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羊文学は歌い鳴らす、「声なき声」をなかったことにしないために

羊文学は歌い鳴らす、「声なき声」をなかったことにしないために

羊文学『砂漠のきみへ / Girls』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

メジャーデビューを発表し、配信シングル『砂漠のきみへ / Girls』をリリースした、羊文学。この“砂漠のきみへ”と“Girls”という2曲は、その両極端な性格によって、羊文学というバンドの両義性を見事に表している。“砂漠のきみへ”において、その儚くも包容力のあるサウンドに刻まれた言葉は、自身の無力さを噛み締めながら、ただそこに「ある」ことを自分にも他者にも許そうとする。対して“Girls”は、激しく力強いサウンドに乗せて、愛情への飢餓感と、そこから生まれる痛みに満ちた欲望を叫ぶ。どちらも切実な感情を根に持ち、その感情を「なかったこと」にしないために、音楽は独特なフォルムを持つに至っている。

弱くあることと、強くあること。「優しくありたい」と思うことと、怒りに身を震わせること。「救いたい」と願うことと、「救えない」と許すこと。羊文学の音楽は、塩塚モエカの詩情は、その狭間を彷徨い続ける。きっとこの先もそうだろう。答えも解決もない。ただ、音楽はその眼差しによって、見つめ続けるだけだ。塩塚モエカ、単独インタビューをお送りする。バンドの状況は加速しているが、彼女の繊細な眼差しは変わらず、答えのない場所を見つめ続けているようだ。

羊文学(ひつじぶんがく)<br>左から:フクダヒロア(Dr)、塩塚モエカ(Vo,Gt)、河西ゆりか(Ba)<br>繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フルアルバム1枚、そして全国的ヒットを記録した限定生産シングル『1999 / 人間だった』をリリース。2020年8月19日に「F.C.L.S.」より『砂漠のきみへ / Girls』を配信リリースし、メジャーデビュー。
羊文学(ひつじぶんがく)
左から:フクダヒロア(Dr)、塩塚モエカ(Vo,Gt)、河西ゆりか(Ba)
繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フルアルバム1枚、そして全国的ヒットを記録した限定生産シングル『1999 / 人間だった』をリリース。2020年8月19日に「F.C.L.S.」より『砂漠のきみへ / Girls』を配信リリースし、メジャーデビュー。

「優しさ」や「思いやり」という言葉の先にある、塩塚モエカの音楽家としての哲学

―このコロナ禍の自粛期間は、塩塚さんはどのように過ごされていましたか?

塩塚:私、このタイミングでちょうど大学卒業して一人暮らしをはじめたんですけど、家でずっとパソコンに向かっていて。何曲かは作りましたけど、あんまり曲も作ることができなかったんです。家から出ないと、景色を見ることもできないし。

私はDVDとか家で何か映像を見るのとかが正直、そんなに好きじゃなくて。映画を見るにしても、映画館、特に夜の映画館に行って衝撃を受ける体験が好きで。最近は家で映画とかも見たりするようになりましたけど、やっぱり、あんまり心は動かないな、と思ったり。

あと、考えていたことは、やっぱりネットのことですね。会えないからこそ、「人と人がつながることって、なんなんだろう?」っていうことを考えたり。ネット上では人が記号のように見えてしまうけど、でも、その向こう側にいる人のことを想像することの大切さを改めて感じたりしました。

―8月の前半に開催されたオンラインツアーは、過去曲のタイトルでもある『優しさについて』と題されていましたよね。今、羊文学がこの言葉を掲げることにも非常に大きな意味を感じました。

塩塚:この自粛期間は、人のことを「人間」として思いやることの大切さに気づかされる期間だったと思って。でも、全部のことを思いやっていたらキリがないし、なにも言えなくなっちゃう……けど、それでも、どこかで思いやりや優しさを持っていたい。それは人間性とかの話ではなくて、もっと深い部分での「意識」みたいなところで。そうすれば世界はよくなっていくんじゃないかと思って、このタイトルにしたんです。

塩塚モエカ
塩塚モエカ

―そもそも、“優しさについて”という曲は『きらめき』(2019年)に収録されていましたけど、エリオット・スミスの“Waltz #2 (XO)”(1998年に発表された『XO』に収録)をカバーしようと思っていたところから生まれた曲だったと、以前、記事で読みました。

塩塚:そうですね、エリオット・スミスって、私は歌詞をじっくり聴いたことがあるわけでもないし、なにかを読んだりしたわけでもないんですけど、想像のなかで、すごく繊細な人だったんだろうなと思っていて。

その繊細さが、あの“Waltz #2 (XO)”には表れているというか、私が想像するエリオット・スミスは、あの曲なんです。私は“Waltz #2 (XO)”が大好きだったから、あの曲のような音数で、ああいうテンションで演奏したいっていうところから生まれた曲ですね、“優しさについて”は。

羊文学“優しさについて”を聴く(Apple Musicはこちら

エリオット・スミス“Waltz #2 (XO)”を聴く(Apple Musicはこちら

―この曲だけでなくても、「優しさ」という言葉は、塩塚さんの書かれる歌詞なかでとても重要な意味を持って使われることがあるように思います。

塩塚:私自身は全然、優しくないんですけどね。優しさって、想像力だと思うんですよ。私は言っているわりに、優しくなれていないと思う。でも、もっといい人間になるために大切にしたいことだな、とも思うんです。

たとえば、今ある世界を「あまりよくない世界だ」と思っていたとして、それに対してワーッと声を上げることも大切だし、言わないと動かないこともあると思う。それはそうだけど、でも、私はワーッと声を上げるだけじゃなくて、「これをどうやって優しく伝えたら、わかってもらえるだろう?」ってことを考え続けたいし、そっちをやってきたいと思う。どっちも絶対に重要だけど、今はそっちが少ないから。

私、中学生くらいの頃に、映画作りのワークショップに参加したことがあって。それは超最悪な思い出なんですけど(笑)、ひとつだけよかったことがあったんです。もう誰かも忘れましたけど、そこに来ていた映画監督のおじさんが、「人は弱い人のことを贔屓にするけど、本質的には、強い人のほうにしかついていかない。それでもなお、弱い人のために戦いなさい」と言っていたんです。そのときに、「これだ!」と思ったんですよね。それが今でも、自分がものを作るうえでのフィロソフィーになっているような気がします。

塩塚モエカ
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リリース情報

羊文学『砂漠のきみへ / Girls』
羊文学
『砂漠のきみへ / Girls』

2020年8月19日(水)配信

プロフィール

羊文学(ひつじぶんがく)

Vo.Gt.塩塚モエカ、Ba.河西ゆりか、Dr.フクダヒロアからなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フルアルバム1枚、そして全国的ヒットを記録した限定生産シングル『1999 / 人間だった』をリリース。今春行われたEP『ざわめき』のリリースワンマンツアーは全公演ソールドアウトに。東京公演は恵比寿リキッドルームで行われた。2020年8月19日にF.C.L.S.(ソニー・ミュージックレーベルズ)より『砂漠のきみへ / Girls』を配信リリースし、メジャーデビュー。しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。

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