映画『金子差入店』、丸山隆平インタビュー。「表現者として幅広く挑戦したい」社会派作品で見せた表情

「差入店」の存在を知っているだろうか。拘置所や刑務所に収容されている人へ、食べ物や文具、日用品など差し入れを代行する商店だ。さまざまな事情から面会に行くことができない人の代わりに、面会室に出向くこともある仕事だという。

そんな差入店を営む家族と、彼らが巻き込まれていく事件を描く映画『金子差入店』が、5月16日から公開される。店主の金子真司を演じるのは、SUPER EIGHTの丸山隆平だ。

ほとんど笑顔を見せない「金子真司」という役を、どんな思いで演じていた? さらに家族との関係性をはじめ、犯罪者や前科者の人権に向けられる世間の反応、メディアスクラムの問題……多岐にわたる視点が交錯する本作をどのように受け止めた? 丸山にインタビューした。

いっぱいの笑顔、ジョークを飛ばして場を和ませたかと思えば、パッと真剣な表情に……。ころころと表情を変えながら、丁寧に、慎重に、言葉を紡いでもらった。

あらすじ:金子真司は妻の美和子と差入店を営んでいる。伯父の星田から引き継いだ住居兼店舗で、引退した星田と10歳になる息子の和真と一緒に暮らしていた。ある日、和真の幼馴染の花梨が何の関係もない男に殺害される。一家が花梨の死から立ち直れないでいた時、犯人の小島の母親から差入の代行と手紙の代読を依頼される。金子は差入屋としての仕事を淡々とこなそうとするが、常軌を逸した小島の応対に感情を激しく揺さぶられる。そんな時、毎日のように拘置所を訪れる女子高生と出会う金子。彼女はなぜか自分の母親を殺した男との面会を強く求めていた。2つの事件と向き合ううちに、金子の過去が周囲に露となり、家族の絆を揺るがしていく……。

ニコニコのイメージとは異なる役柄。「幅広い表現者になりたい」

─『金子差入店』は、これまで映画でほとんど描かれることのなかった差入屋という特殊な仕事を描いています。監督の古川豪さんからの出演依頼を受けて、「こういう役を演じたかった」とお返事されたそうですが、本作のどういった点に惹かれましたか。

丸山隆平(以下、丸山):「差入屋」という職業そのものをまったく知らなかったので、まずそういう世界があることに興味を持ちました。その職業を通して、社会や家族というものを幅広く考えられる普遍的なテーマを扱った脚本だったので、そういった作品に参加することにも、とても意味を感じました。

あとは監督の古川さんの人柄もありますね。何か葛藤を抱えたような人間らしい方で、こういう方と一緒にものづくりするとどういった作品になるだろうというワクワク感も含めて、ぜひお受けしたいなと思いました。

─丸山さん演じる「金子真司」は、ほとんど笑顔を見せず、短気で感情をうまく表せない男性だと思います。丸山さんのパブリックイメージとは異なる役柄を演じることにも面白みを感じましたか?

丸山:そっか、たしかにあまり笑ってなかったですね。でも役を選ぶときに、(おどけて)「よし! アイドル丸山隆平、いつも太陽ニコニコ笑顔オレンジ、今回は思いっきりシリアスな演技するぜ! どうだ~この差は」っていう意識は、あまりないんです(笑)。いままでやってきたアイドル生活のなかでみんながつくってくれたキャラだとは思うんですけど、意外に自分のイメージのことってどうでもよかったりするのかな。

昔は、サイコパスな役をやりたいな、「すごいギャップあるじゃん」って思われたいな、みたいな意識もちょっとありましたけど(笑)。いまは一つひとつの仕事に対して、どれだけ発注に応えられるか、ちゃんとフィットした自分で入れるか、ということのほうが大事かも。どんなことでもチューニングがぴたっと合うような表現者でいたい。

丸山:小学生の頃、人間形成の時代からアイドルを始めて、それである程度認識もしてもらっているから、さすがにいまさらキャラチェンジは無理なので──本当はちょっと、コワモテ系に見せて実は優しいみたいなキャラ、めっちゃ得してるやん! と思うので、そっちがよかったなとも思うんですけど(笑)──、アイドルとしてはもうこのままいきますけど、俳優としても、ベーシストとしても、表現者としてはいろいろ幅広く、今後も挑戦できたらなって思います。

