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リオ五輪閉会式に感服したゲントウキ、表現者としての焦りを吐露

リオ五輪閉会式に感服したゲントウキ、表現者としての焦りを吐露

ゲントウキ『誕生日』
インタビュー・テキスト
天野史彬
編集:飯嶋藍子、山元翔一
2016/09/27

社会も、音楽も、とにかく激しく移り変わっている。そんなことを実感せずにはいられない2016年。国と国の、個と個の分断は強まっているけれど、Radioheadや宇多田ヒカルのような重要アーティストたちの新作リリースは、音楽が、いまだ人々の心を揺り動かす「ひとつ」の大きな力であることを証明してもいるようだ。

そんな時代の変換点にあって、ゲントウキこと田中潤の10年ぶりの新作『誕生日』は、激動のさなかに産み落とされた一粒の祈りの滴のような作品である。2000年代にデビューし、当初は渋谷系の後続的な位置で、良質なポップソングを鳴らしていたゲントウキが久方ぶりの新作で辿り着いた場所は、かねてから名前を引き合いに出されていたKIRINJIが、新作『ネオ』で辿り着いた場所にも近い、新しく、あたたかく、そして野心と冒険心に満ち溢れた場所だった。

躍動感と祝祭感に満ちたエレクトロニックなファンクチューンに乗せて、ゲントウキは歌う。<今 まさに 世界の夜明けだ 歩きはじめよう 今日が君の 0歳の誕生日>(“誕生日”)――そう、時代は今、再びゼロ地点。でも、音楽が鳴り止むことはないし、僕らはここから歩き出さなければいけないのだ。10年の沈黙を破った田中潤に話を訊いた。

やっぱりゲントウキって、ヒットチャートのど真ん中ではなく、もっとサブカル寄りの1990年代の名残りの場所にいたんですよ。

―10年ぶりのリリースとなりますが、この10年間、田中さんがゲントウキとしてのリリースを行ってこなかったのは、どうしてだったんですか?

田中:2007年にそれまで所属していたメジャーレーベルとの契約が切れて、単純に他の仕事をしなければいけなくなったんです。そこで、作曲家 / 編曲家として活動し始めたんですけど、そっちの活動のベースを作るのに必死だったんですよね。

言ってみれば、SMAPのシングルA面曲になるような「ど真ん中」の曲を書けるスキルを身につけないといけなかった。それができないと食っていけないし、それに自宅でもメジャークオリティーのものを作れるようなスタジオを作りたくて、その機材を買うためにお金を貯めないといけなかったっていうのもあって。それで10年かかってしまったんです。

―「ど真ん中」の曲を作るのは、それまでのゲントウキでのソングライティングとは別の筋肉を使う作業でしたか?

田中:そうですね。でも、まだ自分でも「ど真ん中」を作れている感覚はないんですけどね。SMAPの曲も書いたけど、シングル曲ではなかったし(2010年リリースのアルバム『We are SMAP!』収録曲“短い髪”の作曲を担当)。……やっぱりゲントウキって、ヒットチャートのど真ん中ではなく、もっとサブカル寄りの1990年代の名残りの場所にいたんですよ。フリッパーズ・ギターからキリンジに続く流れの最後の世代だと思う。そういう場所にいたから、「ど真ん中」を作るのがいまだに苦手なんです。

―デビューした頃のゲントウキの世代感や時代感って、具体的にどんなものでしたか?

田中:捻くれてしまう世代というか……ちょっと偉そうなんですよね(笑)。他と違うことで存在証明しようとするというか。僕らが活動を始めた当時は、パンクとかビジュアル系とか、それぞれにカルチャーがわかれていて、お互いまったく口を利かないような時代だったんです。

その中で、フリッパーズ・ギターのようなギターポップ / インディーポップから派生して、ソフトロックの中古盤レコードを掘りながら「お前、これ知ってるか?」って言い合っているような場所にいたから……性格の悪い奴らだったんですよ(笑)。今思えば、すごく小さなモラトリアムの世界だったなって思いますね。あぁ、恥ずかしい。

―ははは(笑)。

田中:でも、あの世代ってみんなそうだったんじゃないかなぁ。お笑いでも、90年代のダウンタウンに影響を受けた世代はみんなツンケンしている、みたいな(笑)。

―お笑い界にとってのダウンタウンみたいな大きな存在は、ゲントウキがいたシーンでは、やはりフリッパーズ・ギターでしたか?

