geek sleep sheep、人気バンドの3人が新バンドを始めた理由

L'Arc~en~Ciel、acid androidのyukihiroを中心に、MO'SOME TONEBENDERの百々和宏、凛として時雨の345によって結成された3ピースバンド、geek sleep sheepが2ndアルバム『candy』を発表する。百々がacid androidのレコーディングに参加したこと、yukihiroと345の事務所の系列が同じだったことなどから、徐々に三人が邂逅し、セッションなどを経てバンドとしての可能性を見出すと、2013年10月にデビューシングル『hitsuji』、12月に1stアルバム『nightporter』を発表。「1990年代のシューゲイザー、グランジ、オルタナ」を掲げつつ、メンバーそれぞれの個性を生かした独自のサウンドによって、幅広い層から支持を集めている。

L'Arc~en~Cielというモンスターバンドに所属し、acid androidという自身のプロジェクトも持っているyukihiroが、なぜ新たなバンドをスタートさせたのか? もしかしたら不思議に思う人もいるかもしれない。MO'SOME TONEBENDERも凛として時雨も3ピースバンドなのに(今のモーサムはライブではサポートが入り4ピースであるが)、百々と345はなぜ新たに3ピースのバンドをやっているのか? これを不思議に思う人もいるだろう。しかし、これにはメンバーそれぞれの理由がある。まず、キャリアにおけるタイミングというのがひとつ。そしてもうひとつは、「バンド」という特殊な集団の魅力によるところが大きい。取材時にメンバーが醸し出していた穏やかな空気感は、L'Arc~en~Ciel、MO'SOME TONEBENDER、凛として時雨とも異なる、この三人ならではのものであった。

「ドラマーとして何かに参加する」じゃなくて、「バンドでドラムを叩きたい」って思ったんです。(yukihiro)

―geek sleep sheepは2012年の5月にL'Arc~en~Cielのツアーが終わって、そこから本格的に始動したそうですね。yukihiroさんはそのタイミングでなぜご自身のソロプロジェクトのacid androidをやるのではなく、新しいバンドを始めようと思ったのでしょうか?

yukihiro:最初は単純にドラムが叩きたかったんですけど、「ドラマーとして何かに参加する」じゃなくて、「バンドでドラムを叩きたい」って思ったんです。どういう音楽性でやりたいかは自分の中で想像していたので、スタッフに「バンドやりたいんだけど、メンバーいないかな?」って相談をしていくうちに、二人の存在が出てきました。

yukihiro
yukihiro

―2012年のacid androidのツアーにも、People In The Box、THE NOVEMBERS、Lillies and Remainsといったバンドのメンバーが参加していましたし、別の世代と一緒にやってみたいという思いがあったのでしょうか?

yukihiro:もっといろんなミュージシャンと音を出してみたいという気持ちはありました。百々くんは音を想像しやすかったんですよね。

―百々さんの場合は、2011年にMO'SOME TONEBENDER(以下、モーサム)がベストアルバムを出し、ある種区切りのタイミングだったからこそ、新しいことをやってみようと思う部分もあったのでしょうか?

百々:うーん……何かのタイミングだったわけではないんですけど、geek sleep sheepとしてバンドを組む前段階として、acid androidのレコーディングに1曲ギターで参加したとき、自分のプレイがyukihiroさんのオーダーにちゃんと応えられていたのかどうか判断できていなかったんです。yukihiroさんから特に細かい注文もなく、「好きにやってください」って言ってもらってたので、「これでよかったのかな?」と気になっていて。そうしたら、「今度は一緒にスタジオ入りませんか?」とオファーが来たので、単純に嬉しかったです。まだそのときはバンドを組む想像はできてなかったので、「何を企んでるんだろう?」って思ってましたけど(笑)。

―一昔前のモーサムだったら、スタジオへの誘いも引き受けてなかったかもって思いませんか?

百々:あー、ですねえ。やっぱりタイミングもありますね。2010年以前だったら、やってなかったかもしれない。まだモーサムで精一杯で、かなり入れ込んでたので。でも、もっといろんなギターを弾きたいという欲求はずっとあって、外でセッションをすることもあったんですけど……このバンドをやることになってよかったです(笑)。

―凛として時雨(以下、時雨)に関しても、2010年に出た『still a Sigure virgin?』がオリコンで1位になって、ある種の区切り感があったのかなと。実際、その後にTKさん(時雨のボーカリスト)のソロもスタートしてますし、そういう中で、345さんも時雨以外で何かやってみたいという気持ちが出てきていたのでしょうか?

