くるりにとって『アンテナ』とは? 名盤の背景を振り返る

クリストファー・マグワイアをメンバーに迎えた5作目『アンテナ』

今年で結成20周年を迎えるくるりが昨年からスタートさせたコンセプトライブ『NOW AND THEN』の第三弾が、5月7日の香川公演を皮切りにスタートする。過去のアルバムを再現する『NOW AND THEN』は、第一弾が『さよならストレンジャー』と『図鑑』、第二弾が『TEAM ROCK』と『THE WORLD IS MINE』と、これまで2作品ごとに行われていたが、今回は「現在進行形のくるりとアルバム『アンテナ』を再現する」というコンセプトになっている。まずは、『アンテナ』リリース当時のくるりを振り返ってみよう。

『NOW AND THEN vol.2』より
『NOW AND THEN vol.2』より

『アンテナ』の前作『THE WORLD IS MINE』(2002年)のリリースに伴うツアーの後、ドラマーの森信行がバンドを脱退。映画『ジョゼと虎と魚たち』のサウンドトラック、およびその主題歌の『ハイウェイ』のリリースを挟み、2003年5月からグラスゴーでアルバムのレコーディングを開始し、ここで『NOW AND THEN』の第二弾にドラマーとして参加したクリフ・アーモンドと数曲のレコーディングを行っている。その後、前年のUSツアーで出会ったクリストファー・マグワイアをサポートに迎え、『FUJI ROCK FESTIVAL '03』のホワイトステージなどに出演すると、そのままクリストファーと共にセッションとレコーディングを続け、11月にはバンドに正式加入。そして、2004年3月にリリースされたのが通算5作目となるオリジナルアルバム『アンテナ』である。

くるり『アンテナ』ジャケット
くるり『アンテナ』ジャケット

くるり『ジョゼと虎と魚たち』ジャケット
くるり『ジョゼと虎と魚たち』ジャケット

「ロックバンド」をテーマに、アナログ録音による一発録り

『アンテナ』という作品は、『TEAM ROCK』から『THE WORLD IS MINE』へと続いた音楽的な折衷期に別れを告げ、「ロックバンドとしてのくるり」にフォーカスを絞ったという特徴がある。当時のインタビューでは、LED ZEPPELIN、THE BAND、CSN&Yといった名前が頻繁に登場し、こうした過去の名だたるバンドにも通じる生演奏の熱量を、アナログ録音による一発録りで作品に閉じ込めているのだ。もちろん、単なる過去の焼き直しになるはずはなく、中でもエンジニア・高山徹のミックスによるモダンサイケな音響は、本作の重要な一側面だと言えよう。

そんなアルバムを象徴するのが、シングルカットもされている“ロックンロール”。丸みを帯びた音色のギターリフが耳に残るこの曲は、「ロックンロールの『ロール』の部分を知りたければ、THE ROLLING STONESの“BROWN SUGAR”かこれを聴け」とでも言いたくなるような名曲。また、曲中の唐突なテンポチェンジが特徴の“Morning Paper”も現在に至るライブの定番曲であり、ギター残しのブレイクから、ソロへと移って行く終盤の展開では、これまでに何度となく名演が生まれている。

同時代のバンドが次々と解散を発表した時期に、“How To Go”で体現したくるりのテーマ

しかし、個人的にこのアルバムで一番想い入れがある曲は、何と言ってもラストに収録されている“How To Go”である。ゆったりとしたBPMとタメの効いたアンサンブルがとにかく素晴らしい大名曲だが、この曲はくるりというロックバンドが今も体現し続けているメッセージを規定した曲でもあるように思う。“How To Go”がシングルリリースされたのは2003年9月で、この時期はNUMBER GIRLとthee michelle gun elephantをはじめ、WINOやpre-schoolなど、交流のあった同時代のバンドが次々と解散を発表した時期であり、「How To Go」、つまり、「どのように進んでいくのか?」をテーマにしたこの曲の重要度はとても大きかった。

<いつかは僕達も離ればなれになるのだろう 僕達は毎日守れない約束ばかりして朝になる>というラインは、くるりのベーシックである「僕らが完全にはわかりあえないこと」を前提としたコミュニケーションの表れだが、このときばかりはロックバンドの夢とロマンを歌っているように聴こえる。そして、この曲でくるりは<いつかは想像を超える日が待っているのだろう>と、「それでも、自分たちは前に進んでいく」というメッセージを放つ。“everybody feels the same”で繰り返される<進め>にしろ、“There is(always light)”の<Come here go>にしろ、近年のくるりの重要な曲でも必ず歌われているこのメッセージは、今でもくるりをくるりを足らしめているように思うのだ。

曲順通りの「完全再現」、そして新曲に期待

そして、今回の『NOW AND THEN』に対する僕の唯一の願いは、「曲順通りに演奏してほしい」ということだ。『NOW AND THEN』の第一弾は、曲順通りの「完全再現」だったが、第二弾のときは曲順を入れ替えて、新たなセットリストとして構成されていた。しかし、曲調のバラエティーの広さが先に立ちがちなくるりのアルバムの中にあって、「ロックバンド」という明快なテーマを持った『アンテナ』は、曲順こそが重要だと思う。

フォーキーな曲調に優美なストリングスが絡む“グッドモーニング”で静かに幕を開け、“ロックンロール”から、まさにLED ZEPPELINのようにハードな“Hometown”で最初のハイライトを迎えると、中盤にはディープなサイケナンバーが続き、ラストに弾き語りの“バンドワゴン”から“How To Go”へ。この曲順だからこそのカタルシスが、間違いなく存在する。ドラマーはクリストファーではないにしても、“How To Go”冒頭のカウント「Here we go,Rock'n Roll!」も含め、ぜひ文字通りの「完全再現」を期待したい。

『NOW AND THEN vol.2』より
『NOW AND THEN vol.2』より

最後に、前述の通り今回の『NOW AND THEN』では「現在進行形のくるり」もテーマになっているため、前回の『NOW AND THEN』では披露されなかった昨年リリースの“ふたつの世界”などが演奏されることへの期待も積もるのだが、実はこの原稿を書くにあたって、さらなるくるりの新曲を聴かせてもらった。まだ詳細は伏せておこうと思うのだが、“ふたつの世界”ともまた違う、今の音楽シーンのトレンドにくるりなりの回答を示したかのような、非常に刺激的な仕上がりとなっている。ぜひとも会場に足を運んで、2016年のくるりを感じてもらいたい。

イベント情報
『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN vol.3」』

2016年5月7日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:香川県 festhalle

2016年5月8日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:福岡県 福岡市民会館

2016年5月10日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:広島県 JMSアステールプラザ 大ホール

2016年5月16日(月)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 オリックス劇場

2016年5月17日(火)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:京都府 ロームシアター京都

2016年5月25日(水)OPEN 18:15 / START 18:45
会場:愛知県 名古屋市公会堂

2016年5月27日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 電力ホール

2016年5月30日(月)OPEN 18:45 / START 19:15
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホール

2016年5月31日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホール

料金:各公演 指定席6,480円 立見5,940円
※香川公演はドリンク別、立見券は立見がある場合のみ

プロフィール
くるり
くるり

1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。岸田繁(Vo,Gt)、佐藤征史(Ba,Vo)、ファンファン(Tp,Vo)の3名で活動中。



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