって、「なんかもっと大人っぽい人を想像してた」だとか「イメージ通りで逆に恐いわ」など、もはや何年か付き合ってきたかのような図々しさで、お互いの印象を話し合った。

別れ際、「それじゃあまた!」と次に会う約束なんてないのに、ついそんな言葉が出てしまって、なんだかこどもの頃に感じていたような甘酸っぱい感情を後に、帰路に着いた。

クラヤミだと、仲良くなれる

クラヤミ食堂宇宙編 体験レポート

目が見えない状況の中にいると、自然にみんなが口を開き、手を取り合って、表情が見えない分大きな声で話しをして、仲が良くなる。この人と人との距離の近さと暖かさは、やっぱりオトナがいつの間にか「忘れてしまったもの」だったんじゃないかと思う。

街中や電車の中で、こんなにも密接にものすごい数の人と生活しているのにお互いに無関心でいるぼくたちにとっては、クラヤミ食堂は「見えないからおいしい」だけじゃなく、やっぱり「こどもごころ」を取り戻してくれる場所なんだろう。

目から得られる情報が多くなればなるほど、「わからない」という状況がなくなって、わかっちゃうから「人に聞く」という状況がなくなって、いつの間にか人とのコミュニケーションが少なくなって、億劫になったり、ちょっと引いてみたりするようになってしまった。この代償は意外にも大きく、無意識にぼくたちの毎日に重くのしかかっているような気がする。クラヤミ食堂は、なんだか気が抜けてラクチンで、ドキドキワクワクなレストランだった。

こどもごころ製作所 クラヤミ食堂



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