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2025年、活躍した若手アーティストは?Chevon、Billyrrom、kurayamisakaら【up coming artist特別回】

2025年が、もう終わる。音楽ライター、金子厚武の連載コラム「up coming artist」、今回は年末特別編。注目の若手アーティストを紹介し、その音楽性やルーツを紐解きながら、いまの音楽シーンも見つめていく。今回は、今年活躍した若手アーティストを振り返っていく。

コロナ禍、ライブ活動ができない時期があった過去5年間を踏まえたうえで、2025年は特に「バンド」に大きな勢いがあったと金子は評する。その背景には例えば、ボカロなどネット発のアーティストが「バンド」というかたちの表現で渦を広げていたり、Suchmosやthe cabsといった、それぞれのシーンにとって象徴的な2組の復活があったり、さまざまな文脈があるようだ。

さあ、今年はどんなアーティストが、どんな表現をしていただろう? 記憶を呼び覚ましながら、2025年を音楽シーンとともにだどっていこう。

音楽は好きだけど、最近、新しいアーティストに出会えていない……情報の濁流のなかで、瞬間風速的ではない、いまと過去のムーブメントを知りたい……そんな人に、ぜひ読んでほしい連載です。

本稿で紹介したアーティストの楽曲をプレイリストにまとめました。ぜひ!

今年は「バンド」に再び光が当たった——Chevonが象徴するもの

2025年に活躍した若手を振り返ってみると、「バンド」に勢いがあったように思う。2020年代前半はパンデミックの影響でライブ活動ができない時期があり、ホームレコーディングですべてを完結できるソロアーティストや、歌い手出身のシンガーがYouTubeやTikTokから次々に発見されていったわけだが、この5年のポップシーンの変化も踏まえたうえで、2025年は再びバンドにスポットライトが当たる一年だったのではないだろうか。

その象徴となったのが2021年結成のChevon。2024年11月に香取慎吾の“Circus Funk(feat. Chevon)”でフィーチャーされ、同年12月に出演した『FNS歌謡祭』ではジェンダーレスで、幅広い音域を歌いこなす谷絹茉優(Vo)のパフォーマンスが大きな話題に。2025年に入るとその勢いが加速し、4月には東京スカパラダイスオーケストラの“私たちのカノン(VS. Chevon)”に参加し、全国各地のフェスに出演。秋に行われた対バンツアーではUNISON SQUARE GARDENやフレデリックといった上の世代に胸を借りると、11月に2026年のメジャーデビューと、ワンマンツアーの開催を発表した。ツアーファイナルの会場は早くも横浜アリーナだ。

谷口の歌唱力は「歌ってみた」で様々な楽曲を歌ってきたという背景が大きく、ボーカロイド楽曲への愛情も語っている。1月にはボカロP出身のTOOBOEと共同制作した“トラップ”を発表。4月には、須田景凪がボカロP・バルーンの名義で制作した企画アルバム『Fall Apart』に、Ado、キタニタツヤ、なとりらとともに参加していたのも、バンドの性格を表している。こうした2020年代前半に頭角を現したネット発のソロアーティストからの影響を受けながら、それを「バンド」という形態で表現し、上の世代も巻き込みながら渦を広げているのがChevonの面白さだ。

ボカロ的感性が、J-POPに浸透した先に——Aooo、syudou

その意味では、もう1組名前を挙げるべきは2023年結成のAoooということになる。元・赤い公園の石野理子(Vo)、YOASOBIらをサポートするやまもとひかる(Ba)に加え、ともにボカロP出身のすりぃ(Gt)とツミキ(Dr)が参加する4人組は、やはりボカロ的な感性がJ-POPに浸透した先で結成されたバンドである。2024年10月に1stアルバム『Aooo』でメジャーデビューをすると、2025年はChevon同様に多数のフェスやイベントに出演し、12月には東京ガーデンシアターでのワンマンライブを開催。すでに2026年のツアーとアルバムリリースも発表され、この勢いは続きそうだ。

来年1月24、25日にはこちらもボカロP出身で、Ado“うっせぇわ”の作詞作曲者としても知られるsyudouによるネットカルチャーとライブシーンを融合したイベント『PENTATONIC』の開催が発表され、24日にはsyudouとYOASOBIに加え、すりぃがソロで、ツミキは自身のユニット・NOMELON NOLEMONで参加し、 Ayase、syudou、すりぃ、ツミキの4人によるDREAMERSも出演。25日にはsyudou、Aooo、Chevon、須田景凪、なとりの出演が決まっていて、現代のJ-POPを象徴する2日間になりそうだ。

女性ボーカルバンドの活躍——muque、ハク。、chef’s、Trooper Salute

ChevonやAooo以外にも、2025年は女性ボーカルのバンドの活躍が目立ったように思う。テレビアニメ『ONE PIECE』のエンディング主題歌“The 1”が話題を呼んだmuqueはすでに人気が高まっているし、MONO NO AWARE“かむかもしかもにどもかも!”のカバーがTikTok経由で海外でのバズを生み、メジャーデビュー曲“それしか言えない”のオルタナ化も印象的だったハク。や、ファンク、R&B、ロックなどを飲み込んで、「the band apart×Vulfpeck」と言えそうなJ-POPを鳴らすchef’sも面白い。『フジロック』の「ROOKIE A GO-GO」に出演したTrooper Saluteは12月にリリースしたEPでの吉澤嘉代子とのコラボレーションも素晴らしく、さらなる活躍が期待できそうだ。

