SWIM SWEET UNDER SHALLOWは音楽で桃源郷を築く

桃源郷のようなサウンドスケープを築き上げる2人組ユニット

My Bloody ValentineやCornelius、The Beatlesなどを彷彿とさせつつ、そのどれとも違うサウンドプロダクションと、男女混成ボーカルによる美しく中性的なハーモニーによって、桃源郷のようなサウンドスケープを築き上げる2人組ユニット、SWIM SWEET UNDER SHALLOW(以下、SSUS)。

昨年8月にリリースされた1st EP『Leisure』からおよそ8か月ぶりとなる、彼らの新作EP『wéar dówn』が6月26日にストリーミングとダウンロードで配信された。

SWIM SWEET UNDER SHALLOW(すうぃむ すいーと あんだー しゃろう)
メンバー2人で全ての楽器を演奏、録音、ミックス、マスタリング、ジャケットデザイン、MV制作を行っている。2012年に自主レーベル「hiraoyogi record」を設立。2013年以降ライブ活動は行わず、音源制作とリリース中心の活動を展開中。

Hiroki tanaQaとMidori Yoshidaにより結成されたSSUSは、2011年に1stアルバム『elephantic』でデビューを果たし、これまでに4枚のアルバムと4枚のシングルをリリースしてきた。元々はYoshidaがインターネットや楽器屋の貼り紙などでメンバーを募り、4人組のバンド編成で活動をしていたのだが、気づけば現在の2人体制になっていたという。

SWIM SWEET UNDER SHALLOW『elephantic』を聴く(Apple Musicはこちら

Yoshida:バンドがやりたくてメンバーを募ったのですが、試行錯誤するうちに2人でもなんとかバンドサウンドらしきものが鳴らせるようになり、メンバーを増やすという発想もなく、今に至ります。

(Hiroki tanaQaとは)聴いてきた音楽、その当時作りたかった音楽が被っていたこともあって一緒に音楽をすることになりましたが、意思疎通を図りつつ制作することで結成当時よりお互いの音楽性が近づいてきていると感じます。

母の影響で、小学生の頃からラジオをよく聞いていたというYoshida。あるとき、矢野顕子がカバーした“すばらしい日々”を聴いてユニコーンにハマり、またあるときはパワープレイでスーパーカーの“Lucky”を知る。そこからはスーパーカーをはじめ1997年世代(くるり、NUMBER GIRLなど)、My Bloody Valentine、Radioheadなどを聴くようになっていった。

Midori Yoshida

一方tanaQaは、中学のときに外国人の英語教師から聴かせてもらったNirvanaで音楽に目覚め、奥田民生やユニコーン、彼らのルーツであるThe Beatles周辺を掘るように。リアルタイムではRadioheadやThe Strokes、ベック、Corneliusなどを聴いていたというから、2人が出会ってすぐ意気投合したのは当然といえる。

Hiroki tanaQa

アルバムごとに変化する作風のなか、一貫して漂う浮遊感

アルバムごとに少しずつ作風は変化しているが、骨子となるソングライティングはデビュー時から一貫したものがある。冒頭で述べたように、My Bloody Valentineの持つ酩酊感や浮遊感、Corneliusの幾何学的なアレンジメント、そしてThe Beatlesやその遺伝子を引き継ぐ奥田民生にも通じるコード、メロディセンスがSSUSの主な特徴といえよう。

曲のきっかけとなる出だしのコードは、「鳴ったときの面白さ、ピンとくるもの、あまり聴かない響き」(tanaQa)で選んでおり、「ギターの運指も自分で好きな鳴り方をするよう、自由に弦を押さえている」(Yoshida)ため、Major7thやAdd9th、sus4の響きを内包しつつも、それにとらわれない自由な和声が鳴り響く。

2人の鳴らすギターとともに、その一端を担っているのはtanaQaが奏でるベースラインだ。ギターと違い、既存の曲をコピーしたことも練習したこともないというだけあって、あらゆるルールを逸脱したその動きが、SSUSの楽曲に漂う酩酊感、浮遊感を作り出していることは間違いないだろう。

tanaQa:アレンジに関しては、以前はパズルの様にとにかく思いついてハマりそうなフレーズを、どんどん積み重ねていくという手法でした。

その頃作っていたのは、My Bloody Valentineやスーパーカーのようなローファイなギターロックと、Corneliusの『FANTASMA』(1997年発売)のような、いろんなフレーズが折り重なって世界観が構築される音楽。こういった要素をミックスしたアレンジになっていたかと思います。全体で動くというよりも、それぞれの楽器が自分勝手に主張することで曲を面白くさせようとしていました。

Yoshida:『wéar dówn』では、もう少し音数を絞り、楽器ごとではなく全体で大きな波を作るという手法を採っています。アレンジの到達点も、以前はひたすらポップに寄せていましたが、今作では不穏なコード感を使うなど、ただポップな方向には振り切らなくなりました。

音で隙間を塗りつぶす手法から、隙間と塗りつぶす箇所の使い分けが多少できるようになったのかもしれません。

近年のSSUSは、自分たちの内側から素直に出てくる音楽性に任せるようになった

そんな彼らの最新EP『wéar dówn』は、全6曲入り。アートワークも含め、前作『Leisure』と対になる作品だという本作は、全体的により複雑なコード展開やリズム、ハーモニーが前面に打ち出されている。それでいて、とても聴きやすくポップな仕上がりとなっているのが、SSUSの真骨頂といえよう。

