音楽と熱量は国籍を越えて共振する WONK、Papoozらが集った夜

初雪に見舞われた『exPoP!!!!!』のトップバッター・AUSTINES

なんと、東京で54年ぶり(!)に11月中の初雪が観測された24日、TSUTAYA O-nestにて、音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が開催された。

トップバッターは、20代前半の若き5人組・AUSTINES。冒頭を飾った“O.M.T.”から、太くファンキーなビート、そして、そのうえを流れる洗練されたメロディーと力強い歌声で、煌びやかなポップソングを響かせる。

このAUSTINES、結成当初はロックバンドだったが、半年ほどたったのちに曲作りの体制を変え、ブラックミュージックを主体としたポップスを鳴らすバンドへ変貌したという変わり種。しかし、その変化は必然だったのだろう。しっかりしたプレイヤビリティーを持った個々の演奏が絡み合いながら、丁寧に紡がれていく楽曲は、黒いグルーヴ感を持ちながらも、J-POP的な輪郭のはっきりしたポップさも持ち合わせている。さらに、その真ん中で威風堂々と歌うボーカル・鶴田の華のある存在感は、早くもスター性を感じさせるものだった。

鶴田航平(AUSTINES)
鶴田航平(AUSTINES)

まだ始まって間もないバンドだが、土台は完璧。この先、大輪のポップの花を咲かせることに大いに期待したい逸材たちの、瑞々しくも逞しい演奏だった。

AUSTINES
AUSTINES

楽しませることを切実に追求するELEKIBASSの姿

続いて登場したのは、1990年代末から活動するポップバンド・ELEKIBASS。フロア後方から、まるでパレードの行進のように登場した彼らは、サカモト(Gt,Vo)とカメダ(Gt)に加え、ドラム、ベース、キーボード、サックスにトロンボーンという7人編成で、極彩色のポップサイケデリアを展開。

ELEKIBASS
ELEKIBASS

ロックにリズム&ブルース、ソウル、ジャズ、ラテンなど、曲ごとに様々な音楽要素を見せながら、その全てを「楽しませる!」という1点に集約させる圧倒的なエンターテイメント性。しかし、その「楽しませる!」というスタンスの根底には、この薄暗い世の中で「楽しむ」ことがどれほど切実なものかを知っている者にしか打ち出せないパンク精神がしっかりと宿っている。

The Beach Boysのブライアン・ウィルソン、The Apples In StereoやOf Montrealといった「Elephant 6」勢、あるいは初期のCORNELIUSなどに脈々と受け継がれてきた、「無邪気な子どもでい続けること」「狂信的にポップを追い求め続けること」――その精神の求道者たちの連なりに、ELEKIBASSもいる。10年以上、音楽とファンタジーを信じ続けてきた存在の、貫禄溢れるステージングだった。

ELEKIBASS

フランスのイケメン2人組・Papoozから見る、世界的に共通する若者のムード

3番手は、フランスからやってきたユリスとアルマンのイケメン2人組、Papooz(パプーズ)。『exPoP!!!!! volume89』に登場した、タイ出身のGym And Swimもそうだったが、そもそも異種格闘技戦なこのイベントに、海外からの出演者もいることは、観ていてとても嬉しい。

Papooz
Papooz

デビューアルバム『Green Juice』を引っさげての初来日となった彼ら。YouTubeを見れば、小沢健二“ラブリー”をカバーしている動画もあるのだが、そもそも、フリッパーズ・ギターがフレンチポップを引用していたことを考えれば、時代が巡り、渋谷系が再評価されている日本の音楽シーンと共振する形で、フランスの若手バンドが紹介される状況は面白い。

演奏はチェロも加えた5人編成で、フランス的な叙情を感じさせるロマンチックなメロディーと、現行のインディーポップらしくミニマルでトロピカルなリズムが絡み合う独特なサウンドを展開。ときにリズム楽器に、ときにメロディー楽器に変貌するチェロの使われ方も新鮮で、アンサンブルの中央にいるユリスとアルマンの次第に激情を増していくパフォーマンスには、否が応にも引き込まれる力強さがあった。基本は享楽的でメロウでありながら、その根底にとても強烈なエモーションが潜んでいる……この感覚は、世界的に共通する若者のモードなのかもしれない。

Papooz

「生」の感触をかき鳴らすTHE BREAKAWAYSのロックンロール

続いては、今年の夏にデビューしたばかりの正体不明の覆面バンド、THE BREAKAWAYS。メンバー3人はフードを被りマスクを付けた姿でステージに登場。

THE BREAKAWAYS
THE BREAKAWAYS

アニメーションを効果的に使用したビジュアルイメージや、「2020年の東京=NEO東京」という近未来の舞台設定など、THE BREAKAWAYSは、その存在自体がコンセプチュアルアートめいているのだが、現状、彼らを語るうえで最もポイントとなるのは、彼らが鳴らすのは「ロックンロール」である、ということだろう。ヒップホップやR&BやEDMではなく、「ロックバンド」というフォーマットで、今と未来に何かしらのメッセージを突き立てようとする彼らの姿勢は、とても明確な指針を感じさせる。

この日は、“GIRL ELECTRIC”から始まり、Zedd“Beautiful Now”やWeezer“Don't Let Go”のカバーも披露。とにかく音圧が凄まじかった。ダイレクトに、バンドの野性そのままに音と歌を聴き手にぶつけてくる演奏は、相手が「覆面バンド」であるということを忘れてしまうほどの生々しさに満ちていた。まるで胸ぐらを掴まれるような衝撃の残るステージング。このヒリヒリとした「生」の感触こそ、きっとTHE BREAKAWAYSが伝えたいものなのだろう。

