『フォートナイト』がウクライナ支援に180億円寄付。偏見に晒されてきたゲーム界はいかにして新たな価値を創造したのか

メイン画像:Cassiano Correia / Shutterstock.com

暴力との因果関係。つねに偏見に晒されてきたビデオゲームとそのコミュニティー

ビデオゲームはその誕生から現在まで、何度も社会不安をもたらし、戦争や犯罪を助長するとまで批判されてきた。2019年には、ドナルド・トランプ元大統領はアメリカ国内で起きた銃撃事件について、「ぞっとするようなゲーム」に一因があるとし、「暴力的な表現を削減する必要がある」として批判。その結果、一時的に大手ゲーム企業の株価が下がることにもつながった。

また日本の香川県が2020年4月に施行した「ネット・ゲーム依存症対策条例」においては、ゲームの時間的、経済的な依存と並べて、ゲームが「甚だしく粗暴性を助長する」と断じられ(第11条)、同じくゲームが子どもたちを暴力的にするといった理論が採用されている。

いったいどこまでビデオゲームと暴力の因果関係があるのか、それを断じることは難しい。しかしビデオゲームとそのコミュニティーは、つねにそうした偏見に抗い、また現実にある暴力や紛争について考える機会になっているのも事実だ。

特に2022年2月24日、ウクライナにロシア軍が侵攻するウクライナ紛争にあって、その潮流が顕著となる。現在も続く紛争と、その膨大なウクライナの犠牲者のために、各カルチャーがさまざまな支援が行なっているのは周知の事実だろう。ゲーム業界もその例外ではなく、世界各国のゲーム企業、ゲームコミュニティーがこの紛争に異を唱えている。

ユニークなコスメティックアイテムと引き換え。ゲーム内通貨を販売するビジネスモデル

なかでも積極的に人道支援活動を行なったのが、人気ゲーム『フォートナイト』のEpic Gamesだ。

『フォートナイト』の最も人気のあるモードは、最大100人が同時に広大なマップに降下し、最後の1人(1組)になるまで闘うバトルロイヤルだ。日本を含む世界的な人気を博し、登録ユーザー数3億5,000万人を誇る。同社は「2022年3月20日から2022年4月3日までの『フォートナイトに』おける収益のすべてを、ウクライナでの戦争によって影響を受けた人々の人道支援のために委任する」と発表。その結果、1億4,400万ドル(約180億円)をユニセフ等の人道支援組織に寄付した。

莫大な金額の寄付だけでも十分衝撃的だが、より興味深い点は、この『フォートナイト』が基本プレイ無料、いわゆるFree to Playタイトルであることだ。『フォートナイト』は一般的なパッケージタイプのゲームと異なり、ゲームを「買う」必要はなく、誰でも無料ですぐダウンロードし、遊ぶことができる。その代わり、ゲーム内通貨を販売し、多様なキャラクターのコスメティックアイテム(外見変更アイテム)と引き換えることで、ビジネスモデルを成立させている。

これらコスメティックアイテムのなかには、キャラクターの外見を変更するもの、特別なダンスを覚えるものなど、ユニークなものが多数用意され、なかにはマーベルとのコラボレーションによって「アイアンマン」そっくりの見た目に変えることもできる。日本の人気漫画『NARUTO』とのコラボアイテムまで存在し、同じゲームのなかにジョン・ウィックとうちはサスケとソーが共演する戦場は、知らない人が見れば驚くこと間違いなしの奇妙な光景だ。

ゴージャスなコラボレーションを含むコスメティック要素は基本プレイ無料の『フォートナイト』において重要な収益源だが、驚くべきことに、こうした要素をいくら購入しても、原則としてゲームの有利・不利には結びつかない。ただプレイヤーがどんな外見で、どのように振る舞いたいかという、ある種の自己満足のためだけにこれらの要素は機能している。

本作は無料で子どもたちに遊ぶ場所を提供しながら、課金要素は自己表現を拡張する方向に用いられる。そこにはただ暴力の模倣でなく、コミュニケーションを含めた競争(ゲーム)からエコシステムを作り出そうというEpic Games の姿勢があり、そうした姿勢から生じた180億円の収益がウクライナの人道支援に用いられている点は、ゲーム文化の新たな価値創造だ。

『フォートナイト』シーズン2のストーリートレーラー

熱意あるコミュニティーを構築し、クリエイターを支援する仕組み

もう一つ、『フォートナイト』には、ユーザーが「島」と呼ばれる独自の仮想空間をつくり、それをコミュニティーで共有できるクリエイティブモードも搭載されている。ユーザーが投稿した島のなかには、Netflixの人気ドラマ『イカゲーム』を再現した島、エッフェル塔など現実の観光地を散歩できる島など、斬新で独創的な島が多数存在する。もちろん、これらもすべて無料で楽しめる。実質、一からゲームをつくることも可能なこのモードでは、世界中の子どもたちが日夜、自分だけのゲームをつくっては試行錯誤を繰り返しており、将来『フォートナイト』からゲームクリエイターや映像クリエイターが生まれることだろう。

また、「クリエイターサポートプログラム」を通じ、ファンはクリエイターのクリエイティブモードやYouTubeなどの活動を金銭的に支援することが可能だ。これにより、ユーザーの間でつくる / 楽しむ、支援される / 支援するという関係をつくり、ゲームのなかに熱意あるコミュニティーを構築することに成功している。

そのうえで、Epic Gamesはウクライナへの人道支援にあたって「クリエイターサポートプログラム」は別の資金から捻出しており、今回の寄付額に含まれていない。また同社はクリエイターが寄付を考えている場合、クリエイターが自主的に好きな支援団体に直接寄付することを奨励している。Epic Gamesは紛争を非難しながらも、クリエイターたちの思想や経済を尊重している。

