世界に知られるマニアの街・中野。ディープな専門店が集うワケ

古本、鉄道、フィギュア、玩具、絵画、ポスター、古着……。圧倒的にマニアックな専門店の数々

「中野」と聞いて、あなたはどんな街をイメージするだろうか? 中央線沿線のサブカル街、小さな飲食店が密集する街、都心にほど近い住宅街――中野の街には、実に様々な顔が存在している。街がそのような多様な要素を持つに至った理由を明らかにすべく、中野の歴史やそこに暮らす人の声を伺いながら、現在に至る中野の街の成り立ちを探っていきたい。

JR中央線、中野駅。北口改札を出て中野サンモール商店街に入ると、たくさんの店が立ち並び、大勢の人で賑わっている。左右にはたくさんの横道が伸びていて、肩を寄せ合った飲食店や小売店に目移りする。その誘惑を振り切って、そのまままっすぐ進めば、中野ブロードウェイが待っている。内部には長い時間をかけて醸成された個性際立つ飲食店やブティックが立ち並び、なんといってもマニアックな専門店の数々に圧倒される。古本、鉄道、フィギュア、玩具、絵画、ポスター、古着……。そう、言うまでもなく中野は「マニアの街」なのだ。

中野サンモール商店街前に佇む、中野区が新たに始めたシティプロモーションのキャラクター「中野大好きナカノさん」。人形が公式キャラとして街中に佇んでも気にならないのが中野らしい

マニアの街、挑戦の街、多国籍の街、多様な顔を持つ中野

マニアの街の先駆けとなったのは、やはり漫画専門の古書店「まんだらけ」だろう。そもそも、現在まんだらけが店を構える中野ブロードウェイがオープンしたのは1966年。当時はアメリカのブロードウェイを模した巨大なショッピングコンプレックス(商業住宅複合施設)として、今の六本木ヒルズのように輝いていたそうだ。しかし、時代の移り変わりから徐々に衰退、シャッターが目立つようになってしまう。そんな中、1980年にまんだらけは開業し、現在の「サブカルチャーの聖地」と謳われるまでの施設になっていった。

中野ブロードウェイ入口

ちなみに、「オタク」とは異なる中野ならではの「マニア」性とは、やや乱暴に言ってしまえば、3次元ということなのではないだろうか。漫画やアニメのみならず、そこから立ち上がるリアルな「モノ」の世界——模型、機械、人形、アートこそ、中野オリジナルの特徴と言っていいのかもしれない。

また、中野には様々な専門店以外にも、若手芸人や飲食店、ベンチャー企業といった新しい価値を生み出そうとする人たちが多く集まる。彼らにとって、中野は独創性を思う存分に発揮し、仲間同士で切磋琢磨する「挑戦の街」なのだ。そして多くの区民が居住する都心のベッドタウンであり、中国や韓国、ベトナムやネパールまで、実に約120か国に及ぶ人々が暮らす多国籍地域でもある。

独創性を追求し勝負する挑戦者や、文字通り様々な国からやってきた人たち。中野は古くからそういった多種多様な人々を広く受け入れてきたことで、街には色々な人やモノが溢れ、多様な価値観が当たり前のように共存してきたのだ。

街をずっと見てきた古参の老舗から新参のギャラリーまで。中野の街はどう映っているのか

実際に中野に暮らす人たちは、この街に対してどのような印象を抱いているのだろうか。昭和13年に開業し、中野サンモールに移ってから70年近く中野に店を構えてきた「フジヤカメラ」の社長、大月浩司郎さんは、「特色ある商業地域になったことで、日本中、世界中からいろんなお客さんが来る、全国的に有名な街になった」と感慨深く話す。

フジヤカメラ 本店

大月さんが店を継いだ頃は、新宿の家電量販店の勢いが非常に強かったと言う。中野では商売にならないと考えたフジヤカメラは、中古品の販売に力を入れ始める。「割合としては低くても全国的に見れば、1点モノの中古カメラを探している方は多くいて、次第に遠方からのお客さんが増えていった。全国から新宿に来るカメラ好きが中野にもちょっと足を伸ばす。新宿に近かったことが逆に大きなメリットになったんです」。漫画だけでなく、カメラの分野においても、現在の中野の街を支えるリサイクル文化やヴィンテージ文化が花開いていったのだ。

また、先述したまんだらけの社長、伝説的な漫画雑誌『ガロ』の漫画家でもあった古川益三さんは、なぜ書店を始めたのか尋ねると、「漫画じゃ食っていけなかったから」と照れる。「座って漫画を描きながらでもできる商売が古書店でした。東京に出てきて初めて住んだ街が中野だったこともあって、当時ちょっと斜陽で空きがポツポツ出始めていたブロードウェイに、2坪の店を出したんです」。

まんだらけ中野店 店内

そこからまんだらけは、マニアの街・中野の台風の目となっていく。「みんな集まってこいよ~! という感じで、はじめにマニアグッズを扱う店をいくつかブロードウェイに誘ったんです。その後は自然と他所からも個性的な店が集まってきた」。

