The 1975がデジタル・デトックス。新作控え、様々な問題提起

ニューアルバム『Notes On A Conditional Form』から新曲“The Birthday Party”を発表

The 1975がニューアルバム『Notes On A Conditional Form』の発売を前に、様々なアクションで注目を集めている。

当初の発表より発売が2か月延び、4月24日のリリースを予定している同作は、高い評価を獲得した3rdアルバム『A Brief Inquiry Into Online Relationships』に続く新作となる。昨年から多様な音楽性を取り込んだいくつかの収録曲が先行配信されているが、作品の輪郭が見えるようで見えない状況がアルバムを待つファンの期待を煽っている。

日本時間の2月20日には最新曲“The Birthday Party”が発表された。5曲目の新曲となる同曲は聴きやすいゆったりとしたバラード曲だが、同時公開されたPVは強烈な印象を残す。

The 1975“The Birthday Party”PV

メンバーのアバターが「デジタル・デトックス・センター」へ。ミームだらけのデジタル空間が広がる

全編CGアニメで展開されるこの映像では、バンドのフロントマン、マシュー・ヒーリーのアバターが登場。「MINDSHOWER」と名付けられた「デジタル・デトックス・センター」が舞台となっている。センターを訪れたアバターのヒーリーが電子機器を預けて進むと、扉の向こうに広がっているのは、緑あふれる自然とその中にいる新旧のインターネットミームの顔をした人物たちだ。

しばしの間スマホの通知から解き放たれ、「デジタル・デトックス」するためのこの空間は、理想郷のようでもあり、悪い夢のようでもある。現代人が中毒になっているオンラインコミュニケーションの虚しさや脆さと向き合った前作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』との繋がりも感じさせ、人間とインターネットの関わりや相互関係についての彼らの尽きない関心が反映されているようだ。

“The Birthday Party”のPVにはバンドメンバーがアバターとして登場する

新曲と「インセルカルチャー」の関わり

“The Birthday Party”の公開に際して「Dazed」に掲載されたインタビューで、ヒーリーはPVと「インセルカルチャー」の関係について言及した。インセルのコミュニティーが存在する掲示板「4chan」が陰湿な意図を持った多くのミームを生み出していると述べ、「インセルカルチャーは、男性について、そして彼らが女性をどう扱っているのかについての興味深くて、恐ろしい視点を明らかにしていると思う。すごく引きつけられる世界だし、それがどのようにポップカルチャーに表出しているのかに興味がある」と話した。彼は自分と違うもの、自分と関係しない世界に引きつけられるのだという。

インセルとは「不本意の禁欲主義者」と訳される「involuntary celibate」の略で、主に自分が女性と性的な関係が持てないのは女性のせいだと考える男性を指す言葉として英語圏で使われる。“The Birthday Party”のPVにはオルタナ右翼の象徴にもなっている「4chan」の代表的なミーム「カエルのペペ」も登場しているほか、同曲の特設サイトのソースコードに、インセルによって作られた差別的なコンテンツを報告する「reddit」内のコミュニティ「IncelTears」へのリンクが仕込まれていたとSNS上で話題になった。

“The Birthday Party”PVのリリース前に公開された映像。「デジタル・デトックス」施設のCMのような作りになっている

インセルが持つ憎悪の感情はオンライン上の閉じたコミュニティに発信されることでさらに増幅するが、「デジタル・デトックス」の空間では「カエルのペペ」を含む多様なミームが手を取り合って輪を作っている。これはヒーリーの理想の表れか、それともいまや自らもスターとなってミーム化した現状への自嘲も込めた皮肉なのだろうか。

また“The Birthday Party”の歌詞には、フロントマンであるエヴァン・スティーヴンズ・ホールに対して女性への強制わいせつの告発があったPinegroveが登場しており、ホールの一件を示唆していると思われるフレーズもある。この歌詞が何を伝えようとしているのかはわからないが、2000年代以降のエモシーンにあったミソジニー(女性嫌悪・女性蔑視)がしばしば議論にあがるようになった現在だからこそ、その真意が知りたいところである。

『ブリット・アワード』の壇上で引用した、男性のミソジニーについての一節

振り返ってみると、The 1975は過去にも男性のミソジニーについて問題提起を行なっている。

2019年2月に行なわれた『ブリット・アワード』でバンドは最優秀アルバム賞とブリティッシュ・グループ賞を受賞した。ヒーリーは授賞式の壇上で「ちょっと聞いてほしい。これは僕らがみんなちゃんと考えるべきことだと思う」と前置きし、イギリスのガーディアン紙に載った「男性の女性嫌悪的な振る舞いは微妙なニュアンスを探ってもらえて、『難しい』芸術家の特徴として擁護してもらえるが、女性やそれを指摘した人は芸術を理解してないヒステリーだと扱われる」という一節を紹介した。

The 1975の2019年の『ブリット・アワード』でのスピーチ

これは同紙の編集者であるローラ・スネイプスが、音楽業界のミソジニーについて書いた記事を引用したもの。彼女はこれまでも音楽界の性差別やジェンダー不均衡について声をあげてきた音楽ジャーナリストだ。

「ジェンダーバランスが不均衡なフェスには出演しない」。発端は女性ジャーナリストとのやりとり

The 1975はつい先日にもヒーリーが「今後ジェンダーバランスが不均衡なフェスには出演しない」と宣言して話題を集めたが、これもスネイプスの言葉がきっかけだった。

事の発端は、今年の『レディング&リーズ・フェスティバル』のラインナップについて、スネイプスとヒーリーがTwitter上で交わしたやりとりだ。9年ぶりに再始動するRage Against The Machineがヘッドライナーに決定したことについて「ヤバい」としたヒーリーのリプライを受けてスネイプスはこう返した。

