『Jazz World Beat』が示す、変化するワールドミュージック事情

折衷的な動きが活発。ceroらが示したワールドミュージック再評価の兆し

ワールドミュージックが再評価されている。いや、この表現はちょっと誤解を生むかもしれない。ようやくポップミュージックと同列になったと言ったほうがいいだろう。土着的なリズムやエキゾチックなメロディーを取り入れることは、少し前までイロモノ的な感覚があった。

しかし先日、新作アルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』を発表したceroは、アフリカやブラジルのリズムを「借り物」ではなく、自分たちの音楽へと自然に消化しているのが印象的だった。もちろん、これまでにもワールドミュージックをロックやポップスに取り入れるアーティストは多数存在したが、ceroのように日本人ならではの感性で血肉化している例は稀だったし、J-POPの先鋭としてそれをやりきったことは、くるりと並んで非常に大きな意味があると考えている(参考記事:ceroの傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』を、5人のライターが語る )。

cero『POLY LIFE MULTI SOUL』収録の“魚の骨 鳥の羽根”

海外では、このようなミクスチャーな動きはそれほど珍しいことではない。ロックやポップスはもちろん、ジャズやヒップホップ、ダンスミュージックなどを含めたさまざまなジャンルで定番になりつつある。特にジャズシーンは顕著で、アルメニアのティグラン・ハマシアン、インドネシアのジョーイ・アレキサンダー、キューバのアクセル・トスカなど、近年活躍するジャズピアニストは欧米以外からも多数輩出されており、いずれもジャズと自国の音楽を絶妙にブレンドすることに成功している。ジャズボーカリストにしても、キューバのダイメ・アロセナやマレーシアのユナなどが、軽々と世界デビューを果たしているのも目立つ。

アッシャーとのデュエット曲“Crush”も話題となった、ユナのアルバム『Chapters』

また、ロバート・グラスパーはナイジェリア発アフロビートの騎手シェウン・クティをプロデュースして話題になったばかりだし、大作を続々と発表しているサックス奏者のカマシ・ワシントンの作品にはアフリカ大陸がモチーフとして欠かせない。そして、彼らジャズミュージシャンを積極的に起用するケンドリック・ラマーら、ヒップホップアーティストによるアフリカ回帰は言わずもがなだ。

ロバート・グラスパーがプロデュースした、シェウン・クティの『Black Times』

ストリーミングサービスが崩壊させた音楽シーンの「英語圏至上主義」

そもそも、「2017年に全米で最もヒットしたシングル曲」と言われるルイス・フォンシ(プエルトリコ出身のラテンポップミュージシャン)の“Despacito”はスペイン語詞だった。加えて、先日は韓国のBTS(防弾少年団)のアルバムが全米1位になって大きな話題となった。

2017年にスマッシュヒットした、ルイス・フォンシの“Despacito”

これらのことからも、欧米の「英語圏至上主義」の音楽シーンの中枢にあった言葉や国境の壁は、ほぼ崩壊しつつあると言えるし、新しい音楽が非英語圏から生まれてくる事例も多くなった。それも、センセーショナルなことではなく、ごく自然に登場しているように見えるのだ。

そんな仰々しい話を持ち出すまでもなく、ストリーミングサービスを通じて世界中の音楽にアクセスできるようになり、それまでは「マニアック」と言われたジャンルも気軽に聴けるようになったのは、誰もが感じているはずだ。

ひと昔前までは、ワールドミュージックの音源は専門店で入手するのが一般的だったことを思うと、音楽環境自体が大きく変化しているわけだから当然である。わざわざ「ワールドミュージック」と呼ぶことすら、いまはナンセンスなのかもしれない。だからこそワールドミュージックと呼ばれるアーティストのライブも、これまでのようなマニアだけでなく、ニュートラルに音楽を感じられるリスナーが足を運ぶものに変化するだろう。

ジャンルを超越したニュータイプの音楽と出会う『Jazz World Beat』

そうした意味では、文字通りジャズとワールドミュージックが渾然一体となって盛り上がる『Jazz World Beat 2018』は、注目すべきユニークな企画と言えるのではないだろうか(参考記事:ジャズは世界中の音楽とどのように混血してきた?柳樂光隆が解説)。これまでにキューバやポルトガルなどの音楽をフィーチャーして行われてきたこのイベントだが、第3回目となる今年のテーマは「ジプシージャズ」。

