インタビュー

今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:タケシタトモヒロ 編集:井戸沼紀美、久野剛士(CINRA.NET編集部)

再演より新作を。根本宗子の慣習に囚われないこだわり

今泉:ずっと疑問だったのが、演劇って再演が多いじゃないですか。あれは考え方として、戯曲が1番重要なものとしてまずあって、役者が変わってもその演劇は成り立つからってことなんですか?

根本:いや。単純に、名作が生まれても、初演を見ている人数が少ないからですよ。私も若いときにずっと、「再演しないと売れないよ」って目上の人から言われてました。仮に面白い作品でもまだ数百人しか見てないのに、何で再演しないんだって。

でも、次に舞台を作ろうとするときには興味があることなんて変わってますから、もう1回それをやろうっていう気に当時はならなかったですね。

今泉:なるほどね、そういう一面もあるのか。

根本:ただ新作って、役者へのオファー段階でいろいろと決まってないことが多いので、すぐに「出ます」って言ってもらいにくい気持ちもわかるんです。オリジナルの舞台よりシェイクスピアのロミオ役のほうが、オファーしやすいし受けやすい。みんなご存知「ロミオ」だから。だからこそ新作でも毎回きちんとしたクオリティーを叩き出そうとし続けたんです。

『第65回岸田國士戯曲賞』最終候補に選出された月刊「根本宗子」『もっとも大いなる愛へ』イメージビジュアル。伊藤万理華らが出演した。
『第65回岸田國士戯曲賞』最終候補に選出された月刊「根本宗子」『もっとも大いなる愛へ』イメージビジュアル。伊藤万理華らが出演した。

根本:「この人の新作だったら出てみたい」と思ってもらうために、新作をやり続けてブランディングするしかない、って。もちろん、再演する楽しさや意味は年齢が上がると共にだんだんわかってきているし、古い戯曲もやってみたいと思うようにはなっているんですが。

誰かのためではない。一人ひとりが意思を持つことに立ち返る

―根本さんが新作を上演し続けるのには、若手の才能を後押ししていきたい、という願いもあるのでしょうか。

根本:うーん。俳優を私が売り出したい、という気持ちはないんですよ。その人がどういうものをやっていきたいのか、私が全部わかっているわけではないし、個人の問題ですから。

それでも、いいな、素敵だなと思った俳優さんがいたら、その人のプロフィールに書かれる代表作に入る作品を作る! という気持ちで取り組んではいます(笑)。

ひとつの作品でその俳優さんの全部は見せられないですが、それでも「いい部分が出たな」と思っていただけるものを作りたいな、と。

左から:根本宗子、今泉力哉

今泉:まったく同じです。俺も「若い人たちのために作る」というよりは、「ずっと残るものを」という想いがあります。「若い人たちのために作る」と考えてしまうと、ちょっとバランスがおかしくなると思うので。それよりも作品の質を上げることにみんなで協力したほうが、結果いいものができると思うんです。

今泉力哉監督の新作『街の上で』の予告編

根本:その人の代表作を作りたい! という想いがある一方で、いろんな作品に出るのが役者の仕事でもあるから、ひとつの色が強くなりすぎるのはよくないなとも感じますよね。特に若い俳優とやるときは、「私が演出家の全てではないと思って話を聞いてくれ」と言っています。

初舞台が私の作品だと、「演出ってこういうものなんだ」と思いこんじゃうかもしれないので。うちはこうやってるけど、本当に演出家によって違うから、と。それに私自身、わりと色が強い作家なので……。

今泉:俺も俳優ワークショップでは同じことをド頭で言うようにしてます。自分はどの現場でも使えることを教えようとは思っているけれど、絶対じゃない、と。さらには「自分で考えよう」とも伝えますね。

根本:それ、本当に大事ですよね。

今泉:もちろん俳優という職業柄、言われたことをやることは多いと思うけど、何か自分のアイデアを持っていて、その隙間で遊べるようにする。あとは、提示された演出や台詞に、何か違和感を抱くのだとしたら、それはすごく大事にしたほうがいい、とか。

俺も現場では、そうした役者さんの違和感ややりにくさに気づくのが監督の仕事だと思っているし、「何か気にならないですか?」「やってて気持ち悪くないですか?」と、極力ものを言える場を作りたいんですよ。

今泉力哉

根本:俳優の演技が私の思い描いたものじゃないときも、いきなり否定するんじゃなくて、「何でそうなったんだろう」って興味がわきます。

1度その興味を突きつめるように、俳優たちには舞台美術の説明も何もせず、本だけを渡して頭からお尻まで通し稽古したことがあるんです。ただ椅子っぽいものが置いてあるだけで、美術プランも何も説明せず。

今泉:ははは! 何それ!

左から:今泉力哉、根本宗子

根本:でも2時間やっていくと、「何となく邪魔そうだからハケよう」みたいな小さなことも含め、何となくお互いの芝居を尊重したルールができていくんです。それは俳優全員、めちゃくちゃ面白かったって言ってました(笑)。

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作品情報

『街の上で』
『街の上で』

2021年4月9日(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開

監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉、大橋裕之
音楽:入江陽
主題歌:ラッキーオールドサン“街の人”
出演:
若葉竜也
穂志もえか
古川琴音
萩原みのり
中田青渚
村上由規乃
遠藤雄斗
上のしおり
カレン
柴崎佳佑
マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)
左近洋一郎(ルノアール兄弟)
小竹原晋
廣瀬祐樹
芹澤興人
春原愛良
未羽
前原瑞樹
タカハシシンノスケ
倉悠貴
岡田和也
中尾有伽
五頭岳夫
渡辺紘文
成田凌
上映時間:130分
配給:『街の上で』フィルムパートナーズ

プロフィール

今泉力哉(いまいずみ りきや)

1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。その他の長編映画に『サッドティー』(2014年)、『退屈な日々にさようならを』(2017年)、『愛がなんだ』(2019年)、『あの頃。』(2021年)など。2021年4月9日に、全編下北沢で撮影した映画『街の上で』が公開。

根本宗子(ねもと しゅうこ)

1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。

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