「いまさら始めても遅いのではないか」――そんなささやかな不安が、私たちの足枷になることがある。「学び直し」や「リスキリング」という言葉が飛び交う今、一歩踏み出せない自分に焦りばかりが募り、身動きが取れなくなっている人もいるかもしれない。
「なりたい自分を、起動しよう。」をテーマにした本連載に登場するのは、異なる年代やステージで、迷いや葛藤を抱えながらも「新しいこと」を始めた人たちだ。彼らはなぜ、軽やかに一歩を踏み出せたのか。
第1回は、クリエイティブディレクターの明円卓さん。電通を退職して独立後、『いい人すぎるよ展』や『友達がやってるカフェ』など、世の中にまだなかった価値を生み出し続けている。その原動力は、圧倒的なインプットと、完璧を待たずに動き出す姿勢にある。
彼が今年3月に立ち上げたシニア世代が渋谷で接客をするカフェ「G-CHA & Ba-CHA」という「新しい働き方を始められる場」。そこからは、年齢や経験に関わらず、いつだって「なりたい自分になれる」という強いメッセージが伝わってくる。
年齢やスキルの壁を越え、新しい一歩を踏み出すためにはどのようなマインドが必要なのか? 「失敗は無料の時代」と軽やかに笑う明円さんに、日本HPから登場したAI PCの活用方法とともに令和時代の挑戦のかたちを聞く。
電通に入社後ほどなく芽生えた、「個人の名前」で生きる決意
―明円さんが電通を退職し、独立という新しい挑戦を始められたのは2020年のことでした。当時、独立に至った経緯から教えてください。
明円卓さん(以下、明円):社会人になった当初から、いつかは「自分の名前」で仕事がいただけるような人になりたいという目標がありました。人が困ったときや、アイデアを相談したいと思ったときに、「電通の誰々さん」ではなく、「明円卓にお願いしたい」と思い出してもらえる人になりたいなと。
電通には100色のなかから自分の名刺の色を選べる制度があるんですが、僕は会社のロゴが一番目立たない色をあえて選んでいました。いま思えば、「会社名に頼るのではなく、自分自身を前に出していけるように」という密かな決意の表れだったのかもしれません。
明円卓(みょうえん・すぐる)。2014年より電通でCMプランナー/コピーライターとして活動。2020年に電通を退職後、 kakeru(現在はENTAKU produceに改名)を創業。CHOCOLATE Inc.にも所属。 『JANAI COFFEE』『JANAI GAMES』『JANAI HOTEL』『友達がやってるカフェ』などの飲食店のプロデュースや、『いい人すぎるよ展』『そういうことじゃないんだよ展』『やだなー展』などの企画展を主宰。
明円さんが手がけた、「店員が友達として接客する」というコンセプトのカフェ / バー「友達がやってるカフェ」。2023年4月から2024年9月末まで営業していた。
明円:会社を辞めるにあたっては、これという決定的なきっかけがあったわけではありません。ただ、「困ったときに思い出してもらえる個人になる」という目標から逆算すると、会社に留まるよりも、自分で会社を作ったりフリーランスとして活動したりするほうが、正しい歩みなんじゃないかと思ったんです。
―大きな会社を辞めることに、不安や躊躇はありませんでしたか?
明円:不安はなかったですね。もし失敗したとしても、その「失敗した」という経験そのものを評価してくれる会社や人は、世の中にたくさんいるんじゃないかと思っていました。なんとかなるだろう、と。挑戦すること自体から得られる学びは大きいですし、仮に失敗したらその時にまた考えればいい。それよりも、挑戦せずに時間を過ごしてしまうことの方がもったいないと感じたのが、30歳というタイミングでした。
あとは、ちょうど2020年のコロナ禍のタイミングで時間ができたこともあり、自分のキャリアをじっくり見つめ直すことができたのも大きかったですね。
日本HPが製作 / 販売する「HP OmniBook X Flip 14 AI PC」。50TOPSのNPUを搭載。ローカルでのLLM(大規模言語モデル)の実行や高度なAI機能が快適に動作する次世代プロセッサの性能水準を持つ。
企画力の源泉は、膨大なインプットで培われた「頭の中の図書館」
―明円さんの「思いついたアイデアをすぐにかたちにしてしまう」スピード感に驚かされます。電通を退職した翌日には会社を設立し、次々と新しいプロジェクトを立ち上げていますよね。
明円:結果的にそうなっていますが、スピード感を強く意識しているわけではないんです。ただ、自分の考えたアイデアや企画を「実現すること」に対する執着心が、人一倍強いんだと思います。思いついたら絶対にかたちにしたい。
今は考えるだけなら誰でもできる時代になりつつありますし、それこそAIが手伝ってくれる。だからこそ、それを「どう実現して世の中に定着させるか」という部分に、人間がやるべき本質的な価値があると思っています。
―次々と新しい企画を生み出し続けるためには、その土台となる情報の引き出しも相当な量が必要になりそうです。会社員時代から、企画力を磨くために何か独自のインプットや努力をされていたのでしょうか。