345:お話をもらったときは、「できるのかな?」っていう不安がまずあって。でも、すごく興味はあったのでやってみようと思いました。

―こう聞いていると、それぞれのタイミングが合致して、だからこそバンドとして上手く進んだのかなって。yukihiroさんが巧みにプロデュースしたわけではないですか?(笑)

yukihiro:タイミングまでは考えてなかったです(笑)。でも、言われてみるとそうですね。

―俯瞰して見ると、ぴったりのタイミングでしたよね。

百々:そっか、絶妙だったのかもしれない。

345:たしかに。

geek sleep sheepをやる上では「この三人で楽しもう」っていう気持ちがすごくあるんです。(百々)

―geek sleep sheepのように、いくつかのアウトプットを持つこともミュージシャンにとって重要なことのように思います。

百々:単純に音楽に没頭する時間が増えるのは幸せだし、自分の中のいろんな引き出しが、上手いことモーサムとgeek sleep sheepとソロとで住み分けできてるなって最近は思います。geek sleep sheepを始めてからは、「ちゃんと弾こう」と思ってギターが上手くなりました(笑)。

―モーサムではちゃんと弾いてなかったんですか?(笑)

百々:「歌うのに忙しいから」って、言い訳してました(笑)。

―345さんはどうですか? 複数のアウトプットを持つようになって、何か変わりましたか?

345:「こんな自分がいたなんて」って感じてます。geek sleep sheepの現場に来たら、geek sleep sheepの曲とか世界観に自分も馴染むというか。

―「メジャーとインディーの差はなくなった」ってもう何年も前から言われていますが、昔はもう少しメジャーの縛りが強くて、他の活動をするのが難しかった気がするんですよね。いまはもっと自由に、ミュージシャンがいろんな活動をできる状況になってきてると思うのですが、yukihiroさんから見て、そういう業界の変化についてはどう思われますか?

yukihiro:メジャーの縛りが緩くなったっていうよりは、ミュージシャンに限らず、メーカーの人や、ライターの人などにも、いろんな考えを持つ人が増えてきたことが大きいんじゃないかと思います。前は「メジャーと契約することがひとつの目標」という考え方があったかもしれないと思うけど、それはその他の例が少なかったからで、最近はいろんな考え方の人が増えたことで、活動のパターンも増えたのかなって。

百々:いまyukihiroさんの話を聞いてたら、「そう言えば、昔はメジャーって狭き門だったな」って思い出しました。だから「メジャーに行ったらそこで何かを成さないと」と考えるだけで、選択肢が少なかったと思いますね。

―昔はメジャーデビューが誰しもの目標でしたもんね。

百々:僕はいま42歳なんですけど、40歳を過ぎて新しいバンドを組むなんて考えたこともなかったですからね。geek sleep sheepをやる上では「この三人で楽しもう」っていう気持ちがすごくあるんです。yukihiroさんと音楽の話をしてると「ああいうこともやれるよね」ってアイデアがどんどん出てくるし、yukihiroさんと345ちゃんがどういうことを考えてるのか、どういうプレイをするのか、一つひとつ確認しながら時間をかけてやってるので、改めて「バンドってこうだよね」って思ったりします(笑)。

kazuhiro momo
kazuhiro momo

慣れてない人の前だとまったく歌えなくて……geek sleep sheepでも、初めは心を閉ざし気味でしたね(笑)。(345)

―geek sleep sheepでは、345さんが百々さんと二人でメインボーカルを務めていますが、最初は百々さんから無茶振りされて(笑)、歌うことになったそうですね。

345:最初は百々さんだけが歌うと思ってて、私はベースに徹しようと思ってたので、「まさか」っていう感じではありました。よく冗談で「無茶振りされた」って言ってますけど、嫌だというわけではなくて(笑)。いろいろ提案してくれるおかげで、初めて歌詞を書いたし、歌い方も変わってきて。geek sleep sheepを始めたことで、いろんな自分を発見できました。


百々:345ちゃんが言わないと思うんで、僕からどうしても言っておきたいことがあるんですけど、言ってもいいですか?