客足も多かった。「当時は漫画文化が広く認知されだした頃で、日本初の漫画専門の古書店ということもあってか、初期からマニアのお客さんが行列を作っていました。私はマニアではなかったので、お客さんに価値を聞いて値段を付けたり、フィギュアや玩具、グッズを扱うようになったのも、お客さんからの要望があったから。大体がなりゆきです」。現在の中野について、「活況を呈してびっくりしています。これからもまんだらけはニッチな路線で生きていく。そっとしておいてくれれば頑張ってお客さんを呼びますよ」と頼もしく笑う。

中野ブロードウェイ内。飲食店ふくめ独自の雰囲気が漂う

もちろん中野には新しく出店する店舗も多い。西武新宿線、新井薬師前駅にある「スタジオ35分」は、バーが併設された夜のギャラリーだ。廃業した街の写真屋さんの跡地を利用した写真スタジオとして2007年に始まり、その後自然に今の業務形態になった。オーナーである酒航太さんは、「中野を選んだのはたまたまでした」と振り返る。「この辺りはチェーン店がほとんど無くて、個人商店ばかり。古き良き情緒が残っている点が気に入ってます」。

スタジオ35分 / 元フォトスタジオだった店舗を改装したギャラリーとバーが併設されている

スタジオ35分はガラス張りの路面店。展示の度に客層が変わるため常連のような地元客は少ないが、近所の人たちはいつもウィンドウ越しに展示を見たり、話しかけたりしてくれるという。「今後はあくまでここをベースに、中野から外に向けて、違う地域や都市にも文化を発信していきたい」とオーナーは意気込む。

「様々な個性が共存し、お互いを良い意味で『気にしない』。この風土も中野らしい方法で伝えたい」

中野駅前の仮囲いに、突如現れた看板「中野大好きナカノさん」は、中野区が公式に始めたシティプロモーションの一環のプロジェクトだという。看板を前に、多くの人が思わず振返るそのビジュアル。真っ先に目を引かれるのは、球体関節人形であるということだ。男の子とも女の子ともとれる出で立ちに、どこかノスタルジックな表情が気になる。精巧に作り込まれたこのドールは、まさに三次元のモノとして、マニアックなサブカルチャーと現実の中野の街の橋渡しを担う、独特のリアリティを醸し出している。

中野駅前の仮囲いに、突如現れた看板「中野大好きナカノさん」。仮囲いは2019年3月まで設置されている

キャンペーンを主導する中野区役所職員の藤永益次さんはこう話す。「中野はただサブカルな街というわけではなく、様々な個性が共存し、お互いを良い意味で『気にしない』街。グルメやスポットだけでなく、この風土も中野らしい方法で伝えていきたいという想いがあったんです」。

そんな中野の魅力を、何の色眼鏡もなく新鮮な発見をもって語ることができ、たとえ人形であろうと、1つの個性として受け入れられる街の度量を伝えるために、「ナカノさん」が生まれたという。

普段は当たり前に見えている街並みも、ナカノさんを通して見ることで、たくさんの個性を自然に表現できる。その先には、昨今の個性を認める風潮を越えて、中野が今までの歴史から作り上げた、たくさんの個性を楽しむという1つの街の在り方を伝えられる可能性すらある。

「時代に合わせて、多様性を謳おうということではなく、中野は昔から様々な人種や価値観が当たり前に共存していた街なんです。それって、懐が深いというわけではなくて、細かいことを気にしないからなんですよね」と藤永さんは笑う。「新しい個性的な仲間として『ナカノさん』が、街の人たちに受け入れられていけば嬉しいです」と続けた。

色がついていないからこそ、どんな色にでも染まることができるナカノさん。その無垢な眼差しを通して、一人ひとりが中野を歩き、それぞれの物語を紡いでいけば、自然と人や文化がつながっていくのかもしれない。

区内の一部飲食店には、ナカノさんが小さくなった手のひらサイズの「ちびナカノさん」が設置されている。「ちびナカノさん」を飲食店や区民、企業に配布していくことで、区の進めるSNS発信に参加しやすくなり、地域ぐるみの取り組みに発展していくことを視野に入れているという。もし中野の街でナカノさんや、ちびナカノさんを見かけたら、手にとってみてはいかがだろう。

「飲食店に設置されているちびナカノさん」(マグロマートにて)イメージビジュアル
キャンペーン情報
「中野大好きナカノさん」

ナカノさんは、中野に憧れて、
中野にやってきた、人形です。

イベント情報
『ナカノさんプロジェクト0次会「ナカノさんとは?」』

2019年2月23日(土) 17:00~17:45
会場:東京都 中野 中野区役所7階 第8、第9会議室
参加方法 :電話による事前申し込み
※詳細はウェブサイトにて

『ナカノさん交流会「ナカナカ会 ~中野の仲間と語らう会~」』

2019年3月23日(土) 15:30~18:00
会場:東京都 中野 中野区役所7階 第8、第9会議室
参加方法 :下記申し込みフォームより要事前登録



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