明円:僕は自分で「ガリ勉だ」と自称できるくらいには勉強してきましたし、いまでもめちゃくちゃ勉強しています。アイデアの質は、リファレンス(参考資料や事例)の圧倒的な量に比例すると確信しているんです。AIのディープラーニングと同じですよね。学習したデータの量が、出力されるアイデアの質を決める。
会社員時代から、日本中、世界中のキャンペーン事例や名作CMなどを、頭の中に「図書館」ができるくらいインプットしてきました。年末年始もゴールデンウィークも、スキあらば事例集を何十周も受験生の赤本のように読み込みました。企画を考えるときは、その頭の中の図書館から検索して、参考にしながら組み立てている感覚です。電通時代は過去の事例からも学び、実践の場で先輩たちの企画からも学ぶことができた。その両軸でインプットできた環境は、僕にとって非常にありがたかったですね。
―圧倒的なインプットがあるからこそ、即実行しても結果が伴うと。とはいえ、新しく事業やイベントを立ち上げるとなると、どうしても中長期の計画や目標人数などを綿密にシミュレーションする必要もあると思います。となると、アイデアがかたちになるまで時間がかかってしまいますよね。
明円:そこが普通の会社と違う点かもしれません。実は、僕たちの会社には「中長期計画を立てない」というルールがあるんです。なぜかと言うと、手掛ける企画がSNSで話題になり、一気に広がったあとには、自分たちでも想像していなかったような未来が待っていることが多いからです。
たとえば、小さなギャラリーで始めた展示会がいまではアジア7都市で開催され、日本で100万人以上を動員するなんてことは想像すらしていませんでした。そんなこと、最初から計画できるわけがない。だから、先のことを綿密に計算して考えるよりも、まずはアクションを起こしてみて、そのステージごとに目の前のことに全力で取り組んでいくほうがいいなと。
もちろん経営者としての責任もありますが、「従業員みんなの給料が払えて、健康で、赤字にならなければいいか」くらいの感覚で進むほうが、面白い未来に辿り着けると思っています。
2023年に開催された、日常に潜む「いい人」を集めた『いい人すぎるよ展』。告知後にチケットが即完売するなど大きな話題となった。
―綿密な計画を立てず、まずはアクションを起こすスタイルだからこそ、ときには思い通りにいかなかったり、壁にぶつかったりすることもあるのではないでしょうか。そうした「失敗」とは、どのように向き合っていますか?
明円:失敗のいい点は、「タダ」で大きな学びが手に入る点だと考えています。たとえば、僕は学生の頃から色々なSNSアカウントを立ち上げては、さまざまな企画を試してきました。当然、まったく話題にならずにひっそりと閉じたアカウントもたくさんあります。でも、そこで気づいたのは、いまの時代「失敗しても無料」ということです。発信して話題にならなければ、誰にも届いていないので誰にもバレません(笑)。無償で失敗という教材が手に入る、失敗し放題、発信し放題の素晴らしい時代といえます。
そもそも、アイデアを考える仕事において、失敗という概念は存在しないと思っています。特に僕の場合、話題になるまでやり続ける執念があるから、失敗のまま終わることがないんです。
具体的に言うと、「企画して」「実施して」、それを「話題にする・広げる」という3つ目の工程に、僕はものすごく時間をかけます。展示会を立ち上げたあとも、それから1か月間はひたすら啓蒙のためのショート動画の編集をしています。もちろん、そこまでやっても広まらないケースもありますが、その場合は「なぜ広まらなかったのか?」と考え、次の仮説を立てる。これが自分の頭の図書館の貴重なデータベースになります。
―企画から実現に至るまでのプロセスに、AIなどテクノロジーを用いることはありますか?
明円:そうですね。AIはよく壁打ち相手として使っています。「そもそも何を、どうつくればいいのか?」というアイデアの初期段階から相談に乗ってもらい、実現するための手段や選択肢をいくつも出してもらうんです。そうやって広がった発想をもとに、すぐラフなかたちにしてしまう。頭の中で考えているだけでは前に進まないので、AIと一緒に「小さな一手」をどんどんかたちにしていく感覚ですね。
「HP OmniBook X Flip 14 AI PC」はタブレッド型になり、指やタッチペンでの直感的な操作も可能。「アイデアをラフにスケッチしたり、ビジュアライズしたりする際に便利そう」と明円さん。
年齢の壁は存在しない。シニア世代が輝く「G-CHA & Ba-CHA」
―明円さんの最新プロジェクトの一つである「G-CHA & Ba-CHA(ジーチャバーチャ)」は、渋谷のど真ん中で、シニア世代の方々がスタッフとして接客をするという画期的なカフェです。これもまたチャレンジングな試みですが、渋谷という若者の街で接客をすることに対して、ご高齢のスタッフの方たちに不安はなかったのでしょうか?