Suchmos再始動から見る——Billyrrom、luv、離婚伝説、First Love is Never Returned

2025年にバンドの勢いを復活させたのは、シーンを象徴する2組の再始動も大きな理由だったように思う。そのうちの1組が、2021年の活動休止から4年を経て、6月に開催された横浜アリーナでのライブで本格的な活動再開を果たしたSuchmos。ネオソウルやアシッドジャズを昇華したJ-POPを鳴らす現代の若手バンドは、2010年代後半にSuchmosがシーンを駆け上がっていったのをリアルタイムで体験してきた世代であり、直接的にも間接的にも、その影響は絶大だ。

この流れのトップランナーに位置するのが2020年結成の6人組、Billyrrom。彼らの特徴は国内のみならず、アジアでの人気を拡大させていることだ。2024年12月に台湾の5人組バンド、Wendy Wander(溫蒂漫步)とのコラボシングル“Nightglow Dreamer”を発表したのに続き、7月にはマレーシアのNigel 鄭偉傑とのコラボシングル“有我在 / I’ll be With You”を発表。今年は台北でワンマンライブを行い、中国や韓国のフェスにも出演したが、来年2月からは国内も含めて全7都市を回る初のアジアツアーが決定している。

Suchmosもまたアジアでの人気が高く、2020年に開催予定だったものの、中止になってしまったアジアツアーのリベンジを12月に終えたばかり。先達が切り開いてきた世界への道を、新たな世代がさらに推し進めようとしている。

「銭湯ラブソング」の“Send To You”が話題を呼んだ2023年結成の5人組、luvも1月に台北で初の海外公演を行なっていて、来年3月からは東京、ソウル、台北を回るアジアツアーが決定している。

国内に目を向けると、“愛が一層メロウ”のヒットですでに人気をたしかなものとしていた離婚伝説が、Suchmosの“STAY TUNE”や“808”が起用されていたことでも知られるHonda VEZELのCMソング“ファーストキス”でさらにファンを拡大。来年9月の開催が発表された初の日本武道館公演は早々にソールドアウトとなり、2DAYSに変更された。また、北海道発のFirst Love is Never Returnedはavexとともに新レーベル・HEiLO RECORDS(ヒイロレコーズ)を設立してメジャーデビュー。Chevonと同じ札幌から、新たな波を起こせるだろうか。

the cabsの復活とオルタナシーン——kurayamisaka、yubiori、雪国、Nikoん、171、ひとひら

今年もう1組、印象的な復活を果たしたのが、年明けに12年ぶりの再始動を発表した3ピース、the cabsだ。2010年代後半以降のエモリバイバルの波がライブハウスやSNSを通じてジワジワと熱を帯びた先に、シューゲイザーやポストロックを背景に持つ羊文学のブレイク、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』による2000年代の下北系ギターロックの再評価もあって、オルタナシーンは新たな盛り上がりを見せつつあった。その最後のひと押しとなったのが、the cabsの復活であり、当時所属していた残響レコードへの再注目だった。8月から開催されたワンマンツアーのファイナルはキャパ3000人の豊洲PITで、彼らをリアルタイムで追いかけていたファンはもちろん、音源や動画でしか知らなかった若い世代も大勢駆けつけて、今年を象徴する1日になったように思う。

そんなオルタナシーンの新たな盛り上がりの代表と言えるのが、このコラムの第1回で取り上げたkurayamisaka。9月から開催された初の全国ワンマンツアーを大成功で終えると、来年5月からのツーマンツアーにはART-SCHOOLやThe Novembersといった上の世代の参加も決定。まだ唯一発表されていない東京公演のゲストも含め、さらなる展開が期待される。

同じくこのコラムで紹介したyubioriや雪国も着実にステップアップをしているし、9月にはNikoん、12月には171がメジャーデビューをしていて、来年はメジャーを巻き込んださらなる盛り上がりが起きそう。コロナ禍に誕生し、ひとひらを輩出した新興レーベル「Oaiko」は来年6月のフェス開催を発表していて、新たな世代の価値観を提示してくれることを期待したい。

ソロの活躍——AKASAKI、紫 今。MegBonus、梅井美咲と北村蕗も

最後に、ソロアーティストについても触れておこう。2024年に発表した“Bunny Girl”がバイラルヒットを記録し、年明けに発表される『バズリズム02』の「今年コレがバズるぞ!BEST10!」、Spotifyによる『RADAR:Early Noise 2025』の両方でピックアップされていたAKASAKIは、3月に初ワンマンを開催して、高校卒業とともに本格始動。11月からの日本人ソロアーティスト史上最年少のアジアツアーも大きな話題を呼んだ。

“魔性の女 A”と“ウワサのあの子”のミュージックビデオが、どちらもノンタイアップながらYouTubeでの再生回数1000万回を突破した紫 今は、新曲の“メンタルレンタル”が来年1月からのアニメ主題歌に起用されることが発表され、さらなるブレイクの予感が。個人的には、「君島大空以降のJ-POP」といった感覚が新鮮なMegBonus、楽器の演奏力とトラックメイクの技量を高いレベルで持ち合わせ、ユニット、°pbdbとしても活動する梅井美咲と北村蕗の2人も非常に楽しみだ。



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