ひとりの観客としては、目を背けたくなるような人間の側面も描いた、社会派とされるサスペンスやドキュメントが好きですね。そういう意味では、この映画も監督が出会ってきた人たちのドキュメントでもあるような気がします。

─社会的なテーマを扱った作品に出演したい気持ちもあったのでしょうか。

丸山:たしかに、こういった題材の作品に興味を持っていました。作品を届けるのって相当なエネルギーが必要で、テーマによっては責任が生じます。

芸能人って、ちやほやされることも多いし、一般的な感覚からちょっとズレが生じやすい仕事やと思うんです。一般の社会のなかで生きるひとりの人間を演じるためには、そんなズレた感覚でやってはいけないし、この職業に対してもそれは失礼に当たると思って。

なので、今回の役を演じるためには、自分がエンタメの世界にいることを見直しつつ、自分自身に向き合わなきゃいけないと思いました。そのうえで、実際に差入屋の方たちがどういった精神性でこの仕事に取り組み、家族と向き合い、近所づきあいをしているのか、そして犯罪被害者の方にも関わる職業であることも受け止めながら、丁寧にやっていかなきゃいけない。そんなことも覚悟のうえでやりたいなと思って、出演を決めました。

「金子真司」はどういう人間か? 古川監督との会話や細部のこだわり

─金子真司が過去に犯した後悔に苦しみながら改心しようと葛藤する人間であるように、罪を犯した人たちを単なる悪人としてだけ描くのを避けていますね。前科を持ちながらも差入屋を営む金子真司を演じるうえで、どのような点に注意しましたか。

丸山:本作は監督が11年かけて構想を練り上げた物語で、そのあいだに実際の差入屋の方からいろいろなエピソードを聞いたそうです。個人のプライバシーに関わる仕事だから、きっと僕らには想像できない緊張感やストレスに晒されるんだろうと思ったので、肌がツルツルだったり、服のブランドを気にしていたりするような人物では違和感を持たれてしまうかもしれない。だから、撮影中はスキンケアをせずにシャンプーだけにするとか、そういう生活を心がけましたね。

衣装も周囲に溶け込むものを用意していただきました。現場では、できるだけ「その人物」として存在できるように努めること以外できない気がしていて。差入屋としてクライアントに心を尽くす「金子真司」という人間が、どういった外見になるのか? ということは意識してアプローチしたことでした。

─金子真司には、監督の古川さん自身が投影されているようですが、このキャラクターを構築するうえで古川さんを観察して、どのような発見がありましたか。彼とどのような話をして金子真司という人物を考えていきましたか。

丸山:具体的な内容は秘密です(笑)。ただ、これまでどんな人と出会ってきたか、母親とはどんな関係性だったか、そんな経験の集積から彼のような人間ができあがっていったと知って、その仕草やマインドを拝借していくことができたかな。

役に活かそうとか意識せずに何度かお話しするなかで、彼が芯に持っている大事なものや人に対しての考え方から、ちょっとずつ感覚的に拝借していって、そこから脚本と照らし合わせて「金子真司」という人物をつくりあげていきました。古川さんからはいろいろなパーツをもらったけど、でも彼のすべてがわかるわけじゃないから。足りないところは、日常生活のなかで「金子真司」をどんどん増やしていって、最終的には違和感なく、何をしていても「金子真司」になれるようにしていきました。

─差入屋として金子真司は、かつての自分と同じように刑務所にいる人たちに面会に行きますが、彼は自身の犯した罪や過去に対してどれくらいの重みを持ってその職業に向かい合っていると思いましたか。

丸山:人それぞれきっと、何かしら過去のことで悩んだり、悔い改めたりしたいことってあると思います。でも、家族でごはんを食べているとき、人と話しているとき、ずっとそのことを考えて生活してるわけじゃない。劇中では、金子真司が夜、台所でひとりタバコを吸って、「俺は正しいんだろうか」と物思いに耽るシーンが言葉なく描かれています。ふとお風呂でひとりになったとき、寝る前、例えばそういう日常の隙間にぽつんと浮かんでくるものだと思うんです。つまり、罪を犯した過去があるからといって、つねに暗い人間でいるのも違うような気がするから、そういうふうに意識しながら演じました。

