レポート

桑田佳祐が歌ってきた「夢」とは?大志や希望を表すだけでない

テキスト
麦倉正樹
編集:矢島由佳子
桑田佳祐が歌ってきた「夢」とは?大志や希望を表すだけでない

2016年の活動だけでなく、ソロとしてのキャリア全体を総括するようなライブだった

桑田佳祐が、ソロ名義としては実に4年ぶりとなる、横浜アリーナでの年越しライブ『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』を、計4日間にわたって開催した。そのタイトルのごとく、桑田が昨年発表した、“ヨシ子さん”“君への手紙”“悪戯されて”という3曲がキーになると予想されたこの年越しライブの内容とは、果たしてどんなものだったのか。

結論から言うと、それは2016年のみならず、桑田佳祐のソロとしてのキャリアを総括するような……しかも、そこから桑田佳祐という稀有なシンガーソングライターの「核」が浮かび上がるような、実に素晴らしいライブとなっていた。その初日となった27日の模様をレポートする。

『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』12月27日の模様。 撮影:岸田哲平
『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』12月27日の模様。 撮影:岸田哲平

ソロデビュー曲から、ライブで初披露となったヒット曲、そして最新曲までもが、凝縮された約3時間

ステージバックも開放し、観客に全方位を囲まれる形となった横浜アリーナのステージ。約1万5千人の観客の目がいっせいに集まる中、広末涼子が出演するミュージックビデオの冒頭映像が流れたあと、ステージ上段から白いタキシードに身を包んだ桑田佳祐が颯爽と現れる。曲はもちろん“悪戯されて”。WOWOWでの音楽特番(のちに新編集版が『THE ROOTS~偉大なる歌謡曲に感謝~』としてリリースされた)をはじめ、昨年桑田が精力的に行ってきた日本の歌謡史研究の成果とも言うべきこの曲は、桑田のディスコグラフィーの中でも異彩を放つ1曲だ。

しかし、そんなオープニングから雰囲気は一転、横浜を舞台とした伸びやかなラブソング“ダーリン”、バニー姿のダンサーが登場した“本当は怖い愛とロマンス”、そして桑田のソロデビュー曲となった1987年の“悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)”など、ライブは時代を超えた珠玉のポップソングのオンパレードへと突入していく。

そのあとのMCで、桑田は詰めかけた観客に感謝の意を表したのち、「夢のような時間を過ごしましょう!」と大声で語りかけた。“エロスで殺して(ROCK ON)”や“東京ジプシー・ローズ”など、サザン以上に妖艶な楽曲、あるいは“SO WHAT?”など社会性の強いハードな楽曲が組み込まれたセットリスト。もちろん、“それ行けベイビー‼”のような、聴き手にエールを捧げる爽快な楽曲や、今回がライブ初披露となった2013年のヒット曲“Yin Yang(イヤン)”も、そこに交じっている。

映し出された全曲の歌詞から浮かび上がらせた、桑田佳祐が描いてきた「夢」の中身

この日のライブも、近年のライブ同様、左右のビジョンに演奏中の楽曲の歌詞がリアルタイムで映し出される趣向となっていたのだが、これが存外に興味深かった。というのも、改めて眺めるそれらの歌詞は、聴き手の記憶や思い出を喚起する往年のヒットパレードである以上に、約30年という長い歳月にわたってソロの楽曲を積み上げてきた、桑田佳祐というひとりのシンガーソングライターの心象風景と深くリンクしているように思えたからだ。

相変わらずのサービス精神で、次々と登場する華やかな女性ダンサーたちにちょっかいを出しながら、上機嫌で歌い踊る桑田佳祐。その一挙手一投足に心躍らせながらスクリーンに映し出される歌詞を眺めていて、あることに気付いた。

桑田の冒頭のMCではないけれど、この日のセットリストは、とりわけ「夢」にまつわる楽曲が多かったように思えたのだ。無論、桑田が歌う「夢」は、貴女と過ごした夢のように甘い日々から、今この瞬間の喜び、あるいは大志や希望としての夢など、さまざまなニュアンスが込められている。

