今年こそくるりを紅白に

くるり5度目となる武道館公演、素晴らしい一夜でした。最新作『坩堝の電圧』からの曲を多少多めに配しつつも、選曲はほぼベストヒット。この日は7人のサポートメンバーを迎え、総勢11人というスペシャルな編成だったこともあって、楽曲の再現能力が高く、有名曲がオリジナルに近い形で演奏されていた一方で、この編成ならではのスリリングなライブアレンジの方も非常に楽しく、中でも、ファンク色の強いパートを織り交ぜた“惑星づくり”が実に秀逸でした。ロックンロール、フォーク、ハウス、エレポップからラテン歌謡まで、曲調は言うまでもなく幅広く、それでいてどの曲も思わず口ずさんでしまうグッドメロディーに溢れ、「ライブハウス武道館」でありながら「いいコンサート」(どちらも岸田繁のMCからの引用)でもあるという、こんなステージはくるりにしかできません。

くるり

『坩堝の電圧』というアルバムは、新体制となったくるりがフレッシュな気持ちで作り上げた全19曲収録のハイボルテージな作品であると同時に、震災や原発事故に対する言及も多分に含まれた作品であり、これまで常に「京都出身」であることを表現の核とし、ローカルの重要性を体現してきたバンドが、改めてそこを強く打ち出した作品でもありました。まさに、「優れたポップミュージックとは社会の鏡である」という言説を裏付けるようなアルバムだったと言っていいでしょう。しかし、MCでは特にそういったことに言及することなく(むしろ、いつも以上に電車ネタ満載)、ただただそれらの曲をかっこよく演奏していく姿というのは、実に正しいロックバンドのあり方であるように思いました。『国民の成長が第一』なんてこの日の公演タイトルも(ツアー本編のタイトルは『国民の性欲が第一』)、受け取り方によっては非常に社会的なメッセージのようにも受け取れますが、そこもそれぞれが受け止めればよいのだと思います。

さて、ここで話は一気に飛びますが、みなさん昨年の紅白歌合戦はご覧になりましたでしょうか? ももいろクローバーZやきゃりーぱみゅぱみゅ、美輪明宏や矢沢永吉、はたまた「NUKE IS OVER」と書かれたギターストラップで歌った斉藤和義など話題は豊富で、「今年の紅白はよかった」なんて声もちらほら聞こえてきたりはしました。しかし、「国民的コンテンツ」という冠は今や昔、実際には世代間が完全に分断されてしまっているというのが現実でしょう。それを「ネットなどの浸透による趣味の細分化の影響」などと言うことは簡単ですが、これは日本の音楽シーン全体が「音楽を継承していく」ということに無自覚だったことの表れだとも言えるように思います。ももクロの出場が象徴的であるように、現在の音楽シーンはアイドル全盛と言われ、それをバンドとの対立構造で捉える向きもあるようですが、長い年月の中で流行り廃りがあるのは当然で、それを分けて考えるのではなく、個で捉えてそれぞれを楽しむのが一番健康的でしょう。それよりも問題なのは、アイドルにしろバンドにしろ、基本的に若年層にターゲットを絞ったものが多く、世代の融合を生み出しにくいということではないでしょうか。

くるり

そこで、くるりの話に戻ります。小田和正、細野晴臣、松任谷由実といったポップス界の巨匠から、昨年の紅白では荒木飛呂彦のイラストをバックに“天城越え”を熱唱した石川さゆりのような演歌の大御所とも浅からぬ交流を持ち、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやサカナクションといったバンドシーンのトップランナーにも影響を与え、さらに下の世代からも特別視されるくるりという存在は、今さら言うまでもなく、日本の音楽シーンの宝だと思います。武道館公演においては、30代半ばの岸田繁と佐藤征史を軸に、上は40代の権藤知彦や堀江博久、下は20代のファンファンまで、バンドの中でも世代間の融合が行われ、しかも全員がフラットな気持ちで、演奏することを心底楽しんでいるように見えたことがとても印象的でした。そう、大御所の演歌歌手のバックに流行りのアイドルを並べたところで、世代の融合が行われるわけがありません。そんなことよりも、MCで大好きなピート・タウンゼントの話をする岸田繁の姿の方がよっぽど感動的です。想いを持った音楽というのは、そもそも世代も国境も軽々と越えて行くものなのですから。

というわけで、紅白歌合戦が国民的なコンテンツであるなら、今その場に最も似合うのは、くるりというロックバンドだと思います。日の丸の掲げられた武道館を意識したであろう、赤と白(と黒)の衣装を着たメンバーを見ながら、僕はそんなことを考えていました。まあ、言ったらもう何年も前からそういう存在だったとは思いますが、今年はメジャーデビュー15周年というメモリアルイヤーだし、公演前日にはNHKの番組『ファミリーヒストリー』のテーマソングである“Remember me”(この日はアンコールで演奏)が発表され、iTunesのランキングで1位を獲得したりもしています。こんなタイミングは、なかなかないと言っていいでしょう。NHKさん、今年こそくるりを紅白に呼んでください。

くるり

リリース情報
くるり 『坩堝の電圧(るつぼのぼるつ)』通常盤(CD)

2012年9月19日発売
価格:3,045円(税込)
VICL-63879

1. white out(heavy metal)
2. chili pepper japonês
3. everybody feels the same
4. taurus
5. pluto
6. crab, reactor, future
7. dog
8. soma
9. o.A.o
10. argentina
11. falling
12. dancing shoes
13. china dress
14. my sunrise
15. bumblebee
16. jumbo
17. 沈丁花
18. のぞみ1号
19. glory days



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