日本のバンドはシンガポールで通用するのか!? 『スペースシャワー列伝ASIA TOUR2017』レポート

2001年に「ライブハウスを中心に活躍するインディーズアーティストの魅力を、ライブを通して視聴者に伝える」というコンセプトでスタートした日本最大の音楽番組専門チャンネル・スペースシャワーTVによる『スペースシャワー列伝』。今回、記念すべきジャパンツアー開始10周年を祝し、初のアジアツアーが開催された。バンコク、シンガポール、台北の3都市で行われた『スペースシャワー列伝ASIA TOUR2017』。シンガポール公演は、2017年3月16日にMILLIAN SINGAPOREにて開催。そのレポートをお届けする。 当日、18時開場だというのに、取材のため14時に会場を訪れると、すでに10人ほどのファンがエントランスで列をなしている。この時、気温33度。いろんな意味で、暑い夜になりそうな予感がした。
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※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

シンガポールの音楽シーンの変遷

ライブレポートの前に、シンガポールの音楽シーンについて軽く触れておきたい。 シンガポールが建国された1965年頃はアジアン・ミュージック全盛期。その後、70年代後半〜80年代にかけ、政府による音楽、特にロック抑圧の時代が訪れ、それに伴い、ライブハウスの数が激減したと言われている。90年代に再び音楽の自由が訪れ、2000年代を迎えてからは海外の著名アーティストも頻繁に訪れるように。日本人アーティストとしては、2014年にPerfume、2016年にきゃりーぱみゅぱみゅがライブを行ったのが記憶に新しい。

しかしどこも大箱会場が多く、大物アーティストは招聘されることはあっても、集客が見込めるメジャーなアーティストでないと公演が開催されにくい現状があった。そんな中、2016年にオープンしたライブハウス兼クラブが『MILLIAN SINGAPORE』だ。最新機材を備えた中規模会場ができたことにより、国内外の気鋭バンドの受け入れ体制が整ったのだ。

加えてシンガポールはストリーミングサービス普及が早かった国でもある。The Observatoryなど、シンガポールのロックバンドの成長も目覚ましく、YouTubeなどを通して世界へ発信するアーティストも多い。

そんな音楽背景のあるここシンガポールでの公演に出演したのは、キュウソネコカミ、04 Limited Sazabys、THE ORAL CIGARETTES、フレデリックの4バンド。日本国内では10代〜20代を中心に知名度を確実に上げつつある彼らが、果たしてシンガポールでどのように受け止められるのか。各バンドの魅力を伝えるべく、バンド紹介&ライブレポートにまとめてお届けする。

コール&レスポンスの応酬。お祭りのようなトップバッター、キュウソネコカミ

トップバッターはキュウソネコカミ。彼らの特徴といえば、シンセの効いたポップでロックなメロディと、ボーカルのヤマサキセイヤの言いたい放題にも聞こえるシャウトする歌詞。そして、迫力のライブパフォーマンスだ。コール&レスポンスで観客を煽りまくる様子はまるで日本のお祭りのよう。が、今回の舞台はシンガポールである。

本番前、ボーカルのヤマサキセイヤは「初海外なので、言葉が通じないことも含め、不安はありますね。初心にかえる気持ちで頑張ります」とこぼしていたが、会場が暗転、アニメ『ワンピース』の曲が流れ、「ワッツアップ、シンガポール!」とステージに飛び出してきたメンバーを迎えたのは、大歓声。日本人ファンが多いかと思いきや、シンガポールのローカルが8割、日本からやってきたと思しき観客が2割といったところだろうか。ティーンも、仕事帰りのビジネスマンも、のっけから盛り上がっている。

3曲目に会場にスマホの着信音が鳴り響き、ヤマサキが「ソーリー」と謝る。観客はこれが彼らの代表曲の1つである“ファントムヴァイブレーション”の合図だと悟り、いっそう歓喜。ここからキュウソ得意のコール&レスポンスが始まる。はじめは慣れない日本語に慎ましやかな小声なレスポンスだったものの、「聞こえねえよシンガポール!」に煽られて次第にボリュームアップ。〆には同曲おきまりフレーズの「スマホはもはや俺の臓器!」が会場へ投げ掛けられると、「スマホはもはや俺の臓器!」と総レスポンス! その他にも、人気曲“DQNになりたい、40代で死にたい”ではおなじみの「ヤンキーこーわいー」で大合唱。最高潮の中、ステージの終わりは突如やってきた。

メンバーがステージから観客席へと降り、「筋斗雲」と書かれたパネルを持つと、その上にヤマサキが乗り、ドラゴンボールの曲とともに去っていく演出。客席はしばしあっけにとられた後に、爆笑と共にその姿をスマホのカメラで押さえていた。

ハイトーンボイスと疾走感のあるメロディに打ち抜かれる、04 Limited Sazabys

続いて登場したのは4ピースバンド、04 Limited Sazabys(通称、フォーリミ)。ここ最近、「日本国内でメロコア復権の兆し」と囁かれるのは、彼らの功績といっても過言ではない。数あるメロコアバンドの中で頭1つ抜け出しているのは、ボーカル・GENの少年のようなハイトーンボイスがあまりにも特徴的だからかもしれない。メロコアというジャンルがメジャーでないシンガポールにおいても、1曲目の“Buster Call”の冒頭から彼の声は会場の心を一気に持っていった。とにかく声のハリが強く、かわいらしいルックスに裏切られたような気持ちにさせられるほどの骨太感がある。