SWIM SWEET UNDER SHALLOW『Leisure』を聴く(Apple Musicはこちら

tanaQa:『Leisure』を作った時点で“ただの未来”もある程度完成図が見えており、『Leisure』の延線上にある作品として“ただの未来”を軸に、地に足のついたレコードが作れそうだなと思いました。唐突な間奏が差し込まれたり、コーラスがぶわっと増えたり、今までの作品よりも複雑な曲構成になっていますね。

Yoshida:以前は「曲はとにかく短くする」と決めて、余分に思えるパートやリフレイン箇所はどんどん削っていました。ただ、4thアルバム『dubbing』(2016年発売)を作り終えた頃に「短い曲はもうずいぶん作ったし、長い曲をやりたい!」と思うようになって。最近は、音数が減る割には曲の間奏やエンディングがどんどん付加されるようになりました。

結果、曲の構成が複雑になり、その分余計なこともやるようになって(笑)、コード展開も複雑になっています。聴く人によっては余分に感じるパートもあると思うのですが、案外その箇所が楽曲を支えてくれていたりしますね。

SWIM SWEET UNDER SHALLOW『dubbing』を聴く(Apple Musicはこちら

また、『Leisure』あたりから「あのバンドの、あのテイストに近づけよう」といったモチベーションは全くなくなり、自分たちの内側から素直に出てくる音楽性に任せるような作り方をしているという。結果的に、「案外オールドロック寄りのアルバムになっているかも」とtanaQaは言う。

tanaQa:影響源を無理矢理考えてみれば、Led Zeppelinの“The Rain Song”や奥田民生の“コーヒー”といった大きなノリのゆったりした曲、あとはSonic Youthがやっているようなチューニングが合っているのか合っていないのかわからないコード感(笑)、とかでしょうか。

Led Zeppelin“The Rain Song”を聴く(Apple Musicはこちら

SSUSがLed Zeppelinとは一瞬驚かされるが、確かに“The Rain Song”の不穏な和声や、変則チューニングによる倍音の増幅など改めて聴くと、それらがSSUSのサウンドプロダクションに引き継がれているというのも頷ける。また、前作『Leisure』からいわゆる鍵盤楽器を使わず、ギターを以前よりもエフェクティブに加工することによって、ピアノやシンセの役割を担わせているのも、近年のSSUSサウンドを特徴づけているのだ。

彼らは、この世界に対する「諦観」や「俯瞰」を極上のサウンドでシュガーコーティングする

そして、桃源郷のようなサウンドスケープと呼応する彼らの歌詞世界も、「今、ここ」に住む私たちの気分を象徴している。自分たちの音楽と、世間の音楽の距離感について歌う“gruff?”、自分と自分以外の世界とのペースの違いをテーマにした“ただの未来”、そして世の浮き沈みを俯瞰する“fardigan”など、「私」と「私以外の他者」について書かれているのだ。そこには「逃避」的なメッセージも込められているのだろうか。

Yoshida:歌詞については、私自身は太宰治や映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年、ラース・フォン・トリアー監督)に影響を受けているかなと思います。「死」に向かう描写や心理、ハッピーで終わらないことへのもどかしさを、現実でも思い知らされることがあって。ならば受け入れるしかないという考えから、「逃避的」というよりは、「うまくいかないことを肯定的に捉えた歌詞」を意識しています。

tanaQa:以前はメロディにうまく言葉が乗り、サウンドとともに気持ちよく聴こえればある程度OKにしていましたが、今は文字として読んでも、なにかしら意味合いの含まれた言葉選びをしています。

とはいえ、基本的に全体が一つの物語や文章として意味を成していなくてもOKだと思います。「なにを言っているかはわからないけど、言葉としては聞き取れる」「口ずさんで歌えるくらいの言葉だけど、曲全体がなにを言っているのかは知らない」といった程度が、歌詞としてはちょうどいいのではないかなと考えます。

ミックスやマスタリング、ミュージックビデオまで自分たちで手がけ、この世界に対する「諦観」や「俯瞰」を極上のサウンドでシュガーコーティングしてきたSSUS。来るべき次回作のアルバムでは、「不穏でありつつポップであり、アッパーな作品を目指している」という彼らが、どのような変化を遂げるのか、今から楽しみだ。

SWIM SWEET UNDER SHALLOW『wéar dówn』ジャケット画像
SWIM SWEET UNDER SHALLOW『wéar dówn』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
SWIM SWEET UNDER SHALLOW
『wéar dówn』

2019年6月26日(水)配信
CARP-010

1. gruff?
2. ただの未来
3. fardigan
4. Laundry
5. 夏のかげろう
6. Ginger

プロフィール
SWIM SWEET UNDER SHALLOW
SWIM SWEET UNDER SHALLOW (すうぃむ すいーと あんだー しゃろう)

メンバー2人で全ての楽器を演奏、録音、ミックス、マスタリング、ジャケットデザイン、MV制作を行っている。2012年に自主レーベル「hiraoyogi record」を設立。2013年以降ライブ活動は行わず、音源制作とリリース中心の活動を展開中。



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