ギレルモ・デル・トロ監督の最新作『フランケンシュタイン』が10月24日から一部劇場で、11月7日からNetflixで配信がスタートする。
小説家メアリー・シェリーの名著として知られ、数々の創作に影響を与えてきた『フランケンシュタイン』。『パンズ・ラビリンス』や『シェイプ・オブ・ウォーター』などを手がけ、さまざまな「クリーチャー」を愛してきたデル・トロ監督が実写映画化した。
公開に先駆けて東京・お台場で9月24日、ジャパンプレミア上映会が開かれた。約7年ぶりの公式来日となったデル・トロ監督が登壇し、長年の友人であるゲームクリエイターの小島秀夫とのトークイベントも行われた。
本作について「とても個人的でパーソナルな作品」と語るデル・トロ監督。いま、『フランケンシュタイン』を実写化したのはなぜだろう? また小島はフランケンシュタインの怪物を「まるで現代アートのように美しい」と評したが、そのデザインの意図とは? 今回は、トークの内容を詳報する。
あらすじ:アカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロがメアリー・シェリーの名作古典を映像化。優秀だが傲慢な科学者ヴィクター・フランケンシュタイン博士は、恐ろしい実験によって怪物に命を吹き込むことに成功する。しかし、博士と悲劇の怪物を待っていたのは破滅への道だった。
フランケンシュタインを「父と子」の物語に昇華する
ジャパンプレミア上映会には、470人の観客が集まった。本編上映後、大きな拍手と歓声に包まれてギレルモ・デル・トロ監督と小島秀夫が登壇。まずは挨拶として、デル・トロ監督が「長年、この作品をつくりたいと願っていました」と口火を切った。
「カトリック教徒の少年として、自分がこの世界でどういう立ち位置にあるのか。また、息子として、そして父親としての自分の思いをこの作品で描いています。とても個人的でパーソナルな作品になっていますので、皆さんと共有できることがとてもうれしい」
また、映画が完成した感想を問われたデル・トロは「子どもに命を吹き込んでこの子を産み、その子どもが学校に通い始めて、いまは家に帰ってくるのを待っているような感じですね」と笑ってみせた。

小島秀夫はまず「デル・トロ大好き小島でございます」と元気よく自己紹介したのち、『フランケンシュタイン』というテーマについて語った。
「フランケンシュタインは、特撮でつくられたものとテーマがよく合うんですね。(僕と)デル・トロ監督とは死生観、ヒーロー観が一緒ですから、一人のデル・トロ監督ファンとして、彼が究極のフランケンシュタインをつくることが非常にうれしいです」

そして、『フランケンシュタイン』試写の感想を問われ、小島はこう語った。
「これまでたくさんの『フランケンシュタイン』を見てきましたけど、美しくて、ちょっと変で、すごく優しい映画でした。前作の『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』もそうでしたけど、驚いた。率直に言うと、フランケンシュタイン博士によってつくられたもの(モンスター)との関係を、父と子の関係として昇華したのが、なかなかない作品で、そこにびっくりしました。
(劇中で)視点が変わりますよね。(僕は)『フランケンシュタイン版羅生門』と呼んでますけど(笑)。それが非常にうまくて。神に逆らって、生物をつくる者とつくられた者の悩みがあり、この二者の視点を通すことで、フランケンシュタインの物語に——僕は原作を読んでいますが——いままでは見えなかった部分が出てきたので、さすがはデル・トロ監督という感じで、すごく良かったです」
それを受けてデルトロは「『—ピノッキオ』と『フランケンシュタイン』は、同じ物語の二つの側面であると捉えています。私たちは誰かの息子であり、そして気づかないうちに何かの父親になるということ。そして、ゆくゆく父になったあとには、許しを乞うたり、また受け入れたりするということを描いています。この作品のなかでも、そういった側面が私にとってとても大切なものだったんですね」と語った。