メロコアは曲調にある程度のスタイルがあるが、その中においてあれだけの疾走感を支えるのは、ギターとドラムのたしかな技があるからこそ。ライブ開始直後は、前のめりに聴いているのは女性客ばかりだったものの、曲が進むにつれ、客席後方のドリンクスペースの20代男子たちまでもが2ビートに合わせて頭を振り出していたのが印象的だった。

ちなみに過去のインタビューでは、「ハイスタの海外ツアーを記録したライブビデオでの楽しそうな姿を観て、バンドをやりたくなった」と語っていたGEN。ついに自分たちも海外公演を果たすに至った心境についてライブ直前に尋ねると、「日本はホーム、ここはアウェー。わからないからこそ、ワクワクする!」と話していて、その高揚感は、充分過ぎるほどこちらに届いていた。

同じくライブ前、メンバーみんなが「次はシンガポールにワンマンで戻ってきたい」と話していた。ステージ上でも「またここに来る!」と宣言。その「約束」として歌われた“swim”のきれいな声と音には、胸が貫かれるような心地よさがあった。観客の表情に浮かぶのは、大いなる爽快感だった。

胸がざわつく、男女ともに狂わせるバンドTHE ORAL CIGARETTES

3番手は、実力派と名高い4人組ロックバンド、THE ORAL CIGARETTES。低音ボイスに細かくビブラートをかけた歌声、きれいなルックス、耳に残るリードギターの旋律……ステージの転換中に流れるネクスト・ムービーで彼らの名前がコールされるや会場が沸き、流れるPVに合わせて歌う人までちらほら。彼らはシンガポールでもとにかく大人気の模様。ようやく現れたころには、やっと会えた! という安堵の空気すら流れていたような気がした。

会場を見渡すと、彼らが提唱する「BKW(番狂わせ)」の文字が書かれたTシャツを着ている男女が、そこここに。とりわけファンが多いのは、彼らが2014年にシンガポールのクラーク・キーで開催された『Music Matters』に参加していたからかもしれない。「僕たちの初めての海外公演がここ、シンガポール。クラーク・キーを通りかかるだけの人たちまでノってくれてるのが見えて、海外で演奏するのが怖くなくなりました」とドラムの中西雅哉と言う通り、1曲目の“狂乱 Hey Kids!!”からガンガン攻めてくる。「狂ってけ!」「頭振れ!」と煽られるたびに観客たちは体を揺らす。「言葉の壁を気合いで乗り越えたいです」と、ボーカル山中拓也が慎ましく話していた姿と、ステージ上でのアグレッシブな姿とのギャップがすごい。

スピード感のある曲調から急にメロウに、かと思いきや、再び狂わされる。なんとも気持ちのいい不安定感。会場のムードが沸点に達すると、最新シングルの“5150”でセットリストを締めくくった。客席に投げ込まれたタオルに、女性客から嬉しい悲鳴や、会場へピックを投げこみ、これまた歓声があがるなど、現地のファンの心も大いに掴んだステージであった。

歌謡曲テイストのダンスビートで、トランス状態に! フレデリック

トリを飾ったのはフレデリック。MVにも定評がある彼らは、思わず踊りたくなる楽曲が多い。YouTubeなどでチェック済みなのだろうか、彼らの登場を待つ間、客席ではローカルの女の子たちが彼らのMVのダンスをおさらいしていた。

2017年2月に台湾、3月にバンコクと、立て続けに海外公演を経験してきた彼らに、日本でライブをすることと違いがあるかを事前に聞くと、「僕らが海外でライブをすることの意義は、その国の音楽文化と日本のそれとを融合させることだと思うんです。だからあえてシンガポールに合わせることは考えず、むしろクセのある日本の歌謡曲メロディを楽しんでもらいたいですね」とベースの三原康司は話してくれた。

“リリリピート”や“オワラセナイト”など4曲で盛り上がりの種を蒔き、いよいよMVのダンスが象徴的な“オドループ”、“オンリーワンダー”に突入する。彼らの楽曲はたびたびサビが繰り返され、ダンスのメインパートが何度も訪れる。そしてみな、喜び踊りまくる。シンガポールでは隣の人と動きを合わせる客は少ない。MVのダンスを完全再現する者、ジャンプする者、揺れる、拳を突き上げる……。なんと自由な。トランス状態のまま、フレデリックのステージは終わった。そして当然、湧き起こるアンコールの声。

ほどなくして、フレデリックがステージに返ってきた。最後に選ばれたのは“ハローグッバイ”。ボーカルの三原健司が「ハロー、グッバイ」と力一杯、声を振り絞る。出会いと別れを歌う曲での締め。感極まって涙を流す者もいた。日本とシンガポールが共鳴し、最高のムードで終わった『スペースシャワー列伝ASIA TOUR2017』。言語は違えど、日本のバンドの実力がシンガポールの観客の胸に届いたと感じさせられる公演だった。願わくば、来年もこのシンガポールの地で日本のバンドたちのステージを見てみたい。



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