レビュー

恋をするとハートに矢が刺さる!? 現役少女と大人を結ぶ新世代ラブコメディ

野中モモ
2012/02/08
恋をするとハートに矢が刺さる!? 現役少女と大人を結ぶ新世代ラブコメディ

ちっちゃな頃からまんがが好きで、大人になっても卒業できていないから、現代の少年少女たちにもまんがを読んでもらわないと困るのです。面白いまんがを読んですくすく育って、いつか一緒にまんがの話ができたらいい。さらに言ってしまえば、ゆくゆくは面白いまんがを描いていただきたい。

とは言うものの、いま子どもたちの心を掴んでいるのがどんな作品なのか、正直あまり知らないでいる。週刊少年ジャンプの大ヒット作品はさておき、個人的な楽しみとしてまんがを読み、ごくたまにそれについて原稿を書かせてもらっている程度の中年としては、なかなかそこまで手が回らない。

たとえば小さな子ども向けのアニメや特撮に夢中の大きなお友達の存在は、賑やかな町をちょっと歩けば視界に入ってくるけれど、それに較べてまんがはどうだろう。『このマンガがすごい!』をはじめとするまんが紹介のムックや雑誌記事も、幼年誌の動向までは目配りが行き届いていない様子。そのあたり、「つけたらやってる」地上波テレビと、それなりに能動的に手に取ろうとしないと出会えない書物との違いが浮き彫りになっているといえるだろう。

ただでさえ不況に加えて少子化のあおりを直に受け、少年少女向けの雑誌の部数はずっと縮小傾向だという。そんな中、雑誌のセグメント化は進み、商業的な要請の強いタイアップ作品が増えてゆく。フレッシュな才能を集め、子どもを夢中にさせるのと同時に大人にも届く強さのある、まんがならではのセンス・オブ・ワンダーみたいなものを備えた作品を成り立たせることが、ますます難しくなっているのではないだろうか。お願いだから頑張ってくださいよ……。

そんな厳しいに違いない状況の中、これはまんが好きの大人と少女たちを結ぶ世代間の架け橋になってくれるのでは!? と夢をみさせてくれる期待の星が、今回ご紹介する集英社『りぼん』の新鋭、木村恭子先生だ。昨年の夏に刊行されたはじめての単行本『いちいちズキズキハート』が一部の少女まんが好きの間で話題沸騰、新作を待ち望まれている。

りぼん増刊『りぼんスペシャル』で短期連載された本作は、キュンときてハートに刺さる「矢」が見えるようになってしまった女の子の初恋物語。なぜそうなったのか、どんな仕組みか等の説明は一切なし。絵柄は表紙の通り、長きにわたって『りぼん』の看板を務めた人気作家である種村有菜の存在の大きさを思わずにはいられない顔の半分を巨大な目が占めるスタイルで、昭和育ちの人間としてはたじろがずにいられないが、それも含めて若年層向け作品ならではの勢いがある。

おまけページによれば、木村は1989年生まれ。東京下町出身・在住。2007年冬発売のりぼん増刊号でデビュー。各話のサブタイトルがナンバーガールを意識していたり、ヒロインが「キリンが逆立ちしたピアス」をつけていたり(ジッタリン・ジン!)、「70、80、90年代のものや事が好きです。昔の『宝島』集めてます」と言っているのも納得の音楽系小ネタがところどころに忍び込ませてあるけれど、そこで固有名詞は重要な問題ではなくて、恋する少女の一喜一憂を雄弁に伝える大ゴマ遣い、豊かな表情がとにかく秀逸。ギターがジャーンと鳴って高揚する気持ち、思わず跳びはねちゃう感覚を知っていそう、と言いますか。木村が『稲中』『幕張』に並んでフェイバリットに挙げている岡崎京子が「音楽のようなまんがが描きたい」と言っていたのを思い出したりして。

ポップでキュートな幼年誌ラブコメとして満点のデビュー単行本だが、昨年秋の増刊『りぼんリアル』に掲載された読切『桜子のイス』は一転、社会通念に挑戦する少年少女の秘密の関係を描いた問題作で、野心的な姿勢を見せつけた。20代前半のまだ若い作家が、「妹たち」の世代へ向けて贈るエンタテインメント。これからも時々こっそり覗かせてもらいたい。

書籍情報

『いちいちズキズキハート』

2011年8月11日発売
著者:木村恭子
価格:420円(税込)
発行:集英社

木村恭子

生年月日:1月6日
血液型:A型
好きな食べもの:ナス、香りもの、固いもの
好きな音楽:ユニコーン、テクノ
特技:危ないモノマネ、場になじむ
趣味:深夜ラジオを聴く
初投稿の時期:中3の冬
デビュー作:2008年お正月大増刊号りぼんスペシャル『ただただデイドリームビリーバー』

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