現実逃避ではなく、自分が変わるきっかけとしての映画『ヒミズ』

原作が古谷実、監督・脚本が園子温という奇跡のタッグにより映画化され、染谷将太、二階堂ふみの主演2人がヴェネチア国際映画祭で最優秀新人俳優賞をダブル受賞するなど、大きな注目を集めていた『ヒミズ』が1月14日、遂に劇場公開された。先行していた話題に違うことなく賛辞を浴びつつ、大胆な演出が議論を呼んでいる同作について、黒猫チェルシーのボーカリストであり、映画『色即ぜねれいしょん』の主演をはじめ俳優としても活躍中の渡辺大知に、忌憚ない感想を語ってもらった。園監督から「ケンカ売られたような気がした」という彼が、『ヒミズ』から感じ取った強いメッセージとは、いったいなんだったのだろうか。

観た人が「いや、僕はこう思う」とか、自分の意見を言いたくなる映画

―既に公開もスタートして、かなり議論を呼んでいる内容になっていると思うんですけど、まずは映画『ヒミズ』を観た率直な感想をいただけますか?

渡辺:『ヒミズ』はもともと原作漫画が好きで、園子温監督の映画も好きだったので、映画化が発表されたときから楽しみにしていたんです。率直な感想としては、「2012年版やな」っていうこと。原作のストーリーを消化させながらも、まったく新しいものができていますよね。

『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ
『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ

―原作は2001年から2003年に『ヤングマガジン』で連載されましたけど、渡辺さんが読まれたのはいつ頃だったんですか?

渡辺:(2009年に)大学に入ってからなので、わりと最近ですね。「2012年版やな」っていう感想は、原作は主人公の住田が自分の意思とは関係なく、運命に身を委ねていってる感じが強くあったと思うんです。でも映画では、もっと自分の意思を持つことが重要視されていた。終盤に渡辺哲さん演じる夜野が住田と茶沢に対して、「自分でなんとかしてください」というようなことを言うシーンも象徴的だったと思います。まわりの考えはわからないけど、自分はどうしたいとか、自分はこう思うとか、そういう態度をハッキリさせろ、と突きつけられた感じがあって。

―原作を踏襲したストーリーでありながら、映画では舞台が東日本大震災後になっていて、「いま」をより強く意識させる作りになっていますよね。

渡辺大知
渡辺大知

渡辺:ただ、僕は震災があったかなかったかというのは、ほとんど関係ないと思ってて。もちろん震災という大きな出来事のことを改めて思い出した部分もありますけど、自分の意思を持つだけじゃなくて、人に伝えること、行動することが大事なんじゃないかなって、作品を観て感じました。原作では問いかけだったものが、映画ではその一歩先に行っているというか。自分が知りたかった答えが出てきたとして、その答えが正解なのかどうかわからなくても、「オレはこうするんだ」っていう決意みたいなものを、登場人物たちから感じたんです。それが2012年版っていうか、「これからの映画はこうじゃなきゃな」と。映画に限らず、音楽でもそうやと思ってて。

―映画でも音楽でも、というのは?

渡辺:これからは、ただ「ポジティブに」っていうことを、映画や音楽で表現するのも違うと思うんですよ。単にポジティブっていうことではなくて、どんなことがあっても、自分はこうしたいっていう気持ちが絶対にあるはずで。僕も日々迷ってばっかりですけど、どこかに「本当はこうしたい」っていう気持ちがあります。この映画は、ストーリーがどうっていうよりも、園子温監督からの「オレはこう思う」というメッセージが届いてきた気がします。それに対して「いや、僕はこう思う」とか、観た人が自分の意見を言いたくなる映画だと思いますね。

『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ
『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ

―原作って、「どう受け取るのかは自由だよ」という作品だと思うんですけど、映画になると渡辺さんがおっしゃるような、観客側に問いかけてくるような緊迫感がありますよね。