金子真司は、自分の息子の幼馴染を殺した人間に差し入れたり、手紙を代読したりするとき、自分のなかに沈んでいたヘドロが浮かび上がるように、自分の罪の記憶を掘り返してしまう。彼(金子真司)にとっては、過去に起こしてしまったことの呪いみたいなものと向き合わなきゃいけない状況だったんじゃないかな。そんなふうに彼の過去が滲み出ればいいな、と思いながら演じていました。

メディアスクラムのシーンから思うこと——フィクションを通して現実を見つめる

─差入店は国が法的にできないことを補助するなど、受刑者と家族をつなぐ一種の橋渡しを担っている一方、周囲からの「犯罪者を支援している」という反感にも直面します。このような日本の犯罪者支援への否定的な見方をどのように考えて取り組みましたか。

丸山:差入店の仕事については、罪状にもよるでしょうし、身内でも加害者側と被害者側とで見方は変わると思うんです。そら、大事なものが奪われたり、壊されたりしたら、誰だって差し入れなんて、という気持ちにもなる。でも、差し入れも日本独特の優しさのかたちなんじゃないのって考える人もいると思う。これはたぶんどちらが正しいということではなく、平行線だと思うんですよね。この映画を観た人がどんなふうに感じるのか、アンケートを取りたいぐらいです。絶対に意見がわかれるだろうし、自分がその立場にならなきゃわからないって人もいるやろうから。

─この映画のなかでも、殺人事件が身近に起こったことで、金子の近所の人たちは差入店の仕事に否定的な見方を強めますよね。金子真司の妻は近隣から疎外され、息子はいじめに遭ってしまう。

丸山:そうですよね。この映画、情報量多いねん(笑)。見応えがあるから何回も観てって言いたいけど、重いテーマではあるからしんどいかなとか思ったり。でも、思いやりを持てば、どっち側の立場でも時間が経つと考え方が変わる可能性はあるとは思う。どちらにしても僕は、苦しんでいる人に無理に頑張れとは言いたくないですね……。

─日本人の傾向というところで言えば、(北村匠海演じる)小島高史が殺人事件を起こしたあと、その母親も町民から白い目で見られ、和歌山カレー事件を思わせるようなメディアスクラムを受ける場面もあります。犯罪者の親族にも責任があるかのように扱われる日本の風潮にも触れていますが、その傾向をどのように感じますか。

丸山:報道のマナーとその範囲というのは、いつの時代も問題にはなってきましたけど、最近はより酷くなってきている気がするんですよね。弱い者を叩くっていうことだけじゃなく、あの場面のように、(容疑者の)実家まで押しかけてどうですか? って、それ自分の身内にされたらどうすんねん……と、想像するだけで怒りが湧く思いです。僕ら自身もそうですけど、届ける人や伝える人は、取り扱うからにはちゃんと丁寧に敬意を持っていなきゃいけないと思うんですよ。そういうことを一回考え直してほしいなって、あのシーンは思いますよね。

丸山:あの母親が悪いのか? モンスターを産んだらその母親もモンスターなのか? いろいろな見方ができますが、報道が彼女(小島の母親)を追い詰めた可能性もある。いまは一般の人もSNSで拡散できるようになって、切り抜きひとつで見え方が変わることだってある。この映画を観て、みんながどういう判断をして、どういうふうにこの社会のなかで豊かな人生につなげていくかということを、ちょっとでも考え直すきっかけにもなったらいいなと思います。

善悪、家族、救い、呪縛……。「考え方や生き方のヒントがたくさんある」

─劇中で、小島が「100匹のアリ」の話を例に性悪説を主張するシーンがありますね。環境によって働きアリがサボりアリに変わるように、この映画では悪から善に、あるいは善から悪になる人物たちが登場します。善と悪のテーマ、アリの例え話については、どういうふうに考えられましたか。