345:やめておきましょう(笑)。

―いえ、ぜひお願いします(笑)。

百々:1stアルバムのレコーディングのときは、まだ歌い方が定まってなかったのもあって、とにかく自信なさそうだったんですよ。「声、ちっちゃ!」って(笑)。でも、2ndのレコーディングでボーカルマイクの前に立った345ちゃんは、すごくでっかく見えました。

345:成長してました?(笑)

百々:うん、ボーカリストだなって。

―実際に、345さんはボーカリストとしてのご自身の変化をどう感じられていますか?

345:レコーディングにおいては、私は心を開いてる人の前じゃないとちゃんと歌えない節があるというか(笑)。慣れてない人の前だとまったく歌えなくて……geek sleep sheepでも、初めは心を閉ざし気味でしたね(笑)。

345
345

yukihiro:じゃあ、最初に「デモを作るから歌ってほしい」って頼んだときは大変だったよね。

345:めちゃくちゃ緊張してましたね。心臓が口から出ちゃうんじゃないかってくらい(笑)。

yukihiro:そうだったんだ(笑)。

―345さんが心を開いたきっかけは何だったんでしょうか?

345:1stアルバムをリリースした後にライブをやったことがすごく大きかったです。いろんな経験を経て心を開かれまくったので、その変化が歌に表れてると思います。

―yukihiroさんと百々さんが、345さんの心の扉を開いたと。

百々:半ば強引にね(笑)。

「この曲のギター、The Cureでいいですか?」とか言いながら曲作りを進めても、最終的にはちゃんとこの三人のカラーが出ると思ったんです。(百々)

―yukihiroさんが結成当初思い描いていた音楽性は「1990年代のシューゲイザー、グランジ、オルタナ」だったそうですが、1stアルバムを経て2nd『candy』に向かう中で、その方向性がより明確になったのではないかと思いました。

百々:そうですね。1stのときはyukihiroさんのその言葉は一度置いておいて、やれることは何でもやってみようと、どこまで広げられるかにトライしてみたんです。その後少しずつ曲がたまってきたときに、「次のアルバムはシューゲイザー、グランジ、オルタナでいいんじゃない?」って自然と思ったんですよね。いまならできるなって。最初の頃は、まだそこまで吹っ切れてなくて、「グランジって言っちゃうのもなあ」って思ってたんですけど(笑)。

yukihiro:僕も言ったものの、実際にやるとどうなるんだろうって感じでした(笑)。


百々:スタジオで、「この曲のギター、The Cure(イギリスのニューウェイブバンド)でいいですか?」とか、「The Smashing Pumpkins(オルタナシーンを象徴するロックバンド)でいいんじゃないですか?」とか言いながら曲作りしてたんですが、そうやって進めても、最終的にはちゃんとこの三人のカラーが出ると思ったんです。だったらギターをもっと歪ませて、ライブでもっとドカンと演奏して、お客さんを気持ちよくあげられる曲を今回は作りたいと思って。

yukihiro:今回は1曲1曲が際立つ感じになったと思います。1stはアルバム全体としての雰囲気が強かったけど、今回は方向性を絞りつつ曲のバリエーションもちゃんとあるなって。

―たしかに、アルバムの前半はシューゲイザーの印象が強くて、でも後半になるとシンセやストリングス、アコギの曲も出てきたりして、バリエーションを感じました。

345:1stを作って、その後何回かライブをやって、バンド感がより強くなったのが作品にも表れた気がします。何て言っていいかわからないけど……メンバー同士のガッとした感じが出てるなって。

(geek sleep sheepは)自分の中にある、自分では気づかなかったところを高めてくれる場所だと思います。(345)

―「ライブを意識して、ギターをより歪ませた」というお話の通り、アルバム前半はシューゲイザー博覧会みたいになってますよね(笑)。「シューゲイザー」って言っても、いろんなバリエーションがあるんだよっていう。

百々:そうですね。シューゲイザーは意識したものの、懐古主義にはならずに「この三人だからできるサウンドを作りたいね」って話はしました。レコーディングでシンセの音色が欲しいと思ったら、yukihiroさんに丸投げして、音を作ってもらった曲もたくさんあります。「シンセ番長」って呼んでました(笑)。

yukihiro:345ちゃんが、その時代のど真ん中の感覚を持っていないのが、このバンドにとってはいいなと思ってますね。

―曲作りの中でThe CureとかThe Smashing Pumpkinsとか固有名詞が出たときは、345さんはどう反応するんですか?

345:YouTubeを見ます(笑)。

―便利な世の中ですね(笑)。その時代の音って新鮮ですか?