インディーゲームシーンからもウクライナ支援に多額の寄付

『フォートナイト』の寄付は世界的タイトルならではのスケールを伴ったものだが、一方で独立系のゲームスタジオ、いわゆるインディーゲームのシーンからも同様にウクライナ紛争の人道支援への動きが見られた。

なかでも大きなものが、ゲーム販売プラットフォーム「itch.io」と「Humble Bundle」でそれぞれ3月に実施された「Bundle for Ukraine」と「Stand with Ukraine Bundle」だろう。これらは名前のとおりBundle(束)、つまり複数のゲームをまとめ売りする販売方法だが、その特徴としてPay what you want、つまりユーザーの気持ちで決めた金額を寄付することでゲームを譲るという点がある。

具体的に、「Bundle for Ukraine」は総額6,500ドルもの価値のある1,000本のゲームを最低10ドルの寄付から入手可能で、「Stand with Ukraine Bundle」は『Metro Exodus』や『Back 4 Blood』など1本60ドルはする大作を含む123本のゲームを最低40ドルの寄付から入手可能だった。

こう聞くとただ「お得だから」という理由で寄付する人も少なくないのではないかと思うが、「Bundle for Ukraine」は約45万人の寄付者から総額637万ドル(約8億円)集まり、なかには9,000ドルを寄付する者がいるなど、高額を寄付する者は決して少なくない。また、「Stand with Ukraine Bundle」は47万人から2073万ドル(約26億円)を集めている。

ではどうしてインディーゲームのチャリティーイベントにここまでの寄付が集まったのか。それにはインディーゲーム固有の情熱が考えられる。もともと、ビデオゲームの開発規模は年々拡大しつつあり、そうした状況ではつくれない独創的な作品、固有のメッセージを籠めた作品への渇望によって築かれたのがインディーゲームのシーンだ。クリエイターも、またプレイするユーザーたちもゲームへの愛情を抱く者も少なくなく、紛争の犠牲になっているウクライナの人々、またウクライナにも少なからず存在するゲームスタジオへの気持ちが、寄付活動につながった。

またバンドルのなかには、歴史や紛争をテーマにしたゲームも含まれる。特に「Stand with Ukraine Bundle」に含まれる『This War of Mine』は戦時下にあって市民として一日でも長く生き残るサバイバルゲーム。プレイヤーが操作するのは紛争に巻き込まれた無辜の市民であり、彼らが極限状態で生き延びるうえで痛烈な選択肢を迫られるという内容で、まさにゲームが紛争や暴力を肯定しているとする言説に対するアンチテーゼのような作品になっている。

『This War of Mine』オフィシャルトレイラー

また「Bundle for Ukraine」に含まれる、カナダのMaddy Makes Gamesの作品『Celeste』は、パニック障害や鬱病を抱えた少女マデリンが、自分の苦しみに打ち克つためにセレステと名付けられた霊峰を登るアクションゲーム。こちらも具体的な「敵」と戦うのではなく、むしろ「己自身」と戦うストーリーとなっている点が印象深い。

もちろんバンドルに含まれるすべてのゲームが非暴力的なわけでなく、そもそも暴力的なゲームが現実での暴力を奨励する例など聞いたことがないが、現実における暴力や安易な暴力的な表現に甘んじるビデオゲームにオルタナティブを提示するクリエイターが存在し、そして経済的に決して突出して余裕なわけではない彼らが寄付のために作品を提供する精神は、この膨大な寄付総額に大きく貢献しているのではないだろうか。

日本からも寄付。地球市民的なゲームユーザーの生態系

ここまで、しばしば暴力や紛争と結び付けられ批判されるビデオゲームのコミュニティーが、独自にウクライナの人道支援活動を行なってきた事例を紹介した。

これらの事例で興味深い点は、いずれも支援の拠点はアメリカなど海外からスタートしているにも関わらず、日本のゲームコミュニティーにも伝わり、『フォートナイト』やインディーゲームのいずれにも日本人のユーザーが参加している点である。おそらく寄付に参加した日本人、またそれ以外の国に住むユーザーにとっても、この寄付活動が特別どこの国で行なわれているのかという点に関心を持つ者は少ない。ここにはビデオゲーム業界のグローバルな精神が見られる。

事実、今回紹介した『フォートナイト』は世界中からプレイ可能で、日本でも接続が安定する地域である韓国や中国のユーザーと一緒にゲームをプレイすることは珍しくないし、少し設定を変更すれば、アメリカやヨーロッパのユーザーとプレイすることも可能だ。インディーゲームにおいても、今回紹介した作品は海外産でありながら日本語のローカライズに対応しており、これらを評価する日本人のファンも多い。

ゲームをプレイするにも、購入するにも、語らうにも、その多くでインターネットという地盤を共有するゲームコミュニティーには、未だ国家や人種、民族を巡る政治的な対立は存在するものの、シンガーソングライターの大石昌良が「ゲームの中で世界平和が実現する」と指摘したように、ゲームを通じたフラットなつながりが見られる(*1)。無論、当事者であるウクライナのゲームスタジオやゲームユーザーが戦禍をこうむり、一方でロシアのゲームスタジオは各国の経済制裁により困窮している点は到底無視できないものの、少しでもその問題の解決に寄与したい、紛争や暴力を看過できないと考えるゲームスタジオが行動を起こし、そこにゲームユーザーが賛同した事実は、ゲーム文化における地球市民的な生態系……といえば過言かもしれないが、ウェブ時代に発展した新たな文化の功績といえるだろう。

*1: KAI-YOU Premium「大石昌良×StylishNoob「音楽にも物語を」Vol.13」2022年1月24日公開(外部サイトを開く



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