水道橋にアートカルチャーを。新スペースGallery AaMoの誕生意義

ギャラリーや画廊のイメージに収まらない、新たなアートスペースが登場

4月15日、東京に新しいアートギャラリーが誕生した。だが、その規模や内容は、およそ「ギャラリー」や「画廊」から想像するイメージには収まりきらない。

スタジアム、ライブホール、遊園地、ゲームセンター、商業施設、場外馬券場、そして高層ホテルまでもがある東京ドームシティにオープンした「Gallery AaMo」は、メディアアート、アニメや2.5次元舞台といったサブカルチャー、工芸などの展覧会を行うだけでなく、ライブパフォーマンス公演も可能なギャラリーである。

Gallery AaMoのロゴ
Gallery AaMoのロゴ

実際、オープニングを飾ったのは、真鍋大度と石橋素が主宰するRhizomatiks Researchと、演出振付家のMIKIKO率いるELEVENPLAYによるダンスインスタレーション作品『phosphere』だ。緻密に作り上げられた光の空間にダンサーやオブジェクトが介入していく同作は、ダンス / 演劇の身体性と、建築 / 彫刻の造形性、幾何学 / 数学の法則性を交差する試みであり、その後にラインナップされた多ジャンルに展開する展覧会やプロジェクトを象徴するものと言えるだろう。

『phosphere』の様子。photo by Muryo Homma
『phosphere』の様子。photo by Muryo Homma

大文字と小文字の混ざった不思議な名前には、A=「Art」「Amusement」、aMo=「and More」の意味が込められているという。例えばライゾマティクスが美術館に非営利の新作を出品しつつ、スタジアム規模のライブ演出を手掛けるように、アート(芸術)とアミューズメント(娯楽)が並存する風景は珍しくない。だとすると、Gallery AaMoの独自性は「and More」の部分にあるはずだ。

創業から80年の間、エンタメ&アミューズメントの聖地として親しまれる水道橋エリア

それを考えるために、まずは東京ドームシティの歴史を振り返ってみたい。同エリアは、白い巨大UFOが着陸したような東京ドームをアイコンとして認知されているが、じつはかつて、その隣に後楽園スタヂアムという野球場があった。

1937年に産声をあげた後楽園スタヂアムは、一般には「後楽園球場」の愛称で親しまれ、歴史に残る熱戦が繰り広げられていた。その一方、サーカスなどの野球以外の興行も頻繁に行われ、映画館の併設、貸しガレージの付設など、かなり早い段階から現在のような多角経営が行われていた。

現在の東京ドームシティ周辺の様子
現在の東京ドームシティ周辺の様子

このように、東京ドームシティは当初からゴッタ煮的な場所で、むしろ「and More」な雑多性によって、昭和・平成の時代の情勢と、興行とのパワーバランスを巧みに乗り切ってきたとも言えるだろう。実際、筆者にとって東京ドームシティのイメージは、特撮ヒーローショーが行われる「後楽園ゆうえんちで僕と握手!」な、キッズカルチャーの場としての印象が強い。

この10年あまりで、女性ファンが集結する2.5次元舞台でも愛されるようになったこの場所は、そもそも多様な大衆の多様なニーズ、多様な愛好を寛容に受け入れ、そして彼 / 彼女らによって支えられてきた、熱狂を生むエンタメの聖地なのである。Gallery AaMoが「and More」を積極的に謳うのは、歴史的経緯としてきわめて正しいアプローチなのだ。

「アートカルチャー」と、人々の「コト」への欲求の関係

現在の東京ドームシティを運営する株式会社東京ドームの代表取締役社長、長岡勤によると、Gallery AaMo設立の経緯にはこんな理由があったそうだ。

長岡:年間3千800万人の来街者で賑わい、レジャーエリアとしてすでに大きなブランド力を持っている東京ドームシティですが、スポーツ、エンターテインメント、アミューズメントの発信地としての存在感に比べ、アートやカルチャー分野における存在感や期待感は決して大きくはありませんでした。アートカルチャーの発信という機能を持つGallery AaMoを開業することで、東京ドームシティという街の機能や魅力がさらに充実していくと考えています。

このコメントから読み取れるのは、むしろアミューズメントやそれに類する文化が先行してあり、そこに新たに加わるアートこそが「and More」なニューカマーである、ということだろう。

長岡:今日、アート自体の多様化と、消費者の「コト消費」への欲求、特に知的好奇心を満たしたいという気持ちは同時並行的に高まりつつあります。多様化の拡がりは果てがなく、知的好奇心への欲求もとどまることがありません。このようなトレンドの中で、新しい楽しみ方や「コト」を提供することは、当社が今まで培ってきたマインドそのものでしょう。

当社は今までハードをメインに開発してきました。Gallery AaMoの主役は、ハードであるギャラリーではなくその中身であるソフトです。当社がソフトを開発し、提供していくことは新しい挑戦だと思っています。また1~3か月ごとに新しいソフトが生み出されることは東京ドームシティをより豊かなものにすると思います。

2000年代以降、「モノ」から「コト」への消費スタイルの遷移は、熱のこもった論調で語られてきた。それはかつて西武百貨店が糸井重里による名コピー「おいしい生活」で、物質ではない「暮らしのイメージ」を重要視したことの、約20年ぶりの再生ではあるのだが、虚像を生み出す映像技術の進化や、IT技術の爆発的な普及によって、実感レベルで「コト」の体現が進んだことは、大きな変化だろう。これまでハードを開発してきた東京ドームが、アートカルチャーをソフトとして開発すること自体が、おそらく同社にとって「and More」な挑戦なのではないだろうか。

カルチャーやイノベーションの起爆点に? 東京ドームシティのポテンシャル

一人の美術ライターである筆者としては、戦後しばしば試みられてきた「モノ」から「コト」へのシフトは、最終的に「モノ」の側の経済性や功利に「コト」が引き寄せられて沈滞……というサイクルを繰り返してきたことがずっと気にかかっている。もちろん企業が資本の継続的な膨張を欲望する存在である以上、最終的なアウトプットは「モノ」にならざるをえない。

だが、大切なのは「コト」から「モノ」への片道通行な吸い上げではなく、双方の循環を維持し、「コト」と「モノ」のあいだに、いまだ見えざる未来の生の可能性を萌芽させることであり、そういった未来の社会モデル・思考のあり方の提案は現代美術や思想哲学が担ってきた重要な役割でもある。

人の夢や欲望は、場を活性化させ、思わぬイノベーションを呼び寄せる。東京ドームシティという土地には、その要件を満たしうる歴史と文化のポテンシャルが貯蔵されている。『東京オリンピック』の開催を控える今、いち早くスタートを切ったGallery AaMoの示す「and More」が、とどまることなく動き続けることを期待している。

Gallery AaMoの外観イメージ
Gallery AaMoの外観イメージ(オフィシャルサイトで見る

イベント情報
『Rhizomatiks Research × ELEVENPLAY Dance Installation at Gallery AaMo』

2017年4月15日(土)、4月16日(日)
会場:東京都 水道橋 Gallery AaMo
演出:Rhizomatiks Research、真鍋大度、MIKIKO
出演:ELEVENPLAY



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