田中:そうですね。僕自身は直接的な影響を受けていないんですけど、世代的にはものすごく大きかったと思います。でも、僕にとってはフリッパーズよりもキリンジの存在の方が大きかったですね。フリッパーズって、元ネタがある曲が多いじゃないですか。

―洋楽からの直接的な引用が多いですよね。

田中:そうそう。でも、キリンジにその感じはなかった。だから、キリンジが出てきたときは、「ついに出てきてしまった!」と思って焦りましたね。全然敵わないなぁと思った。冨田恵一さんがアレンジしていたし、名前も日本語だし、かっこいいなって。

ここで一度、僕たちの青春時代を共に過ごしてきた音楽CDというアート形態に「ありがとう。今までお疲れ様でした」って言いたかった。

―今年はKIRINJI(2013年に堀込泰行が脱退して以降、キリンジは「KIRINJI」に表記を変更)も新作『ネオ』を出しましたけど、かつて同じ磁場にいた人たちが、こうやって同時期に作品を出すのは面白いですよね。今作の特設サイトにはKIRINJIメンバーからのコメントも寄せられていますし。

田中:KIRINJI、新作でサウンドがむちゃくちゃ変わりましたよね? 彼らは、今、世界や世間で起こっていることを敏感に感じ取りながら、あのアルバムを作ったんじゃないかと思うんですよ。その部分で、「同じことを考えているんだなぁ」って思った。実際、KIRINJIに今回の音源を送ったら、「ゲントウキも変わったか!」って、すごく感動してくれて、コメントもくれたんです。

KIRINJIは変化を求める仲間なのかなって、勝手に思っていますね。変化といっても、「海外でEDMが爆発的に売れているから、それをやろう」みたいなことではなくてね。もっと大きく「時代」を感じ取っているというか。

―今作でゲントウキは、どう時代を感じ取り、どんな変化を見せようとしたんですか?

田中:正直、新しい何かに辿り着けているかといえば、そうではないかもしれない。やっと1枚作れたっていうのが現実だから。なので、自分の中でこの作品は、次に進むための区切りだと思っていて。

ここで一度、僕たちの青春時代を共に過ごしてきた音楽CDというアート形態に「ありがとう。今までお疲れ様でした」って言いたかったんですよね。もちろん、この先も同じ形態で出すかもしれないんですけど。

―なるほど。このアルバムは、変化する時代を前に作られたレクイエムである、と。

田中:そう。ただ曲に関しては、もう「ど真ん中」じゃなくてもいいっていう吹っ切りはあると思います。もちろん、今も楽曲提供やCMの曲作りはしているし、「ど真ん中」を狙うときは狙いますけど、もう音楽業界全体として、「ど真ん中」ですらお金が動かないかもしれないですよね。

そうなったとき、新たに価値を作るには「まったく新しいもの」を考えた方がいいのかなっていう気がしていて。テクノロジーも進化して、自分の頭の中にある音のイメージも具現化しやすくなっているし。

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リリース情報

ゲントウキ『誕生日』
ゲントウキ
『誕生日』(CD)

2016年9月21日(水)発売
価格:2,800円(税込)
VICL-64642

1. 誕生日
2. 5万年サバイバー
3. カモメの気持ち
4. Bye Bye
5. 愛の砂漠
6. ソフトクリームとスカートの記念日
7. アルゴリズム
8. Busy Days
9. 素敵な、あの人。(Acoustic Ver.)

イベント情報

『ゲントウキ New Album「誕生日」リリースツアー』

2016年10月14日(金)
会場:東京都 青山 月見ル君想フ

2016年11月日(月)
会場:大阪府 心斎橋 Music Club JANUS

料金:各公演 前売3,500円(ドリンク別)

『ゲントウキ アルバム「誕生日」発売記念 ミニライブ&サイン会』

2016年9月30日(金)
会場:兵庫県 ミント神戸2Fデッキ特設ステージ

2016年10月5日(水)
会場:愛知県 名古屋パルコ店西館1Fイベントスペース

プロフィール

ゲントウキ
ゲントウキ

シンガーソングライター田中潤のプロジェクト。トリオバンドとして活動を開始し、2007年より田中のソロになる。様々なジャンルを消化したアレンジの上に、ポップなメロディーをのせて歌う。ソロ活動として、2008年から作編曲家、プロデューサーとしてSMAP、倖田來未、高杉さと美、土岐麻子、May J.など多くのアーティストを手掛ける。多数の楽曲提供や編曲に携わる一方、映画音楽や広告音楽、近年はCM音楽も手がけるなど、マルチに活動中。

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