『紅白』初出場FRUITS ZIPPERの魅力。今年の活躍と「バズったグループ」からの変化

『第76回NHK紅白歌合戦』に、FRUITS ZIPPERが初出場する。

2022年に“わたしの一番かわいいところ”がSNSで大きな話題となり、2023年の『第65回 輝く!日本レコード大賞』で最優秀新人賞を受賞したFRUITS ZIPPERは、昨年も『紅白』出場が期待されていたが落選。

2025年はその悔しさをバネに、大きく飛躍した1年でもあった。

今回の記事では、FRUITS ZIPPERの魅力や姉妹グループとの違い、「SNSでバズったグループ」というイメージからの変化などについて、これまでの活動を振り返りながら解説する。

原宿発の「KAWAII」をキャッチーな楽曲と真似しやすいダンスで発信

FRUITS ZIPPERは、きゃりーぱみゅぱみゅや新しい学校のリーダーズなども所属するカルチャープロダクションのアソビシステムが手がけるアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」から2022年にデビューした7人組だ。

アイドルの世界に詳しくない人向けに言い換えるなら、原宿発の「KAWAII」を軸に、キャッチーな楽曲と真似しやすいダンスで広がってきた、いまの時代のポップス型アイドルグループである。

合言葉は「原宿から世界へ」。日本の「KAWAII」を、いまの感覚でアップデートしながら、国内だけでなく海外にも届けていくという姿勢が最初から明確だ。

メンバーは月足天音、鎮西寿々歌、櫻井優衣、真中まな、早瀬ノエル、松本かれん、仲川瑠夏の7人。ひとことでKAWAIIと言っても、その内訳はさまざまだ。

月足の芯のある歌声、鎮西の表情づくりと高い表現力、櫻井の安定感あるステージ運び、真中の明るさとキャプテンシー、早瀬の透明感、松本の甘さと柔らかさ、仲川の圧倒的な歌唱力。それぞれの質感が重なって、グループとしての個性になっている。

そんな彼女たちの入口として押さえたい代表曲は、デビュー曲“わたしの一番かわいいところ”だ。短尺動画で真似しやすい振り付けと、〈ねえねえねえ〉と呼びかけるフレーズが相まって一気に広がり、「名前は知らなくてもサビは聞いたことがある」という人を増やした。

ここで重要なのは、バズが偶然で終わらなかったことだ。甘い幸福感をまとった“ハピチョコ”、コンセプトを正面から掲げた“NEW KAWAII”、ポップさをさらに研ぎ澄ませた“フルーツバスケット”など、自己紹介になる曲を積み重ねていき、「何をするグループなのか」を音で説明できるようにしてきた。

衣装やビジュアルも、原宿的な色使い・小物使いが軸にありつつ、王道アイドルの華やかさから大きく離れない。だから初見でも入りやすいのに、見れば見るほど「このかわいさは、いまの時代を象徴する『言葉』になっている」と感じさせる奥行きがある。

FRUITS ZIPPERの広がり方は、いまの音楽の広がり方そのものに近い。まずTikTokなどの短尺動画でサビが届き、「この曲、気になる」と思った人が配信でフル尺を聴く。そこで好きになった人が、次はライブに足を運ぶ。

ポイントは、ライブの現場が知っている曲の答え合わせではなく、「やっぱり好きだ」と再確認できる場所になっていることだ。実際のライブ会場で得た驚きがそのまま口コミになり、次の公演に人を連れてくる。そうした積み重ねの中で、単独公演の規模も段階的に大きくなり、彼女たちはより大きな舞台へ挑戦を続けてきた。

姉妹グループとのコンセプトの違いから見える、FRUITS ZIPPERの輪郭

そもそもKAWAII LAB.は、KAWAII文化を一つの表現ジャンルとしてアップデートしていく実験室のようなプロジェクトだ。

グループが増えていくほどに、同じ「KAWAII」でも、音楽の温度や言葉の選び方、ライブの盛り上げ方が違うことが見えてくる。だからこそ、初めてアイドルに触れる人ほど「どのグループが自分に合うか」が探しやすい。

FRUITS ZIPPERについても、同じKAWAII LAB.の姉妹グループと比べると、違いはさらにつかみやすい。

CANDY TUNEは2023年デビューのグループで、ライブで声を出して跳ねて楽しむ「応援歌」としての強度が魅力だ。

“倍倍FIGHT!“のように背中を押す言葉をポップに鳴らす曲や、“キス・ミー・パティシエ”のような甘く弾けるポップソングで、客席を一つにしていくタイプである。

対してCUTIE STREETは2024年デビューで、“かわいいだけじゃだめですか?”に象徴されるように、自己肯定感や「私のままでいい」を前面に出し、メンバーの多様な個性そのものを魅力に変えていくスタイルだ。