THE BREAKAWAYS

人の手のあたたかみを宿したWONKの魂の音楽

そして、この日のトリを飾ったのはWONK。セットチェンジ中に機材トラブルがあったようだが、そんなことをものともせず、WONKは素晴らしいステージを見せてくれた。「エクスペリメンタルソウルバンド」を自称するだけあって、WONKの音楽は、基調にはソウルミュージックがありながらも、伝統にとらわれない実験的な広がりを持ち、しかし実験的でありながら、あくまでもソウルミュージック(魂の音楽)であるという確固とした芯がある。

WONK
WONK

中盤の“I Can't Go For That”ではインプロビゼーションに突入するなど、ジャムセッションのようにその場でアンサンブルが生み出されていく。彼らのライブはまさに「空間」そのもの。まるで大海をたゆたうような雄大かつ幽玄なアトモスフィアを生むサックスやキーボードの音色に、軽やかなドラミングが饒舌な表情を加える。

そして、そんな1音1音はもちろんだが、その場にいれば、音と音の間にある「揺らぎ」や聴き手の動きや呼吸、その全てがWONKの音楽を構成する要素なのだと実感する。中心に立つボーカリスト・Kento NAGATSUKAの、本当に嬉しそうにメンバーを見つめる穏やかな眼差しもまた、その演奏が生み出す空間にあたたかさを与えているように感じられた。

WONK

やはり、人の手で奏でられる音楽はあたたかいのだ。WONKだけでなく、この日の『exPoP!!!!!』に出演した5組は、どれもバンドミュージックだけが放つことのできる「あたたかさ」を、それぞれのやり方で提示していたように思う。冒頭に書いたように、この日は雪が降るほどに寒かったのだが、O-nestは本当に、あたたかかった。

イベント情報
CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume91』

2016年11月24日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
ELEKIBASS
Papooz
THE BREAKAWAYS
WONK
AUSTINES
料金:無料(2ドリンク別)

CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume92』

2016年12月22日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
HOWL BE QUIET
BOMI
RAMMELLS
lowtide
A11yourDays
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
AUSTINES
AUSTINES (おーすてぃんず)

2015年4月結成の男女5人組。各メンバーの異なる音楽趣向を活かし、アシッドジャズ、ファンク、ネオソウルといったブラックミュージックのリズム要素と、ポップスのもつキャッチーさを融合させた楽曲を鳴らすニュー・ポップスバンド。流行に敏感な若者からコアなシティポップファンまで幅広く支持を得て、"ワン!チャン!!~ビクターロック祭りへの挑戦~"にて準グランプリを獲得。幕張メッセにて開催された"ビクターロック祭り2016"への出演を果たした。さらにイナズマロックフェスティバル2016風神ステージへもEggs推薦アーティストとして出演。精力的にライブハウスへの出演も行い、着実にファンを増やしている。

ELEKIBASS (えれきべーす)

1998年に結成し、強い海外志向を持ち、後にアメリカで人気バンドとなるOf montrealと早くから交流を重ね、現在までに8度のアメリカツアーを実施。一方、国内でも渋谷系の流れを組むバンドとしての評価も獲得。また、自ら主宰するレーベルWAIKIKI REOCRDからは国内外のアーティストの作品を数多くリリースしている。サカモトヨウイチ率いる60年代後半のブリティッシュロック、ブルース調のリズム、ミュージックホールメロディー、そして風変わりなサイケデリックさの要素をあわせ持つバンド、ELEKIBASS。2016年11月には4年ぶり4枚目のフルアルバムをリリースした。

Papooz (ぱぷーず)

Papooz(パプーズ)はパリのデュオUlysse(ユリス)とArmand(アルマン)。デビューアルバム『Green Juice』は5月にRallye Labelより日本先行リリースされた。エルメス2015年秋冬コレクションの際のアフターパーティでパフォーマンスを披露するなど、ファッション界からも注目を集める2人。SOKOがディレクターを務めた“Ann Wants To Dance”のMVはYoutubeでの再生回数が100万回を超すなど、誰もが知らないうちに恋に落ちてしまう、パプーズ。どうしてパプーズ?「インディアンの揺り籠っていう意味で、エキゾティックな響きが素敵だったからさ!」

THE BREAKAWAYS (ざ ぶれいかうぇいず)

未だにメンバープロフィールも素顔も明らかになっていないが、そのサウンドはオルタナ、グランジをベースにした、ロックサウンドで、新人バンドとは一線を画すものとなっている。全曲の作詞、作曲、アレンジをDinosaur Pile-Up のマット・ビッグランド(Vo,Gt)が務めている。YouTubeにアップされたアルバム収録楽曲“GIRL ELECTRIC”のMUSIC VIDEOは公開から1日にして、無名の新人にも関わらず1万回再生を突破。

WONK (うぉんく)

東京を中心に活動する「エクスペリメンタルソウルバンド」。ジャズやソウル、ヒップホップなどのジャンルを自由に行き来し、その独創性の高さが各メディアで話題になる。2016年9月に待望の1stアルバム『Sphere』をリリース。『Sphere』はタワーレコード・バイヤープッシュ「タワレコメン」に選出。各メディアが評する「世界水準の音楽」を十二分に感じられるアルバムとなっている。また当アルバムより抜粋された楽曲を収録したアナログ盤を11/23にリリースすることを発表。音源とはまた異なる、自由度が高い「ライブならでは」のWONKの魅力も是非体感して欲しい。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 音楽と熱量は国籍を越えて共振する WONK、Papoozらが集った夜

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて