遂に掴み取った「あるべき姿」、indigo la Endの歩みを追う

「普遍的なメロディーと先進的な音楽性」というindigo la Endの原点

indigo la End(以下、インディゴ)のメジャーからの2ndアルバム『藍色ミュージック』は、彼らが結成から6年を経て遂に「あるべき姿」を掴み取った記念碑的な作品である。変化の多かったこれまでの歩みを振り返ったうえで、本作の持つ意味を検証してみたい。

2010年2月、川谷絵音を中心に、現メンバーの長田カーティスを含む4人で活動を開始したインディゴの特徴を端的に言うなら、「普遍的なメロディーと先進的な音楽性」ということになるだろう。『インディゴ地平線』(1996年)をバンド名のモチーフとしているだけに、絶対的な指針となっているのはスピッツの存在。さらに、初期の作品のエンジニアをtoeの美濃隆章が務めていたことを考えれば、「歌ものポストロック」というイメージもあったように思う。

美濃隆章がエンジニアを務めた2012年リリースの2ndミニアルバム『渚にて』より

「いいメロディー」に対する絶対的な信頼を持つ川谷は、必ずメロディー先行で、歌詞は後から、どちらかというと感覚的につけるタイプ。しかし、一曲で映画のワンシーンを切り取るかのような、繊細な心理描写のセンスは抜群で、交流のあるスガシカオの歌詞から引用すれば、「心のやわらかい場所をしめつける」ような魅力がある。その背景には、拭いきれない喪失への不安が感じられ、その埋めたくても埋められない欠落が、楽曲にインディゴならではの強い記名性を与えると同時に、聴き手にも強く刺さるのだろう。

2012年4月には、初のミニアルバム『さようなら、素晴らしい世界』を発表。川谷の多作ぶりはこの頃からで、同じ年の9月に2ndミニアルバム『渚にて』、翌年の2月には初期の集大成と言うべき初のフルアルバム『夜に魔法をかけられて』を発表している。

ゲスの極み乙女。のブレイクと、山下達郎の影響

ここでバンドに起こった予想外の出来事が、川谷のもうひとつのバンド、ゲスの極み乙女。のブレイクであった。2014年、インディゴはゲスの極み乙女。と同時にメジャーデビューを果たすと、作風の変更を計る。メジャーデビュー作『あの街レコード』には、バンドシーン / フェスシーンを意識したアップテンポのナンバーを収録。リリース後にはレコーディングにサポートとして参加したベースの後鳥亮介をメンバーに迎え、ここで体制が整ったかのように見えたが、すぐに「フェスで盛り上がる」という価値観への疑念が頭をもたげ、バンドは再度方向性を模索することになる。

ここで大きかったのが、山下達郎の存在だ。2014年8月に行われた『SWEET LOVE SHOWER』で同じ日に出演していた山下のミュージシャンシップの高さに触発された川谷は、アレンジのさらなる洗練と、「失恋」をテーマとした歌詞を念頭に置き、メジャーからの1stアルバム『幸せが溢れたら』を制作、2015年2月に発表した。しかし、リリースを前に今度はドラマーが脱退。バンドは再び3ピースへと戻ることになってしまった。

バンドの「あるべき姿」を収めた『藍色ミュージック』

それでも、彼らは歩みを止めることなく、サポートドラマーに佐藤栄太郎を迎えて、2015年の年明けにツアー実施。この頃から彼らは「ちゃんと音楽を聴いてもらいたい」と考え、椅子席のホール公演を重視するようになる。そして佐藤の正式加入後、1年に及ぶ断続的なレコーディングを経て、『藍色ミュージック』を完成させた。信頼のおけるメンバーが揃い、シーンを意識するでもなく、誰かをモチーフにすることもなく、改めて「普遍的なメロディーと先進的な音楽性」と向き合った本作には、インディゴの「あるべき姿」が収められていると言っていいだろう。

音楽的な特徴を挙げれば、まず軸になっているのは強固なリズム隊の存在。パワフルなプレイと、16分を意識した細やかなプレイを高いレベルで持ち合わせる佐藤の存在によって、『幸せが溢れたら』では追求し切れなかったブラックミュージック的なグルーヴを獲得している。DAFT PUNKの近作を連想させる、ループ感のあるダンスミュージックの“ココロネ”をはじめ、ファンクやR&Bの要素が強まり、川谷のボーカルも実にソウルフルだ。高いプレイヤビリティーを兼ね備えたメンバーによる演奏は、凡百のインディーバンドがすぐに真似できるものではなく、また時代の流れを特別意識せずとも、結果的に時代性を内包しているというのは、優れたバンドの条件だと言えよう。

一方、歌詞に関する変化で大きいのは、いくつかの曲で「命」がテーマになっているということ。これは昨年川谷がNabowaのギタリスト・景山奏によるソロプロジェクト、THE BED ROOM TAPEの作品にゲストとして参加し、景山と共作した“命の火”という曲をきっかけに浮かび上がってきたテーマで、これまでの恋愛をテーマにした歌詞と比べて、より高いドラマ性を感じさせる。<愛し合う術を見て 小さな命を知る>と歌うラストナンバー“インディゴラブストーリー”は、アレンジの独創性といい、曲のストーリー性といい、インディゴ史上屈指の名曲。14曲を通して聴き終えたときの充足感は、「アルバム」という形態の有効性を今に感じさせるものである。

“素晴らしい世界”が導く未来

5月29日、僕はさいたまスーパーアリーナで開催された『VIVA LA ROCK』において、例の騒動後3本目となるインディゴのライブを目撃した。報道にも出ていたとおり、川谷は喉の調子があまり良くなさそうだが、「一本一本を大切に歌っていきたい」と確かな口調で話し、ラストナンバーの“夏夜のマジック”をハンドマイクで歌い切ると、最後にステージに一人残って、“素晴らしい世界”の一節をアカペラで歌い始めた。

さようなら 素晴らしい世界
ありがとう こんな僕も入れてくれて
だけどこれからは一人で生きてくよ

大丈夫そうだ

今から4年前、『さようなら、素晴らしい世界』リリース後のCINRAでのインタビューで、川谷はこの曲についてこんな発言をしている。

川谷:「前向きなんですか?」とか言われるんですけど、結構ギリギリというか、不安なんですよ。だから、最後の“素晴らしい世界”の歌詞も<大丈夫だ>じゃなくて、<大丈夫そうだ>なんです。結構ライブで歌うことが多い曲なんですけど、<大丈夫そうだ>ってところを自分がどういう感じに歌ってるかで、そのときの自分の心境がわかるっていうか。

インディゴは今、バンド史上最高の状態にある。『藍色ミュージック』は一人でも多くの人が聴くべき作品だと言えるし、今月から始まるワンマンツアーもきっと素晴らしいものになるに違いない。<大丈夫そうだ>というフレーズが、不安を力に変えることを願っている。

リリース情報
indigo la End
『藍色ミュージック』初回限定盤(CD+DVD)

2016年6月8日(水)発売
価格:3,780円(税込)
WPZL-31164/5

[CD]
1. 藍色好きさ
2. 雫に恋して
3. ココロネ
4. 愛の逆流
5. シノブ
6. 悲しくなる前に
7. 忘れて花束
8. eye
9. 夏夜のマジック
10. 風詠む季節
11. music A
12. ダンスが続けば
13. 心雨
14. インディゴラブストーリー
[DVD]
1. short movie「藍色四人」
2.「心雨」music video

indigo la End
『藍色ミュージック』通常盤(CD)

2016年6月8日(水)発売
価格:3,240円(税込)
WPCL-12336

1. 藍色好きさ
2. 雫に恋して
3. ココロネ
4. 愛の逆流
5. シノブ
6. 悲しくなる前に
7. 忘れて花束
8. eye
9. 夏夜のマジック
10. 風詠む季節
11. music A
12. ダンスが続けば
13. 心雨
14. インディゴラブストーリー

イベント情報
indigo la Endワンマンツアー
『インディゴミュージック』

2016年6月17日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO

2016年6月19日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:香川県 高松オリーブホール

2016年6月25日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:新潟県 LOTS

2016年6月26日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:宮城県 仙台 Rensa

2016年7月3日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:北海道 Zepp Sapporo

2016年7月13日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 Zepp NAMBA

2016年7月14日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:愛知県 Zepp Nagoya

2016年7月20日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 お台場 Zepp Tokyo

2016年7月22日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:福岡県 DRUM LOGOS

料金:各公演4,320円

プロフィール
indigo la End
indigo la End (いんでぃごらえんど)

2010年2月、川谷絵音を中心に結成。2014年8月に後鳥亮介が加入。2015年3月に佐藤栄太郎が加入し、現在の体制となる。歌とギターのツインメロディとそれを支えるリズム隊、それらが絶妙なバランスで重なり合う。



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