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羊文学は歌い鳴らす、「声なき声」をなかったことにしないために

羊文学は歌い鳴らす、「声なき声」をなかったことにしないために

羊文学『砂漠のきみへ / Girls』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

砂漠のような街で、もがくように生きるきみへ。手紙のように綴られた歌が伝える、塩塚モエカの思う「優しさ」のかたち

―“砂漠のきみへ”はどういったところから生まれてきましたか?

塩塚:すごく頑張っている友達がいて。その友達が、「勤めている場所を辞める」と言っていたんですけど、私はそれを自分事のように考えてしまって、「辞めるのはよしたほうがいいんじゃない?」と言ったんです。でも結局、友達はその仕事を辞めたんですけど、あのとき、ひとつの価値観でしか自分はモノを言えなかったし、その友達なりに考えたことを「見守る」っていう立ち位置も大事なんだなって、あとから気づいて。

羊文学“砂漠のきみへ”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

塩塚:それに、あのときの友達のように、もがいている人のことを綺麗だと思ったし、愛おしいとも思ったんです。自分にとっては貴重な経験だったので、曲にしました。

―「砂漠」というモチーフは、ご自分のなかのイメージとして出てきましたか? それともなにかの引用ですか?

塩塚:自分のなかのイメージですね。東京って、砂漠っぽいなと思って。その友達との出来事があったときは学生で、実家暮らしだったので見えてなかったんですけど、いざ自分が東京でひとり暮らしをはじめてみると、家賃も高いし、働かないと暮らしていけないし……いろんな重みが常に付きまとっているような感じがして。そこに、砂漠のなかで水がないと生きていけない人間の苦しさが重なるような気がしました。

―この“砂漠のきみへ”の歌詞は、どこか、手紙のような綴られ方をしているなと思って。

塩塚:ああ、ありがとうございます。この曲は最初、「手紙」というタイトルにしようか迷っていて。

―そうなんですね。

塩塚:頑張っている人に、私は最初ワーッと言ってしまったけど、「本当はなんと言ってあげればよかったのか?」と迷いながら、手紙を書いている……そういう設定の曲なんです。

―手紙である以上、すごく親密な優しさや温かさを感じると同時に、「でも、その場にはいない」という前提もありますよね。そこにあるのはやはり「見守る」という視点だと思うんですけど、その無力さが、僕はすごく美しいなと思いました。

塩塚:そうですね……。最初から「私にはなにもできないな」では意味がないと思うんですけど、いろいろ考えた末に、最終的になにもできなくなることもあるような気がして。でも、それはすごく大切な選択肢のひとつだと思うんです。

「私は神様みたいな存在になりたいわけじゃなくて」――それでも羊文学の音楽がもたらす「救い」の感覚について

―僕には、“砂漠のきみへ”は「君を救えない」と歌っているように聴こえました。でも、それは根本的に「救いたい」と思うからこそ行きつくことだし、塩塚さんは本質的に、「誰かを救いたい」と思っている人なんだろうとも思うんです。

塩塚:それは、思っています。私は自分が傷ついたりしやすいぶん、敏感なのかもしれないけど……。たとえば超極論ですけど、電車を待っている目の前で、誰かが線路に飛び込んだときに、それを救おうと追いかけて、死んでしまった人がいたとするじゃないですか。私には、それは絶対にできないんです。

でも、「できないから、どうしよう?」と考え続けているというか。もしかしたら、ホームに飛び込むことはできないけど、音楽ならそれができるかもしれない、とか……。

―うん。

塩塚:「救う」といったところで、実際に身体を動かすようなことだと、手が足りないし、私はミュージシャンだから、音楽以外のことに集中力は持たないんです。私は結局、音楽をやっていくしかない。

本当は、口で言っているだけじゃなくて、もっと実際にいろいろできたらいいんですけどね。いつも、気持ちは行ったり来たりしていると思います。「どうにかしたい」と思ったり、「自分のことしか考えていなかったな」と思ったり。でも、とにかく目で見える範囲の人たちのことは大切にしたいと思っているから。

羊文学

塩塚:私は、超普通の人なので。むしろ、普通よりもちょっと欠けているくらいの人間だと思う。こうやって音楽をやっていてステージに立つと、「超すごい人」みたいに見られるのかもしれないけど……。まぁ、私も他のアーティストに「神なんじゃない?」とか思うこともあるけど(笑)、でも、私は神様みたいな存在になりたいわけじゃなくて。私は、普通に人であって、音楽も、人と人とのものであって。野菜とか器とかを作っている人と変わらないと思う。

―裏を返すと、野菜や器と同じくらい、音楽は必要だということですよね。

塩塚:音楽だけじゃなくて、あまり気づかれないけど、なくなったら失われるものはたくさんあると思う。「娯楽」と呼ばれるものは全般的にそうだと思う。これはよく言われることですけど、ある音楽を聴くことによって、そのときの景色や想っていたことが、その音楽に重なって保存されるじゃないですか。形がないぶん、景色や記憶に影響できることは、他にはないことだなって思うし、心が震えるっていうことは、生きていて超大切なことだと思います。

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リリース情報

羊文学『砂漠のきみへ / Girls』
羊文学
『砂漠のきみへ / Girls』

2020年8月19日(水)配信

プロフィール

羊文学(ひつじぶんがく)

Vo.Gt.塩塚モエカ、Ba.河西ゆりか、Dr.フクダヒロアからなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フルアルバム1枚、そして全国的ヒットを記録した限定生産シングル『1999 / 人間だった』をリリース。今春行われたEP『ざわめき』のリリースワンマンツアーは全公演ソールドアウトに。東京公演は恵比寿リキッドルームで行われた。2020年8月19日にF.C.L.S.(ソニー・ミュージックレーベルズ)より『砂漠のきみへ / Girls』を配信リリースし、メジャーデビュー。しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。

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