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実は大ピンチだった曽我部恵一、レーベル休止も考えた制作を語る

実は大ピンチだった曽我部恵一、レーベル休止も考えた制作を語る

サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』
インタビュー・テキスト
北沢夏音
撮影:田中一人 インタビュー・テキスト・編集:柏井万作

サニーデイ・サービスには、ちょっと不思議なところがある。なんと言えばいいのか、たとえば彼らは、上手くやりたいと思っても、決して順風満帆とはいかない。渋谷系の人たちに憧れはしたけれど、自分たちはそうはなれなかったし、メンバーの関係性も上手くいかず、一度は解散してしまった。そんな彼らだから、復活してすごくいい時間が流れたと思った矢先、また今回、どうにもならない状況になったりする。この8月にリリースされたアルバム『DANCE TO YOU』は、曽我部恵一が、自分のレーベルをストップすることを考えるほどに、危うい制作だったそうだ。

しかし、冒頭で「不思議」と書いたのにはワケがある。サニーデイは、ちょっと上手くいかないところから、結果的には粘りに粘って素晴らしい作品を生み出してしまう、不思議な歴史があるのだ。今年で20周年を迎えた名盤『東京』も、そして今回の『DANCE TO YOU』も、まさにそういうアルバムだった。

そこで今回、サニーデイと長い付き合いでもあるライター・編集者の北沢夏音を迎えて、曽我部恵一と語り合ってもらった。時代の寵児ではないかもしれないけれど、どんな時代でも愛され続けてきたサニーデイの魅力の本質とは何なのか? 上手くいかないところも含めて、サニーデイには、みんなを惹きつける「視点」がある。

90年代以前は、「東京」という街に対して今とは違う見方とか歌い方があったと思うんだけど、90年代は「東京」という街を歌う視点がなかったと思う。(曽我部)

―今日はお二人に、1990年代当時の話も踏まえて、サニーデイの新作『DANCE TO YOU』を語っていただきたいと思います。まず、今年6月に再発&再演コンサートを行ったアルバム『東京』の話から始めたいのですが、『東京』って、サニーデイのアルバムの中でも特に評価が高い作品ですよね。それは曽我部さんの中で、決定的に他と違う何かがあったんでしょうか?

曽我部:今思うと、代表曲というか、みんなが好きな曲、たとえば“あじさい”とか、“青春狂走曲”とか、そういう曲が複数入っているというのがいいんじゃないかな。あとはジャケットがやっぱりいい。今思うとね。The Velvet Underground & Nicoのバナナのジャケット(アンディ・ウォーホルが手がけたファーストアルバム)みたいに、あのジャケットだからこそ、この作品があるという。

サニーデイ・サービス『東京』ジャケット
サニーデイ・サービス『東京』ジャケット(デザイン:小田島等 / Amazonで見る

北沢:90年代を象徴するアイコンのひとつになったよね。究極のジャケットだと思う。『東京』を作ったとき、こんなに時を超えて、特別な作品としてみんなに愛される作品になると思ってた?

曽我部:全然思ってなかったなぁ。

北沢:過去の作品を回顧するときって、アルバム単位で批評されがちだけど、サニーデイはシングルの一枚一枚がすごく重要なバンドだった。一つひとつのシングルが次のアルバムにつながっていて、特に『東京』の場合は、その前に出た”青春狂走曲”で一気に新しいファンが増えた感があったよね。そのときすでにアンセムの予感があるくらい、「みんなのうた」になった。

北沢:<そっちはどうだい うまくやってるかい こっちはこうさ どうにもならんよ 今んとこはまあ そんな感じなんだ>っていうサビの歌詞がヤバいよね。先日の再演ライブで聴いたときに、「こっちの現状、あの頃と全然変わらないよ!」って思ったんだ。ツボに来るポイントが20年前と同じ(笑)。

一同:爆笑

北沢:「今の俺もそう言うしかない状態だろ!?」って、愕然とさせられるんだよね(笑)。

北沢夏音
北沢夏音

曽我部:そのサビだけはねえ、歌っていて空々しい気分にならない。ほんとにそうですよ。自分とかお客さんにそのまま投げかけている。

北沢:意外とそこだけは、いまだに当時と同じような実感を込めて聴いちゃう人がけっこういるんじゃないかな。

曽我部:聴く人がノスタルジーに浸っていたとしても、たぶんあそこでスッと我に返って、本当の現実的な問題に立ち返るという。そんなつもりで書いた曲ではないんだけどね(笑)。

曽我部恵一
曽我部恵一

北沢:サニーデイが2000年に解散してから2年後に、ぼくが『クイック・ジャパン』でサニーデイの長篇ルポを書いたとき、曽我部くん、田中(貴)くん、(丸山)晴茂くんとディレクターの渡邊(文武)さんに個別に取材させてもらっていて。その時に聞いた話だと、本当は『東京』って『96粒の涙』というタイトルで、The Beach Boysの『Pets Sounds』を意識した、全然違う内容のティーンエイジ・シンフォニー的なアルバムを作る予定だったんだよね?