Netflix映画『フランケンシュタイン』
私のイエス・キリストはモンスターたちであり、自分自身も怪物だと感じていた
さらに話題はデル・トロと『フランケンシュタイン』の出会いと、「長年つくりたかった」という思いの部分へ。映画化の経緯を問われたデル・トロはこう語った。
「フランケンシュタインとの最初の出会いは、ボリス・カーロフが演じる『フランケンシュタイン』(1931年)でした。当時、私の故郷では毎週日曜日、一日中ホラー映画が放送されていたんです。だから私は、教会に行ったあとはホラー映画漬け、という日々を送っていましたが、7歳の自分はとても混乱したんですね。
モンスターたちを見て、私のイエス・キリストは彼らである、というふうに思ったんです。そして、私自身がその怪物でもあると感じました。
自分自身が奇妙な男の子だったから、理解されないモンスター / 怪物は、本当に私のようだと思ったんです。大人の世界が完璧を求めるなかで、私は怪物のような不完全な姿に、美しさ、素晴らしさを感じたんです。
その後11歳のときに原作を読んで、誰もこの物語の精神を映画として正しく描いていないと思いました。40代になり、自分が子どもを持つようになって、父子関係の物語でもあると考えました。人間というのは、自分の父親のようには絶対になりたくないと思いながらも、気がつくと父親のようになってしまっているものですよね。私はそれに44、45歳ぐらいのときに気づいて……このような経緯があって、長い旅となりましたね」

Netflix映画『フランケンシュタイン』
続けてキャスティングについて問われたデル・トロはまず「役者は仕事の8割を占めてくださる。いいキャスティング、いい役者を集めることができれば、本当に伝えたいものが観客に伝わります。作品が国であれば、役者たちはその大使という立場ですね」と話しはじめ、それぞれのキャストについて語った。
「ジェイコブ・エロルディ(怪物役)は、制作の遅い時期に参加してくださったんです。もともとは別の方が配役されていたんですが、ロサンゼルスのストライキなどの影響でスケジュールに不都合が生じて、彼に引き受けていただくことになりました。
彼の目を見たときに、本当に完璧な怪物として演じてもらえる人だと思いましたし、ジェイコブ本人から「自分はまさにこの怪物だ」と言われたんです。彼は怒りをちゃんと表現できる役者です。『プリシラ』でエルビス・プレスリーが怒っているような状況も演じられて、一方でほかの作品での優しさも拝見していたので、素晴らしい役者だということが分かっていました。
オスカー・アイザック(フランケンシュタイン博士役)との相性も完璧でした。オスカー自身は、良い人であり悪い人である役を同時に演じてくださっている素晴らしい俳優です。
ミア・ゴスも素晴らしかった。ぜひまた一緒に仕事をしたいと思う俳優さんですね」

Netflix映画『フランケンシュタイン』
小島からの質問——なぜ、あんなにも美しい怪物のデザインにしたのか?

Netflix映画『フランケンシュタイン』
キャスティングについての話題から、小島からフランケンシュタインの怪物のデザインについての質問が飛び出した。「怪物は(一般的なイメージとして)縫い目が特徴的ですが、本作の怪物は縫い目が目立たず、キュビズムのような現代アートも感じさせる美しさがありますよね。それはどういう考えだったんですか?」という問いに、デル・トロはこう答えた。
「ビクター(フランケンシュタイン博士)という人はアーティスト、芸術家なんですね。
彼がつくり上げた怪物は、1本の腕を一つの身体から、ほかの部位もほかの身体から用いてつくっていて、傷はないようにしているんです。彼は解剖学なども研究して、20年以上の時間をかけて計画を練って、芸術として、仕事に従事していたんです。骨相学のマニュアルを見て、解剖学図を見て、まるでアール・デコのように、フューチャリズムのように、美しいものをつくり上げていく。
彼は『死』に対して怒りを感じながらも、優れた科学者であり、新しいものを創造することができた人なんです」

Netflix映画『フランケンシュタイン』
トークイベントの最後には、二人はそれぞれこう語った。
「彼のフランケンシュタインは普通のモンスター映画ではなく、見てから帰るときに『俺もモンスターちゃうかな』とか、もしくは『俺、父親やな。俺、息子やな』とか、そういうことを考えるような作品だと思います。おそらく10年、20年経っても、何回も鑑賞するような映画になると思います」(小島秀夫)
「いまのような時代、いまの世界に生きるなかで、『受け入れる』ということは、とても稀なことでもあると言えるでしょう。本作では、違う者同士が会話を持つことによって、相容れない、和解することができないような立場である両者が、最後にはお互いを理解することができたということが、私にとっても素晴らしい解放をもたらしたと感じています」(ギレルモ・デル・トロ)
最後に、小島が「(怪物演じた)ジェイコブのフィギュアがほしいですね」とデル・トロに語りかけると、「ジェイコブのフィギュアもこの世に出る予定です」と笑顔で答えていた。

- 作品情報
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Netflix映画『フランケンシュタイン』
一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信
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