「レイジが彼らの力を使ってラインナップに平等を求めてたらヤバいって言える。その力があるのにそれをしなかったり、不平等に対して声をあげたりしないアーティストは、彼らがこの状況を変える役割を果たせる立場にいるってことをわかってない」

「マット、あなたたちの出演条件に『自分たちは女性やノンバイナリーの出演者がX%(理想は50%!)を占めるフェスにしか出演しない』って付加条項を加えなよ」

ローラ・スネイプスのツイート

これに対してヒーリーは「このツイートをその契約にサインしたって捉えてもらっていいよ」と返答。「すでにこの条件に沿ってないフェスにいくつか同意したけど、チケットを買ったファンたちをがっかりさせるようなことはしないよ。でもこれからはそうする(この条件を条項に入れる)し、そうすることが男性アーティストが真のアライ(ally、味方)になるっていうことだと信じてる」と綴った。

マシュー・ヒーリー(The 1975)のツイート

音楽フェスにおけるジェンダーバランスの問題

スネイプスが問題視した『レディング&リーズ・フェスティバル』は、ラインナップの第1弾発表で公開された90組を超えるアーティストのうち、女性アーティストもしくは女性が参加しているバンドは20組。メインステージの出演アーティストだけ見れば、18組のうち、女性を含んだアクトはメイベル、Bloxx、レディ・レイーシャの3組のみだ。ちなみにThe 1975がヘッドライナーを務めた昨年の同フェスティバルではメインステージアクト25組のうち、女性のいるアーティストは5組だった。

音楽フェスにおけるジェンダーバランスの議論はいまに始まったことではない。ラインナップポスターから男性アクトを消して女性の少なさをアピールするビジュアルは、2015年頃からSNS上で見られるようになった。

2017年には音楽業界における不均衡なジェンダーバランスの是正に取り組む国際キャンペーン『Keychange』がスタート。このキャンペーンでは音楽団体や音楽フェスに対し、2022年までに「ジェンダーバランス50対50」の達成を呼びかけている。これまでに300以上のフェスや団体がサインし、すでにこの目標を達成したフェスもいくつか出ているので、変化は確かに起きている。

The 1975は今夏にロンドンのフィンズベリー・パークでフェスを行なうが、共演者の7組中6組が女性もしくは女性を含んだアーティストだ。これは何かの主張として意識的にそうしたわけではなく、メンバー自身やバンドのファンが普段聴いているアーティストのラインナップを反映したに過ぎないのだという。2018年に出演アーティストの女性比率が50%を超え、「Keychange」の目標達成第1号となったアイスランドのフェス『Iceland Airwaves』の代表者も「好きなアーティストを並べてみたら50%を超えていた」とかつてコメントしていた。

7月にロンドンのフィンズベリー・パークで行なわれるThe 1975主催ライブのラインナップ

ヒーリーの発言は『レディング&リーズ・フェスティバル』を批判する意図はないようで、「ポイントは、レディング&リーズにもっと女性がいたら、まじで世界一のフェスになるだろうってことだよ」とも述べている。ただレコードレーベルと契約しているアーティストの男女比など、ブッキングする側の姿勢を変える以前の、構造的な問題から考える必要もあるだろう。

プラットフォームを持つ者が声をあげることの重要性。環境問題にも行動起こす

スネイプスが先のツイートで訴えたのは、こうした状況の改善のために、影響力のあるプラットフォームを持つアーティストが声を上げることの重要性だ。

The 1975のヒーリーは先のやりとりの後、他の男性アーティストたちにも女性やノンバイナリー、トランスジェンダーのミュージシャンが公平にレプリゼントされるよう、同じような行動をとってほしいと思っている、とガーディアン紙に語っている。

The 1975は前作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』でも社会や時代に対するクリティカルな眼差しを作品に投影していたが、今作に際しては社会の様々な課題に対してそのプラットフォームを使おうとする姿勢がより顕在化しているようだ。

『A Brief Inquiry Into Online Relationships』収録曲“Love If If We Made It”

ニューアルバムからの先行曲として最初に公開されたオープニングトラック“The 1975”では全編にわたって環境保護活動家グレタ・トゥーンベリのスピーチをフィーチャーし、地球の置かれた危機的状況について訴えた(参考:The 1975がサマソニで来日間近。新曲で16歳の環境保護活動家が訴えたこと)。

フィンズベリー・パークの自主企画フェスは、再生可能な資源である水素化植物油をフェス全体のエネルギー源として利用するなど、「フィンズベリー・パーク史上もっともグリーンなフェス」になるとされている。またツアーグッズの「アップサイクリング」として、売れなかった過去のグッズに新しいグラフィックを施したり、ファンが持参した過去のグッズに新しいグラフィックを施すといった施策も行なうなど、音楽業界のジェンダーバランスや性差別だけでなく、環境問題についても積極的に取り組む姿勢を見せている。

グレタ・トゥーンベリとマシュー・ヒーリー
グレタ・トゥーンベリのスピーチをフィーチャーした“The 1975”。新作のオープニングトラックとなる

1月に行なわれたインタビューによれば、ニューアルバムはエモ、ポストハードコアからUKガラージ、エレクトロニカまで多様な音楽性全てを取り込んでおり、「革新的かつ最もThe 1975らしい作品」になっているという。先行配信曲には“Me & You Together Song”のようなラブソングや“Frail State Of Mind”のような「The 1975らしい」繊細な心情を歌った曲もある。収録曲は全22曲になると発表されているので全貌はまだ半分も見えていないが、“The Birthday Party”の悪い冗談のような仮想空間を覗きながら、その到着を待ちたい。

The 1975“Frail State Of Mind”PV

4月24日に発売予定のThe 1975のニューアルバム『Notes On A Conditional Form』ジャケット


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