いわば「ストリートで生まれるKAWAII」を、軽やかに肯定していく。なおKAWAII LAB.にはSWEET STEADYといった別軸のグループもおり、同じ看板の中で色が増えていくのも面白い。

FRUITS ZIPPERはその中間に位置する。王道アイドルポップの親しみやすさと、原宿カルチャー由来の「いまっぽさ」を同じ手触りで成立させるバランス感が幅広い層に届いてきた最大の理由である。

その入りやすさは、SNSで曲が広がったときに終わらず、ライブで確かめた人がそのままファンになっていく循環を生んだ。短尺で耳に残るフレーズや真似しやすい振り付けが入口になり、ワンマンでは曲ごとの表情やメンバーのキャラクターが立ち上がっていく。

つまりFRUITS ZIPPERは、拡散で広がり、現場で定着し、作品で積み上げるという3段階を着実に回してきたグループなのである。だからこそ2025年は、これまでの手応えが具体的な結果として可視化されてきた1年になった。その結果として、かねてからグループが目標に掲げていた『NHK紅白歌合戦』への切符を手にしたのである。

『紅白』を目指した2025年。SNSのバズに頼り切らず、曲の強さで聴かれるグループへ

『紅白』は、単に今年売れた曲だけでなく、その年を象徴する存在感や幅広い世代への浸透も含めて選ばれる舞台である。FRUITS ZIPPERの初出場が納得感を持って受け止められたのは、SNSの話題性を出発点にしながら、ライブと作品の両輪で国民的番組に届く距離まで走ってきたからだろう。

春以降のリリースでは、SNSで偶然広がることに頼り切らず、曲そのものの強さで聴かれ続ける状態を目指していった。その代表が“KawaiiってMagic”であり、“はちゃめちゃわちゃライフ!”である。かわいさの表現を増やしながら、ステージでの盛り上がりが立ち上がる展開も意識されていて、ライブのなかで生きる曲として機能していった。

こうした楽曲が増えるほど、ライブの組み立てに厚みが出て、ヒット曲が一曲だけ突出するのではなく、どの曲を聴いてもFRUITS ZIPPERらしさとして受け入れられる。

ライブ面でも、ワンマンの完成度を上げながら、フェスや大型イベントへの出演を重ねてきた。2月には全国6都市のZeppを回る『FRUITS ZIPPER OFFICIAL FAN CLUB TOUR 2025 - WINTER -』を開催し、各地で「会いに行ける距離」の熱量を積み上げた。

そこから夏、さいたまスーパーアリーナで『さいたまスーパーアリーナ25周年 FRUITS ZIPPER 3rd ANNIVERSARY 超超超めでたいライブ -さん-』へ。会場規模が一気に跳ね上がっても、持ち味のポップさと一体感をそのまま押し広げたことが、次の景色を現実にしていった。

さらにグループ初の海外ツアー『FRUITS ZIPPER 1st ASIA TOUR 2025』も発表され、活動の射程は「国内の人気」から外へ届く可能性へと広がっていく。そしてこの流れの延長線上で、2026年2月1日の東京ドーム単独公演『FRUITS ZIPPER SPECIAL LIVE 2026「ENERGY」』が告知された。

初めて見る人が多い場所では、冒頭の短い時間で空気をつかみ、MCで距離を縮め、最後にもう一度聴きたいと思わせる余韻を残す。その見せ方が洗練されるにつれて、「ライブをきっかけに好きになった」という声が増えていったのも印象的だった。

さらに『FRUITS ZIPPERのNEW KAWAIIってしてよ?』(テレビ朝日系)や『FRUITS ZIPPERのオールナイトニッポンX』(ニッポン放送)などのメディア出演や『映画おしりたんてい スター・アンド・ムーン』主題歌やはるやま商事のキャラクター起用といったタイアップなど、日常の中で曲や名前に触れる機会が重なったことも、『紅白』の舞台へ近づく追い風になったのである。

リーダーの真中まなは、『紅白』出場決定の場でも「SNSやライブだけではなく、いただいたお仕事全てがこの年末に繋がると信じて全力でやってまいりました」といった趣旨でコメントしている。

鎮西寿々歌も、出場決定を知った瞬間について「ほとんどのメンバーが号泣していた」と明かし、支えてきたスタッフと同じタイミングで喜びを共有できたことへの思いを重ねている。ここにあるのは通過点というより、結成から積み上げてきた努力が、ようやく大きな舞台に届いたという実感そのものだ。

当日披露される“わたしの一番かわいいところ”は、アイドルに詳しくない視聴者にとって初めてのFRUITS ZIPPERになる可能性が高い。

だからこそ彼女たちは、ただかわいさを見せるのではなく、かわいさが人を元気づける瞬間まで届けようとするはずだ。『紅白』出場とあわせて、次の大きなステージへ進む動きも聞こえてくるいま、FRUITS ZIPPERは「バズったグループ」ではなく、「時代のKAWAIIを更新し続けるグループ」として見届けるべき存在になっている。



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