ゲームと映画の接近。『Away』が提示する未来の作品づくり

※本記事は『Away』の内容に関する記述が含まれています。あらかじめご了承下さい。

「ゲームのような映画作品」が出現。互いに影響し合うゲームと映画の世界

世界のゲームメディアの投票で決定される「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」において、2020年の最も優れたゲームタイトルに選ばれたのは、『The Last of Us Part II』だった。謎のウイルスが蔓延し、感染者が人々を襲う終末的な世界のなかで、復讐の旅に出た少女の姿を残酷な展開とともに描き、物議を醸した衝撃作だ。

『The Last of Us Part II』に代表されるように、これまでゲーム表現では、プレイヤーにリアルな体験と感動を与えることを目的に、「シネマティック(映画的)」な演出に近づけようとする試みが繰り返し行なわれてきた。近年は単に映画を参考にするだけでなく、ゲーム部分とムービー部分をシームレスに連結したり、映画的な映像が進行するなかでプレイヤーがキャラクターなどを操作することができる「プレイアブル・ムービー」のような、従来の映画表現をも超えた、ゲーム独自の表現も確立してきている。

『The Last of Us Part II』トレーラー

同時に映画界では、『トゥームレイダー』シリーズや『アサシン クリード』シリーズ、日本で2021年公開予定の『モンスターハンター』シリーズなど、人気ゲームタイトルが続々と映画化され、「映画を参考にしたゲーム」を、「さらに参考にした映画」が生まれるという、逆転現象が増えてきている。

このように、映画とゲームの境界が絶えず曖昧になってゆく状況のなかで、また別の角度から「ゲームのような映画作品」が出現した。それが、ここで紹介する3DCGアニメーション映画『Away』である。

『Away』予告編

たった一人で作り上げたアニメーション。22歳の監督が作り上げたパーソナルな作品世界

その誕生の経緯が興味深い。ラトビア出身の青年ギンツ・ジルバロディスが、22歳から本作の制作をスタートさせ、3年半かけて、なんと一人で作り上げたというのだ。そんな本作は高い評価を受け、『アヌシー国際アニメーション映画祭』に新設された、実験的な長編アニメーションの優れたタイトルに贈られるコントルシャン賞の初代受賞作となり、その後も世界の映画祭で複数の賞を獲得することとなった。

アニメーションの制作は、おそろしいまでの作業量と作業時間、大勢の人手と才能を要するものだ。もちろん、ユーリー・ノルシュテインやフレデリック・バック、山村浩二、新海誠、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットなど、これまでの歴史のなかで、基本的に一人で中短編アニメーションを長期間かけて生み出した猛者たちも少なくない。だが、劇場での上映に耐え得る品質レベルを保った長編を、わずか3年半で完成させたというのは驚異的だといえよう。これは、CG技術の発展による制作の作業効率化が背景にあるだろう。

ギンツ・ジルバロディス監督 ©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

とはいえ、本作は実写映画に近いようなリアルな絵柄ではなく、親しみの持てるシンプルなキャラクター表現を選択していることで、個人の労力やレンダリング(コンピューターによる演算処理)の時間を軽減しているのも確かだ。そのことで本作は、近年の娯楽大作映画やゲーム業界の圧倒的なCG技術を駆使した最新タイトルと比べると、見劣りしてしまうところがある。だが、あえて輪郭線を消した特徴的なキャラクターデザインによって、本作は一つの統一されたスタイルを持ったパーソナルな作品世界を生み出すことに成功しているといえる。

本作の主人公は、飛行機事故で生き残った一人の少年。彼の背景はとくに語られず、全編を通してセリフも存在しないため、どんな人物なのか詳しくは分からない。少年は見知らぬ島を歩き、地図などのアイテムやモーターバイクを手に入れ、謎めいた広大なフィールドを疾走する。

©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

ゲームが表現する世界を無秩序に受け取った、若き監督の作家性

この内容は、3DCGによるアドベンチャーゲームそのものだ。また、少年がどこまでもゆっくりと追跡してくる巨大な黒い影に怯えていたり、小鳥との友情を深めていくなどの描写からは、『ワンダと巨像』(2005年)や『人喰いの大鷲トリコ』(2016年)など、既存のゲームタイトルを想起させるイメージに満ちている。さらには不思議な井戸の秘密や、目印となるアーチをくぐって進んでいく構成も、ゲームをプレイしている感覚に近い。ゲームと異なるのは、「操作することができない」という点である。

