レビュー

USインディシーンを席巻するチルウェイブの代表格、WASHED OUTの熱気

金子厚武
2012/02/13
USインディシーンを席巻するチルウェイブの代表格、WASHED OUTの熱気

震災以降の日本の音楽シーンについて、近年のUSインディシーンにおけるトレンドであるチルウェイブの国内への浸透などを絡めて、「シリアスな音楽が増えたからこそ、ファンタジーとして機能する音楽こそが重要だった」という言説を昨年末あたりはよく見かけたが、個人的には賛同しかねる部分があった。もちろん、「ファンタジーとして機能する」、つまり、ここではないどこかへと聴く者を連れ去るようなエスケーピズムの要素というのは、音楽のスペシャルな部分のひとつではある。ドリーミーな音色のシンセによるサイケデリアを音楽的特徴とするチルウェイブは、その機能性が高いことも間違いない。しかし、退屈と思うことすら退屈に感じられるような日常ならまだしも、大規模な自然災害と未曾有の人災によって、社会の不安定さが露わになった昨年(そして、今も)必要だったのは、やはり聴く者を鼓舞するエナジェティックな音楽だったと思う。ファンタジーもユーモアも内包した上で、ダイレクトに体と心に訴える、そんな音楽こそが重要ではないだろうか。

WASHED OUT ライブ写真 ©Teppei

チルウェイブの第1人者とされるWASHED OUTのライブを見れば、彼らのやっていることがファンタジーやエスケーピズムだけの音楽でもなければ、ただの内省的なベッドルームポップでもなく、非常にエナジェティックな音楽であることが一発でわかる。基本的にビートの効いた、ダンサブルな音楽ではあるのだが、中心人物のアーネスト・グリーンが何度もステージ前方に出てきてオーディエンスを煽る姿というのは、音だけでは想像できなかったものだ。この日は深夜のレッドマーキーに出演した昨年のフジロックのときほどの躁状態ではなかったものの(あのときよりも人数の少ない4人編成だったので、物理的に余裕がなかったのかも)、フロントの3人がポジションを入れ代わりながら徐々にボルテージを上げていくと、ライブの終盤にはライブハウス全体が見事にダンスフロアと化していた。

WASHED OUT ライブ写真

「ブームとしては短命に終わるのでは?」とも言われたチルウェイブがここ日本でもしっかりと浸透した背景には、リスニング対応としての作品のクオリティはもちろん、フロアでの機能性が高かったことも大きな要因としてあるだろう。そして、これからもこのシーンが盛り上がり続けるには、この日アンコールも含めて1時間ちょっとだったライブを、楽曲のバラエティやパフォーマンスなどでより充実させていく必要性も感じた。本国アメリカでは11月に行われる大統領選挙に向け、現実と相対するエナジェティックな音楽の季節が再び訪れることだろう。そのとき、チルウェイブを代表するWASHED OUTがどんなネクストステージを示すのか。それはとても興味深いことだ。

リリース情報

WASHED OUT
『AMOR FATI』

2012年1月11日発売
価格:1,600円(税込)
RCG-90071

1. AMOR FATI [Radio Edit]
2. AMOR FATI [Clams Casino Remix]
3. AMOR FATI [Au Revoir Simone Remix]
4. EYES be CLOSED [Radio Edit]
5. EYES be CLOSED [Grimes Remix]
6. EYES be CLOSED [Star Slinger Remix]
7. EYES be CLOSED [Lovelock Remix]
8. CALL it OFF
9. OLIVIA
10. LUCK
11. BELONG
12. PHONE CALL

WASHED OUT

アトランタ出身、アーネスト・グリーンによるプロジェクト。2009年、EP『Life Of Leisure』でデビュー。どの音楽メディアでも高い評価を獲得。後に数々の模倣者を生み出した。2011年にはデビュー・アルバム『Within And Without』をリリース、ビルボード・チャート26位にランクイン。チルウェイヴと呼ばれる彼の楽曲は2011年の音楽シーンを象徴するキーワードとなった。

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