それこそ、「幻想」と書いて「ゆめ」と発語する“悪戯されて”や、「欲望」と書いて「ゆめ」と発語する“あなたの夢を見ています”など、その表記の仕方も、実にさまざまだ。ときに甘く妖艶で、ときに一抹の寂しさや切なさを、果てはほのかな郷愁を誘う、「夢」の数々。そこに、シンガーソングライター・桑田佳祐の「核」を見たような気がしたのは、恐らく筆者だけではないだろう。

『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』12月27日の模様。 撮影:岸田哲平
撮影:岸田哲平

還暦を迎えても「やんちゃ」な姿勢は忘れない、終盤のハイライト

だけれども、この日のハイライトとなったのは、何といっても最新シングル“君への手紙”が披露されたときだった。入場時に観客に配布された腕時計型の「年の瀬ライト」がいっせいに点灯する中、巨大な会場に響き渡った、この屈指のアコースティックロックバラード。その中に登場する<ひとり 夢追って 調子こいて / こんな男のために / 小粋なバカが集まったな>という歌詞が、この日集った約1万5千人の観客とシンクロしたときの興奮は、本当に筆舌に尽くしがたいものがあったように思う。

『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』12月27日の模様。 撮影:岸田哲平
撮影:岸田哲平

続いて披露された1993年のヒット曲“真夜中のダンディー”では、<夢も希望も現在は格子の窓の外に>と憂いていた桑田が、それから20年以上経った今、飾らぬ言葉で歌い上げる感謝の気持ち。歌と音楽の力も相まって、それは実に感動的な光景であった。

とはいえ、そんな感動だけでは終わらないのが、桑田佳祐の真骨頂でもある。終盤、“波乗りジョニー”などのヒット曲を畳みかけながら、この日の本編最後を飾ったのは、昨年6月にリリースされ、多くの人々を戸惑わせた異形のポップソング“ヨシ子さん”だった。

インドから中南米まで、分析不能な多国籍テイストが特徴的なこの曲が披露されると同時に、ステージ狭しと登場した総勢30人のダンサーたち。ありとあらゆる民族衣装から、ラッパー、お相撲さん、さらには神輿に乗った「ヨシ子さん」らしき白無垢の女性まで、そのいでたちはいろいろだ。そう、同曲のミュージックビデオさながら、ステージ上に忽然と立ち現れたのは、まさしく極彩色のカオスだった。

『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』12月27日の模様。 撮影:岸田哲平
撮影:岸田哲平

一度聴いたら忘れられない、ゆらゆらと揺れるメロディーが繰り返される中、思い思いのやり方で自由に舞い踊る異形の人々。それは、ロックやポップス、そして昭和歌謡のみならず、多彩な音楽ルーツを持つ桑田の頭の中をひっくり返したかのような……それはそれで、ある意味「夢」のような光景だったと言えるだろう。そして、その興奮がピークに達したときに、突如「やってられんわ!」と言い放ち、ステージを去る桑田佳祐。これは白昼夢か何かなのだろうか……。

無論、続くアンコールでは気分を一新して、<だから夢と希望を胸に抱いて>と歌う“白い恋人達”、<夢の中で彷徨いながら>と歌う“祭りのあと”などの人気曲に乗せて、再び「夢」を歌い上げる桑田ではあったけれど、脳裏に深く焼き付いた“ヨシ子さん”の光景は、自身のキャリアを貫く集大成のライブではありつつも、決して予定調和には終わらない、桑田の「攻め」の姿勢、あるいは変わらぬ「やんちゃ」な精神性を強く感じさせるものであった。

桑田佳祐というエンターテイナーには、まだまだ、大衆と分かち合いたい「夢」がある

2016年は、作品リリースや歌番組への出演など、かなり精力的に活動していた印象のある桑田だが、客前のステージに立つのは、2015年の8月、サザンオールスターズの武道館公演以来。なんとこの日が約1年4か月ぶりだったという。つまり、この日のライブは、桑田にとって還暦を迎えてから初のライブとなる(『ヨシ子さん』の購入者の中から抽選で選ばれたごくわずかの人たちが参加できた、リリースパーティーを除く)。

しかし、ブランクや歳を重ねたことを感じさせるどころか、そのまま大晦日の年越しライブまで4日間にわたって、実に延べ6万人の観客の前で、連日3時間近いライブを披露し続けるのだから、これはもはや驚きを通り越して、思わず呆然としてしまうような現実であると言えるだろう。それは並大抵のことではない。だけれども、桑田には、それでも見続けていたい「夢」が、それでも大観衆の前で分かち合いたい「夢」がある。そんな意志を、何よりも強く感じるステージだった。