丸山:アリの話については、ひとつの哲学論だと思っていて。哲学って、人それぞれが持っている思想や考え方で、何が正しいということはないじゃないですか。答えがひとつにまとまるんだったら、戦争を繰り返して……こんなになってないでしょ、世界は。月並みですけど、自分にとっての善は他人にとっての善とも限らないし、自分にとっての悪は他人にとっての悪とも限らない。そのへんの折り合いをつけながら、いい距離感を見つけて柔軟に人と向き合っていかなきゃいけない。善悪っていうのは、人間として生まれてきたからには一生ついてまわる終わりのないテーマですよね。

─面会室を隔てるアクリルガラスに金子真司の顔が反射し、殺人犯の小島の顔とあたかも重なるように撮影されているように、彼らは相似の関係にあるかのように見えます。どちらも根っこに母親への恨みや苛立ちを抱えていたり、母親が面会に直接来ない点も含めて、似ているところがありますよね。

丸山:似ていると言われたら、たしかに彼らは似ているのかもしれない。親子関係って家庭によってそれぞれだし、それがどんな大人になるかに大きく関わるともいわれている。でも、境遇のせいだけにはできないんじゃないかという思いは個人的にある。犯罪とか人を傷つけることに、そういう環境だったら仕方ないね、なんてことはないと思うから。

僕の立場で言えるのは、境遇はどうあれ、結局は自分で何をどう選択して、どういうふうな未来を思い描いて、それに向かってやっていくかということだと思うんですよね。やっぱり人って間違えるから。その間違いがどの程度で済むのか、誰かを巻き込んでしまうのかで、大きく人生って変わっていくなっていうのは、この映画に関わるなかで感じたことでした。

─おっしゃるように、丸山さんは間違いを犯してから立ち直って変わろうとしている人物を演じています。一度汚名を着ると時間が経っても許されない、一度も失敗を許さないような社会的風潮が強くあるなかで、このような人物をいま演じることの意義をどのように感じますか。

丸山:それに関してはあまり何も言いたくないかな。それを言うと、仮にも僕が演じているので、「そう思いながら演じてはんねや」って思われんのがちょっと嫌で……。こういう作品がたくさんの人に届くことには意味があるし、何か豊かな思考に転化できたりすればいいなと思うんですけど、自分が声高に「この作品を通してこうだ」みたいなことは言えたようなもんじゃないので。でも、作品としてはいろいろな考え方や生き方へのヒントがたくさんあると思います。

─金子真司は、家族の支えと息子への愛によって、心を入れ替えて新しい人生を歩むことができているように見えます。彼にとって、家族はどのような存在と考えましたか。

丸山:妻、子ども、おじの存在によって、真司は救われたと思います。やっぱり家族や周りの人たちの存在って、ひとりじゃ生きられないということの象徴じゃないですか。金子真司にとっては、そこにきっと母親も入ってくると思います。

ただ、救いってこんなにも残酷やねんな、とも思いましたね。それでも彼は生きていかなきゃいけないし、できるかどうかわからなくても家族を守らなきゃいけない。家族という守るべき存在がいるっていうことは、彼にとっての救いであると同時に、もしかしたら生きなきゃいけない呪縛でもあるような気がしました。

作品情報
『金子差入店』

2025年5月16 日(金) TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

監督・脚本:古川 豪
出演:丸山隆平
真木よう子 寺尾聰ほか
プロフィール
丸山隆平 (まるやま りゅうへい)

1983年生まれ、京都府出身。SUPER EIGHTのメンバー。2004年、シングル“浪花いろは節”でCDデビュー。歌手、ベーシスト、俳優として活躍。主な出演作は、『フリーター、家を買う。』(2010年)、『ストロベリーナイト』(2012年)とその映画化(2013年)、『エイトレンジャー』シリーズ(2012年・2014年)、『泣くな、はらちゃん』(2013年)、『地獄先生ぬ~べ~』(2014年)、『大江戸グレートジャーニー ~ザ・お伊勢参り~』(2020年)、『着飾る恋には理由があって』(2021年)など。舞台では、ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2022年)、『浪人街』(2025年)など。



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