「世界」も「街」も飛び越えて、現在進行形のアナログフィッシュが飛び込んだ「荒野」

アナログフィッシュが『荒野 / On the Wild Side』という作品で描いたのは、「可能性を信じることの重要性」である。現代社会とは、確かなものなど何もない「荒野」であるという警鐘を鳴らすと同時に、そこには目に見えない「可能性」が広がっているのだという希望を鳴らしていたからこそ、あの作品の素晴らしさは際立っていたのだ。キャリア初のベスト盤と、昨年行われた初の日比谷野音公演のライブ盤による2枚組である本作は、そのタイトルが示す通り、今も彼らが「荒野」の真っただ中にいることを示している。

順番が前後するが、まずはDISC2のライブ盤についての話をしたい。僕は実際にこの日のライブに足を運んでいるのだが、とにかく素晴らしいライブだった。オーディエンスが手を振り上げて熱狂し続けるような、ド派手なライブをするバンドではない。しかし、そこには確かなエナジーが、ロマンが、またユーモアがあり、僕はそのライブを見ながらR.E.M.のことを思い出していた(念のために書いておくと、R.E.M.とはかつて「世界で最も重要なロックバンド」と呼ばれたアメリカを代表する存在で、昨年惜しまれながらその歴史に幕を閉じている)。



もちろん、アナログフィッシュがR.E.M.のファンであることを公言していることも要因としては大きいのだが、最近のライブではハンドマイクで歌うことも多い下岡晃の姿が、マイケル・スタイプの姿とダブって見えたからでもある。そして、1番の理由は、R.E.M.というバンドもまた、常に「可能性」について歌い続けたバンドだったということが挙げられる。彼らの代表曲のひとつ、人類が月に到達したことをテーマに、「可能性」の力を祝福した“Man On The Moon”という曲が持つ、最高にチアフルなムードが、この日のライブでは終始感じられたのだ(歌詞の解釈には諸説あり、「死」についての歌でもあると言われているが、その二面性もやはり通じるところがある)。

一方、DISC1にあたるベスト盤を聴けば、アナログフィッシュがどのような道を経て、「荒野」にたどり着いたかのかが見えてくる。デビュー時のアナログフィッシュが描いていたのは、「荒野」ではなく「世界」だった。「世界」もしくは「World」という単語は、今も彼らの歌詞によく出てくるワードだが、デビュー作のタイトル『世界は幻』が示すように、当時の彼らが描いていたのは、輪郭のぼやけた「世界」だったかもしれない。それでも、バンドがメジャーデビューを果たし、その表現が徐々に研ぎ澄まされていくと、歌詞の中には「Town」や「City」というワードが増え、より現実感を伴った、「街」を描き出すようになっていった。

しかし、その後に待ち受けていたのは、斉藤州一郎の病気療養による離脱という、バンド最大の危機だった。そこで、残された下岡と佐々木健太郎の2人は、何よりバンドを存続させることに焦点を絞り、サポートメンバーを含めた4人編成でこの困難を乗り越えていく。斉藤が途中から復帰する形で作られたアルバム『Life Goes On』が、どこでもない、「今、ここ」に立ち止まって、再び未来を見据えた作品だったのは、彼らにとっての必然だったと言えよう。そして、再び3人体制を整え、彼らが目を凝らして見つめた「今、ここ」は、「世界」でも「街」でもなく、荒涼とした「荒野」だったのである。

本作では、この「荒野」に、確かな「可能性」の芽が顔を出している。それがドライブ感溢れる新曲の“Na Na Na”だ。この曲は、下岡と佐々木という2人のボーカリストが、それぞれ自作の曲を歌い続けてきたバンドの10年以上に及ぶ歴史の中で、初めて佐々木が下岡の曲を歌った、記念碑的な1曲である。彼らはここに、バンドの「可能性」を見出したのだ。さあ、想像してみよう。この芽が花になり、そこに人が集まって「街」が生まれ、やがて「世界」になっていく…そう、かつて幻だった「世界」を、再び自分たちの手で作り上げるために。「荒野」はその第一歩なのだと言えるかもしれない。

リリース情報
アナログフィッシュ『ESSENTIAL SOUNDS ON THE WILD SIDE. ANALOGFISH:HIBIYA YAON LIVE & MORE.』

2012年2月13日発売
価格:2,980円(税込)
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プロフィール
アナログフィッシュ

佐々木健太郎(Vo.B.)、下岡晃(Vo.G.)、斉藤州一郎(Dr.)からなるツインボーカル/3ピースバンド。1999年長野県喬木村にて佐々木、下岡の2人で結成。上京後、斉藤と出会い3ピースバンドに。2人のボーカル/コンポーザーによる楽曲の圧倒的なヴァリエーション、ゆるいキャラクターとは対照的な緊張感と爆発力満載のライブパフォーマンスは他のバンドのそれとは一線を画す。



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