明円:そうした「シニアだから若者の街で接客するのは難しいのでは?」という考え自体、間違った認識ではないかと思います。僕自身もこのお店を始める前は、「レジ打ちは難しいかな」「若者スタッフのサポートが必要かな」と、勝手な先入観を持っていました。しかし、実際に研修でお会いしてみると、皆さんとにかく意欲的で、何でもすぐにできるようになるんです。
いまでは「シニアだからこれはできないだろう」という前提をなくし、仕事の範囲をどんどん広げてお願いしています。日常的な連絡もLINEで普通にできますし、「TikTokを撮ってみよう」と提案すれば、すぐに慣れて新しいチャレンジを楽しんでくれます。
今年3月にオープンした平均年齢73歳のスタッフが働くテイクアウト専門のお茶屋「G-CHA & Ba-CHA」。「若さって、年齢じゃなくて気持ちのこと!」をスローガンにしている。
―まさに、「新しいことを始めるのに年齢は関係ない」を体現するような場ですね。
明円:はい。ここで新しい挑戦を始めたスタッフの方々は、実生活でも「表情が明るくなったね」「お出かけするようになったね」と周りから言われるようになったと聞きます。年齢に関係なく、新しいことを知ったりチャレンジしたりすることで、生活はどんどんイキイキしていく。僕自身、皆さんの前向きな姿から「年齢の壁なんて存在しないんだな」と強く教えられました。
―「G-CHA & Ba-CHA」もそうですが、明円さんが仕掛けるプロジェクトは、人が直接触れて楽しむ「体験」を軸にしたものが多い印象を受けます。数ある手法のなかで、この「体験」という部分に強くこだわっているのはなぜでしょうか。
明円:広告キャンペーンの仕事をしていると、瞬間的に話題にはなるものの翌日には忘れ去られたり、契約期間が終わるとアーカイブすらされずに世の中から消えてしまったりすることがよくあります。時間をかけて愛情を込めて作ったものが残らないのは、すごく寂しいなという思いがずっとありました。
でも「体験」は違います。その場に行って、食べて、話して、感じたことは、強烈に記憶に残り、語り草となって心の中に宿り続けます。だから僕は、人の記憶に残り続ける「体験の場」を作ることに魅力を感じているんです。
そうした思いの原点は、遡れば子供時代にあります。小学生の頃、友達を家に呼んでゲームをやる時には必ず全員分のコントローラーと、「みんなで遊べるゲームソフト」だけを用意していました。その上で、僕自身はゲームをプレイせず、みんなが楽しそうにワイワイ遊んでいる様子を眺めているのが一番好きでした。われながら変な子どもですよね(笑)。
そうやって、子どもの頃に4人の友達に向けて作っていた「楽しい体験の場」が、いまは何十万人、何百万人に広がっている。本質的にはあの頃と何も変わっていないんです。
ヒントは日常に溢れている。見慣れた景色を「学び」に変える視点
―新しく何かを始めたり、キャリアをチェンジしたりするうえでは、学び直しやリスキリングが欠かせません。明円さんは電通時代も現在も常に学びを欠かさないということですが、日々仕事に追われるなかで、どのようにインプットの時間を作っていますか?
明円:週に1回は必ず、自分のためのインプットの日を設けています。それは電通時代から変わらず。平日はクライアントのために全力で取り組み、休日は興味のあるイベントに足を運んだり、プライベートワークに時間を使ったりしていました。日々の忙しさに追われていると、どうしても「自分を後回し」にしてしまいがちですが、それはやめようと。
また、電通時代からの習慣として「早起き」をして自分の時間を作るようにしています。当時は朝の5時に出社をし、誰にも邪魔をされない朝6時から10時頃までに自分の企画を考えたり、インプットの時間にあてたりしていましたね。
あとは、日々の生活のなかでも、マインド次第で学びに変えられるような機会はたくさんあると思っています。
―たとえば、どのような場面ですか?