345:新鮮ですね。曲全体もベースラインもシンプルなフレーズが多いんですけど、すごくかっこよくて、不思議だなって。

―フレーズもコードも少ない、洋楽のシンプリシティーのかっこよさっていうのはありますよね。geek sleep sheepはライブでも1990年代を中心にした洋楽のカバーをやってますし、懐古主義ではなく、若い人たちに「こういうかっこよさもあるよ」って提案しているように思います。

百々:ライブでいつもやっているカバーコーナーは、曲を知らないお客さんも多いだろうから、特にアレンジを加えずにそのままやって「いい曲でしょ?」って伝えたいと思っているんです。去年ライブでThe Vaselines(スコットランドのオルタナティブロックバンド)の“Molly's Lips”をやったときは、ホント単純な曲なので、リハでやってて「これ、このままやって大丈夫かな?」って思ったんですよね。でも、実際にやってみると、お客さんも盛り上がったし、僕たちもすごく楽しかった。やっぱり、ロックな国の人たちが作る音楽はすごいなと思いました。日本人にはそれに負けない緻密さもあるけど、「これ以外に何が必要なの?」ってくらいあっけらかんとした感じも大事だなって。

―まさに、そういう高揚感が『candy』にはしっかり詰まっていると思います。最後に改めてお伺いすると、結成から約3年が経ち、いまのgeek sleep sheepはみなさんそれぞれにとってどんな場所になったと言えますか?

345:自分の中にある、自分では気づかなかったところを高めてくれる場所だと思います。

百々:ミュージシャンとして成長させてくれる場所だなって思いますね。いろんなトライをしてるので、時間はかかるんですけど、お二人の優しさで全部受け止めてもらってます(笑)。

―yukihiroさんはいかがですか?

yukihiro:……バンドっていいなと思います。

―その一言で十分伝わります(笑)。今日はどうもありがとうございました。

リリース情報
geek sleep sheep
『candy』初回限定盤(CD+DVD)

2015年5月20日(水)発売
価格:4,104円(税込)
VIZL-815

[CD]
1. kaleidoscope
2. feedback
3. planet ghost
4. night cruising
5. rain song
6. floating in your shine
7. lost song
8. happy end
9. Addicted
10. Candy,I love you
11. kakurenbo
12. color of dream
13.MOTORCYCLE
[DVD]
1. kaleidoscope(Music Video)
2. feedback(Music Video)
3. hitsuji(Live at LIQUIDROOM)
4. Weekend Parade(Live at LIQUIDROOM)

geek sleep sheep
『candy』通常盤(CD)

2015年5月20日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VICL-64341

1. kaleidoscope
2. feedback
3. planet ghost
4. night cruising
5. rain song
6. floating in your shine
7. lost song
8. happy end
9. Addicted
10. Candy,I love you
11. kakurenbo
12. color of dream

イベント情報
『tour geeks 2015』

2015年5月29日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 Electric Lady Land
出演:
geek sleep sheep
ヒトリエ

2015年5月30日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
出演:
geek sleep sheep
People In The Box

2015年6月7日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 赤坂 BLITZ
出演:
geek sleep sheep
ストレイテナー

料金:各公演 4,300円
※高校生以下は学生証提示で500円キャッシュバック

プロフィール
geek sleep sheep (ぎーく すりーぷ しーぷ)

L’Arc〜en~Cielのyukihiro(Dr)、MO'SOME TONEBENDERのkazuhiro momo(Vo,Gt)、凛として時雨の345(Vo,Ba)、からなるスリーピースバンド。2012年8月に行われたDJ&ライヴイベント『acid android in an alcove vol.5』にて正体を明かさないまま初ライヴを行い、同年9月にバンド名とともに正式に始動を発表した。2013年3月に初のワンマンライヴを東京・CLUB QUATTROで行ったほか、同年7月には野外ライヴイベント『JOIN ALIVE』に出演。10月にEMI Records Japanよりsingle『hitsuji』でメジャー進出。Momoと345のツインヴォーカルの妙や、ニューウェイヴ、グランジ、オルタナティヴ、シューゲイザーなどの要素を取り込んだサウンドで高い評価を得る。2013年12月には1st album『nightporter』を発表。2015年、新たにビクタースピードスターレコーズとタッグを組み、5月20日に2nd album『candy』をリリースすることを発表、同月末からは各地にゲストアーティストを迎える対バン形式のツアー『tour geek 2015』を東京・大阪・名古屋で開催する。



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