渡辺:そうですよね。「どう思うのかはっきりせい!」みたいな。だから、いろんな部分で裏切ってきているな、と思いましたね。最初に映画を観始めたときは、「原作ファンのこととかどうでもいいんだろうな」って思ったんですけど、ちゃんと最後まで観ると単純な裏切りではないことに気付いて。ラストシーンとか特にそうですよね。原作を読んだ人は絶対に「えっ!」って驚くと思うんですけど、僕は思わず笑っちゃって。笑っちゃいけないところだと思うんですけど、なにか「どうだ!」という、ケンカを売られているような気さえしたんですね。

若い世代は、強い感情をみんな内側に秘めている

―映画版には、無気力だと言われがちな最近の若者に対してメッセージを突きつけるような意図もあったんじゃないかと思うんです。「最近の若者はこんな風に見られてるぞ、お前ら本当はどうなんだ?」って。『ヒミズ』の主人公は中学生ですけど、渡辺さんもまだお若いですよね。映画を観て共感したり、反論したくなったりしましたか?

渡辺:若者は「無気力」なんじゃなくて、いろいろ考えてると思うんですよ。「こうしたい」みたいな思いって、みんなあると思う。ただ、それをうまく言葉にできなかったり、伝え合わないから、投げやりになっちゃうというか。音楽とか、映画とか、モノを作るって「自分はこうやと思う」とか、「こういうのが好き」とかを言うってことやと思うんですけど、別にそういうものがないからといって、無気力だとは感じないんですよ。

渡辺大知

―無気力に見られるのは、うまく伝えられないから?

渡辺:そうだと思いますね。これからはもっとエゴイスティックに、どれだけまわりに「違う」と言われても、「いや、こうや」って言えるのかが大事だと思うんです。そういうことを僕らの世代やもっと下の世代がやっていけば、おもしろいものが生まれてくると思うし、もっと楽しくなるんじゃないかって。僕は園子温監督が若かった頃の時代については当然知らないので、以前とくらべて今の若者が無気力なのかどうかはわからないですけど、若い世代はいま、すごく燃えていると思います。みんな内には強い感情を秘めているから、あとは爆発させるだけ。僕もそういう「思いを爆発させること」を意識したいなと思います。

『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ
『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ

―いま「内に秘めたもの」っておっしゃいましたけど、映画を観ていると「それを出してみろよ」って挑発しているような感じすらあると思うんです。

渡辺:確かにそうですね。いま(映画の)『ヒミズ』を観た学生とか、僕も含めてですけど、作品をどう思うのかによって、その人から生まれてくるものがガラッと変わるんじゃないかと思います。この映画をダメだったと思うヤツがいてもおもしろいと思うんですよ。「オレは園子温監督よりも、こういう感じを形にできる」っていう若いヤツが現れるかもしれない。ただ、それは園子温監督による『ヒミズ』の挑戦があるからだとは思うんですけど。

―その挑発を受けて、やる気が湧いてくる、という。

渡辺:そこは受けて立ちたいですよね。自分も「負けてないぞ」っていうところを見せたい。ちょっと失礼な言い方になるかもしれないですけど、たぶん負けないと思うんですよ。みんなおもしろいものを作っているし、作ってなくても考えてるなとは思うから。僕も若者の勢いを見たいし、僕自身負けないように作り続けたいなと思いますね。

現実逃避するのではなく、自分がどう変われるのかを考えていくこと

―『ヒミズ』は原作でも映画でも、「普通」という言葉がキーワードになってますよね。渡辺さんはミュージシャンや役者の活動もされていて、あまり普通ではない道を歩んでいると思うんですけど、普通に対する憧れもあったりするんですか?

