映像+人類学=アート? まだ知らない人類に出会える『恵比寿映像祭』

「映画を通じて異なる境遇の人々の人生や運命を体験して欲しい」(ワン・ビン / 映画監督 2月16日『収容病棟』アフタートークにて)

映像表現の「現在」の可能性を追求すべく、毎年テーマを設定して開催されている『恵比寿映像祭』も今年で6回目。今年は『トゥルーカラーズ』と題して、映像メディアが持つ表現の多様性と、人類学的なアプローチの作品が持つ、地域や社会の多様性を重ねて象徴させている。その規模は、上映プログラム61本、展示29作品、メイン会場の東京都写真美術館以外にも、恵比寿ガーデンプレイス センター広場でのオフサイト展示が7作品。空前の暴風雪にみまわれた東京はモノクロームの世界と化したが、恵比寿近辺ではさまざまな価値感の色・色・色に出会うことができる。

Arctic Perspective Initiative(Marko PELJHAN and Matthew BIEDERMAN) ipiktuq, augmented senses across sea, tundra and ice 2014 reconstruction Courtesy:Arctic Perspective Initiative / Zavod Projekt Atol / CTASC photos by ARAI Takaaki Courtesy:Tokyo Metropolitan Museum of Photography
Arctic Perspective Initiative(Marko PELJHAN and Matthew BIEDERMAN) ipiktuq, augmented senses across sea, tundra and ice 2014 reconstruction Courtesy:Arctic Perspective Initiative / Zavod Projekt Atol / CTASC photos by ARAI Takaaki Courtesy:Tokyo Metropolitan Museum of Photography

オリンピックやLGBTのシンボルにもあるように、色はまさに多様性の象徴そのものだが、同時に色ほど人の主観に左右されるものはない。同じものを見ていても、隣の人が自分と同じ色に見えている保証はない。また、直前に別の色をどれくらいの時間見ていたかによっても、次の色の見え方はまったく違う。つまり、色とは相対的で移ろいやすいものであり、それゆえに混じりやすい。それは、対話の可能性に満ちたものだとも言えるだろう。

人類学的なアプローチが目立つ展示作品の中、個人的ハイライトは、スーザン・ヒラー『最後の無声映画』を経由してから、分藤大翼『カセットテープ』に至る導線だった。

分藤大翼『カセットテープ』 2013年
分藤大翼『カセットテープ』 2013年

スーザン・ヒラーがビデオに落とし込んだのは消滅寸前、もしくはすでに消え去った言語の音声記録である。我々が目にするのは日本語訳の字幕のみ。長くて数分、短いものは数フレーズで闇に消える言語のカケラにしばし呆然とさせられる。かすかなテープノイズが声の存在に奇妙なリアリティーを持たせる。『最後の無声映画』が上映される部屋の外には、消滅言語の一言を音声波形データとして出力した膨大な図像がある。ふと思い出したのが、小川洋子・岡ノ谷一夫の共著『言葉の誕生を科学する』で考察された直感、「言葉が先にあって歌になった、のではなく、リズムをもったコミュニケーション(歌)から言葉が生まれたのでは?」というものだ。言語の消滅を目の当たりにしながら、言語の発生と分化を想起した。

そんなヒラーの展示室の直後にある分藤大翼『カセットテープ』は、いたってシンプルな1画面の映像作品。カメルーンのバカ族はピグミー系の神秘的な部族だったが、定住化、文明化に伴い、音楽もカセットテープで享受するようになっている。画面は、大破したカセットテープを土くれの上でゆったりと修繕する男の様子を捉えている。しかし、たったこれだけの短い映像作品なのに、前後の展示作品の配置で勝手な印象を受け取ってしまう。そして何度も展示室を行き来してしまうのだった。そのうち、他の展示作品、上映作品まで勝手に関連づけてしてしまう。西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)の『ようこそ西京に-西京入国管理局』やアンリ・サラのビデオ『片言』、ミャオ・シャオチュンの悪ノリCG『小宇宙』など……。短編映画のプログラムは、CDのアルバムと同様に「打順」が重要。それと同じように、インスタレーションなど空間を占める作品のレイアウト次第で作品の印象が決定的に変わる。3階、2階、地下1階と展示作品を回遊し、最後に御大デイヴィッド・ホックニーが出迎えてくれた。おなじみのフォトコラージュではなく、本邦初となる18面の映像作品だ。

David Hockney『The Jugglers, June 24th 2012』©David Hockney photos by ARAI Takaaki Courtesy:Tokyo Metropolitan Museum of Photography
David Hockney『The Jugglers, June 24th 2012』©David Hockney photos by ARAI Takaaki Courtesy:Tokyo Metropolitan Museum of Photography