曽我部:そうそう、そうだったね。

北沢:ところが、その核になるかもしれなかった曲を捨てて、『東京』という、まったく別のコンセプトのアルバムになったわけだよね。

曽我部:そうです。『東京』に至るまでけっこう時間がかかっていて、今回『東京』の再発ボックスセットを作るために当時のマスターを掘り起こして、レアトラックスとかないか調べていく中で分かったんだけど、本当に最後の最後まで1曲目は“96粒の涙”で、「東京」という全体的なコンセプトが出て来ない。粘りに粘ったんだなって。

―「東京」は、どういうところから出てきたんですか?

曽我部:湘南のスタジオでアルバムのレコーディングをしていて、車で東京に戻る時に、ラジオからマイ・ペースの“東京”(1974年)っていう曲が懐メロとして流れてきて。湘南から90年代の東京に戻っていく車の中で、<東京へはもう何度も行きましたね>って、70年代の色褪せた東京を歌った曲が流れたときに、日本のフォークソングが、なんかちょっとSFチックに響いたんだよね。それで「あ! これって今、自分たちがやろうとしていることにリンクしているかも」と思って、“東京”っていう1曲目の曲をすぐに作ったんだよね。それで「できた!!」っていう感じになった。

曽我部恵一

北沢:マイ・ペースの“東京”なんかまさにそうだけど、サニーデイの『東京』に収録されたいろんな曲から垣間見える、上京少年の心象が映し出す街の風景って、70年代とか、もっと言えば昭和の初頭から大正時代まで遡れるくらい、「地方から見た東京」をテーマにした文学、映画、音楽、漫画とか、いろんな作品に通底するものがあったりしない?

曽我部:うん、うん。『東京物語』(1953年公開の映画。小津安二郎監督)とかね。

北沢:東京という街の表層は時代と共に変わったとしても、本質的にはずっと変わらない部分があって、そこに曽我部くんが焦点を当てたのが、この『東京』というアルバムだと思う。

曽我部:90年代以前は、「東京」という街に対して今とは違う見方とか歌い方があったと思うんだけど、90年代は、「東京ってこんな街だ」という街を歌う視点が本当になかったと思うんですよね。「街」を見るんじゃなくて、文化とか、消費とか、時代とかで物事を見ていたようなところが、90年代にはあったんだと思う。

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リリース情報

サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』
サニーデイ・サービス
『DANCE TO YOU』(CD)

2016年8月3日(水)発売
価格:2,700円(税込)
ROSE-198

1. I'm a boy
2. 冒険
3. 青空ロンリー
4. パンチドランク・ラブソング
5. 苺畑でつかまえて
6. 血を流そう
7. セツナ
8. 桜 super love
9. ベン・ワットを聴いてた
※初回限定スリーブケース仕様

サニーデイ・サービス
『DANCE TO YOU』(アナログ盤)

2016年8月3日(水)発売
価格:3,240円(税込)
ROSE-198X

サニーデイ・サービス
『DANCE TO YOU』(カセットテープ)

2016年8月3日(水)発売
価格:2,160円(税込)
ROSE-198C

プロフィール

サニーデイ・サービス
サニーデイ・サービス

曽我部恵一(vo.gt)・田中貴(ba)・丸山晴茂(dr)による3人組ロックバンド。1994年メジャーデビュー。1995年に1stアルバム『若者たち』をリリース。「街」という地平を舞台に、そこに佇む恋人たちや若者たちの物語を透明なメロディで鮮やかに描き出し、90年代の“渋谷系”ムーブメントのなかでも、異彩を放つ唯一無比のバンドとして、街に生きる若者たちに支持されてきた。7枚のアルバムと14枚のシングルを世に送り出し、2000年に惜しまれつつも解散。そして2008年に再結成を果たして以降、『本日は晴天なり』、『Sunny』をリリース。かつてのようにマイペースながらも精力的な活動を展開。2016年8月3日に通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売。秋からは<サニーデイ・サービス TOUR 2016>でひさしぶりのライブハウスツアーを行う。

北沢夏音
北沢夏音(きたざわ なつを)

1962年東京都生まれ。ライター、編集者。92年『Bar-f-out!』を創刊。著書に『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』(本の雑誌社)、共著に『次の本へ』(苦楽堂)、『冬の本』(夏葉社)、『音盤時代の音楽の本の本』(カンゼン)、『21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ』(キネマ旬報社)など。ほかに『80年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)の監修、山口隆対談集『叱り叱られ』(幻冬舎)の構成、寺尾紗穂『愛し、日々』、森泉岳土『夜のほどろ』(いずれも天然文庫)の企画・編集、『人間万葉歌 阿久悠作詞集』三部作、ムッシュかまやつ『我が名はムッシュ』、やけのはら『SUNNY NEW BOX』などのブックレット編集・執筆も手がける。

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