
冬にわかれては「左脳を使ってない感じ」。寺尾紗穂ら3人で語る
冬にわかれて『なんにもいらない』- インタビュー・テキスト
- 小田部仁
- 撮影:松永つぐみ 衣装協力(寺尾紗穂):spoken words project 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
寺尾紗穂、伊賀航、あだち麗三郎。この3人の音楽家の持つ、人としてのオーラのようなものは非常に近しいところがある。ただなんとなく柔らかい雰囲気で……というような陳腐な言葉では言い尽くせない、生きることに対する根本の部分のスタンスが「優しさ」というところに紐づいているように思う。他者の「孤独」や「痛み」に対して目を背けずに、そっと側にあろうとする。「冬にわかれて」の音楽には、そんなかれらの「優しさ」が純度100%で昇華されている気がする。
寺尾のソロ作のサポートを長年続けてきた、あだち・伊賀とともに「創作する場」を作りたいという思いから生まれた、今回のバンドプロジェクト。しかし、人と人とが繋がるということは、ときに予想もしなかったような結果を生み出す。
「冬にわかれて 私の春を生きなければならない」ーー寺尾が敬愛する詩人・尾崎翠の詩のタイトルをバンド名に冠した冬にわかれては、今、草木芽生え動る春を歌うことで、誰にも知られぬひそやかな「孤独」に優しくそっと手を差し伸べる。
寺尾さんの字は、スゴイですよ。ちらっと歌詞ノートを見せてもらったんだけど、1文字も読めなかった。(あだち)
—以前、寺尾さんにインタビューさせていただいて、あだちさん、伊賀さんについてお話を伺った際、おふたりとは「ウマが合う」とおっしゃっていましたよね。
寺尾(Vo,Pf):……ふふ(笑)。
あだち(Dr,Sax):いい言葉ですね。ウマ合ってますよ。
—あと、3人とも共通して「筆跡が適当」と。
寺尾:カチって書く人が誰もいないんだよね……でも、私と一緒にしないでほしいって思ってるでしょ(笑)。
あだち:寺尾さんの字は、スゴイですよ。最初にライブを一緒にやるってなったときに、ちらっと歌詞ノートを見せてもらったんだけど、1文字も読めなかった。だから逆に、「この人、天才なんだな」って思いました。筆跡って、その人が何を考えているのかが出るじゃないですか。読めなかったんですけど、何かがわかった気がしましたね。
伊賀(Ba):あれ見ながらライブやっているのかと思うと、ビックリするよね。
寺尾:たまに、自分でも読めないことある(笑)。
あだち:そうなのか(笑)。でも、崩して書いちゃうのは僕もわかる。頭の回転に筆が追いついてないんですよね。思いついたことを、そのまま形にできないタイムロスに、たまにイラっとすることがある。だから、字が適当になる(笑)。
寺尾:伊賀さんは、平和な字を書きますよね。
伊賀:ノソノソした感じですね。平和ですよ~。
孤独の問題が、今、一番関心があります。ゆるやかに繋がれる場所とか関係とか、そういうものが実現した社会が私自身の夢。(寺尾)
—冬にわかれての3人からは、人として近しい何かを感じていて。お三方は今、生活のなかで大切にしなきゃと思ってらっしゃることって何かありますか?
寺尾:私は“君が誰でも”の歌詞でも書いているんですけど、どんな形でも人と人が繋がることが大事な気がしていて。
冬にわかれて“君が誰でも”を聴く(Apple Musicはこちら)
—先日、吉祥寺STAR PINE'S CAFEで行われたライブでも“なんにもいらない”の前のMCで、知り合いのライターさんが孤独死されたというお話をされていて、「寂しさを内に秘めて、口に出すことができない人もいる」と仰っていましたね。そういう「孤独」への眼差しは、常に寺尾さんの創作物から感じます。
寺尾:そうですね。孤独の問題が、今、一番関心があります。ゆるやかに繋がれる場所とか関係とか、そういうものが実現した社会が私自身の夢でもある。歌で歌うだけじゃなくて、現実に同じようなことを考える人たちと何か前に進めていけないか、常に考えています。
伊賀:うーん、切実なテーマですね。僕は年もとってきたし、やっぱりこれからどうやって生活していくかってことですかね……音楽って、若い人の文化な気がしていて、若くて才能ある人もたくさん出てきていますから。その人たちの作ったものに感動する自分にも気づくし。だから……自分はどうなるんだろうなぁってのは思いますね。
寺尾:50代になったら、仕事が激減するっていう謎の思い込みがありますよね、伊賀さん。そんなこと絶対ないと思うんだけど。
伊賀:そうかな。だといいんだけどね。
あだち:僕は身体の研究もしていて、脳みその動きに今は興味があります。この間、寝ているときに家の前をバイクが通った音がして、目が覚めたんですよ。でも、急に起きたから、自分が今どこにいるのかわからなくて、だんだん、目が覚めてきて、自分のいる場所が把握できてくるにつれ、脳の一部分が働いていることに気づいたんですね。
伊賀:へぇ、面白い。
あだち:触ってわかるぐらいの感じ。で、「ここが場所を認識する脳の部位なんだな」って体感的に気づいて。じゃあ、他にもいろんな育てたい部位を刺激して育ててあげればいいかなと。今、作曲があんまりできてないから……作曲できる脳の位置を探してます(笑)。
伊賀:結果、知りたいですよね。
あだち:いい曲できて、どこが動くかわかったら教えます。
リリース情報

- 冬にわかれて
『なんにもいらない』(CD) -
2018年10月17日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PCD-280411. 君の街
2. 耳をすまして
3. 白い丘
4. おかしなラストプレイ
5. 月夜の晩に
6. 冬にわかれて
7. 甘露日
8. なんにもいらない
9. 優しさの毛布でわたしは眠る
10. 君が誰でも
イベント情報
- 『冬にわかれて ライブ』
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2019年2月4日(月)
会場:愛知県 得三2019年3月23日(土)
会場:東京都 ROUTE89 BLDG. 1F/ROUTE BOOKS向かい工房2019年3月24日(日)
会場:兵庫県 旧グッゲンハイム邸2019年4月21日(日)
会場:新潟県 高田世界館
プロフィール
- 冬にわかれて
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『楕円の夢』『たよりないもののために』など揺るぎない名盤を生み出し続け、リリース毎に作品が注目されるシンガー・ソングライター、寺尾紗穂(Vo,Pf)、細野晴臣や星野源、ハナレグミなどさまざまなアーティストのサポートを務めるベーシスト、伊賀航(Ba/lake、Old Days Tailor)、片想いの一員であり、鈴木慶一やHeiTanakaといったアーティストのサポート、その他プロデュースやレコーディングからソロ活動までこなすマルチ・プレイヤー、あだち麗三郎(Dr,Sax/あだち麗三郎と美味しい水)の3人から成るバンド、冬にわかれて。寺尾紗穂の最新アルバム『たよりないもののために』とほぼ同時にリリースされた2017年のデビュー7インチシングル「耳をすまして」(カップリングの「優しさの毛布でわたしは眠る」共に新たなミックスで本作に収録)で注目を集めた彼らがついに1stアルバムをリリース。