会期の最終週も連日上映プログラムが組まれている。ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニの『3.11 後の生きものの記録』は、『あいちトリエンナーレ2013』委嘱の展示作品を1画面化し上映形式としたもの。俳優、愛知県民、東日本大震災の避難者が、黒澤明の『生きものの記録』を鑑賞後に語り合い、即興の演技も披露するワークショップを追体験する映像作品だ。さらに、今プログラムの参加者も直前に『生きものの記録』を実際に鑑賞することで、入れ子の構造となる挑戦的なプログラムになっている。

ベン・ルイス『グーグルと知的財産』では、この文を書いている最中にも何度か訪れるGoogle社の巨大サービスの1つ『Google Books』に焦点を当てる。知的財産の独占、一元化へのリアルな恐怖が「無料」の陰に潜んでいる。『おくりもの』は日本を代表するメディアアーティスト藤幡正樹の初期作品集だ。8ミリフィルムや1インチビデオテープなど、時代を通り過ぎた映像メディアに早くから取り組み、アニメーション(撮影)で生まれる映像からプログラム(計算)で生まれる映像への変遷が概観できる。アート好きもガジェットマニアも、映像メディア史と個人史の重なりあいに注目することとなるだろう。

Xijing『Chapter4: I love Xijing - Xijing School』2013 photos by ARAI Takaaki Courtesy:Tokyo Metropolitan Museum of Photography
Xijing『Chapter4: I love Xijing - Xijing School』2013 photos by ARAI Takaaki Courtesy:Tokyo Metropolitan Museum of Photography

『恵比寿映像祭』はインスタレーション作品と上映作品が同じ施設で体験でき、記憶の鮮明なまま行き来できる稀有なフェスティバルといえる。この機会にたっぷりと体験してほしい。

イベント情報
『第6回恵比寿映像祭 トゥルーカラーズ』

2014年2月7日(金)~2月23日(日)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイスセンター広場、ザ・ガーデンルームほか
時間:10:00~20:00(2月23日のみ18:00まで)

展示:
アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ(マルコ・ペリハン、マシュー・ビーダーマン)
朝海陽子
アンリ・サラ
カミーユ・アンロ
川瀬慈
キムスージャ
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)
下道基行
シトー・ジェーラチ
シャジア・シカンダー
ジョウシン・アーサー・リュウ
スーザン・ヒラー
田村友一郎
タリン・ギル&ピラー・マタ・デュポン
デイヴィッド・ホックニー
ナルパティ・アワンガ a.k.a. オムレオ
ハッサン・カーン
分藤大翼

上映:
アン・ソンミン
アンリ・サラ
イ・グアンギ
イリス・ザキ
大呂裕樹
川瀬慈
キム・キラ
グエン・チン・ティ
黒澤明
ケント・マッケンジー
ザット・エッフィング・ショウ
ザ・プロペラ・グループ
ソ・ボギョン
ソン・ドン
タイキ・サクピシット
竹内公太
タッド・エルミターニョ
チュラヤーンノン・シリポン
ツェ・グアンユー
ティト&ティタ
ニティパク・サムセン
ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニ
白諦
パク・スンウォン
フォン・サイラス
藤幡正樹
プリラ・タニア
ベン・ルイス
マティアス・ピニェイロ
マ・チュイシャ
真利子哲也
ミハエル・メイヤー
ミャオ・シャオチュン
ヤン・フードン
ヨハネス・シェーベリ
ラヴ・ディアス
ルーシー・デイヴィス
レザ・アフィシナ(a.k.a.アスン)
ローラン・ヴァン・ランカー
ワン・ジェンウェイ
ワン・ビン
ワン・ヤホイ
川瀬慈(ゲストプログラマー)
ソ・ジンソク(ゲストプログラマー)
松井茂(ゲストプログラマー)
森宗厚子(ゲストプログラマー)
料金:無料
※定員制の上映プログラム、イベントなどは有料

オフサイト展示
『西京映像祭』
出展:西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)

シンポジウム
『電子書籍化の波紋―デジタルコンテンツとしての書籍』
2014年2月22日(土)18:30~20:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階ホール
パネリスト:
エリック・サダン(哲学者、エッセイスト)
エルヴェ・ゲマール(政治家、前フランス経済・財務・産業大臣)
ドミニク・チェン(株式会社ディヴィデュアル共同創業者、NPO法人コモンスフィア理事)
福井健策(弁護士)
角川歴彦(KADOKAWA取締役会長)
定員:190名
料金:前売450円 当日600円
※日仏同時通訳付

ラウンジトーク
2014年2月19日(水)16:00~17:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階ラウンジ
出演:分藤大翼(映像人類学者)

2014年2月21日(金)13:00~14:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階ラウンジ
出演:朝海陽子

2014年2月21日(金)16:00~17:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階ラウンジ
出演:ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニ

『地域連携プログラム:日仏会館90周年記念トーク「グローバリズムにおける写真の可能性」』
2014年2月22日(土)13:00~14:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階ラウンジ
出演:
石内都(写真家)
松平盟子(歌人)

(メイン画像:ベン・ルイス『グーグルと知的財産』2012年)



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