このようなゲーム風の世界観や演出を意識的に自作に取り入れていたのが、アメリカのジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による怪獣映画『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)だった。だが、ギンツ・ジルバロディス監督が、まさにゲームのような世界や、ステージを攻略していくような叙述形式をとっているのは、それよりも自然で無意識的なものに感じられる。それはおそらく、生まれたときからすでに同様のゲームが世に溢れている環境で育った世代だからではないだろうか。もともと、ゲームの演出は映画を下敷きにしたものが少なくないが、ジルバロディス監督は、そんなゲームが表現する世界を、ルーツや順序を無視したかたちで自然に受け取って自分のものとしているのだと思われる。

『キングコング:髑髏島の巨神』特別映像

一人で作品を作ることと、作品の中の少年の「自由」と「孤独」が交叉する

さて、そんな近年のゲーム風の世界が本作にもたらしているものとは、いったい何なのだろうか。実写映画はもともと、写真のように現実を切り取りながら、そこに作り手のイメージする世界を託していたし、手描きアニメーションは書き割りのような背景を描いて世界を表現していた。その点、3DCGはある架空の空間を用意し、その中で実際に物理的な運動を発生させるという意味で、より「構築的」であるといえる。そこでは、縦横無尽なカメラワークが可能となり、照明効果や天候の表現もリアリティをもって表現できる。これは、ピクサーなどに代表される3DCGアニメーションに共通する特徴である。

だがピクサー作品は、あくまで従来の映画作品の価値観で作られているのも確かだ。イメージボードがあり、絵コンテを作るなど、手描きアニメーションの頃からの手法に当てはめて理想のイメージ通りにCGをコントロールしていくことで、映画としての質を保っているのだ。

『ディズニー/ピクサー 20タイトル コレクション』予告編

対して『Away』は、もっとプリミティブにCG世界に遊んでいるように見える。ピクサー作品のような、一つの正解を選択するような完成度はないが、その世界がそこに存在し、自分自身もそこに入って動き回れるような「実在感」があるのだ。これは、監督自身が語っている通り、映画としての確固たる脚本や絵コンテなどを用意せずに、即興的な感覚で世界を構築しているところからくるのではないか。その意味で本作は、やはり従来の映画の概念とは根底から異なっている。

さらにそこで表現されているのは、まさに監督自身の姿や、生きる実感のように感じられる。モーターバイクで少年が疾走する姿は、一人でアニメーションを作っていることの圧倒的な自由の象徴のようであるし、また孤独の象徴でもあるようだ。ゆっくりと迫り来る巨大な影は、数年間一つのアニメーションを一人で作り続けることへの耐え難い不安の象徴に見えてくる。

©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

変わりゆく「作品づくり」の概念。このような作品が増えていったとき、未来の映画やアニメは、様変わりしているのかもしれない

しかし、そんな構図は別の見方もできる。島を孤独にめぐる少年の姿は、誰も信じられなくなった一人の人間が、精神的な旅を経験することで立ち直っていく過程をキャラクターに託して描いているようでもあるのだ。

このように本作が観る者によって様々な解釈ができるというのは、本作の抽象度の高さからくるものだ。劇中、役割を与えられる者たちや、キャラクターたちの行動の意味、そして謎めいたアイテムやシンボルなど、あたかもありがちなゲームの要素のように感じられるあれこれは、それがあまりに単純で理解しやすいものだからこそ、具体的な情報が剥奪された、より純粋なものとして存在できるのである。

映画を観ることに慣れているわれわれが『Away』から与えられる、何らかの可能性の糸口や名状し難い不安というのは、このように、作品づくりの概念において立脚するところが異なっているところから起因しているのではないか。そして、このような感性を持ったクリエイターは、今後どんどん現れてくるのではないかと思える。そうした作品に影響される人々でクリエイターたちが占められたとき、果たして映画やアニメーションは、従来の姿を保っていられるのだろうか。そんな映画の未来を想像するのは、怖くもあり、少し楽しみでもあるのだ。

作品情報
『Away』

全国公開中

監督:ギンツ・ジルバロディス
音楽:ギンツ・ジルバロディス
上映時間:81分
配給:キングレコード

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