明円:たとえば、ついSNSをダラダラ見て時間を浪費し、後悔することがあると思います。でも、それもとらえ方次第では学びの時間に変えられる。僕自身もただ漫然とSNSを眺めるのではなく、「いま、みんなは何を話題にしているんだろう」「この投稿って、なぜ本能的に指を止めてしまうのか」といったことを意識したり、自分なりに分析しながら見るようになってからは、タイムラインが学びだらけになりました。SNSに限らず、少しマインドをチェンジするだけで見慣れた景色が一変し、あらゆるものがヒントになる。日常にはそんなことが溢れていると思います。
「失敗し放題の時代」に、AIやAI PCと踏み出す小さな一歩
―これまでにも多くのチャレンジを「即実行」してきた明円さんですが、これから新しく始めたいことはありますか?
明円:これからチャレンジしたいのは「観光業」です。日本には素晴らしい飲食店や観光地がたくさんあります。さまざまな地域で日々、モノづくりや商売を頑張っている人たちの努力がちゃんと報われ、世界中から人が訪れるような仕組みづくりに貢献したいと思い、準備を進めています。これまではどちらかというと「自分たちが好きなこと、やりたいこと」を実現してきましたが、いまは「社会に還元していく」という第2フェーズに入った感覚ですね。
―AI PCを手がける日本HPでは、「AI PCで自由研究」キャンペーンを実施しています(2026年8月時点)。明円さんが挑戦したい「自由研究」を教えてください。
明円:「おじいちゃん、おばあちゃんたちが安全に働ける仕組みづくり」をやってみたいことですね。今年の夏も異常な暑さが続いていますが、「G-CHA & Ba-CHA」で働いてくれているスタッフの方々が熱中症で倒れないか、無事に出勤できるか毎日心配していて……。たとえば、連絡するのも辛いような体調不良のときなどにボタン一つで欠勤の意思を伝えられるようなアプリを作れないかなと。
―そうした新しいチャレンジをするうえで、AIやAI PCというテクノロジーは一歩を踏み出す後押しになると思いますか?
明円:大いに後押ししてくれると思います。僕自身、あらゆる企画や制作のプロセスで、当たり前のようにAIを使っていますが、一番大きいのは「存分に失敗できるようになった」ことです。たとえば企画を考えるとき、「この方向性はないと思うけど、一応検証しておきたい」というアイデアがあったとします。昔ならコストや時間がかかって諦めていたような無駄に見えるパターンでも、AIなら一瞬で可視化できます。そこから意外と、面白い方向性が見えてくるかもしれない。世の中にまだないものを生み出すとき、AIは最高の相談相手になりますね。
明円さんのクリエイティブにおいて、いまやAIは欠かせないツール。頭の中のぼんやりとしたアイデアをビジュアル化してメンバーに共有する時などに重宝しているという。
―最後に、新しいことを始めたい気持ちはあるけれど、なかなか一歩を踏み出せずにいる読者へのメッセージをお願いします。
明円:お伝えしたいのは、いまは新しいことを始めるのに初期コストがかからない時代だということです。それこそAIにアイデアを相談したり、とりあえずの計画を一緒に練ってもらったりすることも簡単にできます。あとは、そこから実行に移すだけ。頭の中に少しでもやってみたいことがあるなら、一人で抱え込まずに、まずはAIに投げかけて「小さなかたち」にしてみる。こんなに気軽に挑戦と失敗ができる時代に、何もしないままでいるのは本当にもったいないですよ。
- HPについて
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HP Inc.(NYSE: HPQ)は、Future of Workを再定義するグローバルテクノロジーリーダーです。180以上の国と地域で事業を展開し、ビジネス成長とプロフェッショナルとしての充実を支える、革新的でAIを活用したデバイス、ソフトウェア、サービス、サブスクリプションを提供しています。
- HP OmniBook X Flip 14 AI PC
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タブレットにも変形できるスタイルフリー設計で、シーンを問わず活躍。最新モジュールによるスピードとパワー、直感的な操作性で作業効率を大きく高めます。さらに高品質なオーディオビジュアルを搭載し、休憩時間のエンタメ視聴も快適にサポート。
Copilot+ PC準拠により、コクリエーター、ライブキャプション、リコールといったマイクロソフトの生成AIサービスも利用可能。クリエイティブで自由なライフスタイルを好み、常に高みを目指す人にふさわしい、公私を支える一台です。
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- 明円卓
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2014年より電通でCMプランナー/コピーライターとして活動。2020年に電通を退職後、 kakeru(現在はENTAKU produceに改名)を創業。CHOCOLATE Inc.にも所属。 『JANAI COFFEE』『JANAI GAMES』『JANAI HOTEL』『友達がやってるカフェ』などの飲食店のプロデュースや、『いい人すぎるよ展』『そういうことじゃないんだよ展』『やだなー展』などの企画展を主宰。
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