メインアクトはこのジャンルの第一人者であるチャボロ・シュミットが務める。彼は第二次世界大戦前後のパリを賑わせたジャンゴ・ラインハルト(1910~1953年、ジプシージャズの創始者と知られるベルギー生まれのギタリスト)の後継者と讃えられるギタリストだが、単に伝統的な奏法を行うだけでなく、さまざまなコラボレーションを行っている。今回も、日本のジャズギターの重鎮である渡辺香津美や、ジャズから中東音楽までをカバーできるバイオリニストの太田惠資がゲスト参加する。

チャボロ・シュミット
チャボロ・シュミット

チャボロ・シュミットのパリでの演奏を収めたライブ盤

また、日本のジプシージャズ代表として、若手バンドのTokyo Django Collective(河野文彦、手島大輔、阿部恭平のトリオ)が、バイオリニストの北床宗太郎を迎えた編成で迎え撃つ。日仏それぞれのジプシージャズを楽しめるのも、このイベントの楽しみだろう。

左から:Tokyo Django Collectiveの手島大輔、河野文彦、阿部恭平
左から:Tokyo Django Collectiveの手島大輔、河野文彦、阿部恭平

また、島根県松江市を拠点に活動するシンガーソングライター・浜田真理子が、バイオリンの喜多直毅とピアノの黒田京子によるデュオをゲストに迎え、新進トランペット奏者の類家心平を中心としたRS5pb(類家心平、田中 “tak” 拓也、中嶋錠二、鉄井孝司、吉岡大輔の5人グループ)が、菊地成孔を迎えてエレクトリック期のマイルス・デイヴィス(1926~1991年、アメリカ生まれのトランペッターで「ジャズの帝王」)に影響を受けたパフォーマンスを披露してくれるのも楽しみだ。

浜田真理子の最新アルバム『NEXT TEARDROP』試聴動画

喜多直毅と黒田京子のデュオ
喜多直毅と黒田京子のデュオ

RS5pbの中心メンバー、類家心平の“DANU”

他にも、フランスで活動するサックス奏者の仲野麻紀とウード奏者のヤン・ピタールがエリック・サティ(1866~1925年、ドビュッシーらに影響を与えたとされるフランスの作曲家)を演奏するというセッションや、本場南米でも大きな評価を得ているケーナ(南米発祥の縦笛)奏者の岩川光が、アコーディオン奏者の佐藤芳明、ピアニストの林正樹を加えたテクニカルなトリオなど、興味深いプログラムが並ぶ。いずれもジャンルを超越したプロジェクトであり、まさにワールドビートを体感できるイベントと言えるだろう。

仲野麻紀
仲野麻紀

ヤン・ピタール
ヤン・ピタール

仲野麻紀とヤン・ピタールの2人による楽曲"Désespoir agréable"

ここで聴くことのできる音楽には、もはやジャズやワールドミュージックといったジャンルではくくりきれないエナジーがみなぎっている。少しでも新しい音楽に触れたいと思ったら足を運んでもらいたい。先に挙げたceroの新作のように、いまの時代の音と呼応するような刺激的なパフォーマンスが体感できるかもしれないのだから。

『Jazz World Beat 2018』ポスタービジュアル
『Jazz World Beat 2018』ポスタービジュアル(サイトを見る

イベント情報
『Jazz World Beat 2018』

2018年7月7日(土)
会場:東京都 めぐろパーシモンホール
[大ホール]
チャボロ・シュミット・トリオ
浜田真理子
RS5pb
※17:00開演

[小ホール]
仲野麻紀withヤン・ピタール
岩川光トリオ
Tokyo Django Collective feat.北床宗太郎
喜多直毅&黒田京子デュオ
MC:
中川ヨウ
※13:30開演

料金:
大ホールのみ:前売 全席指定6,500円
小ホールのみ:前売 全席指定4,500円
1日通し券:大ホールS席+小ホール9,000円
※未就学児入場不可



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