『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』12月27日の模様。 撮影:岸田哲平
撮影:岸田哲平

CINRA.NETでは昨年、桑田の還暦を祝して、著名人に桑田の魅力を語ってもらう連載を企画した(桑田佳祐還暦お祝い企画)。サザンも含む桑田の音楽的な変遷についてはもちろん、そのユニークな歌詞の魅力、あるいは決して偉ぶることのないその人柄や、下ネタも辞さないそのユーモアについて、さらには自身と楽曲にまつわる思い出まで、その切り口は多種多様だ。

それは、いずれも深く納得することしきりのエピソードだったけれど、やはり桑田佳祐の何よりの魅力は、1万人を超える大観衆を前にしたときの、その圧倒的なエンターテイナーぶりにあるのだ。改めて、そう実感するに足る……というか、大衆を巻き込んだ「夢追い人」としての終わりなきエネルギーを全身に浴びながら、言いようのない多幸感に包まれる、そんな素晴らしいライブだった。

ソロデビューからちょうど30年を迎える2017年、桑田佳祐は、どんな夢を我々の前に描き出してくれるのだろうか。今はそれを、何よりも楽しみに待ちたいと思う。

イベント情報

『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙~悪戯な年の瀬~」』

2016年12月27日(火)、12月28日(水)、12月30日(金)、12月31日(土)
会場:神奈川県 横浜アリーナ

リリース情報

桑田佳祐『君への手紙』通常盤
桑田佳祐
『君への手紙』通常盤(CD)

2016年11月23日(水・祝)発売
価格:1,400円(税込)
VICL-38201

1. 君への手紙
2. 悪戯されて
3. あなたの夢を見ています
4. メンチカツ・ブルース

桑田佳祐『君への手紙』アナログ盤
桑田佳祐
『君への手紙』アナログ盤

2016年11月23日(水・祝)発売
価格:2,200円(税込)
VIJL-61700

1. 君への手紙
2. 悪戯されて
3. あなたの夢を見ています
4. メンチカツ・ブルース

桑田佳祐『THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~』通常盤(Blu-ray)
桑田佳祐
『THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~』通常盤(Blu-ray)

2016年11月30日(水)発売
価格:6,480円(税込)
VIXL-800

1. 東京の屋根の下
2. あゝ上野駅
3. 赤坂の夜は更けて
4. 有楽町で逢いましょう
5. ウナ・セラ・ディ東京
6. 東京ドドンパ娘
7. 車屋さん
8. すみだ川
9. たそがれの銀座
10. 東京ナイト・クラブ
11. 男はつらいよ
12. 新宿の女
13. 新宿そだち
14. 紅とんぼ
15. 北国の春
16. 神田川
17. 東京砂漠
18. 唐獅子牡丹
19. 東京
20. 悪戯されて(ボーナストラック)

桑田佳祐
『THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~』通常盤(DVD)

2016年11月30日(水)発売
価格:6,480円(税込)
VIBL-1000

1. 東京の屋根の下
2. あゝ上野駅
3. 赤坂の夜は更けて
4. 有楽町で逢いましょう
5. ウナ・セラ・ディ東京
6. 東京ドドンパ娘
7. 車屋さん
8. すみだ川
9. たそがれの銀座
10. 東京ナイト・クラブ
11. 男はつらいよ
12. 新宿の女
13. 新宿そだち
14. 紅とんぼ
15. 北国の春
16. 神田川
17. 東京砂漠
18. 唐獅子牡丹
19. 東京
20. 悪戯されて(ボーナストラック)

プロフィール

桑田佳祐
桑田佳祐(くわた けいすけ)

1956年生まれ、神奈川県茅ケ崎市出身。大きな話題を呼び、大ヒットした『ヨシ子さん』に続くニューシングル『君への手紙』を2016年11月23日にリリース。さらに、ソロとして4年ぶりとなる年越しライブ『桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙 ~悪戯な年の瀬~」』を開催した。1995年にスタートした、TOKYO FM系全国ネットでオンエア中のレギュラーラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(毎週土曜日23:00~23:55)は22年目に突入。

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