渡辺:『ヒミズ』の主人公の住田も、本音では普通じゃなくありたいんじゃないでしょうか。原作だと漫画を描いているヤツが出てきて、「アイツはこの歳で夢を叶えて」みたいなセリフもありますよね。僕も小っちゃい頃から「普通ってなんやねん」っていうのはすごく思っていました。言葉として言いやすいから僕も使いますけど、誰でも普通なときもあると思うし、変なときもあるわけなので、結局「普通のヤツってどんなやねん」って。

『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ
『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ

―「普通ってなんだろう?」と思わず考えちゃう作品ですよね。

渡辺:いまや想像を超える大震災すら、実際にありえる世界ですよね。だから「当たり前の日常なんてもはやないけど、それを普通な状態だとは思いたくない」っていうか。日本人はすぐに忘れようとするというか、なかったことにしがちだと思います。でも、ちゃんと現実と向き合うようにすれば、全てが「普通」のことになると思うんですよね。

―そう考えると、ますます何が「普通」なのか、わからなくなりますね…。

渡辺:精神論みたいになっちゃいますけど、僕は震災が起こったことによって「こうしなきゃならない」っていうものはないと思うし、「オレ、変わんなきゃ」っていうことも一切ないと思うんです。震災が起こったからこそ、自分が心の底で本当に思っていたことを、より大事にしていくべきなんじゃないかって。だから、過去に戻ろうとするのでもなく、意識改革をする必要もなく、単純に「オレはこう思う」ということをひとつひとつ明確にしていけばいいだけのことかなと思っています。

『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ
『ヒミズ』 ©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ

―単純ではあるけど、なかなか簡単にできることではなさそうですね。

渡辺:やっぱり、現実逃避をしてはダメだなと思うんですよ。僕、音楽を聴くことも、現実逃避になっちゃうとダメやと思うんです。映画を観ることも、音楽を聴くことも、僕は現実の中やと思ってるし。騒いだりして嫌なことを忘れたりするのは、また現実に帰ってくるわけなので、結局はなにも進んでいないことになると。

―単純な現実逃避になってしまうのでは、何も解決しないですよね。

渡辺:僕は音楽を聴いていても、我を忘れて夢中になる反面、どこかにドライな自分もいて、「この音楽を聴いて自分はどう変わるのか」をしっかり感じておかないと先に進んでいけない、という思いにとらわれるんです。だからこそ『ヒミズ』を観たあとに、この映画から感じたことを、これから少しでも多くの人に伝えていかなきゃいけないな、と思ったんですね。

作品情報
『ヒミズ』

新宿バルト9、シネクイントほか全国公開中
監督・脚本:園子温
原作:古谷実『ヒミズ』(講談社『ヤングマガジン』KCスペシャル所載)
出演:
染谷将太
二階堂ふみ
渡辺哲
吹越満
神楽坂恵
光石研
渡辺真起子
黒沢あすか
でんでん
村上淳
窪塚洋介
吉高由里子
西島隆弘(AAA)
鈴木杏
製作・配給:ギャガ

リリース情報
黒猫チェルシー
『猫Pack2』初回完全生産限定盤(CD+DVD)

2012年3月21日発売
価格:2,500円(税込)
AICL-2364/5

1. ボリュームノブ
2. 東京
3. まったくいかしたやつらだぜ
4. GOOD JOE
5. 風の又さぶろっく
6. マタタビ(アコースティックver.)
[DVD収録内容]
1. 「猫Pack 2」レコーディング完全密着ドキュメンタリー
2. “東京”MUSIC CLIP

黒猫チェルシー
『猫Pack2』通常盤(CD)

2012年3月21日発売
価格:1,800円(税込)
AICL-2366

1. ボリュームノブ
2. 東京
3. まったくいかしたやつらだぜ
4. GOOD JOE
5. 風の又さぶろっく
6. マタタビ(アコースティックver.)

プロフィール
渡辺大知 (黒猫チェルシー)

ロックバンド・黒猫チェルシーのボーカル。田口トモロヲ監督の青春映画『色即ぜねれいしょん』に約2,000人に渡るオーディションの中から抜擢され、映画初出演にして初主演を務める。2009年に、高校卒業後、拠点を東京に移し1stミニアルバム『黒猫チェルシー』を全国リリース。同年夏、『色即ぜねれいしょん』が全国劇場公開、映画での演技が高く評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。またNHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』にも出演中で、ますます注目を集めている。



フィードバック 1

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • 現実逃避ではなく、自分が変わるきっかけとしての映画『ヒミズ』

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて